最終話 色がついていたから。
「もしかして、小学生の頃眼鏡掛けてた?」
「うん。今じゃ、コンタクトにしてるけど。あの時はごめんね? 勝手に怒鳴ったり、泣いたりして」
「そんな昔のこと今謝られても。いまでも眼鏡のほうが可愛いと思うよ」
「そっかなぁ。気が向いたら掛けてみるよ…でなんの話だっけ?」
「えっ、まあどうでもいい話だったんじゃないかな?」
あんな恥ずかしいことを言っておいて、あれだよなんて言えるわけがない。
放課後のチャイムが再び鳴る。その時まで2人は、黙ったまま2人で時間を過ごした。普段なら、居心地の悪いはずなのにその時は全く嫌にはならなかった。逆に心地の良い時間に。と相馬裕司は思っていた。
帰ろうと思い、声を掛けようとしたが何かが聞こえてくる。
「……みえないわ」
「恵先輩、ちょっと押さないでくださいよ……」
「あの2人いい感じだね……」
「そうだな」
やっぱり遠くから何かが聞こえてきた。
「なにしてんのよ。あんたたち。さっさと帰りなよ?」
「あー! 先生、声大きいですよ! いいとこなんですからー! もー!」
「あの、何やってるんですか。先輩達」
「のぞきだよ。のぞき」
「別に覗かれて驚くような俺じゃないですよ?」
「遠野さん見てみろよ」
少しづつ顔がニヤついていく俊介さん。+隣を見ると湯気が出そうなほど顔を赤らめている遠野がいた。
「そこまで恥ずかしいようなことなんてしゃべってないじゃん?」
「えっ、いや、いや、だって、二人きりだよ?! すごい恥ずかしいよ!」
遠野は屈みこんで、顔を隠し唸っている。
「退散してあげるよ。『彼氏くん』」
「はっ、はぁ!? 彼氏? 何を言ってるんですか! 俊介さん!」
「お似合いなんだからなんて言おうがかまわないだろ」
「そうよね~私が口出しをするようなことなんてないけれど……頑張って?」
「そういえば悠。あれ聞いたぞ、あのバーベキューの時の話」
「もうやめて。先輩ら痛いですよ。心痛い」
4人は、散々いじくりまわして寮に帰っていった。俺はこの後どうすればいいのだろうか。関係はどうなるのか。変わるのならば、それは怖いはず。どちらに転がろうと、俺は俺のまま。
遠野が落ち着くまでしばらくその場所にとどまった。
「ふぅ…」
その場には、俺と遠野の2人だけだった。まだ4月の中旬だというのに、大量の汗をかいている自分がいる。この汗は、俊介さんの余計な一言の所為だ。
「遠野…大丈夫か? もしあれだったら、もう少し待ってあげるけど」
「ユウくん……ちょ、ちょっとだけで良いから、な、なまえでよんでみて……?」
「えっ…えっ? あっ、さっきのあれはあれだよ? まあ、呼んで欲しいなら良いけど…」
「おねがい……?」
上目遣いされると困ったもんだ。ってか、もうこれ落ち着いてるんじゃないか?可愛い仕草俺ランキング2位の上目遣いをされたら断わることなんて出来ない。因みに3位は、ふとした瞬間に見える笑顔。1位は袖掴み。
「かっ、楓」
「うん。ありがと。もう大丈夫だよ」
立ち上がったのはいいけれど、まだ少し顔は赤い気もする。が、そこから頭から胸に飛び込んできた。少し恥ずかしそうにしながらも、両手で無理矢理押し付けていた物は封筒だった。
もう何がなんだか分からないし、心臓の高鳴りが止まらない。とりあえず、封筒の中身を確認すると、
『名前で呼んでくれてありがと。私は嬉しいよ。わ』
途中で終わっていた。続きが気になるけど、続きが怖い。貶されるかもしれないという恐怖心。
「これ、途中で終わってるけど」
「今の状況で分かってくれないの?」
「あー、まあ、自分も確かに同じ気持ちだよ。そこ分かるよ。けど、急にこういう事をされるとこう…えっとそうじゃなくて、なんて言えばいいんだろ」
「ふふっ…」
これは言っていいのか悪いのか分からないから返事と言えない返事をしたけれど、あやふやにしてしまったからなのか、遠野は少しずつ笑い出していた。
「だーまさーれた!」
「は? え?」
分からない。全く分からない。状況掴みたい。安心したい。さっまでのはなんだったんだ。まさか演技?
「そこまで本気になってくれたなんて嬉しいかも」
「どこから演技? 演技なの? これ全部」
「うーん、それは教えられないかな。ご想像にお任せってことで! じゃあ、帰ろっか」
「あ、ああ」
遠野は、確実に本気だろうと心の何処かで、俺は思っていた。
なぜなら色が。
色が付いてたから。
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