第16.5話 守護者達の憂鬱
attention
以下の文章には暴力表現が含まれます。
苦手な方はここでブラウザバック願います。
以上を了承していただける方は、引き続き拙作をお楽しみください。
沈む、深く、深く
鼻につく様な薬品の匂いにも慣れてしまったけれど、まだ一日の殆どをカプセルの中で過ごすのは苦手だ。カムヒ様以外のオトナに頭から爪先まで全て曝け出さないといけないから。
『数値、安定しています。』
『よし。次のステージに移行する。
あれを持ってこい。』
目の前に鎮座していたジェラルミンケースから古びた何かのカケラが現れた。研究員さんは小さなシャーレに収められたそれを僕の隣のカプセルに入れ、電源を入れた。
『それじゃあ始めるぞ。
出力、最大。』
ガゴン
頭上のライトが点灯し、身体を包む液体がどんどん濃くなっていく。僕の視界は緑に覆われていき、やがて自分の輪郭さえもあやふやに溶けた。
おとうさん、待って いかないで
「五月蝿い!お前なんていなければ、
生まれなければ...!ミノリはっ...
チッ、クソが!」
おとうさんに伸ばした手を強い力で振り払われた。衝撃に耐えきれず地面に座り込んでしまう。
そして顔を上げると、大きな手が僕に向かって降ってきた。
何度も
何度も
だけど 痛くない
自然と痛みは生まれなかった。
あぁ思い出した、僕はずっと前に痛覚が擦り切れたんだった。
じゃあ痛がれないや。ごめんなさいおとうさん
変な子どもでごめんなさい。
そんな事を考えていたら、いつの間にかおとうさんはいなくなっていた。代わりに沢山の足や腕が、声を伴って僕に向かって伸びてくる。
『...ひろ、チヒロ?あ、ぁあぁあ...チヒロ、
チヒロ、オイデ、おイデ、オひデ...』
喉が潰れた様な不協和音の持ち主と目があった気がした。
「正常値維持してます。もう少しでカムヒに
変化するかと。」
「そうか、それにしてもこれ程"カムヒ降ろし"を容易にできるとは。洸一様の手腕にはいつも驚かされる。」
一柱でも多くのカムヒをこの地に降ろし、守護を固めなければ。来たる厄災を凌ぐためには、神に縋るしかない。その為ならば如何なる犠牲も払ってみせる。此処にいる人間ならば誰もその事を疑いもしない。
「槙屋が夕食に連れ出したと聞いてましたが、無問題で安心しました。むしろ今まで以上に安定したバイタルですし...。」
「杞憂で良かったよ。まったくアイツは食えない女だ。」
プロセルピアの異端児、槙屋アオイ。アイツの突拍子もない行動にはいつも苦心していた。僅か入社五年で実務部門のトップになるとは...恐ろしいバケモノだ。
(天は二才を与えずとはいかないものか...)
私は検体の入ったカプセルを見つめて、口角を上げた。
「頼むぞ、6040番。我々人類の為に全てを
捧げろ。」
その声に呼応するかの様に、カプセルは実験終了を告げた。
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