第15話 特務機関プロセルピアのイロハ
「ここまでが昨日分かったこと。これからはサクヤちゃんがどうしたいかですべき事が変わるから、まず最初に質問を一つ。」
「サクヤちゃんはココにいたい?それともココで見聞きしたこと全て忘れて、今迄通りの生活を送りたい?」
どうして、そんなことを聞くのかと思ったが、よくよく考えてみると私はまだちゃんとした返事をしていなかったことを思い出した。
「覚えて、いてくれたんですか。」
「まぁね、ここまで色々させといてなんなんだ、って話になっちゃうけどさ。サクヤちゃんとは一応そういう約束だったから。」
(...やっぱりアオイさんは
真っ直ぐな人なんですね)
だったら、答えは一つしかない。もしこの選択が間違いだとしても、私はどうしようもなく目の前のアオイさんを信じていたいのだ。
ただそれだけの為に私は、
「...此処に、プロセルピアに私の居場所を下さい。お願いします。」
「!うん、うん!ありがとう、
サクヤちゃん。絶対後悔はさせないから。」
手をそっと握られる。その手は傷だらけだけど暖かい、アオイさんの全てを物語っていた。
「じゃあ、晴れて正式にプロセルピアの一員になったサクヤちゃんに此処での御役目について説明します。」
彼女はデスクの上のパソコンを立ち上げると、『新人研修用スライド』と書かれたファイルを開いた。
「アタシ達プロセルピアは国連が作った、一般には公開されることのない機関です。でも此処以外にも大きな支部が世界各国に点在しててね...」
世界地図の上に赤い点がポツポツと配置されている。勿論日本にも。
「その中でも日本支部は特別。他の支部より多くの神器...サクヤちゃんが持ってる槍とかがゴロゴロあります。だから警備システムは世界トップレベルで厳しくなってるの。」
「だから、エレベーターとか通路とかやたらに多いんですか?」
「うん、それも対策の一つね。まあもし神器管理エリアに運良く入れたとしても、一般人なら狂っちゃう電波ビンビンに出てるからそれ以降進めなくなるんだけどね〜。」
なんか今もの凄く聞いちゃいけないこと聞いた気がする。気のせい...うん気のせいだ。
「で、此処からがサクヤちゃんに関わってくる話ね。」
スライドには樹形図が出てきた。細かく書き込まれており、解説なしには分からないことばかりだ。
「これから貴女には主に二つの役目、仕事があります。一つ目は怪異調査、世の中で噂になっているオカルトとか不思議な事象を調査してもらいます。」
「なんだか警察みたいですね。」
「そうそう、その認識で大丈夫だよ。二つ目は怪異討伐。できればそうならないのが一番だけど、結構オカルト系は好戦的だからあくまでもサクヤちゃんの身を守り、怪異の保護を優先して戦ってね。」
「で、でも戦うなんて...私武道の経験皆無ですし。」
体育の成績だって一度も3から上になったことが無いのだ。いくらなんでも無理極まっている。するとアオイさんはケラケラと笑って今迄椅子の近くに立てかけておいた槍を指差した。
「もー、サクヤちゃんったら肝心な神器を忘れないでよ。貴女の全てを守るための"神器"なんだから。」
「へ?一体どういう...」
アオイさんの笑う理由が今一つピンと来ず、唖然としていると彼女は槍を手に取った。
「いいサクヤちゃん、神器はねカムヒ様達の力そのものなの。この槍だってカムヒ・カイネスの武勇を体現する、強力な武器。だけど全員が全員扱える訳じゃなくて、サクヤちゃんにしか振るえない槍。そして貴女を傷つける全てから守りたいカムヒ様の心の具現。」
「私を?どうしてそんな...。」
「そりゃまぁ理由は色々あるからさ、アタシからは何とも言えないけど...魂半分割譲するくらいには大切に思われているんじゃない?」
アオイさんはゆっくり神器を私に握らせた。また仄かな熱を感じる、どうしてだろう。
そういえば、昨日八神君もそんな事を言っていた。このヒトからの寵愛、加護...そんなモノは普通もっと優しくて素敵な子に与えられるべきだと思う。私なんかじゃない、他の誰かに。誰かに大切にされる程、私は良い人間じゃないのに。...変なの。
「...死にたくは、ないので守ってくれるならその言葉に甘えさせてもらいます。」
「うんうん、戦う時はアタシも出来る限りサポートするし気負わずにゆっくり慣れてくれれば良いよ。」
少しすれた事を口にしても彼女は怒らなかった。ただ少しだけ悲しそうな目をしていた気もしたけれど。
「よし、これで説明は一通り終わったんだけど...質問とかある?」
「んー...無いと思います。」
「そっか、じゃあ明日からプロセルピアに慣れてもらう為にも、放課後になったら顔出してね。模擬訓練とか講習とかあるから。」
アオイさんは机の下から何冊かの書類ファイルとカードキーを紙袋にまとめて差し出した。
「いっぱい、ありますね...」
「ふふ、学校の勉強よりは楽だからサクヤちゃんなら大丈夫だよ。」
(そうは言ってもなぁ...)
私がファイルの中身をペラペラ眺めていると一本の電話が入った。
「はい、槙屋です。」
すかさずアオイさんが受話器を取って話し出した。
「はい、はい...!そうですか、じゃあ...!はい、分かりました。失礼します。」
「何かあったんですか?」
職場内の通話を気に留めてしまうのはダメだと思ったがつい言葉が先に溢れた。するとアオイさんは嬉しそうに笑ってデスク周りを整頓した。
「サクヤちゃん、これから3人でディナーとかどう?」
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