第14話 少女解剖学

キーンコーンカーンコーン

昇降口で手早くスニーカーに履き替えて

走る  あと少し

「おっ、サクヤちゃん。おつかれー。」

「ア、アオイさん! 」

校門前の丸っこくて柔らかい色の軽自動車に寄りかかりながら手を振る彼女の元まで、真っ直ぐに息を切らしながら走っていった。


「アオイさんの車、可愛いですね。」

「でしょ〜。一目惚れでね、即決しちゃったんだ。お陰で懐は冷えてるけど自分の城みたいでさ、こまめにメンテしてるんだ。」

誇らしげなアオイさんを見るのは3回目だ。顔を思いっきり緩ませて、本当に私のお姉さんみたいだ。

(そう、だったらいいのにな)

両側をビルに囲まれたこの街を眺めながら、私はリュックを抱えなおした。


昨日初めて入った時は見る余裕もなかったけれど、改めてプロセルピアのビルの内部をじっくり観察していくと自分の想像以上に緻密に物や人が配置された所だ、と思った。

四方八方を行き交う大人たちと何に使うのも分からない大きな機器。改めてとんでもない所に召集されたのだと、アオイさんから手渡された社員証をなぞりながら感じた。

「はい、じゃあサクヤちゃん。

 ココ座ってね。」

ビルの北棟の13階の奥。其処がアオイさんのプライベートルームだそうだ。殺風景だけど、デスクの上に飾られた小さな花が印象的な部屋だ。私は検査結果の紙と飲み物を取りに行ったアオイさんに促されて、小さなパイプ椅子に腰を下ろした。


「ストレートティーで良かった?」

「はい、ありがとうございます。」

湯気を立ち上らせる二つのカップのうち、手前のものを受け取った。じんわりと伝わる温もりがくすぐったい。

「じゃあ本題の方、説明するね。」

アオイさんは厳重に梱包された封筒から緑の紙を手渡した。

「最初の方はフツーの健康診断の結果で...

うん、サクヤちゃんは数値の方、大丈夫だね。」

身長に体重、BMI値...血糖値とかも分かるんだ。詳しい所まで検査されてる。自分の体のことを見直すのって不思議な感覚だ。

「で、ココからがよく見て欲しい所でね、はいまずは『神核接続値』。昨日ちーくんが言ってたサクヤちゃんがカムヒ様とどれくらい一体化しているかの値。」

ボールペンの赤丸で囲まれた箇所を注視する。其処には30/100と書かれていた。

「数値が低い程カムヒ様に自分が侵食されてるって奴なんだけど、サクヤちゃんの場合は...

うん!やばいね!」

「『やばいね!』って、えぇ...」

人の一大事を誰かに軽く伝えられると結構ドン引きしたくなることを私は学んだ。

「でもこの値結構変動しやすいからさ、今後人寄りに戻るってこともある筈だしあんま気にしなくていいよ。」

「じゃあ、良かったです...」

「どんどんいくよー。次はこれね、『執行人指数』!自分の執行人としての今後の活動を決める時に必要な数値だよ。」

「えっと...『盃を備える者、100』ですか。」

盃って、日本酒とか呑むのに使う平べったい容器だっけ。100だから悪くはないのかな。

「そう!この値が80を超えると招集されるんだけど、100までいく子は貴重なんだよ。しかも日々人手不足の"盃"ともなれば、即任務をお願いしたいレベルだし...本当にありがとう!」

手をがっしり掴まれたのには驚いたが、アオイさんが本当に嬉しそうだったから、よっぽど人員不足に悩まされてきたんだなぁと思った。

「で、最後に『神威許容量』。これが一番執行人になる上で覚えといて欲しい数値でさ、任務中にココを超えるランクの神威...いわば力を持つ神々と接触すると間違いなく大変なことになるから絶対に忘れないでね。」

(ランク3.0+1.0か)

4と素直に書いていない所が変だと思ったが、紅茶と共に流し込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る