第?話 血と死と仕組まれた少年

逃げなきゃ

遠くへ 遠くへ

早く さもないと

「逃げないで下さいよーカムヒ様。」

人間に、忌むべき"厄災"に追いつかれる


「あれれ、おかしいなぁ。

 カムヒ様、こっちに行ったのに。」

息を殺す。早く、早く向こうに行って!

ここ最近顔見知りの姿を見なくなったと思ったら、全員盃に力を奪われていた様だ。

まさか次が自分だったとは...

それにしてもどうして今になって再び盃が現れたのか、とうの昔にその血は絶えた筈なのに。

「みーつけた。」

叫ぶ間もなくワタシは死神に核を砕かれた


「これでココは最後かなー?あれれ?」

振り向いた先に美しい人がいた。

「なぁんだ、まだいたんだ。それならちゃんと返事して下さいよ。」

にっこり笑って見せるとカムヒ様は、ボクの目の前で短刀を自分の首に当て嘲笑った。

「ごめんなさいね、私貴方に易々と殺される程安いオンナじゃありませんの。だから自分の引き際くらい自分で決めますわ。

さようなら、盃に選ばれた可哀想な貴方。」

グシャリ

彼女が刀を引く前に心臓を穿った。確かな心臓の厚みは感じたが、即座に彼女の身体は砂塵に帰した。ボクはその燃え滓を手に取って、風に晒す。サラサラと木の葉のように溶けていく。

「...なんだ、ダミーか。じゃあ本体はとっくに逃げちゃったよなぁ。あーあ、取りこぼしは嫌いなのに上手いことやられちゃったなぁ。」

次は取りこぼさないようにしないと。体内で渦巻く混沌を沈めるにはあと二柱必要だ。

「もうちょっとだから、待っててね。」

くつくつと笑いながらお腹のあたりをさすれば、僅かに落ち着いた気がした。


「ぐっ...ゲホッ。」

どうやら代わりを置いていた事が向こうに見つかったしたらしい。手に広がる自身の血を見れば、自分が遅かれ早かれ消失することを嫌でも理解させられた。

(でも、私を渡す訳にはいかないもの)

最期の力を振り絞って、自分のコアを凝集し見つからないように魔術をかけた。

「お願い、私に力を貸してくれる"縁"の元へ

 導いて。」

私の悲痛な声に応える様にクルクルとコアは回転し、やがて空の彼方に消えていった。

「これで、大丈夫...ね。

 ごめんなさいアナタ。

 ごめんなさい......チル...ヤ......」

麗しき女神の肉体は、やがて風と共に消えていった。

 

ミツケタ

ミツケタ  縁 ヨスガ

ハイロウ 入ロウ

タスケテ 縁 ワタクシを、タスケテ


「ん...」

意識が浮上する。ゆっくり体を起こし、入れ物の持ち主の手を見つめた。

「真新しい少年の肉体ね、

 まるで作り物みたい。」

「でも悪くないわ。暫くカレの中に潜んでいましょう。」

流れ込んでくる少年のデータに目を通しながら、もう一度瞳を閉じた。

「おやすみなさい、そしてごめんなさいね、

 縁の少年。」

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