第13話 置換と昇華のパラダイムシフト
別に男の子が最初から怖かったわけじゃない
例えば、
「お前まじないわー!」
「ひっでーな、おい!」
今、通り過ぎた様な男。
私はああいうのが一等苦手...というか嫌いだ
大きな声で騒ぐとか高校生にもなって品性のカケラも感じない
前はそこまで気にしてはいなかった
だけど
『おい、亀。さっさと行けよ。』
『何笑ってんの、キモいんだけど。』
女一人なのをいい事に、
貶してきた男達を知っている
『あ、咲耶さん、笑ってる』
言葉一つで心を殺させた男達を知っている
だから、壊れていても仕方ないよね
「間もなく、学園前。学園前です。お降りの方は、右側のドアからお降り下さいー」
人の流れに身を任せ、改札を通る。駅前は今日も学生や社会人でごった返していた。目を合わさない様に下を向いて歩く。
「チッ」
すれ違いざまに舌打ちされてしまった。
(何かしちゃった、のかな...)
他人の音をシャットダウンしようとイヤホンに手を伸ばすが、やめた。
(歩き○○は逮捕とかされるって聞いたし...)
から回った左手を隠す様にナップザックの紐を掴んだ。
朝から少し泣きそうになった。
「ふぅ...」
やっぱりトイレって安心する。
個室だし、鍵もかかるし、基本ボロい所には人も滅多に寄り付かないし...いい事づくめだ。本校舎は結構綺麗だから、朝っぱらから女子がたむろしているけど旧校舎の昇降口横の女子トイレはよっぽどトイレが混んでた時の一年生しか来ないから、今日も避難させてもらっていた。
リュックを下ろしてトイレに腰掛けた。怖さを打ち消す為に、今日一日笑われない様に笑わない様に手を目の前で組んだ。ぎゅっと目を閉じて、祈る。ただそれだけの事がひどく私を安心させるのだ。今では毎朝のルーティーンになっている。
ブー ブー
ふとスマホが着信を告げた。アオイさんだ。
「もしもし、サクヤです。」
『サクヤちゃん、おはよう。
朝からごめんね。』
「いえ...何かあったんですか?」
『実は昨日、精密検査をしたんだけど、その結果を説明しなきゃいけないの。今日学校何時まで?」
「えっと、7時間目まであるので
4時終わりです。」
『そっか、じゃあ4時ごろ校門前で待ってるからホームルーム終わったら出ておいで。』
「はい、分かりました。」
『...あー、サクヤちゃん。此処からはアタシの独り言だけどさ、』
「?はい、」
『人間って脆いからさ、意外と。
サクヤちゃんも壊れる前に、逃げなね。』
電話はそれで切れた。
落ち着いたので、私はトイレのドアから荷物を背負って出ようとする。
「あれ?」
音もなく、床をぬるい水が濡らしていた事に
この時ようやく気がついた。
歩く、歩く、歩く
階段、廊下、階段、廊下、廊下
そして
「あっ咲耶さん、昨日は大変だったねー!」
「お前もぶれねぇよな、
咲耶さん困るだろ?」
ドアを引いて入った音を無視することなく
ツカツカと彼らがいる所までまで歩いた。
「...心配してくれてありがとう。だけど、私のことは気にしないで欲しい。あと、ソコ私の席だから早くどいてもらえる?」
彼らは私の言葉に驚いたのか、そそくさとその場を離れていった。
まさか自分にそこまで言える力があったとは思わなかった。ただ、どいてもらおうと思っただけなのに。変、だな。
改めて自分の椅子をそっと撫で、荷物を片付ける。
今日は、大丈夫な気がした。
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