第12話 何でもない日の裏側で

『ダメヨ ダマサレテハダメ』

 誰? いつも私を助けてくれる貴女?

『コノオトコモウラギル

 オマエヲキズツケテ、オマエヲ消費シテ

 ムサボッテ、サイゴニハ捨テルダケ

 オマエノ知ルオトコタチとオナジ』

 このヒトが私を...?

 私を、捨てるの?

 私を、虐めるの?

 私を、コロスノ?

意識が黒に染まる。私は、ワタシは、ナニ?

『ワタシはアナタ、アナタはワタシよ、

 サクヤ』


「サクヤ?」

カムヒ・カイネスの手がワタシの頬に伸びてくる。ワタシはそれを許さなかった。

許せなかった。

「触れないで、カイネス。

 ワタシをこれ以上汚さないで!」

彼は一瞬驚いた顔をしたが、即座に立ち上がって槍を地面に向けた。

「誰だ、オマエ。サクヤじゃないだろ。」

男神の殺気をマトモに受けたことのない、このウツワはいとも容易く震え上がった。だけど此処で引くわけにはいかないのだ。

「いいえ、ワタシこそがサクヤ。

 それ以外の何者でもないわ。」

睨みつけながらそう言い放つと、彼はもう目の前にいなかった。一体どこに...まだ話は終

「ごめんな、

耳元の声を聞いて間もなくワタシは視界を黒く塗りつぶされた。


「これで眠ったか?」

少女の胸元に耳を近づけると確かに規則的な心音が聞こえてきた。よかった、峰打ち久々だったから上手くいくか怪しかったが...なんとかなったらしい。

「手荒なことしてごめんな、

 でも確かめたい事があるんだ。」

ごめんな、ともう一度謝ってから彼女の心臓部に右手を。グチャグチャという聞くに耐えない音がしても気に留めず、彼女のナカミを探し回る。

「おっ、やっと見つけた。

 ほら出てこい、

傷つけるなんてことしないから。」

そうできる限り優しく声をかけてやると、右手に確かな温もりと質量を感じた。そっと右手を引き抜くと其処には真っ赤に熟れた果実があった。

「...ふーん、成る程な。

 チッ、コイツも"お手付き"ってやつか。

 それにしても、手垢が酷いったら

 ありゃしねぇな。

 こんなんじゃ、本来ニンゲンでいるのも

 キツい筈なのに。」

一通り検分してから、一滴自身の血を垂らしてから少女に返した。

(これで、まぁ"盃"に擬態できるか。)

折角手に入れた"棺"だ。他にやる気は毛頭なかった。それに、"盃"の方が何かと都合が良い。

「今は忘れろ、サクヤ。

 このコトはオレが抱えといてやる。

 だから今はまだおやすみ。」


ピピピピ...カチ

「ーん、へっ?」

いつの間にか槍を抱え込んで眠っていた様だ。慌ててベットから降りると忘れない内に玄関に袋に入れて立て掛けた。

学校行かないと。

「行ってきます。」

私は朝ご飯をかき込むと、お弁当と槍を抱えマンションを飛び出した。

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