第10話 兆し
「笑った顔初めて見た...。」
ポツリとアオイさんが呟く。
「?僕、笑ってました?笑顔で表現する様な内容を述べてはいなかった筈ですが。」
「...あー、そういうことね。ごめん、
何でもないよ。」
八神君はコホンと咳きこんで再び私に視線を移した。
「兎にも角にも霧嶋さんは暫くはその槍・・・神器と寝食を共にした方がいいと思います。そうした方が"ラク"だと思いますから。」
「分かりました。」
手元の槍をゆっくり握り直した。変に手に馴染む柄を撫でれば、水晶の様に透明で血の様に赤いことに気付かされた。
「...霧嶋さんは学生ですよね。」
「はい。あ・・・学校・・・槍とか持ってけない・・・。」
この国には銃刀法がある。美術品としてならともかく、この槍は余りにも鋭利だ。切っ先に触れただけでたちどころに傷つけられてしまいそうなくらいに。
「それなら大丈夫!学校にその事を連絡しといたし、一般人にはただのペーパーナイフくらいにしか見えない様に封印加工しとくから。」
ちょっと貸してね、とアオイさんは槍を手に取るとポケットの中から見たことのない記号の刻まれたビニールテープを取り出して、槍の持ち手の下から刀身ギリギリまで固く巻いた。
「綺麗な紋様ですね。」
「綺麗・・・?」
八神君がずいっとベットに近寄ってきた。いつもの様に嫌悪感や恐怖を感じなかったのは自分より彼が幼い風に映ったからだろうか。
自然に話すことも余裕を持ってできる。
「細かいところまで描き込まれていて、遠目で見たら校長先生とかの四角い印鑑みたいだなぁって。私そういう模様が好きですから。」
「...簡易神格抑制紋様を貴方の様に表現する人は初めてです。とても、興味深く思います。」
「へぇ、これそんな名前なんですね。」
「...はい。カムヒ様の神格を一時的に下げて、僕たちにとって接しやすくするために考えられたもので・・・。」
辿々しく話す八神君に相槌を打ちながらアオイさんに目線を移すと、驚いた様な顔をしていた。
まさかちーくんが自分から興味を持って誰かと相対することが出来るとは。サクヤちゃんに会いにきたのも、彼の知らない所で興味が生まれていたからかもしれない。兎にも角にもこれは人間として良い傾向だ。これからも彼女と定期的に接触させた方がいいかもしれない。保護者としてそれくらいしてやっても上には怒られないだろう。
(あ、連絡しとかないと。)
事後報告だけど、どっちみちおんなじ事になってたから平気平気!
そう楽観的に考えていたのが後輩にバレて電話口で怒鳴られるまであと10秒。
「もしもし、兄さん?」
「やぁ、マホロ。
調子はどうだい?」
「あぁ上々だよ。あと二柱ってとこかな。」
あっけらかんとした声に安堵する。
「そうか、引き続き頑張って。あと、朗報だ。最後の一柱はこっちで監視しているから、終わり次第此処に来るように。」
「分かったよ、それじゃあ僕はまだ狩らなきゃいけないから。じゃあね。」
通話終了を告げる画面を見つめながら、相変わらず電話が嫌いな末弟の姿を思った。
「あと、一月ってとこかな。」
もう少しだ。
あともう少しで全てが始められる。
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