第8話 氷解への道のり

「サクヤちゃんって結構バカなの?

普通、怒ると思うんだけど。」

「勿論怒ってますよ、いきなり眠らされるし、よく分からない人の元に連れてかれるし...。戸惑いすぎて途中から思考を放棄したかったんですから!」

目を丸くするアオイさんに力説するが、伝わらなかったようだ。逆に疑いの視線が返ってきた。

そんな会話を遮るようにアオイさんのポケットから呼び出し音が響いた。

「ごめんねー、ちょっと外出るわ。」

「はい。」

慌てて部屋を出て行くアオイさんを見送ってから再びベットに身体を預けた。


「へ?神器が研究室から消えた?」

『そーなんすよ!今総出で探してるんすけど、いっこーに見つかんなくて...。センパイ、確か"盃"の少女と面会してましたよね?』

「そーだけど...」

チラリと病室を伺うと、当の本人はベットでグッスリ眠っている。今のところは大丈夫そうだ。

「もしかして、神器があの子を恨んでて復讐に来るとか?」

『可能性はあるっすね。貴重なサンプルをむざむざと殺される訳には調査チームとしてはいかないんで、引き続き警護頼むっす!』

「警護しろ、なんて簡単に言うけどさぁ、アタシ今対人用武器しか持ってないんだけど。」

ガチャリと腰に隠した麻酔銃の弾を実践用の物に入れ換える。

(カミサマ相手に実弾効くのかな...)

「...返り討ちにあったら労災100万で。」

『!もちのろんっす!宜しくお願いします!』

一方的なガチャ切りをされたが、今日のところは許してやろう。彼はやると言ったことは必ず実行してくれる。もしもの時の100万も上に掛け合ってくれる筈だ。

(いざとなったら、この前見つけた写真で脅そう...)

ほくそ笑みながら、弾を仕込んでいると背後に微かな気配を感じた。

「...アオイさん。」

一応銃を持ちながら振り返ると、其処には自分より小柄な少年が此方を窺うように見上げていた。その見知った顔に殺気を即座に消した。

「なーんだ!ちーくんか!どうしたの?」

「...僕と、"同じひと"が来たって

 聞いたのですが。」

彼は表情を少しも変えることなく淡々と用件を告げた。

「そっか、ちーくんも興味あったのね。」

「...興味?......よく分かりませんが、なんとなくで来たらいけませんでしたか?」

「全然大丈夫!ちーくんには常々色んなものに触れて、この世界のこともっと知って欲しいなーって思ってたからさ。こうやって、自分から来てくれたのが嬉しいよ。」

素直に感動を伝えるが彼はこてんと首を傾げるだけだった。


「...ちゃん、さーくやちゃん。」

「うっ...すいません、寝てました...あれ?」

慌てて身体を起こすとアオイさんの隣に見慣れない男の子がちょこんと腰掛けていた。

「紹介するね、貴方と同じ執行人の八神チヒロ君です。」

「...チヒロ、です。宜しくお願いします。」

ぺこりと頭を下げる少年、八神君は真っ直ぐで透明な瞳を持っていた。

「霧嶋、サクヤです。此方こそ宜しくお願いします。」

暫くの沈黙の後、アオイさんに促されて彼は重い口を開いた。

「...霧嶋さんは何処まで自分のことを理解できていますか。」

「全然・・・だと。よくわからない人の為に連れて来られただけ、ですね。」

戸惑いながら答えると、彼は目を閉じるとゆっくり私の左手首に自身の手をかざした。

彼が何か言いかけた時、

パリン!と高い音を立てて窓から何かが飛び込んできた。

「...やっぱり。

そろそろかと、思っていました。

お初にお目にかかります。

カムヒ・カイネス様」

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