第7話 覚悟と破綻

ピ、ピ、ピ...

「...ん」

白い天井と計器の音。

今日だけで2回は意識をとばしているせいか身体は酷く重かった。

(これじゃあ、起き上がるのも無理だな...)

ふと横に視線を移すと、椅子に腰掛けたまま眠るアオイさんが座っていた。

(よかった、アオイさん、無事だったんだ)

そう思い顔を戻して目を閉じようとした時、ガタッと椅子が揺れた。

「あっ、あははは...ごめんね。ちょっと、というかだいぶ寝てた。」

アオイさんは気まずそうに目を逸らして言った。


「どうして私を

此処に連れて来たんですか。」

「...サクヤちゃんは神様って信じる?」

身体をゆっくり起こしてもらい、アオイさんの方を向いた。だけど彼女は未だに目を合わせてはくれない。

「アタシは...ココに来るまでカミサマなんていないって思ってた。

だって、カミサマがホントにいるならアタシの妹は死ななかったし、あんな酷いことされずに今でも笑って生きてた筈だから。」

アオイさんは一枚の写真を手渡してくれた。

今より少し幼い表情を浮かべるアオイさんともう一人。輝くばかりの笑顔を見せる女性が写っていた。

「その左の子が、スミレ。アタシの妹。

 可愛いでしょ?」

「...。」

「スミレは本当に優しい子だった。いっつもアタシの後ろに引っ付いて...でも大学2年の春に死んじゃった。」

言葉はもう無駄でしかなかった。

アオイさんの表情を見れば全て分かったから。

「強姦、されたんだ。自分より立場も金もある奴に。それで家から出られなくなって、そのまま首を吊って、」

「許せなかった。どうしてあの子が、あんないい子が傷つけられて、命まで絶たなきゃいけなかったのか、全く分からなくて...あんな一人っきりの部屋で死ななきゃいけなくした、ヤツと世界と...自分を呪った。」

「だからアタシは今でも神様を信じてない。

 どんなに"ソコにいる"って分かっても

 信じない。あの子を救いもしない神様

 なんて、いらないから。」

ここで一呼吸置くと、アオイさんは初めて私の目を見た。

「だからさ、アタシが此処にいるのはプロセルピアを取り仕切る"ヤツ"を仕留めるため。あの子を苦しめたアイツを、一等苦しめて殺すため。その為ならどんなことでもやるし、今迄もそうしてきた。」

「サクヤちゃんを連れてきたのは、"そう"頼まれたから。ほんとはこんなこと言っちゃ悪いんだけどね、今こうやって話すこともないって思ってた。」

「そう、ですよね。」

なんとなく分かってはいた。車の中で見た張り付けたような笑顔も言葉も、まるで隠した本音を見つからないようにしてるだけにしか思えなかったから。

「でも...私はアオイさんを

 信じたかったです。」

「え?」

「だってアオイさん、

 嘘はつかなかったから。隠してるものがあるのは分かってました。だけど私の目を真っ直ぐ見つめるアナタは嘘をつけないヒトだって、そう思ったんです。だから...馬鹿、ですけどここまでついてきました。」

今度は私がその瞳を真っ直ぐに捉える。今度はもうその心もそらされないように。


研究室c棟187号室

『測定値以上なし、実験を継続しますか?』

「あぁ、続けてくれ。」

男はふとポッドに入った槍を見つめる。

「カイネスの神器化形態...なかなか見事なものだ。」

神を神器化することで、その力を抑える...聞いた時にはできっこないと思っていたが、今日突如搬入されてきた実物は想像以上だった。

(この調子でいけば、他の神々の神器化もすぐだな。)

そう楽観視し、部下に実験を継続させていた時だった。

『...こだ、何処にいるんだ、オレの棺、オレのために生まれ落ちた愛しい棺、早くその声を聞かせて、あ、あ、あぁぁぁぁあ!!』

その地を這うような声を契機に一瞬にして研究室は地獄と化した。

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