第5話 邂逅

声がきこえる。

いつもの夢の声に似た

魂をこじ開けようとする音。

「...いう...だな。オレが...」

でも突き放す様な冷たさを持たない、

心地いい音。

この夢がずっと続いたらいいのに。

私は生まれてからずっと

長い夢を見ているのだ。

誰かの怒号、嘆き、嘲笑...眠りの淵でナイフの様な響きばかり聴いているから、いつの間にか気絶する様に眠る癖がついていた。

だからこんなに穏やかに眠るのは久しぶりで、不意に目を開いてしまった。

夢だから、目を開けても

終わることがないと信じて。

「...ぁ。」「あ?」

そのヒトは透明な空の色をしていた。


20分前ー

「今回こそは、

オレの注文通りのオンナだろうな?」

「勿論です、先日は大変失礼いたしました。」

「ホントだよ、なんで"お手つき"のオンナ

 寄越すわけ?」

彼女を白亜の祭壇にのせた後、音も立てずに現れた"その方"の顔を見ることはアタシ達には許されない。そもそも見ようとしても、発せられる威光から顔を上げることもできないんだけどね。

(首が鍛えられるわ...)

ズキズキと痛む首に鞭打って、更に低く頭を下げる。

「カムヒ様、どうか我等をお守り下さい。

 そして御身の力でこの世界に安寧を。」

「...あっそ、とりあえずソイツは有り難く

 貰っておくぜ。」

ヒョイと横たえたサクヤちゃんの体が持ち上がる。ふわりと香る潮の匂いに妹と行った水族館を思い出した。その刹那、途端に頭が軽くなったことで「ようやく終わったのだ」と知らされる。顔を久しぶりに上げると、まっさらな祭壇だけが残っていた。

兎にも角にも、これで暫くは平気そうだ。

(彼?彼女?は結構気性が荒いからなぁ...)

この前なんて、怒りに触れた職員の首から上が吹っ飛んでいたし。

(触らぬ神に祟りなし、ってね)

サクヤちゃんには悪いけど"世界と人一人の価値は明らかに違う"。そう言っていつも扉の向こうに置き去りにした子どもたちに言い訳して生きてきた。今回も同じだ。

胸に残る黒ずんだ霞から目を背ける様に私は神殿を早足で出て行く。今はそれしか出来なかった。





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