第4話 鴨は葱を背負うて歩く

「あの、槙屋さん。」

「アオイ、そう呼んでくれると嬉しいな。」

「じゃ、じゃあアオイ...さん。此処がプロセルピアの本拠地、なんですか。」

一際大きなビルに入って何度目かのエレベーターの中で私は尋ねた。

「そう...とは言い切れないけど、もう少しで着く、とは言えるね。サクヤちゃんは地下とか苦手?」

「いえ!そういうわけじゃ、ないんですけど...どんどん下に降りていくから厳重な管理がされた場所なのかな...と思いまして。」

「ふふ、そうだよね。こーんな地下深くにまで来ちゃったらさ、一体どんな事してるか気になって仕方ないよね。」

アオイさんが笑って此方を振り向く。その手には銃を持って。

「だからさ、そんな感のいいサクヤちゃんには少し眠っててもらうね。」

その後のことは今でも思い出せない。でも確かにあの時、アオイさんは泣いていた。心が確かに泣いていた。それだけは覚えてる。


エレベーターの表示が地獄の入り口まで降りてきたことを示す。急いで彼女...被検体を抱えて扉が開くのを待った。

(ごめんなさいサクヤちゃん。

これが私の、私たちの役目なんだ)

眠る彼女の顔を見てから後悔した。あまりにもその表情が何の感情も宿していない事に気づいたから。

(此れは、相当キテるやつだな...。)

麻酔銃の効き目は常人なら1日、だけど彼女の様な素質持ちには5時間しかもたない特注品だ。被検体たちの負担軽減のためにもこの麻酔は欠かせない代物だけど、彼女には効きすぎたらしい。このことは後で開発部の方に伝えておかないと。

『...コード承認。プロセルピア実務部門責任者、マキヤアオイだと確認しました。この先の隔離エリアへの入室を許可します。』

さぁ、此処からだよサクヤちゃん。

「期待、してるからね。」

カミサマ達がキミをご所望だよ。

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