第3話 彼女の星が動く時

「特務機関、プロセルピア...」

「そう!貴方はアタシ達プロセルピアの一員として選出された。つまりこの国、ひいては世界のために力を貸して欲しいの。」

女性は私の目を真っ直ぐ見つめていた。まるで自分を信じて欲しい、そう言いたげな私には眩しすぎる目で。

「わかりました。でも...引き受けるかは保留にさせて下さい。」

「うん、ありがとう。今はその答えだけで充分だから。」

そう言うと彼女は私の手を引いて足早に階段を登っていく。

「あ、あの!どこ行くんですか?」

「決まってるでしょ、教室よ。」

「でも何で、」

「そりゃあ、話だけでも聞いてくれるっていうなら一刻でも早くプロセルピアにエスコートしないとね。」

不敵な筈のその笑みは少しだけ苦しそうに思えた。


荷物を取りに教室に戻ると、もうホームルームが始まっていた。ドアを開けた音でクラス中の視線が一気に私を突き刺してくる。さっきチャイムから鳴ったのは気づいていたから、今戻ると絶対視線が嫌なくらい降ってくるとは覚悟していたけれど。

思わず足が竦む。散々イメージトレーニングはしたのに、それでも私の足はドアから先には進めそうになかった。早く行かなくちゃ、自分の足で、はやく


「失礼しまーす、」

口を開いたのは女性の方が先だった。

ズカズカと教室の一番端の荷物だけある空席に向かって進んでいく、私の手を掴んだまま。教室は音を立てるのをやめた。

「あ、貴女は一体...

 霧島さんのご家族、ですか?」

場の空気に呑まれていた先生が、やっとのことで彼女に訊ねる。

「ホームルーム中にすいません。

 私は槙屋葵衣。

特務機関プロセルピアより霧島さんをお迎えにあがった次第です。」

そう言って女性...槙屋さんは名刺を先生に手渡した。すると先生の顔色がみるみる青ざめていき、私と彼女は荷物ごとさっさと教室を追い出されてしまった。

急なことで理解が追いつかず、私が荷物を抱えたまま槙屋さんを見つめていると、彼女は悲しそうに笑ってから「行こっか」と私の手を取った。


「さっきはごめんね。」

「へ」

「ほら、教室追い出されちゃったからさ。」

「ああ...。」

校門の外で待機していた黒いロールスロイスに乗り込むと彼女はぽつりとそう言った。

「アタシ達は、あんまり表立って活動してないから、怖い印象持たれがちなんだよね。」

「そう、なんですか...?」

「あぁ、今の若い子は"あの事件"知らないのか。だったらプロセルピアって聞いてピンとこなくてもしょーがないよね。ごめんごめん、今の話なしね。」

私の間抜けた顔を察してか、槙屋さんはそれっきり間をつなぐ様に私に話しかけてくれた。自分のこと、学校でのこと、好きな食べ物の話...。とにかく色々話した。

だけど肝心なプロセルピアについては「向こうに着いてからね」と有無を言わさぬ笑顔で何も教えてくれなかった。



「例の少女は槙屋が無事保護した模様です。」

暗がりに佇む職員は窓辺に腰掛けた男に声をかけた。

「そう、それなら大丈夫だね。

 報告ありがとう。」

失礼しました、と職員が出ていくのを確認してから男は立ち上がると目線を横の大きなカプセルに向けた。

「これですべてのキーは揃った。

 後は彼らがどう動くかに

かかってくるね。」

そうだろう、と問いかけた先には物言わぬ凶器だけが佇んでいた。

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