第46話アルベルヒ追跡

「ブレットさん、どうしましょうか」

 リベルは軍に戻って、秘書のブレット中尉に相談している。

「そうですね、今度はルドルス王国を調べますか」

「他国なのに調べられるんですか」

「勿論、ここのようにはいきませんが、協力者はいますので」

「また、お願いしてもいいですか」

「了解しました」

 ブレット中尉は苦笑しながら了解する。


 それから、一ヶ月ほど経過したが、あの日以来アルベルヒは姿を消していた。

 リベルはこのところダリオのところで過ごしている。リベルが暖炉の前の椅子に座って木をくべながら火を眺めていたところへ、狩猟組合から帰ってきたダリオが声をかける。

「兄貴、軍に入ったんすよねえ。こんなところでだらだらしてていいんすか」

「うん、俺は考えるのが仕事だからな。こうやって毎日考えている」

「兵士って戦うのが仕事ですよね、そんなんでいいんすか」

 リベルもどうしたらいいか分からず、手詰まりの状態であった。

(ダメもとで、少し動いて見るか)

「よし、ダリオのおかげてちょっとやる気が出たから、出かけてくる」

 リベルはそう言ってダリオの前から消えた。


 リベルは、ヴェシュタンの魔術学校の裏手にある宿舎まで空間移動でやってきた。

「すいません、テオドロス先生はいらっしゃいますか」

 リベルがドアをノックするとメイドのフランカが出てきた。

「あら、リベルさんですよね。いらっしゃいます、中へどうぞ」

 リベルがソファーに座って待っていると、テオドロスが現れた。

「お前、生きてたのか」

「いや、まあ、なんとか」

 テオドロスのいきなりの言葉にリベルは苦笑しながら答える。

「お前、付けられて無いだろうな、どうやってここに来た」

「心配いりません。空間移動という魔法を覚えてオルトからここまで一気に来ましたから」

「ほう、そんなことが出来るのか」

 テオドロスは少し安心したのかリベルの向かいに腰を下ろす。

「ロクサーナを連れて逃げたんだろ、教会に追われているんじゃないか」

「いや、そうでもないんですよ。ロクサーナさんは追われていますが、俺は全然大丈夫です」

「本当か、お前は結構いい加減だからな」

「本当ですよ。先日も、エラル王国のクラウディオ司教と会って話をしたんですから」

「そうか、ならいいが。それで、何の用だ」

「先生、琥珀の塔って知ってますか」

「名前ぐらいしか知らん、私は考古学者だ。今の事は分からん」

「やっぱり、そうですよね・・・、それじゅあ古代のドワーフが指輪を作った、ていう話は知ってますか」

「ドワーフの指輪か!」

 テオドロスが少し前のめりになる。

「あの、欲望の指輪とか」

「有名なファフナーの指輪だな、あれは本当らしいな」

「もう半年以上前になりますが、ロクサーナさんたちとファフナーを倒しに行ったんですよ」

「何、本当か!、指輪は手に入れたのか!」

「いや、それが谷底に・・・」

「何だと、なんてことだ大発見なのに・・・」

 テオドロスは落胆している。

(バルドゥールさんが捨てたなんてとても言えないなあ)

 テオドロスの様子を見てリベルはそう思っていた。

「それで、どんなところだ。遺跡などはあったのか」

「ドワーフの住居跡はありましたが・・・」

「おー、詳しく話せ」

 リベルは思い出しながらなるべく詳細に伝えるが、

「なんだ、肝心なところは全然じゃないか」

「いや、別に遺跡調査に行ったわけじゃありませんから・・・」

「よし、そこに案内しろ」

「え、すぐには無理ですよ。巨大な虫なんかが住み着いていて、護衛なんかも必要ですから」

「そうなのか、じゃあ計画を立ててみるから詳しく話せ」

 テオドロスに聞かれるまま、リベルは出てくる虫や、遺跡の規模などを説明する。

「うーん、かなり大掛かりになりそうだな。準備が出来たら頼むぞ」

「分かりました。ところで、魔人の指輪って知ってますか。これもドワーフが作ったようなんですが」

「いや、知らんな」

「そういえば、ルドルス王国でそう呼んでいるとか言っていましたから、本当は別の名前かもしれません」

「どんな指輪だ」

「何でも、地獄に行けるらしいですよ」

「ふむ、何か聞いたことがあるような気がするな。ちょっと待ってろ」

 テオドロスは席を立つと、しばらくして古い本を持ってきた。

 そして、ページをめくって読んでいる。

「これじゃないか、地獄に行って悪魔と契約する。契約者は死ぬが、その代わり悪魔を呼び出す契約書が手に入る。『生贄の指輪』と書いてある」

「あ、それです。本当は生贄の指輪って言うんですね」

 リベルは感心している。

「生贄の指輪がどうした」

「それを探しているんですよ。あの、先生が教えてくれた五百年前の戦争でバルログと戦ったという、あのバルログもその指輪の契約で呼び出したんです」

「そうか、じゃあ先日のギレスベルガー伯爵家との戦争のバルログもそうなのか」

「そうです」

「はぁー」

 テオドロスはそう言ってソファーにもたれかかり天を仰ぐ。

(指輪の事は少しわかったが、何の役にも立たないなあ)

 リベルがそんなことを考えていると、

「指輪は、ギレスベルガー伯爵家にあるんじゃないか」

「いや、それがアルベルヒというドワーフが持っていて、琥珀の塔の連中と行方をくらましたのです」

「指輪は、ドワーフの手に戻ったという訳か」

「そうですね」

「ドワーフの行方が分からなくなってどれくらいだ」

「もう一ヶ月ですね、オルト共和国や、エラル王国などが調べてますが全く見つかりません」

「そうか・・・、ドワーフならば、地下に逃げたのかもしれん」

「なるほど、地下ですか」

「さっき、ファフナーのいた坑道が広かった話をしていただろ、古代ドワーフの作った坑道は地下を縦横に走っていて、この大陸のどこへでも行けたという話もある」

「どこへでもですか」

「ちょっと待ってろ」

 テオドロスは席を立って、数冊の本を抱えて戻ってきた。

「これらの本に坑道の事が書いてある。この本には、有名ないくつかの坑道の見取り図も乗ってるぞ」

 テオドロスが開いて見せた本には、地上の地図の下にどのように坑道が繋がっているか示されていた。

「先生、この本お借りしていいですか」

「ああ構わんぞ」

「ありがとうございます」

(これは突破口になるかもしれないな)

 リベルはそう思いながらテオドロスの家を後にした。


 数日後、リベルはアルテオにテオドロスの本を見てもらおうと思い、アカテを連れてアルテオ城に空間移動で向かった。


「わー」、「キャー」

 いつもの部屋にリベルとアカテが現れると、部屋はたくさんの女性でごった返していた。二、三十人はいるだろうか、リベルが姿を現すと歓声が上がった。

「え、何々」、「うわ、どうしたんだ。えらい人気だな」

 リベルとアカテは驚いている。

「リベルさん、ごめんなさい」

 申し訳なさそうに、カタリナが話しかけてくる。

「カタリナさん、どうしたんですかこれ」

「あの、先日のパレパネ島の話をしたら盛り上がって、私も行きたいという人たちが・・・」

「リベル殿、準備はできている早速行こう」

 魔術隊のグローリア隊長もニコニコしながらやってきた。

「え、マジですか」

「アルテオ様の許可も取ってある」

(いや、こんな大人数無理だろ)

 リベルが困っているところへアルテオが入ってくる。

「おー、大人気じゃないか」

 リベルはアルテオを部屋の隅に引っ張って行って、

「アルテオさん、どうするんですかこれ」

「どうするも何も、連れて行くしかないだろ」

「こんな大人数無理ですよ、四部屋しかないですし、食事だって」

「そうだな、少し人数を絞るか」

「五人ぐらいで、お願いします」

 アルテオはちらっと女性たちの方を見るが、

「いや、十人だな。じゃないと収まりがつかんぞ」

「わ、分かりました十人で」

 アルテオが女性たちに向かって話す。

「あーみんな聞いてくれ、急な話なんで全員は無理だ。今回は十人とする」

「えー」、「何でー」、「ヒドイ」

「みんな、そう言う事だからくじ引きで九人を決めよう」

 アルテオの言葉を受けてグローリアが提案する。

「なんで九人なんですか」

「私は隊長だから、監督する立場で参加する必要がある」

「えー、ずるい」、「卑怯だわ」、「職権乱用だー」

「私も案内役で行かないといけないから、八人でくじ引きね」

 カタリナがそう言うと、ますます混乱し騒がしくなる。

「みんな隣の部屋でやってくれ、打ち合わせがあるからな」

 そう言うと女性の集団は出て行った。

 それを見送ってリベルがアルテオに、

「十人でも大変ですよ」

「大丈夫だ、お前ならできる。頼んだぞ」

「え、アルテオさんは行かないんですか」

「お、俺は忙しいからな。今回は無理だ」

「え、マジですか」

 リベルはアカテに視線を移すが、

「わ、儂も予定があるので無理だな」

「お二人ともずるいですよ」

 リベルは途端に気が滅入る。

「お、それで何の用だ」

「あ、そうでした。これなんですけど」

 リベルはそう言って、テオドロスから借りた本をバッグから取り出して見せる。

「ルドルス王国の考古学者のテオドロスさんから借りてきたんですけど、ドワーフの坑道と地上の地図との位置関係がこれで分かります」

「ほう、面白いな。地下を通って別の町に抜けれるんだな」

「なんでも、地下を通ってどこへでも行けるらしいですよ」

「へえー、つまり、アルベルヒは地下に逃げたと?」

「もう一ヶ月も全く足取りが掴めていないですから、その可能性は十分ありますね」

 アルテオとリベルのやり取りにアカテも同意する。

「少し借りてもいいか」

「どうぞ」

「俺とアカテで、少し考えてみるからお前はあいつらを頼む」

「俺もこっちの方がいいんですが」

「若い女ばかりでハーレムじゃないか、青春を謳歌してこい」

「ええ・・・」

 リベルが隣の部屋に行くと、グローリアとカタリナを含め十人の女性たちがウキウキしながら待っていた。

「皆さん荷物が多いですね」

「着替えや水着が入ってるからね、泊りとなるとどうしても荷物が多くなるのよね」

「え、泊るんですか」

「そうなのよ、だから、今日の昼食と夕食、明日の朝食はよろしくね」

(よろしくねって言われてもな)

「ハイ、ハイ、それじゃ行きますよ」

 テンションの高い女性たちに囲まれて一人沈んだ気持ちでパレパネ島へ移動した。


「うわっ、暑」、「なに、ここ」、「着いたの?」、「いいとこじゃない」

 リベルの家に着いた女性たちは、ますます騒がしくなる。

「カタリナさん、後はお任せしますのでこの家は自由に使ってください。俺はゴルテスさんのところに行って食事のお願いなんかをしてきますから」

「ごめんね、よろしくー」


 リベルがゴルテスの店に入ると、

「お、リベルじゃないか、どうしたまた客か」

「そうなんですよ、十人なんですが、昼と夜、それから明日の朝食もお願いできますか」

「分かった。人数が多いから夜はバーベキューでいいか」

「はい、お願いします」

 リベルはそう言って、とりあえず二十本ほどのビールを両手に戻って行く。

 家に戻ると、もう何人かは水着で外に出ていた。ワーワーはしゃぎながら海に向かって走って行く。

 リベルが、ビールをデッキのテーブルの上に並べていると、グローリアが水着で出てきた。リベルは思わず胸の方に目が行く。

(おー、凄いな。この人スタイルはいいんだよな)

「お前今、スケベな目で見ただろ」

「いえいえ、素晴らしいスタイルだなと感心を・・・」

「ふん、お前のようなやつは業火に焼かれろ」

 そう言うと、グローリアの左手に炎の玉が現れる。

「え、ちょっと待てくださいよ」

「ハハハ、冗談だ。お前を焼くと家に帰れなくなるからな」

 グローリアはビールを手に取ると海の方へ歩いて行った。

(いやー、あの人見かけは完ぺきなのにな。あれじゃあ絶対結婚できんぞ)

「いま、失礼なこと考えていたでしょ」

 いつの間にか近くにいたカタリナが声をかける。

「え、そ、そんなことありませんよ」

 リベルの背中に嫌な汗が流れる。

「そうなの?」

 カタリナがリベルの目をじっと見てくるので、リベルは直ぐに目をそらす。

「カタリナさん、やっぱり人の心が読めますよね」

「ふふふ、そうね、動作を見れば。特に目の動きで分かるね」

(やばい、やばい、この人もやばい)

「カタリナさんは、海に行かないんですか」

「後でいいわ」

 カタリナはそう言って、デッキチェアに座ってビールを飲み始める。他の人たちは海に行っているようだ。


 リベルはバッグから、水中メガネを取り出す。

「カタリナさん、水中メガネって知ってます?」

「私の事バカにしてるの、そんなもの誰でも知ってるでしょ」

「いや、俺はここに来て初めて知ったので」

「ハハハ、そうなの、あなた相当な田舎者だったのね」

「まあ、海のないところで育ちましたからね」

「それで、水中メガネがどうかしたの」

「ここの海の中、メチャメチャきれいなんですよ、色鮮やかで。感動しますよ」

「え、そうなの」

 興味を持ったのか、カタリナは椅子から体を起こす。

 リベルと、カタリナは海に向かっていった。

 水内際で、リベルが説明する。

「あの少し飛び出した岩があるでしょ、あのあたりから岩を回り込むように行くといいですよ」

「分かりました」

 カタリナと二人の女性が水中メガネを付けて泳いでいった。

 他の人たちはそれぞれ楽しんでいるようだ。風魔法を使っているのだろうか、木切れに乗って海上を疾走している人がいる。竜巻のように人を乗せた海水を巻き上げて遊んでいる者もいる。

(いやー、魔法をあんな風に使うのか)

 グローリア隊長をはじめとした、エラル王国魔術隊の女性たちは南国の島を満喫していた。

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