第34話空間移動
ラボルテスの商業組合に行くと、エドガーの荷物はすでに届いていた。職員に案内されて倉庫に入るといつものようにバッグが山積みされている。それに片っ端からマジックバッグの魔法をかけていく。
数が多いので二日間にわたってかけていったが、終わりがそろそろ見えてきたあたりで時空魔法のレベルが7に上がった。
レベル7となって新魔法、空間移動を覚えた。
(おお、やった!)
空間移動は今まで訪れた場所に一瞬で移動できる魔法である。自分だけでなく自分を中心として、半径1mの円の中にあるものも移動できる。
リベルは、マジックバッグの魔法を全てかけ終わると商業組合を出る。
(やっぱり最初は、エドガーさんのところだな)
リベルは空間移動で、オルトセンのエドガーの店に移動した。
カウンターの中で売り上げの計算をしていたエドガーは、視線の端に何かをとらえたのでそちらを見ると、リベルが立っていた。
「え、どうして、ラボルテスじゃ無かったんですか」
「大丈夫です。マジックバッグの魔法は掛けましたから」
リベルはそう言って、一つ持ってきたバッグをエドガーに手渡す。エドガーはぽかんとしている。
「空間移動という魔法を覚えたんです。これは、一度行ったところへ一瞬で移動できるんです」
「ほー、それは凄いですね。じゃあもう送らなくていいんですね」
「はい、定期的にここに帰ってくるようにします」
「良かった。ついに戦争が始まって軍から急ぎの要請があったんです」
「え、帝国ですか」
「そうです、つい先週の事ですよ。国境の砦で防いでるようです」
「組合は大騒ぎじゃないですか」
リベルは、エラル王国の商業組合での様子を思い出して聞く。
「ところがそれほどでもないんです。国境には二つの砦があって随分昔に作られたのですが難攻不落と言われているんです。それと、エラル王国では一日で撃退したそうじゃないですか」
「でも、あれはアルテオさん一人の力で勝ったようなものでしたからね」
「魔法が凄かったらしいですね」
リベルとエドガーは情報交換した後、一ヶ月に一回程度戻ってくることを約束した。
リベルは、ダリオの家の自分が使っていた部屋に空間移動を行った。
(お、そのままだな)
久しぶりに帰ってきた部屋がそのままであるのに安心感を覚える。
部屋の扉を開けて廊下に出ると、クロマルが走ってきて飛びかかってきた。とっさの事にリベルは押し倒されてしまう。
「おい、クロマル。やめろ」
クロマルはしっぽを振りながらリベルの顔をべろべろ舐めている。
「あ、兄貴じゃないっすか。どうしてここに?」
「おー、ダリオ。クロマルをどうにかしてくれ」
ダリオが命令するとクロマルが離れてお座りをしたが、今度は後ろから子犬がわらわらとやってきてリベルにまとわりつく。
「え、何だ、何だ」
「クロマルの子供ですよ。あれからすぐに雌を連れてきてこんなことになりました」
白い毛並みに太い脚、ころころとしている。
「しかし、かわいいなあ。一体何匹いるんだ」
「八匹も生まれたんですよ」
リベルが子犬と戯れていると、
「リベルさんお帰りなさい」
リリィとマーサもやってきた。
ダリオたちは夕食の途中だったので、リベルも入れてもらう。
「しかし、何でいきなり裏から現れたんすか」
「空間移動という魔法が使えるようになってな、一度行ったところに行けるようになった」
「え、マジっすか」
ダリオたち三人は驚いている。
リリィがリベルにスープを持ってくると、直ぐにリベルは口にする。
「うーん懐かしいこの味。もう半年以上になるかな」
リベルは、スープをゆっくりと味わって感想を漏らす。
「秋でしたからねえ、どこ行ってたんすか」
「まあ、色々な」
リベルはそう言って袋の中からお土産に持ってきた、バナナとマンゴーを取り出す。
「これ、バナナですよね。こっちは知らないけど」
「俺食ったことないっす」
リベル、ダリオ、リリィ、マーサの四人は食卓を囲みながら半年間の出来事を楽しく語り合った。
翌日、リベルは、ダリオ、リリィ、マーサを連れて、オルトセンの街中までやってきた。
「戦争中というのに、特に変わった様子なないなあ」
「そうっすねえ」
リベルとダリオがそんな話をしているとリリィが話しかけてくる。
「でも、食べ物が随分値上がりしました」
リベルがそう思って、野菜や果物を見てみるがよくわからない。しかし、塩の値段に目が留まる。
【塩 1200r/㎏】
(確かロブ爺さん200rと言ってたな)
「リリィさん、塩も高くなってますか?」
「はい、以前は900程でしたから」
(それにしても、200は無いよなあ)
リベルはそんなことを考えていた。
その日は四人で食事をして、服などを買って帰った。
それから数日後のこと、リベルたちが朝食を済ましてくつろいでいた時。
「あ、誰か来ました」
ダリオがカラスと視覚を共有して来客を告げる。
「カルヘオさんと、狩猟組合の支部長。それと軍人ですね」
「支部長に、軍人?。こんなところに何の用だろう」
しばらくすると三人が入り口までやってくる。
「お、リベルもいるのか。しばらくだったな、いつ戻ったんだ」
「つい、数日前ですよ」
リベルを目に留めるとカルヘオが話しかけてきた。
「こちらは、フランク中尉、こちらの支部長は知ってるよな」
カルヘオが二人を紹介する。
「フランクです、よろしく」
「ダリオです」、「リベルです」
フランク中尉は、薄茶の髪を短く借り上げて帽子を被っており、濃い緑色の制服を着ている。まだ30代ぐらいだろうか。
「フランク中尉、こいつですよマジックバッグの魔法を使うの」
「お、これの事か」
フランク中尉は肩にかけていたバッグを見せる。バッグにはエドガーのマークがついていた。
「そうです。私が掛けた魔法は一ヶ月しか持たないんで、エドガーさんが魔石を付けて維持するようにしたんです」
「ほう君が。これは、凄く助かっているぞ」
「中尉は、補給隊だからな」
カルヘオが説明する。
ダリオが、三人をテーブルまで案内すると中央にフランク中尉が座って、両脇に支部長とカルヘオが座った。向かい合ってリベルとダリオが座る。
「ダリオ、狩猟組合は戦争時には軍に協力する事となっている」
狩猟組合の支部長がダリオに話しかけると、フランク中尉へ目線を送る。
(まさか、従軍しろというのでは?)
ダリオと、リベルに緊張が走る。
「お願いしたいのは、ワイバーンの捕獲だ」
ダリオは、意外な内容になんと返していいかわからない。
「もちろんただとは言わない一頭当たり200万r出そう」
「それは、乗用という事ですか」
黙っているダリオに代わってリベルが聞く。
「もちろんそうだ」
「ダリオ、捕まえたワイバーンに乗ることはできるのか」
「え、分かりません。捕まえたことないので」
「乗るのはこっちで考えるから、捕まえてくるだけでいい」
ダリオは戸惑いながらも頷いている。
「それで、何頭必要なんです」
「とりあえず、三頭ほど頼む」
「はい、頑張ってみます」
その後、支部長とカルヘオが、ワイバーンの生息場所について地図を見ながら説明をして帰って行った。
「兄貴、どうしましょう」
「どうしようたって、やるしかないな」
「そうっすねえ・・・」
ダリオは不安そうな顔をして黙り込む。
翌朝リベルは一人で北に向かう。ワイバーンは北にある中央山脈に多く生息しているらしい。地図を片手に一時間ほどかけて300㎞ほどの行程を、瞬間移動を使って進んだ。
中央山脈は屏風のように東西に広がっており、5月だというのに山脈の上部は白く連なっている。
リベルは山へ向かって瞬間移動を繰り返して登っていくと、やがて木々はまばらになってきて寒くなってくる。
(もう随分高くまで来たな)
振り返るとかなり遠くまで見渡せるようになっていた。
しばらく行くと、青空を背景にワイバーンが数頭上空を飛んでいるのが見える。
(あのあたりかな、随分高いな)
リベルが近くまで移動すると、突然死角からワイバーンが飛びかかってきた。
「うわわ!」
リベルは慌てて瞬間移動で距離をとるが、直ぐに背後から別のワイバーンが迫る。リベルは避けて転がりながら空間移動でダリオの家まで戻る。
リベルがリビングに入ると、カルヘオとダリオがお茶を飲んでくつろいでいた。
「お、もう帰ったのか。ケガしてるじゃないか」
カルヘオの指摘で左袖に血がにじんでいることに気付いた。ワイバーンから逃げるため転がった時に擦りむいたようだ。
「突然死角から、ワイバーンが襲ってきました」
「空を飛ぶっていうのはそれだけで相当なアドバンテージがある。丸見えだからな」
「これ捕らえるのは相当難しいんじゃないですか」
「そうだな。でも、リベルがいるから大丈夫だろ。ハハハハ」
カルヘオはそう言って笑った。
リベルは、カルヘオとダリオを連れてワイバーンの生息場所から少し離れた所に瞬間移動する。
「寒!」
ダリオは急な温度の変化に戸惑う。急いで上着を取り出している。
「この魔法は凄いな。どこでもいけるんだな」
カルヘオは眼下に広がる平原の方を見ながら感心している。
リベルとカルヘオは、ダリオを残してさっきリベルが襲われたところへ向かっていく。
「いいか、絶対にワイバーンから目を離すな。目を話した瞬間襲って来るぞ」
リベルとカルヘオは背中合わせになって、上空を飛び回るワイバーンを目で追っている。カルヘオは麻酔薬の矢じりが付いた矢を弓をつがえており、リベルはダリオのボウガンを手にしている。
「撃たないんですか?」
「ちょっと遠いな」
しばらく、にらみ合いが続いていたがワイバーンは警戒して降りてこない。
「少し隙を作るぞ」
カルヘオはそう言うと、リベルに足をかける。
「うわっ」
リベルが前のめりになってボウガンを手放して両手をつく。
その瞬間を狙って急降下してくるワイバーンへカルヘオは矢を打ち込んだ。
『キエー』
腹部に矢の刺さったワイバーンは一声鳴くと逃げて行った。その後を、ピッピとカルヘオの隼アストリットが追っていく。
逃げるワイバーンは崖にある巣の方に向かったが、力尽きて谷底に落ちて行った。リベルがその後を追跡し、空間移動で三人は谷底で眠るワイバーンのもとに向かう。
近くで見るワイバーンはとても大きかった。羽を広げると、10m近くあるのではないだろうか。
リベルとカルヘオは、上空を舞うワイバーンに警戒して目を凝らしている。仲間を取り返そうと思っているのか、先ほどよりも沢山いるように思える。その横でダリオは、眠っているワイバーンを縛っていた。
やがて目を覚ましたワイバーンにダリオは、威圧や、チャームといった魔法をかけながら精神をコントロールしようとするが、上空を飛び回る仲間のワイバーンたちが大きな声で鳴いたり、仲間を助けようと急降下して威嚇したりして、捕らえたワイバーンの気が散ってうまく行かない。
「リベル、こいつを空間移動で連れて帰れないか」
中々うまくいかない様子を見てカルヘオが声をかける。
「大きすぎて無理です」
しばらくやっていたが、結局諦めて三人は帰って行った。
「どうします?」
「うーん、どうしよう」
リベルがカルヘオに問いかける。少し離れた所でダリオは落ち込んでいる。
「軍の方に無理ですと言いますか」
「生死をかけた仕事をしている奴らにそんな事言えるか」
「支部長に相談してみますか」
「そうだな」
リベルとカルヘオは、二人で狩猟組合南支部へ向かい支部長に面会する。
「そりゃ困ったな」
支部長は渋い顔をして考えこんでいる。
「支部長の方から軍に何とか話しできませんか」
「無理だな」
支部長は即座に否定する。
腕組みをして考えていた支部長が顔を上げる。
「そうだ、群れの真ん中に行くからうまくいかんのだ。一頭でいるやつを捕まえればいい」
「そんなのいるんですか」
「いる。しかし、ここらにはおらん。サレトの西の森のずっと先にいると聞いたことがあるが・・・」
(あ、そういえば、マイルズさんが修行中に襲われたと言っていたような)
リベルはトウチにいた時のことを思い出す。
「それなら心当たりがあります」
そう言ったリベルを、周りにいたものはぽかんとした顔をして眺めた。
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