第24話ロクサーナ救出
ロクサーナの処刑当日、リベルはヴェシュタンへ向かった。
直ぐに中央広場に向かい様子を確認する。処刑三時間前であるが、磔台に薪が積まれており準備は整っているようだ。まだ、数人の警備の者しかいないが、通行者が近寄ろうとすると追い払っている。
リベルは救出のスタンバイをする場所を決めようと、上を見上げながらぐるりと回って確認している。
その時、後ろから声がかかった。
「おう、やっぱり帰ってきたな」
リベルが振り返ってみるとコンセの姿が見えた。後ろにはコンセプシオンのメンバーも見える。
「あ、コンセさん」
「やめとけよ」
コンセがにやにやしながら話しかける。
「え、何の事ですか」
「ふん、とぼけるなよ、助けるつもりなんだろ。お前も一時はコンセプシオンのメンバーだったんだ。仲間を見殺しにはできん」
「ロクサーナさんは見殺しですか?」
「あの女は仲間でも何でもないからな、俺は最初からあの女はやばいって思ってたが、教会も悪って判断したわけだな」
リベルは、以前コンセが何度も忠告していたことを思い出す。
(ん?、もしかして・・・)
「ひょっとして、教会にロクサーナさんを売ったのはコンセさんですか」
リベルは疑問に思っていることを率直に聞く。
「売ったていうのは人聞きが悪いな、俺は知り合いの司祭に相談しただけだ。その結果だな」
「え、マジですか!」
リベルは驚いたが動揺を顔に出さないように考える。
(じゃあ、この前相談したのも失敗か・・・、どうしよう、どうしよう・・・、救出は無理かな、何か考えなければ)
「マリアンさんはどうしたんです」
「ああ、あの女も俺の忠告を聞いてこの町を出て行ったよ」
「でも、ロクサーナさんから何かされたわけでもないのに、ここまでしなくとも・・・」
「リベルよく聞け。ハンターはな、30才までに半分が死ぬかやめる。40才なら三分の一だ。俺たちは生き残るために合法ならばなんだってやる。少しでもリスクがあるものは排除するんだ」
「誰かが犠牲になるとしてもですか?」
「そうだ、ハンターは獲物を狩るだけでなく、自分が狩られないようにしなければ生き残れん。この程度じゃ、今日でなくともいずれ魔物にやられるだろう」
リベルは腹の底から怒りがわいてきたがコンセの言うことも理解できた。以前、オーガに斃れたアルベルトも一瞬であった。死と隣り合わせの厳しい世界である。
(失敗だった。何も知らないロクサーナがハンターとして生きていく事の難しさを甘く考えていた。そう言えば、マリアンにも適当と言われたしな・・・)
「分かりました・・・」
リベルはそう言うと広場を後にしようと背を向ける。
「念のために言っておくが、襲撃の対策は取ってあるからな」
リベルは一瞬足を止めてから広場を立ち去った。
リベルは歩きながら考える。
(どうしよう。瞬間移動することが予測されていれば簡単にはいかないな、救出はあきらめるか・・・、でも、俺にも責任があるしなあ)
リベルは色々と考えをめぐらすがなかなかまとまらない。
(仕方がない。とりあえず修道院へ行ってみよう)
リベルは瞬間移動で町の外に出ると修道院に向かった。
修道院の入り口から中の様子を窺ってみると、黒い馬車が止まっているのが見えた。
(あれだな、御者が乗っているところを見ると、そろそろ出発か)
「ヨハン、様子を見て来てくれないか」
「はい、分かりました」
ヨハンは姿を見せずに返事だけした。
すぐにヨハンが戻ってきて、
「門より中に入れませんでした」と答えが返ってくる。
(やはり、移動中しかないか)
「ヨハン移動中に襲うぞ、俺が指示したら御者や馬を含めて全員にスリープをかけてくれ」
「分かりました」
リベルは、修道院を出て街道に入るまでの人通りの少ない場所で待ち構える事にした。リベルは顔を見られないように仮面をかぶると、かなり離れた場所から様子を窺う。
(もし教会に知られているとすれば、仮面を被ったって、丸わかりかもしれないけど)
リベルはそう思いながら馬車が来るのを待つ。
騎馬の護衛を前後に二名ずつ連れた黒い馬車が見えてきた。修道院から見えなくなる位置まで移動したとき、
「ヨハン、スリープをかけてくれ」
「了解しました」
ヨハンはそう答えると、馬車の上空に十体以上のゴーストを出現させ、スリープの魔法をかけて行く。
やがて、警護の者たちや馬が眠ってしまい馬車は立ち往生する。リベルが馬車のところへ向かおうと思った時、馬車の後ろの扉が開いて一人の修道女が下りてきた。
その修道女は手のひらから光の魔法を出しているようで、光に当たったゴーストたちは次々と消滅している。
(まずい、聖魔法か!)
リベルは直ぐに瞬間移動で修道女の後ろまで移動すると、口をふさぎ魔法を封じる手錠を修道女にかけた。
「んん!」
口をふさがれた修道女はリベルの方を見て目を見開き驚いている。
「ヨハン、この女にも」
今までスリープの魔法をレジストしていた修道女も、魔法を封じる手錠の効果かヨハンがスリープの魔法をかけると眠ってしまった。
リベルは開いている馬車の扉から中を覗いてみると、手錠を掛けられ縛られているロクサーナが見えた。傍には二人の修道女が眠っていた。
「あ、え、リ・・・」
リベルは直ぐにロクサーナの口に手を当てて言葉を遮る。ロクサーナも理解できたのか小さく頷いた。
リベルは、ロクサーナの手錠を外し、縛ってあったロープを切って馬車の外に出す。護衛たちと馬はまだ眠っているようだ。
リベルは、ロクサーナを背負うと瞬間移動を繰り返しながら、400㎞離れたエストラールに向かった。
リベルはロクサーナを連れてエミリーの待つ宿屋に入ると直ぐに部屋に入る。
「エミリー、ロクサーナさんを頼む。明日の朝出発だ」
リベルはそう言うと、すぐに隣の自分の部屋へ向かう。さすがに瞬間移動の連発で魔力切れを起こし倒れそうであった。
リベルは、そのままベッドに倒れこみ気を失ったように眠り始めた。
翌早朝、宿で朝食をとりながら三人は話をする。
「昨日はすまなかった。二人は自己紹介できたかな」
リベルは、向かいに並んで座る二人の方を見ながら話しかける。
「えっと、エミリーさんは私の世話係ということでしょうか」
「そうです、侍女?、メイド?、貴族の事はよくわかりませんが、貴族には必要ですよね」
「え!、貴族?」
驚いて立ち上がるエミリーを、リベルは苦笑いしながら落ち着くように言う。
ロクサーナは笑いながらエミリーに話しかける。
「元ですので、気にしないでください」
「元、ですか」
リベルの方を見て聞いてくるエミリーにリベルが、
「元だが、まだ慣れてないので色々助けてあげてくれ」と答える。
それを聞いたエミリーは、力が抜けたように椅子に腰掛けて俯く。そして、ボロボロと涙を流し始める。
「おい、どうした」
驚いたリベルがエミリーに問いかけるが、エミリーは首を振って答えない。
(やれやれ、よく泣くな。やっぱり子供だ)
リベルはその様子を見て半ば呆れながらそう思った。
リベルたち三人は、国境手前の町まで約200㎞の道のりを駅馬車で行く。駅馬車は馬を駅に配置しており、馬を付け替えることで直ぐに出発できるため一日の移動距離が長い、二日で国境手前の町までやってきて、三人は宿に入った。
翌朝リベルは、ロクサーナとエミリーの部屋にやってきて、
「ロクサーナさん、申し訳ありませんがこれを付けてもらえますか」
リベルはロクサーナに奴隷の首輪を手渡す。
「え、ロクサーナ様に奴隷になってもらうんですか」
エミリーは驚いてリベルの方を見る。
「さすがに、今回の件はまだ伝わってないでしょうが、教会が罪人認定した段階で情報が伝わっている可能性がありますので、国境を抜けるまでお願いします」
「はい、分かりました」
ロクサーナはそう言うと素直に奴隷の首輪をつけた。
三人は国境へ向かう馬車に乗った。
馬車は、九十九折の道を登っていく。国境へは10㎞ほどしかないが、山岳地帯に入るため二時間ほどかかる。遠くには白くなった高い山々がそびえていた。
「あ、雪が」
エミリーがそう言って声を上げると、馬車に乗っている十人ほどの客が外を見た。平地ではめったに雪の降らないこの地でも標高が上がれば雪になる。
どんどんと坂を上っていくうちに、道の上の敷石は黒く塗れているだけだが、周りの草の上はうっすらと白くなってきている。
エミリーは目を輝かせながら馬車の窓から手を出して雪を掴もうとしている。
「エミリーは、雪を見るのは初めてか?」
「はい」
リベルが聞くと、エミリーはリベルの方を振り向きもせず答える。馬車の中の同乗者たちも微笑ましく思ってその様子を眺めていた。
馬車が坂道を登りきると国境門が見えてきた。国境は二つの国を分けているこの山地の中で最も低い峠に作られているため、周りには高い山々が迫っている。
リベルたち三人は、馬車から降りて十人ほどの行列に並ぶ。先ほどからの雪が風に舞っており、コートの前を押さえるエミリーの小さな手は赤く染まっていた。
しばらくして、リベルたち三人の番がやってきてエラル王国の入国審査に向かう。
リベルが商業組合カードを出して内容を確認すると、入国審査官が話しかける。
「商人か。それにしてもまだ若いのに、奴隷を二人も連れてるとは。何をやってそんなに儲けたんだ?」
入国審査官はにやにやしながら話しかけてくる。
「その、バッグなどを売ってますが」
「それにしては荷物が無い様だが」
「荷物は後から来ます。私はそのための準備です」
リベルは、緊張して背中に冷たい汗を流しながら平静を装って答える。入国審査官はリベルの方をしばらく見ていたが、
「通せ」と警備の者に伝えた。
国境を越えてリベルは大きく息を吐く。
国境を抜けた先も町などがあるわけではなくやはり山の中だ。ここから最寄りの町まで20㎞もあるためやはり馬車に乗っていく。馬車を待つ間、少し歩いてエラル王国の方を眺めてみるが霧が出ていてよく見えなかった。
馬車は満員だが、下り坂のため順調に進む。ぐねぐねと曲がりくねった道の右側は谷川になっているようで水の流れる音が聞こえてくる。
一時間ほど進むと、勾配はゆるやかとなり少しずつ緑が多くなってくる。そして遠くに大きな湖と町がちらりと見えた。
町に近づいて行くうちに雪は雨に変わってきた。町に入るときれいに整備された石畳の道の両側に建物が隙間なく並んでいる。霧で煙った町の中は人通りも少なく静かで、馬車の立てる音が町に響いていた。
適当な宿に入り、リベルはロクサーナとエミリーの部屋に入ると、ロクサーナとエミリーの奴隷の首輪を外す。
「え、私もですか」
エミリーが驚いてリベルの方を見る。
「どうも奴隷というのは好きじゃないんだ。俺の国にはいなかったからな」
「え、でも」
エミリーはどうしてよいか分からず戸惑っている。
「エミリーは自由だ。どう生きるか考えてみろ」
「自由?」
リベルは、まだ戸惑っているエミリーを無視して話し始める。
「これからの事ですが、明日船で王都に向かいます」
「王都ですか」
「王立図書館に行ってみようと思います。ひょっとしたらドラキュラ家の汚名を晴らせるかもしれませんよ」
リベルがそう言ってもロクサーナは浮かない顔をしている。
「もう、その事はいいんです。私のためにどれだけのご迷惑をかけたかと思うと。もうやめましょう」
(確かにこの巻き込まれようはひどいよなあ、でも、ハンターを勧めたのは俺だからなあ)
「そうですね、危険のない範囲にしますよ」
「さっき、船って言われましたよね」
エミリーがリベルに聞いてくる。
「ここから、王都まで道を通って行けば1000㎞もあって、駅馬車でも二週間はかかる距離らしいんだが、船だと三日で着くらしい」
「へえー、そうなんですね」
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