第22話マリアン
数日後、コンセの紹介で一人のハンターを紹介された。
「こいつは、マリアンだ。Cランクで魔法と剣を使うんだったかな」
コンセがマリアンの方を見ながら紹介する。
「コンセさん、魔法と剣じゃなくて魔法剣ですよ」
マリアンが訂正して答える。
「私は、リベル。Eランクです。こっちはロクサーナ、Cランクです」
マリアンは、ロクサーナの方を見ながら、
「魔法ですか」
と聞いてくるのをリベルが横から答える。
「状態異常の魔法を使います」
マリアンは、リベルの方をちらっと見たが再びロクサーナに質問する。
「聞いたことありませんが、どんな魔法ですか」
再びリベルが答える。
「睡眠とか、麻痺とかですね」
マリアンが、イライラした顔でリベルに言う。
「あなたは口を挟まないで下さい。私はリーダーに聞いているんですから」
「あの、リーダーは私です」
リベルがそう答えると、マリアンが驚いて、
「え、どうして、Eランクなのにおかしいでしょ」
見かねてコンセがフォローする。
「リベルはEランクだが中々使えるぞ」
「でも所詮Eランクですよね」
マリアンは釈然としない顔をしていたが、
「コンセさんやっぱり、コンセプシオンに入れてくださいよ」
「それはだめだと言ったはずだ、うちに女は入れない」
「それって女性差別じゃないですか」
「そう言われても知らん、色恋沙汰になってパーティが何度も崩壊したからな」
リベルも先日再会したミアの事を思い出して頷く。
「それでどうします」
リベルがにやにやしながらマリアンに聞く。
「分かりました、お願いします」
マリアンは、リベルの方を睨むように答える。
翌日、リベルとロクサーナが泊まる宿にマリアンがやってきた。
リベルがマリアンに話しかける。
「マリアンさん、もしできればロクサーナさんと二人部屋でお願いしたいんですが」
「え、ああ、構いませんよ。宿代が節約できますからね」
(なぜ、こんなことをお願いするのかな)
マリアンはそう思いながら答えた。
ロクサーナとマリアンが部屋に入るとマリアンから話しかける。
「これからよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
「ところで、なぜ彼がリーダーなんです。もしかして、恋人同士?」
「いや、そんな関係じゃないです。私のことを助けてくれた方です」
「ふーん、そうなんですね。でも、下心がありそうなんで気を付けた方がいいですよ」
翌日、宿の一階で朝食を取った後、狩猟組合に行く。
「初めてなんで、最初は軽めので行きますか」
リベルがそう言って依頼内容が書いてある掲示板を眺める。
【フラドマニ村、オーク 1万4千r、10頭程度 Cランク】
「こいつにしましょう」
「それほど軽そうには見えませんけど」
依頼を選んだリベルに対してマリアンが答える。
「たぶん、余裕だと思いますよ」
(Eクラスのくせに、大丈夫かな)
マリアンはそう思ったが口には出さなかった。
フラドマニ村に着いた三人は、被害があったという家畜小屋のあたりを調べていた。壊された小屋から森の方に獲物が引きずられた跡が続いている。
リベルを先頭に三人は痕跡を追って森を進んで行く。しばらく進んで森を抜けたあたりにオークの姿が見えた。見えている範囲でも五、六頭はいるようだ。
「ヨハン」
ロクサーナがヨハンを呼び出すと、半透明の灰色のローブが現れる。
事前に話していたが、その姿を見てマリアンは固まっている。
「ゴーストを使って動けなくして」
ヨハンの周りに、ゴーストが次々と現れてきてオークの方に向かっていく。
気づいたオークたちは、ゴーストに向かってこん棒などを振り回しているが、肉体はないのですり抜けてしまう。
『スリープ』、『麻痺』、『スリープ』、『麻痺』、『スリープ』、『スリープ』、『麻痺』、『スリープ』
ゴーストたちは、スリープと麻痺の魔法がかかるまで何度も唱えている。
やがて、すべてが動かなくなったので、
「マリアンさん行って息の根を止めましょう」
リベルとマリアンは地面に倒れているオークに近づいて行って、次々と心臓目掛けて剣を突き立てていく。
その時、奥の方から一際大きなオークが現れた。
「ロクサーナさん!」
リベルがロクサーナに声をかけると、
「ヨハン、殺して」
ロクサーナの指示に、ヨハンは大きなオークに近づいて行って、
『デス』と唱えると、
大きなオークはいきなり崩れるように倒れこむ。即死したようだ。
あっという間にオークの群れをせん滅した手際にマリアンは驚く。
「ロクサーナさん。なんか凄いですね」
「え、はい」
ロクサーナもうまくいった事に満足そうに答える。
三人は、狩猟組合に戻って清算した。オーク一二頭とオークロード一頭で21万rとなった。それを三等分して、7万rずつ分ける。
その後二週間ほどの間に、同じようなCランクの依頼をいくつかこなした。いずれも簡単に討伐できたので、リベルたち三人は少し難易度の高い依頼を受けようと考えている。
「思い切って、これなんてどうでしょう」
【デヌド南森 廃村、ヒュージアント 9千r、100匹以上 Aランク】
「え、Aランクだけど大丈夫?」
マリアンが少し不安そうな顔でロクサーナに同意を求める。
「リベルさんが言うなら、大丈夫だと思う」
マリアンがリベルの方をちらっと見ると、リベルは勝ち誇った顔をしている。
(あー、何でこいつがリーダーなんだろ)
そう思いながら口をつぐむ。
早朝出発したが夜になってようやく廃村に着いた。この辺りは冬になっても雪が降らない温暖な地だが、夜は冷え込むため崩れかけた小さな教会に泊まることにした。
焚火を囲んで食事をとりながら話をする。
「昆虫系には状態異常はかかりにくいんですよね」
「はい、知性が低いものには難しいです」
リベルの質問にロクサーナが答える。
「明日は、マリアンさんの魔法剣の出番ですね」
「うん、分かってる。でも、あんたも働きなさいよ」
翌朝教会を出て、ほんの五分もしない場所にヒュージアントがうろついていた。
リベルが刀を抜いてヒュージアントに向かっていく。硬い外骨格には簡単に歯が通らないため、リベルは次元切断をかけて斬りつけている。
さくさくと、倒していくリベルを見てマリアンが感心する。
「へー、なかなかやるじゃん。じゃあ、私も行くよ!」
マリアンはそう言うと剣を抜いて剣に炎の魔法をかける。すると、剣の周りの空気が陽炎のようにゆがむ。
マリアンがヒュージアントの頭部に切りつけると、頭部全体が炎に包まれてヒュージアントは、のたうち回り始めすぐに死んでしまう。
(へえ、面白いな、初めて見たなあ)
リベルは横目でマリアンの方を見ながら感心している。
リベルとマリアンは、最初順調に倒していたがだんだん数に押されて後退し始めた。
「リベルさん、マリアンさん、教会のところまで戻ってください」
後ろで見ていた、ロクサーナが指示を出す。
(ん、ロクサーナが指示を出すなんて意外だな)
リベルはそう思いながら、マリアンとアイコンタクトを取りながら下がっていく。
先に教会のあたりまで戻っていたロクサーナが
「ドミネート」と唱える。
すると、墓場の地面がボコボコと盛り上がってきてスケルトンが現れた。続いて、教会の地下からも次々とスケルトンが現れる。
大量に現れたスケルトンたちは、その場にあった石を拾ってヒュージアントに向かって投げ始めた。
次々と現れたスケルトンの数は百以上で、スケルトンが雨のように降らせる投石にヒュージアントが圧倒され始めた。スケルトンはヒュージアントを倒しながら少しずつ前進して行き、やがて巣の近くまでやってきた。
リベルとマリアンは、その様子を見ながらスケルトンの後ろに続いて歩いている。
「やばいねこれ」
マリアンは多量のスケルトンを見ながら半ば呆れて見ている。
(しかし、筋肉がないのにどうやって投げてるんだろ)
リベルは様子を眺めながらそう思っていた。
「女王も倒すんだっけ」
マリアンがそう聞いてきたので、リベルが振り向いて答える。
「いや、依頼にはないのでやめときましょう。中に入る気しませんからね」
マリアンも頷いている。
やがて巣からありが出てこなくなったので、マリアンがスケルトンを開放するとその場に骨の山が出来た。
「ロクサーナさん、さすがにこれは・・・」
マリアンがそう言うとロクサーナは、骨の山を再びスケルトンに戻して、教会の地下まで移動させて骨に還した。
その後手分けして魔石の回収を始めた。
「これ、倒すより大変じゃない」
マリアンが文句を言いながら作業をしている。堅い殻の中から魔石を取り出すのはかなり時間がかかったので、もう一泊してから帰って行った。
狩猟組合で清算すると231匹も倒していた。魔石と合わせて一匹一万rとなるので231万rとなった。
一人80万近い収入になったので三人で豪華な食事に出かけた。
「あれ、マリアンさんはお酒飲まないんですか」
「私、飲めないのよ」
「へー、たくさん飲みそうなのに意外ですね」
一方、ロクサーナの方を見ると上品にワインを飲んでいる。
「ロクサーナさんは飲めるんですね」
「はい、食事の時のワインぐらいですけどね」
食事が運ばれてきて食べ始めると、さすがに貴族の所作は美しく洗練されていた。
リベルが、ロクサーナの所作を感心して眺めていると、
「ちょっと、じろじろ見るのやめなさいよ」
マリアンが注意する。
「そういえば今日レベルが10に上がりました。これでDランクです」
「ホントに、良かったね」
リベルにマリアンがそっけなく答えるとロクサーナも、
「たくさん倒したので、私もレベルが32になりました」
「本当ですか、凄いですね」
マリアンは大げさに驚きながらリベルの方を見て、
「やっぱりリーダーがレベル10で、メンバーの方が高いのは問題があると思う」
ロクサーナは申し訳なさそうにリベルの方を見る。
リベルは笑みを浮かべながらマリアンの方を見て話しかける。
「マリアンさんは、ロクサーナさんが一人前のハンターだと思いますか」
「一人前どころか一流のハンターと言ってもいいと思う」
「じゃあ、私がいなくても二人だけでやっていけると思いますか?」
「え、別にそんな意味じゃ・・・」
マリアンは気まずくなってリベルから目をそらす。
リベルはまじめな顔になって話し始める。
「正直にお話ししますと、私は一人で旅がしたいんです。元々、ロクサーナさんが一人前になるまでと考えていましたから、もし、お二人だけで十分であれば私は抜けさせていただきたいと思っています」
「え、そうなんだ」
マリアンは意外な答えに驚いてリベルの方を見る。一方、ロクサーナは困惑した顔をしている。
「ロクサーナさんも良いですよね?」
「え、はい。でも・・・」
(不安だけども仕方がない、これ以上お世話になるのは無理というもの)
ロクサーナはそう思って言葉を飲み込む。
「とりあえず、明日から二人でやってみてください。まだここにはしばらくいるつもりですので難しいようでしたらまた考えます」
翌日リベルは、テオドロスのところへ向かった。
「マリアンさんという人と組んで何とかやれそうなんで、私はこの国を出てエラル王国へ向かおうと思います」
「まだ、ひと月も経っていないだろう。大丈夫か」
「ロクサーナさんはレベル32もあるんですよ、私なんか10しかないのに今までやってこれたんですから」
「ハンターの事はよくわからんが、何しろ現代人ではないからなあ」
テオドロスは少し心配そうに話す。
「ところで、例の魔人とか五百年前の歴史とか調べてみたいんですが、エラル王国に誰か知り合いとかいませんか」
「おそらく一番情報を持っていそうなのは、魔導士アルテオだな。だが、まず会えんからな」
「エラルの守護者ですか、そりゃ無理ですね」
「ややつながりは薄いが、王立図書館の司書へ紹介状を書いてやろう」
「ありがとうございます。でも、司書の権限で王立図書館に入れるんでしょうか」
「お前の努力次第だな」
リベルはテオドロスに紹介状を書いてもらって帰って行った。
翌日からリベルは狩猟組合へは行かず、エラル王国へ行く準備のための買い物などをしながら商店などを巡っていた。この日も昼間からワインを飲みながら豪華な食事をしている。
(金がだいぶたまったからなあ、たまには贅沢しないと)
そう思いながらゆったりと食事をしている。先日ロクサーナのために金を使ったが、依頼や、マジックバッグの収入でまだ150万rほど残っている。
半分曇って見えにくくなっている窓の外では、冬の寒さに凍えながら人々が足早に行きかっていた。ちらほら見える貫頭衣の奴隷たちがどうしても目についてしまう。
(彼らは寒さに強いのかな、そうであればいいな)
そんな生活をだらだらと一週間ほど続けた頃、久しぶりに宿で夕食をとっていた時、ロクサーナと、マリアンが帰ってきた。
「お、毎日頑張ってますね」リベルが声をかけると、
「あんたねえ、あれから全く依頼受けて無いでしょ、すぐにお金が無くなるよ」
マリアンがあきれたように答える。
「そうですが、無くなればまた稼げばいいので」
「あのー、もし困ってらっしゃるのでしたら・・・」
「いやいや、困ってないですよ」
ロクサーナがバッグから金を出そうとするのを慌ててリベルが止める。
リベルがうまそうに食べているのを見たマリアンは、
「じゃあ私たちも食べる?」
「はい」
二人はリベルの隣のテーブルに着いて料理を注文する。
「お二人の方はその後どうですか」
「全然問題ないね。二人なので分け前が増えるし、私たち最高のパートナーだね」
マリアンはロクサーナに向かって同意を求めるように聞く。
「最高かどうかはわかりませんが、うまくいってると思います」
ロクサーナもそれに同意する。
「安心しました、私も一週間後にはエラル王国へ行こうと思ってます」
「え、そうなの。何しに」
「別に目的はないんですが、この世界を見て回りたいというだけですね。実際、私の住んでいたオルト共和国とここは全然違いますし」
リベルは適当にごまかして答えた。
「ふーん、何か適当に生きてる感じが腹立つわ。エラル王国でひどい目に合えばいいのに」
「いや、こう見えても苦労もいっぱいしてるんですよ。ひどい目にも合ってるし」
「あっそう」
二人のやり取りを見ていたロクサーナがリベルに話しかける。
「あの、また戻っていらっしゃるのでしょうか」
「もちろん戻ってきますよ。でもいつかは未定ですけどね、一か月後か、一年後か」
「やっぱり、適当!」
マリアンはそう言いながら笑っていた。
翌日リベルは、商業組合にエラル王国へ向かう伝言をエドガーに残して、一週間後エラル王国へ一人旅立った。
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