第21話ミアとの再会
数日後、リベルは狩猟組合にやってきた。
(ロクサーナの装備が必要だからな、少し稼いでおくか)
リベルはそう思いながら掲示板を見ている。今手持ちには20万r程しか持っていない。
その時背後からコンセに声をかけられた。
「おい、久しぶりだな。また、一緒にやらないか」
「あ、コンセさん。ぜひお願いします」
リベルは以前と同じように、コンセプシオンのメンバーと一緒に商人の警備の仕事やガイドを始めた。
そして、三週間ほど続けた後リベルがコンセに話す。
「コンセさん、今までお世話になりました。しばらくパーティから抜けさせてもらいます」
「そうか、これからどうするんだ」
リベルはテオドロスに頼まれて、以前連れて帰った記憶喪失の女とパーティを組むことになった話をした。
「何だそりゃ、意味わかんねえな」
「俺もです」
リベルは、説明できないので笑ってごまかす。
「面倒に巻き込まれたな。だがあの女は普通じゃない、気を付けるんだな」
そう言って去ろうとするコンセに声をかける。
「あ、コンセさん。パーティ二人だけなので、あと一人か二人メンバーを探してるんですが誰か知りませんか」
「その女のランクは?、何ができるんだ」
「Cランクで、スリープとか、麻痺とかの状態異常の魔法が使えます」
「ほう、珍しいな・・・」
コンセは、少し考えていたが、
「分かった、探してみる」
「ありがとうございます」
翌日、リベルは商業組合に向かっていた。もうずいぶん寒くなってきて町を行きかう人たちは厚着をしている。
この三週間の仕事で20万r近くを稼いだが、宿代などもあって手持ちは30万rほどしかない。ロクサーナの装備には少し心もとない金額だ。
(もうあれから三か月近くなるので、オルトセンのエドガーがバッグを売っていれば入金があるはず)
リベルは商業組合のカウンターに行って入金を確認すると、130万r程の入金があった。
「え、凄い」
リベルは思わず声に出してしまったのを見て、商業組合の職員が笑いながら話しかける。
「手紙を預かっています」
職員はそう言うと手紙を奥から持ってきて、リベルに渡しながら話しかける。
「それと、荷物を預かっていますのでこちらへどうぞ」
商業組合の職員はリベルを裏手の倉庫に連れて行く。倉庫にはたくさんの扉が付いており、職員はその一つの扉を開けた。
予想通り、中にはたくさんのバッグが置かれていた。
「終わったら、鍵を返却してください」
そう言って職員は出て行った。
エドガーからの手紙には、
『マジックバッグの売り上げ順調です。軍関係から多量の発注がありました。早急に返送お願いします。それから、よそに向かうのであればその連絡もお願いします。 エドガー』
手紙は簡単な内容であったが、日付が一ヶ月前になっている。
(まずいな、すぐに送り返そう。時々商業組合に寄った方がよさそうだな)
リベルはそう思いながら、バッグに魔法をかけていく。
大半をかけ終わったとき、時空魔法のレベルが6に上がった。マジックバッグの容量が七倍、重さが七分の一となり、次元切断できる長さが倍の一メートルほどに伸びた。
すべてが終わると、職員に荷物をオルトセン送るようお願いし、倉庫の鍵と手紙を渡す。
『遅くなってすいません。途中でレベルアップしたので、一部七倍になってます。またこの後、エラル王国へ行く予定です。時期が決まりましたらまた連絡します。 リベル』
その夜の事、リベルがいつもの宿屋で寝ていると、夜中にドアをノックする音がする。
寝ぼけ眼でベッドから降りて、ドアの方に向かおうとしたときドアの前に人影が見えた。
慌てて、刀を取ろうとしたリベルに、
「ハハハ、儂だ」
人影は、窓の隙間から入る月明かりに照らされたところまで移動して声をかける。
「アカテさんですか、びっくりさせないでくださいよ」
黒装束に身を包んだアカテが笑っている。
アカテは椅子に腰かけると話しかける。
「どうだ、何か新しい情報はあったか」
「この国で五百年前に魔人との戦争があったそうですが、魔人がバルログを召喚して戦ったそうですよ」
「ほう、魔人か。そいつはどこにいる」
「さあ、その戦争以降見た者はいないそうですから」
「ふーん、そうなのか・・・」
アカテは腕を組んで体を揺らしながら考えている。
「アカテさんの方は何かありましたか」
「例の白ローブの連中を捕まえて話を聞いたんだが、スクロールだと言うんだ」
「実行した奴らを捕まえたんですね。で、そのスクロールっていうのは」
「うん。半年ほど前に、見知らぬ男が白ローブたちのところに表れて、ラットキンに恨みがあるからこれを使って痛めつけて欲しいと、魔法陣の書いたスクロールを渡されたらしい」
「スクロールを起動してバルログを呼び出したという訳ですね。では、それを渡したのが魔人でしょうか」
「そうかもしれんが、魔人ってなんだ?、魔物?、人間か?」
「うーん」
リベルも考え込んでしまう。
「リザードマンの件は何か分かりましたか?」
考えてもわからないのでリベルは話題を変える。
「それだがな、こっちと似たようなことになっている」
アカテはリザードマンとワーウルフの諍いについて話す。
「八十年前の獣人間の戦争では激しく戦ったが、その後は友好関係を結んでいたようだ。しかし、半年ほど前のこと、リザードマンの民族主義者たちが『デーモン』を召喚して、リザードマンの領内に住むワーウルフを襲い多数の死者が出た。これに反発したワーウルフの軍が国境に兵を送って緊張が高まっているらしい」
「デーモンですか・・・」
「その魔人とやらを調べる必要があるな」
閉めてある窓の隙間から冷たい風が吹き込んできてリベルは身震いする。
「これは関係ないかもしれませんが、さっきの五百年前の戦争について、この国に伝えられている史実と事実が異なっているようなんです」
リベルは、コルセアと魔人との戦争を経て建国されたルドルス王国の史実が、実際とは異なっている可能性について説明する。
「なるほど、それも面白そうな話だな。いつの世も史実は勝者が作るからな」
「そうでしょう、そっちも調べてみようと思っています」
「あまり深入りすると危険が及ぶかもしれんから、ほどほどにな」
アカテはそう言って懐から金貨を二枚ほど取り出すとリベルに差し出す。金貨は一枚10万rだ。
「これは調査費だ、取っておけ」
「いや、受け取れませんよ。復興もまだでしょう、そっちに使ってください」
アカテはにやりと笑って、金貨を再び懐に戻すと、
「相変わらずだな。ではまたな」
そう言って出て行った。
(やれやれ、昼間に来ればいいのにな)
リベルはそう思いながら、ベッドに戻って横になると胸のポケットで『チャリン』と音がする。
見ると金貨が二枚入っていた。
(あ、いつの間に)
リベルはアカテの気持ちに嬉しくなって頬が緩んだ。
今日リベルは、テオドロスの家を訪ねて来ている。中に入るとすぐに懐かしい顔と対面した。
「うわ、リベル大人になったねえ」
「ミアも大人っぽく・・・、背が伸びたかな?」
リベルはテオドロスにミアとの面会をお願いしていた。
「いきなり失礼なことを言うねえ、10㎝は伸びたんだから!」
「そうなんだ。久しぶりだからよく覚えて無いや、三年ぶりだよな」
再会したリベルとミアはテオドロスの家を出て貴族街にある見晴らしの良い食堂に入った。
「ここ高そうだけど、大丈夫?。私貧乏だからあまりお金持ってないよ」
ミアが小声で話しかける。
「おう、任しとけ、もうベテランのハンターだ」
「おー頼もしい。ランクも上がったの?」
「ランクは、Eだが、強いぞ」
「本当に大丈夫?。出会った頃はまともな武器さえなかったからなあ」
リベルは、ワインを飲みながら話すミアを見て話しかける。
「ワインなんて飲むようになったんだ」
「だからもう子供じゃないんだって、リベルと同い年じゃない」
子ども扱いするリベルに不満げな顔をする。
「魔術学校の方はどう」
「思ってたよりレベルが低い気がするね」
「最初会った時、ロズがミアの事を天才と言ってたからなあ」
リベルがぽつりと言うと、ミアが少し真顔になって聞く。
「あの二人はどうしているの」
「あれからしばらくして俺はよそに行ったんだ。それから会ってないから分らんね」
「そうなんだ」
ソースのかかった肉料理が運ばれてきてミアは顔を輝かす。
「魔術学校はいつまで」
「あと二年だね」
ミアは、肉をおいしそうに頬張りながら答える。
(なんか、リスみたいだな)
リベルはミアの食べっぷりを見て、昔一緒に食事していた頃を思い出す。
「その後は?」
「軍に入るつもり」
「兵士になるのか?」
(帝国と戦って故郷を取り戻したいと言っていたからなあ)
リベルがそんなことを思い出しながら料理を口に運んでいると、ミアはワインで肉を流し込んでから話し始める。
「ルドルス王国には魔術部隊があってね、一万人以上いるんだ」
「へー、そうなのか。女性兵士は珍しくないのか」
「一般の兵士は全部男だけど、魔法使いは女の方が多いよ。魔術部隊の大半は女なんだ」
(ミアって、しっかりとした目標に向かって進んでいるな。俺も頑張らないといけないな)
リベルはミアと話をして、自分があまり真剣に生きていないのではないかと思い反省した。
「ところで、魔人って知ってる?」
「魔人?、昔の戦争で人間と戦ったという」
「うん。その魔人」
「知らないけど、なんでそんなこと聞くの」
「今、獣人間で争いが起こりそうになっているんだが、どうも魔人が絡んでいるようなんだな」
「ふーん、リベルは軍にでも入ったの?、もしかしてスパイ?」
「いや、違うって。さっき言ったようにベテランハンターだよ」
「スパイならかっこよかったのに」
ミアはそう言って笑う。
その後も他愛のない話をして二人は別れた。
そして約束の一ヶ月になったので、リベルはロクサーナを迎えに行った。
「ロクサーナさん、行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
ロクサーナのわずかな荷物をリベルはバッグに詰め込んで、テオドロスの家を出る。
「これからは、全部自分でやらなければなりませんが大丈夫ですか?」
歩きながらリベルがロクサーナに話しかける。
「はい、靴の紐も結べるようになりましたから」
「まずは、自分で金を稼ぐようになることです」
「はい、森の中で魔物を倒すんですね」
「まあ、そうです」
ロクサーナは、笑顔ではきはきと答えるが少し違和感がある。
(おそらく、彼女の思っている事と実際はずいぶん異なっていると思うが大丈夫だろうか)
リベルは少し不安になってきた。
リベルはいつもの宿にロクサーナを連れて入る。
「リベルさん、お帰り」
いつも元気のいい、宿のおかみさんが声をかけてくる。太った中年のおばさんで声がでかい。
「お、珍しいね女連れかい。ふたりなら部屋代は7千rになるよ」
おかみさんの大きな声に食事をしていた連中の注目を浴びる。
「いや、別々でお願いします。彼女はハンターで、同じパーティのメンバーですから」
リベルが慌てて否定する。
「そうかい、それは残念だったね。これから頑張りな。ハハハハ」
おかみさんはそう言うと厨房の方へ引っ込んで行った。
翌日は、ロクサーナの装備を揃えるため買い物に向かった。服と着替え、皮の鎧とコート。カバンやナイフ、水筒といった小物まで買い揃えたため、100万r近くも使ってしまった。
そして、最後に10万rほどリベルは手渡してから、
「私から与えるのはこれで最後です。あとはハンターとしての生き方を教えますので、自分で稼いだお金の範囲で必要なものを買ってください」
「何から何まで、お世話になりました。これは後できっとお返ししますから」
リベルは笑いながら、
「別に返さなくてもいいですよ、私も随分もらってきたんですから。理由あってもう返せなくなったんで、必要な人を手助けすることにしたんです。もし余裕が出来たら、私ではなく困っている人がいれば助けてあげてください」
ロクサーナは少し考えてから、
「なるほど、その考え気に入りました」
にっこりと笑って答えた。
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