第15話リザードマン
それから、一週間ほどが経ちリリィとマーサもなじんできた。
狩猟組合にやってきたリベルがダリオに話しかける。
「もうお前一人で依頼を受けても大丈夫だろ。今日は一人で行ってくれ、俺は少し調べたいことがあるんで」
「例の狐人のことですか?」
「うん、そうだ」
そう言ってリベルは二階にある資料室に向かうと、ダリオは依頼を受けて狩猟組合を出て行った。
狩猟組合の資料室は、過去の魔物を討伐した時の記録や、それをまとめた本などがあり、ハンター登録しているものは閲覧可能になっている。
入り口に座っている狩猟組合の職員に尋ねる。
「バルログっていう魔物の記録はありますか?」
「聞いたことないな」
「溶岩を投げるやばい奴なんですが」
「知らんな」
「狐人に関する情報は何かありますか」
「ここには魔物に関するものしかないぞ」
リベルの残念そうな顔を見て職員が話しかける。
「国立図書館に行ってみればなんかわかるかもしれんぞ」
「そうですか・・・」
リベルは念のため資料見て回ったがそれらしい情報はなかった。
リベルが狩猟組合の二階から降りてきた所で、カルヘオと出会った。
「おう、久しぶりだな、あの二人はなじんだか」
「ええ、随分と」
「そうか、また寄せてもらうからな」
そういって笑いながらカルヘオが立ち去ろうとするところをリベルが呼び止める。
「カルヘオさんは、バルログって知ってますか」
カルヘオは振り返って少し考えていたが、
「いや、知らんな」
「では、狐人やラットキンについては」
「知り合いにはいないから、そんなに詳しくは知らないが」
「そうですか」
「どうした、何か事情がありそうだな、飯でも食いながら話を聞こうか」
「助かります」
そういって二人は市場の隣にある食堂に向かう。
この食堂は市場の建物と同様に屋根だけあって壁のない建物でかなり広い。大小さまざまなテーブルと椅子がたくさん置かれていて千人は入る大きさとなっている。隣接する市場から新鮮な食材を安価で提供しているため、人気があってわざわざ街中の住人もやってくるほどだ。
昼時でにぎわっているが一角が区切られ無人のエリアがある。二人は肉やパンなどを購入してきてなるべく静かな席に座った。
食事しながらリベルはラットキンの村での話をする。
「へー、そんなことがあったのか」
カルヘオはパンを頬張りながら腕を組んで考えている。
そんな時、予約席にぞろぞろと茶色の揃いの鎧を付けた一団が入ってきた。二百人はいるだろうか。
カルヘオが顔を近づけて小声で話しかける。
「リザードマンの傭兵だな」
「やはり帝国に備えて北に向かうのでしょうか」
「おそらくな」
少し考えていたカルヘオが話し始める。
「さっきのラットキンと狐人だが、八十年前の獣人間戦争での確執と言っていたが、その戦争はリザードマンとワーウルフとの争いから始まっているからなあ」
ワーウルフというのは狼人の事で、隣接するリザードマンとワーウルフの領土争いをきっかけに他の種族を巻き込んだ大きな戦争に発展していた。
「確か、ラットキンと狐人はリザードマン側で戦争に負けた方ですよね」
「うーん、そうだな」
リベルは少し考えていたが立ち上がって席を離れる。
「おい、どこに行くんだ」
カルヘオが声をかけながら行方を見ていると、リベルはリザードマンの傭兵たちが食事している場所に向かっている。
リザードマンたちは周りと違って静かに食事をしている。
リベルはリザードマンたちに近づいて行くとその威圧感に一旦足が止まるが、勇気を振り絞って五人ほどが食事をしているテーブルに近づいて声をかける。
「あ、あの、少しお尋ねしたいのですがよろしいですか」
テーブルに座っている五人が一斉にリベルの方を見る。近くのテーブルに座っている者たちも何事かと思い視線を向けている。
一見人間と変わらない見た目だが近づいて見ると、袖口や首などに灰緑色の鱗が見える。
無言なのでリベルが続けて話しかける。
「こ、これから、北に行かれるのですか」
「それを聞いてどうする」
一人のリザードマンがそう答えた。
(もうこうなったら洗いざらいしゃべるしかないな)
リベルは開き直って、ラットキンの村が襲われた話をする。
「なんだと」
リベルの話に反応して、縦に伸びる瞳孔が開くのがわかった。
「ついてこい」
一人のリザードマンが立ち上がるとリベルを奥の方へ案内する。何事かと周りの席のリザードマンたちの注目を集めながら一番奥の席に座っている大男の席まで連れて行く。
「さっきの話をしろ」
いわれるがままにリベルは先ほどと同じ話をする。
話を黙って聞いていた、この中のリーダーと思われる大男が口を開く。
「バルログは知らん。狐人もラットキンも多くは知らん」
リーダーはそれだけ言うと沈黙していたが、リベルの方を見て、
「俺たちはこの国に傭兵として来ているが、今から国に戻るところだ」
「え、不穏なこの時期にですか」
リベルがそう言うとリーダーは頷く。
「傭兵団二万五千のうち一万に帰還命令が出た。理由は詳しく言えんがワーウルフが攻め込んできたのだ」
「未だにお互い憎しみあっているんですか」
驚いてリベルが尋ねると、リーダーはにやりと笑って答える。
「俺たちは生まれる前の戦争のことなど知らんし、少なくとも今は友好関係にある」
「では仕組んだものがいると、ラットキンも」
リーダーは一つ頷くと、
「誰が得をするか考えればおのずと答えは出る」
(帝国か!)
リベルは心の中で叫んだ。
その後、リベルは国立図書館へ向かった。町の中心部にある大きな建物で一級市民は無料で利用できるが、それ以外は利用料二千rを支払って入る。
いくつもの部屋に分かれておりかなりの蔵書があるようだ。さっきの話で狐人や獣人戦争などを調べる意味はあまりなくなったので、バルログについて調べようと思い召喚魔法について調べた。
その結果わかったのは、バルログについての情報はない。召喚魔法使いは少ない。召喚魔法のレベルが相当高くないと高位の魔物は召喚できない。ということだけだった。
それから数日後、リベルとダリオが出かけようと準備をしていた時、主棟入口の扉が激しくたたかれた。
「おい、開けてくれ」、「早く早く」
ダリオが慌てて扉を開けると、十人ほどの兵士が扉の前で慌てている。
「おい、早く入れてくれ、トロルがいるんだ」
ダリオは笑いながら中に入れる。
「あれは私の従魔ですから大丈夫ですよ」
「え、そうなのか」
兵士ではない身なりのきちんとした男が話しかけてくる。
「ところでどちら様です」
「私は、オルトセンの徴税官だ。固定資産税の査定にやってきた」
「固定資産税の査定ですか?」
「そうだ、この国に土地を持つものは税金を納めなければならない」
リベルは少し戸惑いながら話す。
「あのー、その前に、ここには勝手に住み着いているのですが、そもそもここは誰かの土地でしょうか?」
リベルが恐る恐る聞く。
「こんな魔物が出るようなところ誰の土地でもない。こちらでも念のため調べた」
役人は馬鹿にしたように言う。
役人が言うには、誰の土地でもないところに住んでいる場合は、その場所を自分の土地であると宣言して土地の所有者となって課税するということらしい。建物周辺の林の中は無価値でタダ同然のため、建物の周囲1㎢を所有地として登録することにした。
建物とその周辺を調査して役人は告げる。
「年間、62万rになる」
「え、随分高いんじゃないですか。さっき、こんな魔物が出るようなところと言われてたじゃないですか」
リベルが食い下がるが当然聞き入れられない。
「ところでここの所有者の名前は?、登録するからな」
「ダリオでお願いします」
リベルがすかさず答える。
「え、二人で見つけたんじゃないですか」
「俺は、いずれ出て行くからな」
「え、待ってくださいよ・・・」
リベルとダリオが揉めてると役人がイライラしてきて、
「こっちは忙しいんだ、早くしろ」
結局、ダリオを所有者として登録した。
役人が帰った後ダリオがぼやく。
「なんか維持していくだけで結構大変ですね」
「お間が、テイマーなのが理由だがな」
「そうですけど」
「こうなったら、もっと魔物を集めていろいろやらせたらどうだ。依頼も魔物だけでやらせるとか」
「うーんそうですね」
「とりあえず、デカオを見て驚くのはどうにかしないとな」
「驚かないで済むようなやつを捕まえてきますか」
二人は役に立つ魔物の検討を始めた。
リベルとダリオの二人は市場のはずれにやってきた。使われていない小屋の前に肉を置いて遠くから見ていると、市場の屋根にたくさん止まっていたカラスが少しずつ集まってきて肉をつつき始める。
それを三日間続けた後、四日目に小屋の中に肉を置いて遠くから観察する。やがてカラスがどんどん中に入っていく。
頃合いを見てリベルが小屋まで瞬間移動して扉を閉める。その後、ダリオがやってきて次々と従属させていき、全部で23匹のカラスをテイムした。
従属させたカラスは、拠点の周りに配置して侵入者や、来客者をいち早く察知してダリオに伝えるようにした。
いつものように狩猟組合の依頼を受けた後、拠点に戻ってきて一休みしていた時。
「お、誰か来たようです」
ダリオはそう言うと、林の入り口にいるカラスと視野をリンクする。
「バルトロさんですね、あと護衛が二人」
「デカオ、クロマル建物の奥に行け」
デカオとクロマルと遭遇するのを防ぐため宿泊棟の裏に行くよう指示を出す。
それを聞いてリリィが準備を始める。林の入り口から5分程度はかかるのでその間お茶などを用意する。
リベルとダリオは入口の前まで出て到着を待つ。
「おう、出迎えてくれたのか?」
リベルがカラスの方を指さしながら、
「あいつらが来訪を知らせてくれるんです」
バルトロはそれを興味深そうに見ながら、
「ほう、便利なもんだな」
そういいながら建物の中に入る。
すぐに、リリィとマーサが出て来て挨拶をする。
「元気にしていたか、随分変わったな」
以前より落ち着いて見えるリリィを見ながらバルトロが声をかける。護衛の一人がリリィに手土産を渡し、バルトロはテーブルの席に着く。
リリィは、直ぐに用意していたお茶を注ぐと、マーサと共に席に着く。
「マーサ、慣れたか、寂しくないか」
「はい」
マーサは笑顔でそういう。
リベルも席について話す。
「マーサはすごくいい子ですよ、良く手伝いもするし」
バルトロはリベルの方を向いて、
「マーサは賢い子だ、寂しくてもそれを口にはしない」
バルトロはそういってマーサに微笑みかけると、マーサは首を振って否定する。
「リベルどうだ、マーサも寂しいだろうからもう二、三人引き取らないか」
リベルは苦笑しながら、
「そうですね、いずれはそれも考えたいですが、今はまだ収入が安定していないので」
「分かった、待ってるぞ」
バルトロはそういって笑うと帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます