第14話拠点整備
ダリオは翌日から、ボウガンの練習を始めた。
「兄貴、楽勝っす」
木の的に正確に刺さっていく矢を見ながら、ダリオはリベルに言う。
「動きながらとか、とっさのときにも正確に当てられるようになっとけよ」
「了解したっす」
そう言いながら楽しそうにダリオは練習している。
数日後、狩猟組合でトロル討伐の依頼を探す。
「やっぱり、都合よくは無いか」
「そうっすねえ」
トロル討伐に関する依頼は貼られていなかったが、念のため狩猟組合の職員に聞いてみる。
「トロルねえ・・・、トロルは北の方にある岩山に住んでいるらしいから、近くにある村に行って、聞いてみたらどうかな」
狩猟組合の職員に場所を教えてもらって帰る。
ダリオは、ピッピを飛ばして視野を共有し、地図を確認するとクロマルに乗って駆けて行く。それを、リベルは瞬間移動で追いかけている。
北の方にある村まで直線で30㎞ほどの距離を、方向を確認しながら進んで行ったが、一時間ほどで到着することが出来た。
そこは、谷の両側に段々畑を積み重ねている数十戸程の小さな村であった。二人は村長のところに向かう。
村長たちは、ダリルの連れているシルバーウルフに最初ぎょっとしたが、敵意のない目を見て安心する。
「私たちは、オルトセンから来たハンターです。トロルがこのあたりに出ると聞いてきました」
村長や、その場にいる数名の村人がすぐに情報をくれた。
トロルは、この先の橋の下に住み着いているらしい。人に危害を加えるわけではないが村人たちは怖がっているようだ。子供たちは橋を渡ることもできないらしい。
「そいつを捕まえて連れて行ってもいいでしょうか」
「え、トロルを捕まえる。そんなことが出来るんですか?」
「はい、こいつみたいに従えようと思います」
ダリオが、シルバーウルフの首筋を撫でながら答える。
「お金は出せませんが、もしやってくれれば助かります」
「是非やってください」、「お願いします」
村長に続いて、村人たちにもお願いされる。
リベルとダリオは、教えられた橋へ向かった。
その橋は、谷にかかっているツタで編まれたつり橋だった。橋の近くまで行くと、対岸の橋の下10mぐらいのところに岩棚がありトロルの足が見えている。
二人は橋を渡って行き、ツタの手すりをもって下をのぞき込む。ここから見てもトロルの足が見えるだけだ。どうやら寝ているらしい。
「おーい、おーい、起きろ」
リベルがトロルに向かって叫ぶ。
何度か叫んでいると、足が動いたと思うとトロルが座ったまま顔をのぞかせる。禿げ頭にでかい顔、口をぽかんと開けている。
「おーい、ここで何してる?」
ダリオが聞くと、
「お、おで、いつもここ」
「へえ、話が通じるんだな」
リベルがダリオに話しかけるとダリオは頷く。
「人間を怖がらせる。悪いトロルか?」
「おで、わるくない。ともだちほしいだけ」
ダリオがリベルに笑いかける。
「俺たちと友達になろう」
トロルは立ち上がって、黄色い歯を見せて嬉しそうに笑う。
「ともだち、ともだち」
「コントラクト」とダリオが言うと、
トロルは、しばらくぼうっとしていたが、
「ごしゅじんさま、みつけた」
そう言って笑うと岩を登ってくる。
「お前騙してないか、友達じゃないよな」
「相手は魔物ですから」
リベルがあきれた感じで言うがダリオは平然としている。
近くで見るとかなり大きい。ずんぐりとして猫背だが身長は2.5mはあるだろう。胴体、腕、足、すべてが太くたくましい。
村に連れて行くと大歓声が上がる。しかし、村人たちは遠巻きにしたまま礼を言ってくる。
その様子に、リベルとダリオは顔を見合わせて苦笑いをする。
「こいつは連れて帰りますので」
そう言って帰っていく一行を、村長はじめ村人たちは感謝しながら見送った。
村を出て行きながらリベルがダリオに話す。
「結局、ボウガン必要なかったな」
ダリオは左手に持ったボウガンを見ながら言う。
「そうっすね」
「こいつの名前は?」
ダリオはトロルの方を見ながら考える。
「顔がでかいから、お前はデカオだ」
トロルは不思議そうな顔を押している。
「おで、デカオ?」
「ハハハ、相変わらず適当だなあ」
拠点に戻ると、早速デカオに林の出口までの道の整備を命じる。
フラグルの林に入ってからこの廃教会までは、獣道を3㎞ほど進んだところにあるが、教会の周りは元々村がありオルトセンへ続く道があった。廃村となった後で自然に木が生えて雑木林となっているため本来の道は無くなっている。
デカオには、主棟の入り口からオルトセンへ直線距離で新たな道を作るように命じた。もしできれば狩猟組合南支部あたりへは徒歩40分ほどで着けるようになる。
リベルは道になる場所の木を、次元切断を使ってサクサクと切り倒していく。その後、木を運んだり、根っこを抜いたりといった作業をデカオにやらせる。
木を運ぶのは直ぐに終わったが、根っこを抜くのに少し時間がかかり、一週間ほどで林の中に道ができた。
その間、リベルとダリオは狩猟組合の依頼をこなしていたが、デカオの作業もひと段落ついたので、今日はデカオも連れてオーク狩りに来ている。
「オークが20頭ほどいるらしいから、ひょっとしたら上位個体がいるかもしれんな」
「オークキングとかですか」
「以前オーガが出て来てやばかったからな」
そんな話をしながら歩いていると、ピッピがオークの集団を発見した。
「500mほど先でくつろいでますね、集落でしょうか。16頭ほどが確認できます。武器はこん棒、でかいのが1頭斧を持ってます」
デカオは長さ2m近いこん棒を持っている。こん棒の先端から30㎝ほどは鉄で補強し強化したものだ。
クロマルは左手に進み、デカオは右手に進む。ダリオはボウガンを手にして中央を進んでいく。ダリオだけでどれだけできるか検証するため、リベルは後ろで待機している。
ダリオが茂みをゆっくりと進んで射程範囲に入るとオークに向かってボウガンで射る。
「ぎゃ」
オークの頭にボウガンが刺さる。二頭、三頭と立て続けにオークに命中するが、致命傷とはならず大騒ぎとなる。
『グモー』、『ブオー』 何やら叫びながら敵を探している。
(クロマル、デカオかかれ)
ダリオがそう命令すると、クロマルが飛び出してきてオークに飛びかかる。
クロマルがオークの首に噛みつくと血を噴き出して倒れる。それを見てオークが逃げ惑うのをデカオがこん棒で叩き潰す。
首がねじれながら飛んでいくオークを見ると、
「一撃だな、凄い威力だ」
木の上に移動して全体を眺めているリベルはそうつぶやく。
奥から斧を持った大きなオークがやってくるのが見える。ダリオがボウガンを打つが怯まずダリオに向かって来る。
(デカオ、こっちを頼む)
ダリオがデカオにそう指示すると、デカオはダリオと大きなオークとの間に入る。デカオの大きさに、大きなオークは一瞬怯むが向かってきて斧を振るう。デカオが払うようにこん棒を振るうと、斧は届かず大きなオークは飛ばされて動かなくなった。
大きいオーク1頭と、オークを13頭ほど倒したが残りは逃げてしまった。
「こいつオークキングっすか?」
「よくわからん、初めて見るからな」
隣のクロマルが舌を出してハアハアと荒い呼吸をしており、白い毛皮は首から前足にかけて赤く染まっている。
「いい連携だったな、もう少し従魔を増やせばもっと強い相手でも倒せるな」
「トロルが思ったより強いっすね、また捕まえに行きますか」
二人は狩猟組合に帰っていく。
翌日、拠点の修理に大工を連れてきた。
「おわ!」
大工の親方がデカオを見て逃げようとする。
「こいつは、ペットみたいなもんすから」
ダリオがそう説明すると、親方はデカオと、クロマルの方をちらちら見ながら修理箇所の確認を始める。
「主棟は、三か所の扉と、窓が10枚ほどだな・・・、ざっと50万といったところだな」
「宿泊棟の方は部屋が多いから、相当手直しが必要だ。1000万はかかるな」
「えーそんなにかかるんすか」
ダリオが声を上げる。
「とりあえず、全部は必要ないんで一階だけだとどのくらいです」
一階は個室が10で、残りはトイレ、浴室、洗濯場、厨房などとなっており、二階、三階はそれぞれ20の個室がある。とりあえず一階だけ修理できれば十分生活できる。
「300万といったところだな」
「じゃあそれでお願いします」
リベルは、前金で100万rをその場で支払い、明日から工事に入ることになった。
親方が帰った後、ダリオがリベルに聞く。
「兄貴、金大丈夫ですか」
「お前いくら持ってる」
「50万ですね」
「合わせても200万ほどしかないな・・・、明日からも依頼を頑張るぞ」
「分かったっす」
一週間後修理は完了した。
リベルとダリオはカルヘオの後ろをついて歩いている。
オルトセンの中心部よりやや北の方に進んで行くと、廃材などで作られている粗末な建物が続く路地に入っていった。あちこちに水たまりができて地面はぬかるんでいる。むせかえるような異臭が風に乗って時たま鼻を突く。
地面に座り込んでいる男たちが見上げてくる視線に、リベルとダリオは不安な気持ちになる。
「どこまでいくんですか」
「もうすぐだ」
カルヘオはどんどん先に進んで行く。
路地を曲がった辻に、女が二人立ってこっちを見ている。濃い化粧に短いスカート、口元は笑っているが冷めた目が印象的だ。
「ここだ」
カルヘオがそう言って立ち止まる。
正面の建物はレンガ造りでしっかりしており、この場所では不釣り合いに思える。扉の開いている入り口に近づくと、中から若い男が数人現れて行く手をふさいだ。
「誰だ」
人相の悪そうな男が聞いてくる。
カルヘオが答えようとすると、後ろから禿げた頭に傷のある大男がやってきて急に笑顔になる。
「カルヘオさんですね」
前にいる男たちをどかして二階へ案内する。
二階にも、五、六人の男たちがいて、リベルたち三人の方を見てくるが禿げ頭の男が先導しているので何も言ってこない。禿げ頭の男は奥の部屋に案内していく。
奥の部屋に通されると、正面の机に座った男が周りに立っている四、五人の男たちと何か話しをしていた。
こちらに気付くと座っていた男は立ち上がる。
「カルヘオさん、久しぶりですね」
細面で黒髪をきっちりと固めており笑顔で話しかけるが、目つきは鋭く、目が合ったリベルとダリオは緊張する。あまり背は高くないががっちりとした体つきで高そうな服を着ている。
「親分、ご無沙汰してます」
カルヘオがあいさつをした後リベルへ紹介する。
「こちらは、このあたりを取り仕切っているゾッチ一家の親分だ」
「私はリベル、こっちはダリオです。ハンターをやってます」
リベルが代表であいさつする。
「バルトロ・ゾッチだ」
バルトロは笑いかけるが目の奥が笑っていない。
「今日は人を紹介して欲しい」
カルヘオがそう言うと、バルトロが答える。
「そうか、いつもすまんな」
リベルが説明する。
「オルトセンの南にフラグルの林というところがあるんですが、その中にある建物に私たちは住んでいます。そこに住み込みで料理、洗濯などの家事をしてくれる人を探しています。周りは整備していますので安全は保障します」
「そうか・・・」
バルトロは少し考えていたが、
「おい、リリィを呼んで来い」
バルトロは後ろに立つ男へそう言うと男は足早に出て行った。
「なぜ、そんなところに」
バルトロはリベルの方に視線を向ける。
「こいつ、テイマーなんです。魔物と暮らしているもんですから」
リベルがダリオの方を見ながら言うと、バルトロもダリオの方を見る。
「テイマーか珍しいな」
「俺も、隼をペットにしてもらった」
カルヘオが笑顔になって自慢そうに言う。
その時、ノックの音がして先ほど出て行った男が女を連れて入ってくる。
(あ、さっきの街角にいた女か)
女はリベルと視線が合って少し気まずそうにする。
「リリィ、住み込みで家事をしてもらいたいそうだ、給金は」
バルトロがリベルの方を見る。
「相場ってどんな感じです」
バルトロはリリィの方を見て、
「月10万だ。飯もついてるどうだ」
「ぜひ、やらせてください」
リリィは即答する。
「でも、ひとつだけ条件があるんですが・・・、その、娘が一人います。給金は無くていいですからお願いします」
「娘さんと一緒でもいいですよ、もちろん給金は払いますが。それと、こちらの条件も聞いたうえで判断してください」
リベルは、オルトセンから離れた林の中であること、魔物と住むことなどを話した。
リリィは最初驚いていたが、内容を理解したうえで了解した。
「その先の辻でリリィを見かけたと思うが、女が子供を抱えながら生きていく手段は限られる。もうそろそろ、マーサもそのことに気付くだろう」
リリィは頷いている。
(マーサとは娘の事か、なるほど、バルトロさんは優しいな。目つきは怖いが)
「分かりました。よろしくお願いします」
リベルがそう言うと、リリィはほっとして笑顔を見せた。
リベルは、紹介料10万rをバルトロに渡してその場を後にする。
リベルたち三人が帰った後、リリィがバルトロに礼を言う。
「親分、ありがとうございます」
「礼には及ばんよ」
バルトロはそっけなくそう言うと、先ほどリベルから受け取った紹介料10万rをリリィに渡す。
「これで、準備をしろ。そんな服じゃ家事はできんだろ」
リリィは目を大きく開いたまま固まっている。
「親分・・・」
バルトロは立ち上がってリリィをドアのところまで連れて行く。
「元気でやれよ」
そう言ってバルトロはリリィを送り出した。
翌日、リベルとダリオが狩猟組合にやってくると、リリィとマーサが狩猟組合の前で待っていた。
(まだ小さいな5才位かな)
リベルはそう思いながら二人のもとに向かう。
「もう来てたんですね、待ちましたか」
「いえ・・・」
リリィは昨日の派手な化粧はしておらず、服装も地味になっているため随分印象が違う。横には大きめの荷物が二つ置かれている。
「これだけですか」
「はい」
リリィは小さく答えると、後ろに隠れているマーサを前に出して、
「これからお世話になる、リベルさんと、ダリオさんです。挨拶しなさい」
「マーサです・・・よろしくお願いします」
マーサは小さな声でそう言うと俯いてしまう。
「マーサは今いくつになる」
マーサは、リリィの方をちらりと見てから、
「6才です」そういって黙り込む。
(少し時間がかかるかもしれんなあ)
リベルはそう思いながら二人の荷物を持ってきた袋に収納する。元より小さな袋に収納されるのを見てリリィとマーサは驚く。
「大丈夫ですよ、見た目よりたくさん入りますから」
そう言ってリリィに袋の中を見せる。
林の入り口、拠点へと続く新しくできた道のところまでやってくると、デカオが奥から現れる。
「ごしゅじんさま、おかえりなさい」
リリィは驚いて後ろに下がりその後ろにマーサは隠れておびえている。
「大丈夫ですよ、何やっても怒りませんから」
そういって、ダリオはデカオの足を蹴るが、デカオは全く反応せずつったっている。
「まあ、慣れるには少し時間がかかるだろ」
リベルはそう言って歩き始める。
拠点の中のクロマルを見てその大きさにまた驚く。マーサから思わず声が漏れる。
「でっかいワンコ」
デカオよりは驚いてないようだ。
ダリオは、クロマルの傍に行ってその背中を撫でる。
「大丈夫だよ、触ってごらん」
マーサはそう言われておずおずとリリィの後ろから出てくる。
リリィは不安そうな顔をしているが、マーサはクロマルの背中に恐る恐る手を触れる。
「モフモフしてる」
マーサは小さくつぶやいて少し笑顔になる。クロマルはちらっとマーサの方を見たものの知らん顔して横になっている。
その時天井からピッピが飛んできてダリオの肩に止まり、『ピー』と一声鳴く。
「こいつはピッピだ。俺も紹介してくれと言っている」
「この鳥と話せるの?」
マーサがダリオに聞く。
「俺はこいつらと話せる。マーサも一緒に暮らしていたら何を言っているのかわかるようになるぞ」
「えーほんと」
マーサが喜んでいる。
リベルは、二人を宿泊棟の部屋に案内し、厨房や、浴室などを見せて行く。一階の個室はリベル、ダリオとリリィ親子の三部屋が埋まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます