第13話カルヘオ
リベルとダリオが狩猟組合で掲示板を眺めているところに、カルヘオが現れる。
「どうだ、獲物は決まったか」
「これにしようと思います」
【ジグ森、シルバーウルフ 2万r、1頭 Dランク】
「手ごろでいいじゃないか」
カルヘオについてリベルとダリオが森に入っていく。カルヘオは、足跡などの痕跡を確認しながら森の中を進んで行く。
リベルが前を歩くカルヘオに聞く。
「依頼では、1頭ってなってましたが群れじゃないんですか」
「おそらく若いオスだな、群れから巣立ったばかりだろう。これからメスを見つけて群れを作る」
藪をかき分けながらしばらく進んで行くと、
「近いな」
カルヘオが立ち止まってそう言う。
ダリオがピッピを放して確認に向かわせる。
「左手前方、200mです」
カルヘオはゆっくりと50m程に近づくと矢を射る。
「ギャン」
鳴き声が聞こえると、がさがさと草むらをかき分けるような音が聞こえる。
「麻酔が効くまで少しかかるから追跡するぞ」
ピッピに追跡は任せて、三人はゆっくりと歩いていく。ほんの5分ほど歩くと大きなシルバーウルフが倒れているのが見えてきた。
すぐにシルバーウルフを縛って近くの木に繋ぐと、麻酔から覚めるのを待つため三人はその場に腰を下ろす。
リベルがカルヘオに話しかける。
「カルヘオさんはフリーですよね、パーティには入らないんですか」
「昔は入っていたんだがな、段々と面倒になってきてな」
「四六時中一緒ですからね、俺もパーティは不自由な感じがして一人の方がいいですね」
リベルがそう言うとカルヘオはダリオの方を見る。
「ああ、こいつとはパーティじゃなくて手助けですね。独り立ちできるまでの」
「兄貴、俺は一生ついていくと決めた、と言いましたよね」
ダリオは不満そうにそう言うが、
「ハハハ、そう言っていたな。パーティという枠に囚われなくてもいいじゃないか、時にパーティを組み、時には好きなことをして、自由にやろうぜ」
「そうゆうもんっすか」
ダリオはよくわかってないような顔をしている。
「グルルル」
「お、お目覚めだな」
シルバーウルフは歯をむき出し、敵意をこちらに向けて立ち上がろうとしている。
ダリオは、今にも噛みつこうとしているシルバーウルフの近くまで寄って、
「威圧」
そう言って魔法をシルバーウルフにかけると、効いたのか少し動揺しているように思える。
「恐怖」
ダリオがそう言うと、シルバーウルフが怯んでいる。
次に、「チャーム」の魔法をかけると少し敵意が薄らぐ。ダリオはシルバーウルフの状態を見ながら、精神に働きかける魔法をかけて少しずつコントロールしていく。
そして最後に、「コントラクト」というとテイムが終了した。
シルバーウルフを縛っている紐を外してやると、しっぽを振って嬉しそうにダリオに甘えている。
「ダリオ、俺たちも大丈夫なのか」
リベルが聞くと、
「俺が敵意を抱いていない人には危害は加えませんよ」
「しっかし、でっかい犬って感じだなあ、野生はどこに行った」
カルヘオもおとなしくなったシルバーウルフを見て面白がっている。リベルも恐る恐るシルバーウルフに触ってみる。
「おい、俺も欲しいんだが、依頼料はいらないから俺にも取ってくれ」
カルヘオがそう言うと、ダリオが答える。
「ああいいですよ、シルバーウルフですか」
「いや、鳥がいいな。狩りのとき凄く役に立つ」
「インコですか」
リベルが聞くと、
「いや、鷹だな、かっこいいからな」
ピッピが『ピー』と鳴く。
「いや、お前もかっこいいぞ」
慌ててフォローするカルへオを見てリベルとダリオが笑う。
ピッピが飛び立って、鷹を探しに行くとすぐに戻ってきた。
「鷹に追われてます」
ダリオがそう答えると、カルヘオは矢をつがえて構える。
木々に間にピッピが見えると、すぐ後を別の鳥が追っているのか見えた。その瞬間カルヘオは矢を放つ。
「あんな飛んでる鳥に当たりますか」
リベルが聞くと、カルへオは矢の行方を見もせず。
「まあ見てみろ」そう言ってニヤリとする。
矢に気付いたのか、途中からピッピを追うのをやめて逃げて行こうとしているが、矢はその鳥を追っている。
リベルもダリオも木々の間から見え隠れしながら追跡する矢を見て唖然としている。
やがて矢が命中して鳥が落ちた。
「魔法ですか?」
リベルはカルヘオに聞く。
「ホーミングアロー、矢のスキルだな。矢の届く範囲なら追いかける」
三人は近くに言って確認する。
「お、隼だな。こいつは小型の鷹だが飛ぶのが早い。テイムしてくれ」
ダリオがさっきと同じようにいろいろな精神魔法かけて徐々に従順にさせてテイムした。
その後、隼をカルヘオの近くに持って行って、
「トランスファー」そう言って隼との契約をカルヘオに移譲する。
隼は、カルヘオの皮で出来た左小手の上に飛び移る。
「うおー、かっこいいぞ」
カルヘオは喜んでいる。
三人は、狩猟組合に戻ってきた。
扉を開けて入ると、一緒に入ってきたシルバーウルフに狩猟組合内が騒然とする。職員が慌てて奥から出てくる。
「おい、魔物を中に入れるな、裏に回れ」
三人は狩猟組合の裏に行って、リベルが言い訳をする。
「お騒がせしました。こいつが依頼達成の証拠ですから連れてきました」
「討伐依頼で捕まえてくる奴は初めてだぞ」
「依頼達成ということでいいですよね」
「うーん、結果としては同じだからいいと思うが、上と相談するから明日また来い」
カルヘオとは狩猟組合で別れて、リベルとダリオは宿屋に向かう。
「ひゃあ、そんなもの連れてくるな」
宿屋に入った途端驚かれる。
「中がだめなら、馬小屋に入れておいても良いですか」
「ばかやろう、馬がビビるだろうが、だめだだめだ」
全く聞く耳を持たず入れてもらえない。
「テイマーは不憫だな」
リベルがそう言うと、ダリオは肩を落とす。
「俺は、こいつと野宿でもしますから兄貴は宿に泊まってください」
「うーん、そうはいってもなあ。ずっと野宿というわけにもいかんしな」
リベルはそう言って考えていたが、不意にひらめく。
「そうだ、フラグルの林にあった廃教会はどうだ」
「えー、マジっすか」
ダリオは露骨に嫌な顔をする。
「あそこなら広いし、これから寒くなるから野宿は厳しいぞ」
リベルは渋るダリオを連れて廃教会へ向かう。
リベルとダリオは、壊れている扉を外して倉庫のような建物に入る。以前は食堂にでも使っていたのであろうか、大きさは30m×20m程もありかなり広い。内部にはテーブルや椅子などの壊れたものがわずかに残っているだけでがらんとしている。
「とりあえず、今日はここで寝るとするか」
床に寝そべっている小型の馬ほどの大きさがあるシルバーウルフに、二人はくっついて寝ることにした。
(うーん、モフモフで暖かい)
「ところで、こいつの名前は決めたのか」
シルバーウルフの背中側にくっついて寝ているリベルが、腹側に寝ているダリオに聞く。
「そのたてがみのところ、丸く黒い毛があるでしょ。だから、『クロマル』にしようかと思います」
リベルは少し体を起こしてよく見てみる。
(確かに。まあ、分かりやすくていいか)
「おやすみ、クロマル」
リベルがそう言うと、理解したのか小さくしっぽを振った。
翌朝、市場の近くで朝飯を食いながらリベルとダリオは話をしている。クロマルは留守番だ。
「案外いいんじゃないか」
リベルは、硬いパンをかじりながらダリオに言う。
「そうですねえ、ただ、町から離れてるのが難点っすねえ」
「魔物を飼うんならこれぐらい離れてた方がいいぞ」
昨日嫌がっていたダリオも受け入れているようだ。
「今日は、当面必要なものを買いに行こう」
そう言って近くの魔道具屋に向かった。狩猟組合の近くにある魔道具屋は、ハンターに向けた魔道具の品ぞろえがいい。
「いらっしゃいませ、何おお探しで」
店のカウンターにはまだ30前後と思われる男がいて、リベルに声をかける。
「火をつける魔道具ありますか」
棒状の物をいくつかテーブルの上に出して並べる。棒には握り手があって小さな魔石がはめ込んである。
「ここを握って、魔石に魔力を流します」
男が実演すると棒の先から火が出る。魔力を通しさえすれば、火の魔法が使えなくても火が付く。
「ほう、便利ですね」
リベルも試してみるが、ほとんど魔力は必要ないようだ。
魔法の使えない一般の人でも、少ないが魔力自体は持っておりそれを使って日常的に魔道具を使っている。
「いくらです」
「こっちが、5万、こっちが7万」
「高いなあ」
「一生使えるから高くはないと思いますよ」
「水の出る魔道具ありますか」
「ここらにあるのがそうです」
店の一角にたくさん置いてある。こちらも魔力を通せば水が出てくるのでとても便利だ。水筒型の物から、ポット、水瓶もある。だがどれも高い。
「この水筒は、最新式で冷たい水が出ます」
男が水筒を差し出すが、値札を見てダリオが驚く。
「20万もするんですか」
普通の水筒も8万するし、水瓶は25万もする。
「ところで、カバンの容量を増やす道具はありますか」
リベルは、自分と同じ魔法の魔道具があるのか気になったので聞いてみる。
「それはどんなものですか、聞いたこともありませんが」
ダリオの背負っているリュックを降ろし、物を出し入れして見せる。
「おおー、これは凄いですね。どこでこれを、ルドルス王国ですか?」
男が食いついてきて、バッグを裏返したりして熱中して見ている。
「私の魔法なんです。容量が六倍で、重さが六分の一になります。但し、一ヶ月ほどしか持ちませんが」
「ほう、そうなんですね」
男は、まだリュックをあちこち眺めながら考え込んでいる。
「これは、凄いかも・・・」
男はそうつぶやくと、店の奥からいろいろな大きさの袋を持ってきて、
「これらにその魔法をかけてもらえますか、やってもらえるのでしたら、発火スティクと魔水筒はサービスで差し上げますがどうですか」
「発火スティクとそこの水瓶にしてもらえますか」
「うーん、分かりました。いいでしょう。それと、聞きたいことがあったらどこに行けばいいですか」
「今の家は仮なので、狩猟組合を通じて連絡してもらえますか、俺はリベルで、こいつはダリオです」
「分かりました。私はエドガーです、よろしくお願いします」
二人は、魔道具屋を後にする。
「兄貴、やりましたね」
「そうだな」
発火スティクと魔水瓶をただで手に入れた二人は上機嫌であった。
その後、ベッドや、毛布、テーブルや椅子などを購入して帰っていった。
それから数日が過ぎた。日々依頼をこなして十分な金を得たので、家具などもそろって住みやすくなったが、まだ改善点はいくつかある。
本来は個室がたくさんある宿泊棟に泊まる方がいいが窓が壊れたりしているため、600㎡はあるだだっ広い主棟に住んでいる。
「あとは壊れた扉や、窓の修理。それから、外の草や蔦をどうにかしないとな、俺達でも道に迷いそうになるからな」
「そうですね」
そんなとき、カルヘオが訪ねてきた。
「おー、凄いところに住んでるな」
「よくここがわかりましたね」
「ハハハ、長いことハンターをやってると鼻が利くようになるからな」
カルヘオはそう言って笑う。
「ちょっと、広すぎるんですけどね」
リベルがそう答えると、カルヘオは手土産として持ってきたフルーツや、干し肉などをリベルに渡しながら話しかける。
「いや、ダリオに頼みが立ってきたんだが、どうもアストリットとの連携がうまくいかんのでアドバイスをもらおうと思ってな」
「アストリット?」
「おお、こいつの名前だ」
カルヘオは、肩に止まる隼の方を見ながら答える。
「どうも指示がうまく伝わらんのだが」
「ちょっと見てみましょう」
鳥を使う練習をするため、カルヘオとダリオは外に出て行った。
外が暗くなってきたので二人が中へ入ってくる。
「飯にしましょう」
リベルは硬いパンと、カルヘオが持ってきた干し肉やフルーツなどを切ったものをテーブルの上に並べる。
「これは、俺が持ってきたものそのままだな、料理はしないのか」
カルヘオがあきれて聞く。
「とてもまだそこまでの余裕はないですね」
「何でも自分たちだけでやろうとしないで人を雇ったらどうだ」
「こんなところまで来てくれますかねえ」
「そうだな、確かにここに来るまでが一苦労だからな、まずは道の整備からかな」
「道やこの建物の周りの整備などやってくれるところはないでしょうか」
「ここに来るまでに魔物に出会う可能性もあるところだから、普通の業者は受けんかもしれんな」
カルヘオは考えていたが、
「そうだ、いっそ魔物にやらせたらどうだ」
「なるほど、ゴブリンとかを捕まえてきますか?」
「ゴブリンだと弱すぎで心もとないな、トロルとかどうだ。力仕事に向いてるぞ」
「それはいいかもしれませんね、また、手伝ってもらえますか」
「それでもいいが、俺もいつまでいるかわからんし、お前たちでできることはお前たちでやった方がいいぞ」
「弓を練習するんですか」
「時間がかかりすぎるからボウガンを使え、すぐに使えるようになるぞ」
ダリオが目を輝かせて食いつく。
「ボウガン!、やります」
「お前、剣はどうするんだよ。朝の練習もいまいちだし」
「け、剣は気長にやっていきますよ、けど時代はボウガンでしょ」
ダリオには、毎朝剣の練習を付き合っていたが、いまいち熱心さが足りない。ボウガンもそうならなければいいなとリベルは思っていた。
一方ダリオはカルヘオに、ボウガンについて熱心に聞いている。
翌日、リベルとダリオは武器屋を訪れた。
「おー、お前たちはこのあいだ来た奴らだな」
「はい、今日はボウガンを見に来ました」
「ほう、そうか。ボウガンなら素人向けだが高いぞ」
武器屋の親父は、二つのボウガンをカウンターの上に出してみせる。
ダリオが目を輝かせてみている。
「この小さいのは射程が30m、こいつは50m。小さい方が取り扱いが簡単だからこちらから始めた方がいいだろう。ちなみに値段は、小さい方が50万、大きい方が60万だ」
ダリオが金を出して小さい方を買い取る。ほぼ毎日依頼をこなしているおかげでなんとか買うことが出来た。
その後、薬屋で麻酔薬を購入して帰った。
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