第12話オルトセンの狩猟組合
翌日、狩猟組合でもらった地図を見ながら狩猟組合南支部へ向かう。
南門を出て歩いていくと、中心部とは違って、平屋や二階建ての工房や、商店などが道の両側に立ち並んでいる。
一時間近く歩いてやっと南支部へ着いた。建物は二階建てだが横に随分広くて大きい建物だ。隣には食肉や、青果などの大きな市場がある。市場には高い天井があるが建物には壁がなく開放的な空間になっており、ずっと遠くまで広がっているようだが多くの人でごった返していて先がよく見えない。
二人が狩猟組合に入るとその大きさに驚く、カウンターの受付は十ほどもあり左側には打ち合わせのためのブースがたくさんある。右手にもテーブルと椅子がたくさん置いてあって、多くのハンターたちが、がやがやとしていて話し声や笑い声などが聞こえてくる。
リベルはダリオを依頼の張ってある掲示板の前まで連れて行き説明をする。
「ここに書かれている依頼を達成すると、ここに書いてある依頼料が支払われる。これでハンターは生活するんだ。それから、魔物によっては肉や皮が売れる場合もある」
リベルは説明しながら、インコを肩に乗せたダリオを見て思う。
(これじゃあ魔物を倒すのは無理かなあ)
「お前何か、武器とか使えるのか」
「いや、持ったこともないっす」
ダリオが笑顔で答える。
二人は狩猟組合の近くにある武器屋にやってきた。
リベルがダリオの方を見ながら武器屋の親父に説明する。
「こいつは、武器を持ったこともなく、今まで自分で魔物を倒したこともないのにレベルが25なんです。何の武器を持たせたら良いですか」
「ほう、テイマーかなんかか、珍しいな。直ぐに使うのであれば木の棒でも持たせればいいんじゃないか、レベルが高いと筋力体力は高いからそれだけで十分威力があるぞ」
「木の棒は売ってますか」
「バカ、そんなもんあるか」
「俺、剣がいいんですが、かっこいいし」
ダリオが入り口あたりにたくさん置いてある安物の剣を手にしながら言う。
「やめとけ、初心者は魔物を切る前に自分の足を切るぞ」
(商売っ気のない正直な人だなあ)
リベルは親父の態度に好感を持った。
「そうだな、うちにあるもんだとこのメイスなんかどうだ。木の棒よりはかっこいいぞ」
ダリオはあまり興味なさそうに見ている。
二人は結局何も買わずに武器屋を出た。
「俺も兄貴が持っている刀が欲しいっす」
ダリオがそう言うと、
「刀は剣より難しいぞ、俺は1年間毎日練習してやっと刀スキルを身に着けたんだぞ」
「俺も練習しますので教えてください」
「分かった明日の朝から練習しよう、それまでは当分木の棒で我慢しろ」
ダリオがしぶしぶ頷く。
「お前自身を鍛えることも必要だが、テイマーだから従魔に戦わせるんじゃないのか、強い奴をテイムしろよ」
「そうですね、じゃあ兄貴がなんか捕まえてきてくださいよ」
「なんで俺なんだよ、お前が行って捕まえて来いよ」
「捕まえる前に殺されますよ」
リベルは微妙に話がかみ合っていないように思う。
「すまん、テイムってどうやるんだ?」
「こいつなら従っても良いという気持ちにさせてから従属契約します」
「具体的には」
「魔物によって違いますが、群れを作る魔物であれば俺のことをリーダーと思わせることですね」
「そうなんだ、簡単じゃないな。ところで、その鳥だがなんか役に立つのか?」
『ピー』ピッピが抗議の声を上げる。
ダリオが笑いながら言う。
「発言には気を付けて欲しいっすね、ピッピは人の言葉を理解しているんすから」
そう言いながら肩に止まったピッピの頭をなでる。
「従魔の五感を共有できるんです。つまりピッピが空から見たものが俺にも見えるということですね」
「へえ、それは面白いな」
自慢気に話すダリオ、肩に止まっているピッピも心なしかどや顔をしているように見える。
二人は、狩猟組合の近くにあるハンター向けの宿に泊まって、翌朝再び狩猟組合に向かった。狩猟組合内は多くのハンターで活気にあふれている。
【南草原、グラスラプトル 2万5千r、5~6匹 Cランク】
Cランクの掲示板から選んでカウンターに持って行き詳細を聞く。
「大きさは人間より少し小さいがスピードがあり、群れになって攻撃してくると厄介だ。二人だけだと相当厳しいぞ」
狩猟組合の職員が忠告する。
「いざとなったら逃げる方法がありますのでご心配なく」
リベルが答える。
広い南草原の中でグラスラプトルを見つけるため、ピッピを高く舞い上がらせて探索する。ダリオがピッピの視界とリンクしてリベルに説明する。
「右前方2㎞ほど先にグラスラプトル発見」
「早いな」
二人はその方向に走って近づいて行く。
「距離1㎞、数は7匹です」
リベルは刀を抜く。ダリオは右手に長さ1m程のこん棒と、左手に50㎝ほどの丸太をスライスして作った盾を持っている。
「距離100m程、向こうも気が付いて右回りに取り囲もうとしています」
「先頭と正面となる場所に進め」
リベルがそう言うと、ダリオは左手に進路を変え走り出す。それにリベルが続く。
数秒後、グラスラプトルが草の間から顔を出した。グラスラプトルは素早い動きでジャンプしダリオへ飛びかかる。
ダリオは左手の盾をとっさに構えて受け右手のこん棒を思いっきり振るが、グラスラプトルは盾を蹴って左手に飛び跳ねて避ける。
その瞬間、リベルは飛び込みながら逃げようとするグラスラプトルを、片手で下方から刀を振り抜いて胸部から首にかけて切り裂く。浅いが行動不能にするには十分なダメージだ。
「次、左から二頭来ます!」
リベルは直ぐに構えて、草をかき分けてくる音に耳を澄ます。
草から顔を出すタイミングに合わせて横薙ぎに払うと、グラスラプトルの首が飛ぶ。
リベルは右に移動しながら次に出てくるタイミングを計っていると、グラスラプトルが草むらからジャンプして飛びだしてきたので、足の爪を避けながら刀を振り抜き左足を切り落とす。
残りの4匹もダリオの指示で場所を特定しながら個別撃破していった。
帰り道でリベルがダリオに話しかける。
「ピッピの索敵とダリオの指示は良かったが、攻撃力がないと厳しいな。やっぱり強い魔獣をテイムするしかないな」
「そうですね、どうやって捕まえますか」
「前はどうしてたんだ」
「罠ですね、グリンさんがやってました」
「そうかあ、できる人がいないか狩猟組合で聞いてみるか」
二人は狩猟組合に戻ると依頼達成の報告をする。
「二人で倒したのか、大したもんだ」
受付時と違う職員だが感心している。
「お尋ねしたいのですが」
リベルが話しかけると、職員はにこにこしながら聞き返す。
「ん、なんだ」
「魔物に罠を仕掛けて捕まえることのできる人を紹介してもらいたいのですが」
職員が少し考えている。
「魔物を罠か・・・、難しいな。猪や、鹿などをとらえるハンターならいるが、魔物を捕まえるような者は聞いたことがない。ひょっとしたらいるかもしれんが・・・」
「そうですか、でも、頼めばやってくれるかもしれませんよね」
「そうだな、依頼を出してみるか?」
「お願いします」
【魔物を罠で捕獲できる人、4万r/日】
狩猟組合に依頼を出した。
翌日、狩猟組合で新しい依頼を探している。
「森の中でどこまでできるかやってみよう。これなんかどうだ」
【フラグルの林、ジャイアントインセクト 3万r、数匹 Cランク】
二人は30分くらいかけて森の入り口についた。
フラグルの林は低木が多くて密集していないため明るい。そのため下草が生い茂っており、良く育った蔦がたくさん木に纏わりついていている。
「これは鬱陶しいっすね」
ダリオが鉈で蔦を切りながら進むが、胸の高さまである草が邪魔をして歩きづらい。
15分ぐらい歩くとレンガの塀が急に表れた。蔦に覆われて近付くまでわからなかったがかなり先まで続いているようだ。
「なんだこれは、こんなものがあるなんて聞いてなかったよな」
リベルがダリオに話しながら進む。
10mほど進んだ先に壁の崩れた場所があるので中に入ると、地面は石造りで草が生えていない。全体で50m×20m程のレンガ造りの建物で天井は失われ青空が見えている。
「これは教会だな」
「そうみたいですね」
地面に草はないが、壁や天井ののレンガが崩れて積みあがっていたり、所々水たまりがあったりして、それを避けながら祭壇があった方へ向かう。
「兄貴、こんなところに扉がありますよ」
祭壇の下に地下に向かう扉がある。
リベルが開けてみると暗闇に階段が続いているのが見える。
「よし、降りてみよう」
リベルはたいまつに火を灯すと階段を降り始める。
「マジっすか」
リベルは笑いながら振り返って、
「ハハハ、怖いのか、お宝があるかもしれないぞ」
ダリオは、どんどん下りて行くリベルに仕方なくついていく。
階段は10段ほどしかなく直ぐにつく、地下室は石を積んで壁にしているが積み方が雑で一部崩れている。両側の壁は棚になっており棺桶が入っていた。
「これはどう見ても墓場だな」
「墓場ですね」
どう見てもお宝がありそうな気配はない。先に進むと、たいまつに照らされて人骨がそのままたくさん積み上げられているのが目に入った。
「ひ!、あ、兄貴、もう出ましょう。な、何か、やばい感じが」
「そ、そうだな、宝も無いしな」
二人は急いで地下室から出る。
建物を出て林に戻ると近くに、三階建ての宿舎のような建物や、倉庫のような建物などが立っていた。こちらの建物は、木の扉や、窓ガラスの一部などは壊れていたものの屋根は壊れていなかった。
建物の近くをうろうろしていたせいで道がわからなくなったので、ピッピを飛ばして確認をする。
「兄貴、途中で道を間違えてますよ」
二人は、入り口近くまで戻って正しい方向へ進む。
しばらく進むと木が途切れて、岩場にやってきた。岩の近くの地面にいくつもの穴が開いていて、近くにジャイアントインセクトの姿があった。
ジャイアントインセクトは長さ2mほどのムカデのような生き物だ。無数の足で素早く迫ってきて大きな顎で噛みつく。その体は硬い甲羅で覆われており剣を容易に通さない。しかし、リベルとの相性はいいので、いつものように次元切断にてサクサクと頭を落としていく。
「合計、12匹でしたね。1匹5万rとすれば、合計で60万rですから大儲けですね」
「まあ、普通は山の中からこれだけ持ち帰ることはできないからな、最高に相性がいいな」
2mもある巨大な虫だが、リベルのマジックバッグは容量6倍になっているので一人1匹分と同じとなる。
二人は狩猟組合に戻って依頼の達成を報告する。討伐した魔物の受け取りは狩猟組合の裏手で行うので裏手に回った。ここで受け取った魔物は直ぐに食肉と素材に分けられて販売される。
次々と出てくるジャイアントインセクトを見て職員が驚いている。
「ほう、そのバッグ凄いな魔道具か?」
「いや、魔道具ではなくこれは私の魔法です」
「へえ、面白いな」
狩猟組合の職員は査定して依頼と素材合わせ、61万rをリベルに渡す。
「それと、お前たちが出していた、依頼の応募があったぞ。まだいるはずだから今から紹介しよう」
リベルとダリオがブースに座って待っていると、細面で黒髪に黒いひげが顔全体を覆っている男がやってきた。年齢は40才位だろうか、身長は普通で引き締まった体をしている。
男はにこにこしながら、
「カルヘオ、弓を使う」
「私は、リベル、こっちはダリオです」
リベルが紹介すると、カルヘオが二人の向かいに座る。
「魔物を捕らえたいそうだな」
「どんな罠で捕らえるのですか」
「それなんだが、こいつを使う」
カルヘオは袋から小さな瓶を取り出して蓋を取りリベルに嗅がせる。
ツーンとした刺激臭にリベルは顔をしかめる。
「何ですか」
カルヘオはにやりと笑う。
「麻酔薬だ。こいつを矢じりに着けて射る。ジャイアントベアでもいけるぞ」
リベルとダリオは感心して聞いている。
「明後日ならば受けれるがどうだ」
「よろしくお願いします」
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