第8話襲撃

 『ドオン、ドオン!』

 音と振動でリベルは目を覚ました。すぐに体を起こして立ち上がり枕元に置いてあった刀を取って、部屋の扉を開け外を確認しようと思った時、激しい衝撃で前方に飛ばされた。

 振り返ると、今まで自分が寝ていた部屋から熱気と炎が噴き出し来るのが見え、右の袖には火がついている。慌ててその場から離れ左手ではたいて火を消すが二の腕にちりちりと痛みが走る。

 部屋の外、屋敷の中もあっという間に炎に包まれ、リベルは火に囲まれてしまったが、焼けている雨戸の間に見える橋の方に向かって瞬間移動をして逃れることが出来た。

 振り返ってタケチ家の方を見ると全体が炎に包まれている。

 炎は橋まで来ていないがすさまじい熱気が迫ってきたため、リベルは東門の上まで瞬間移動を行った。

 そこから町を眺めると、いたるところで大きな炎が上がっており、その炎が周りの木造家屋に延焼していっているように見える。

 よく見ると、東南の方にある山の中腹あたりから火の玉が飛んできているようだ。リベルはすぐにその山の麓に瞬間移動して見上げると、山の中腹あたりにある岩の上から直径1mほどの赤く燃える岩が町の方に飛んでいる。

 その岩の近くまで行って見ると、岩の先端に筋肉質の大男が立って溶岩の塊を投げている。異様なのはその体で、投げている溶岩をそのまま人間にしたような姿で離れていても体から異様な熱気が感じられる。

 そして、少し離れた森の中に、全員が白いローブに笑ったようなマスクをしている異様な集団が見えた。手には剣や杖を持っているようで、背は低いがラットキンよりは高いように見える。

 やがて、溶岩を投げていた大男は、投げるのをやめて白ローブたちの方を振り向く。その瞬間、白ローブの集団はたじろぐ。

 大男の顔は赤く燃えており白く輝く目は一瞬笑ったように見えたが、次の瞬間忽然と消えた。

 森の中から、白ローブの集団が岩の方に出てくる。

「何発だ?」

 隣が答える。

「17です」

「さすが、バルログだ」

 白ローブたちの緊張が解けたようで、町の方を見ようとばらばらと森の中から出てくる。


 リベルは刀を抜いて飛び出す。

「お前たちは誰だ、何のためにこんなことを」

 突然のことに、白ローブたちに動揺が広がる。

「お前、ラットキンじゃないな、人間か?」

「そうだ、誰だお前たちは」

「お前らには関係のないことだ」

 そう言うと一人が杖を振る。

 魔法の発動を察知してリベルは横に瞬間移動で避けると、杖から、紺色の霧のようなものが射出され、それに触れた草や木々が茶色く変色する。

 リベルは瞬間移動で、白ローブたちの前に移動して横薙ぎに刀を振ると、一人がローブを血に染めて倒れ、そのまま隣の白ローブの胸に刀を立てる。

「撤退しろ!」

 そう言うと、白ローブたちはバラバラになって森に逃げ込もうとする。

「フィジカルバリア」、「フィジカルバリア」

 そう言いながら白ローブたちは逃げていく。

 リベルは追いかけながら刀を振るうが魔法にはじかれて刀が通らなくなる。

 すかさずリベルは刀に次元切断の魔法をかける。追いかけながら刀を横薙ぎに払うと、白ローブの上半身を残したまま下半身が数歩進んで倒れる。

「うぎゃ」

 どさりと落ちた上半身から最後の声が漏れると、それを見ていた白ローブたちに動揺が広がる。

「うわあああ」

 パニックになって四方へ逃げ惑う白ローブたちに一人が冷静に声をかける。

「魔法を使っているぞ、マジカルバリアを使え」

「マジカルバリア」

 魔法を詠唱した白ローブの体の周囲が赤く淡い光でおおわれた。

 リベルが逃げる白ローブを追いかけて切りかかるが、次元切断をかけた刀が弾かれる。

「あれ?」

 リベルはあっけにとられて立ち止まってしまうと、白ローブたちはあっという間に森の中に消えて見えなくなった。

「どうやら、次元切断は最強というわけでもなかったな」

 リベルは、そうつぶやくと岩の先端の方へ向かう。先ほどバルログが立っていたところは、岩が黒く変色し焼け焦げ、未だ熱気が残っているので、その場所を避けて町を見下ろす。

「なんてことだ・・・」

 街を見下ろして思わず声が漏れ呆然と立ち尽くす。

 木造の家屋に炎が燃え移って町全体が赤く燃え、町を流れる黒い川面に炎が映っている。よく見ると、炎から逃れた人達が川へ逃げ込んでいるのが見えた。

(あ、まだ生きている人がいる)

 その姿を見てリベルは、すぐに川の浅瀬に瞬間移動した。川に入っても炎の熱気はすさまじく川の水を被って体を冷やす。川に逃れてきた人を探して抱き上げると町の外まで瞬間移動で運び出した。それを何度も繰り返し、40人ほど助けたところで魔力切れになって動けなくなった。


 いつの間にか草むらに倒れこんで寝てしまっていたリベルの頬に雨粒が当たる。

 リベルは目を開け体を起こす。ぽつぽつと大粒の雨が降り始めてた空を見上げると、白くなって夜が明けようとしているのが分かった。

(天恵か助かった、これで森への延焼も防げるだろう)

 雨脚はだんだん強くなっていく。リベルの周りがぬかるみになるほどの降り方で火の勢いは収まってきたが、単に炎の魔法ではなく真っ赤に溶けた岩の攻撃であったため、岩の温度は容易に下がらず大量の水蒸気を上げてあたりは真っ白になっていた。

 夜が明けて火も収まったので、救助を再開しようと思いリベルは町の中へ戻ったが、そこには何もなかった。わずかに黒く焦げた柱の残骸が残るばかりで生存者がいるとは思えない。それでも川を中心に生存者を探したが誰も見つからなかった。


 町はずれの生存者のところに戻って、タケチ家の人や、フミ、ゲンゾウ、名主のキンベエなどを探すが見つからない。

 一人の兵士らしき男に声をかける。

「ナカチへ報告に行きたいので案内をお願いできますか」

 憔悴して座り込んでいた男は顔を上げて、

「分かった、馬がないので三日はかかるがすぐに行こう」

 そういって兵士が立ち上がると、リベルが言う。

「私の魔法を使えばすぐに着きますので、私におぶさって方向だけ示して下さい」

 そういって、兵士を背負うとリベルは瞬間移動で進む。レベルアップしたため一度でかなり遠距離への移動が可能になったため、十分程でナカチへ着いた。

 おぶってきたラットキンの兵士から、警備兵に状況を説明する。

「トウチのマタジです。ハルナ家の陪臣です。トウチが壊滅しました直ぐに援助を」

 警備兵はあっけにとられていたが、現状を詳細に説明していくうちに内容の深刻さを理解してすぐに連絡に走った。

 その後リベルとマタジは、ハルナ家別邸へ向かう。ここにはトウチからやってきたものが宿泊している。

 ハルナ家には、タケチ家当主ハルサダとゲンゾウが滞在していた。

 リベルは屋敷に駆け込むと玄関先で、ハルサダとゲンゾウに告げる。

「トウチが壊滅しました。死者多数」

「何だと!」

「何があった」

 ハルサダとゲンゾウが驚き目を見開く。

「昨晩、何者かの襲撃で、町の大半が焼失しました」

 ハルサダとゲンゾウはしばらく固まっていたが、

「分かった、すぐに向かおう」

 ハルサダがそう言うと、リベルが頷いて答える。

「では、私の魔法で行きましょう」

 リベルが屋敷に置いてある一番大きな背負子を貸してもらい身に着けると、

「お二人ともこれに乗ってください」

「え」、「なんだと」

 困惑しているハルサダとゲンゾウがしぶしぶ了解して背負子に並んで座る。

 さらに、食料などを入れた袋を二人が抱えると、リベルは瞬間移動を開始する。

 来たときと同じく十分程度でトウチが見えるところまでやってきて二人を降ろす。しかし、町の方は白く煙っていて何も見えない。ただ焦げ臭いにおいが辺りに漂っている。

 町の入口へ近づいていくと、難を逃れた人たちがあちこちに固まって座っている。ハルサダとゲンゾウの姿を見つけると、人々が寄ってくる。

「ゲンゾウ様、ご無事でしたか」

「ハルサダ様」、「ゲンゾウ様」

 それらの人に、ゲンゾウが声をかける。

「ハルサダ殿も儂もナカチから来たところじゃ、兵士はおるか!」

 呼ばれてあちこちから三十人ほどが集まってくる。ゲンゾウは食料を渡し、生存者の確認を取るよう指示を出すと、三人は町の中に入っていく。

 ハルサダとゲンゾウは絶句した。町の中を流れていた川を挟んで両側に広がっていた町並みはどこにもなく、一面黒い地面が広がっておりわずかに残る柱の残骸から、煙や水蒸気が立ち上り焦げたにおいが漂っている。

 三人は大通りのあった場所を東に向いて進む。先頭を歩くハルサダが川の傍で歩みを止め川向こうの方を向いている。その視線はタケチ家のあった場所を見ているのだろうが、タケチ家のあった場所にはただ黒く焦げた地面とわずかに燃え残った柱などの残骸があるだけであった。リベルがタケチ家の消息を伝えようとハルサダの傍に行こうとするのをゲンゾウが止める。

 ハルサダは、膝をつくと手を合わせて頭を下げている。リベルとゲンゾウは少し離れてその様子を見ていた。

 しばらくして立ち上がったハルサダは、リベルの前まで来ると、

「リベル、襲撃者について話せ」

 ハルサダに動揺した様子は見受けられない。

「襲撃者を何人か斬りましたのでご案内します」

 そう言うと、ゲンゾウとハルサダと五、六名の兵士を連れて、白ローブたちがいた山の中腹にある岩の上に向かった。

 岩の先端は黒く焼け焦げている。そして、森の手前には、リベルの斬った白ローブの死体が転がっていた。ゲンゾウはその一人のフードを外して、仮面を取った。

 三角形の耳、吊り上がり気味の目、狐の獣人だ。

「狐人か」

 ゲンゾウがそう言って大きく息を吐く。兵士の間に驚きの声が上がりざわつき始めた。

 その様子を見て、リベルがゲンゾウに聞く。

「予想されていたのでしょうか」

 ゲンゾウは狐人の死体を見ながら独り言のようにつぶやく。

「危険性は指摘されていたが、まさかこんなことが起こるとは」

「緩んでいたな。長い平和の時代に育った我々には想像すらできなかった」

 ハルサダが言葉を継ぐ。

 ゲンゾウはリベルの方を向いて聞く。

「八十年ほど前にあった獣人間での大きな戦争を知っているか」

「その戦争の話なら聞いたことがあります。獣人国家を二分する大戦で何万という犠牲がでたそうですね。たしか、あなたたちの国は負けた方では」

「当時、狐人国は我が国の庇護下にあって一緒に戦った」

「狐人国とは友好関係にあったということですね」

 ゲンゾウは一度頷いて、

「だが、我が国が敗戦して状況が変わった。狐人国は我が国の庇護下から離れもとに戻ったが、彼らにとって我々は下の存在という潜在的な意識がある。まあ、狐は鼠を狩って生きているからな。それで、一時的であったが我が国の庇護下にあったというのは彼らとしては絶対に許せないわけだ。だから、狐人国の為政者は一貫して、我が国のせいで戦争に負け、我が国のせいで貧困があるなど、我が国が絶対悪であるという教育を施し続けている。狐人は幼いころから我が国のことを恨むことを教育されているので、我が国に過去の恨みを晴らそうとする危険な思想を持った集団がいくつか存在しているということであった」

 リベルは思った。

(ミアも戦争で失った故郷を取り戻したいと言っていた。やられたらやり返したい恨みを晴らしたいという気持ちはわかる)

 兵士が口々に声を上げる。

「あいつら、俺たちには何をしても許されると思ってやがる」

「絶対に奴らを許さんぞ!」

「みんなの仇を取ってやる」

 憤り興奮する兵士たちを横目に、ハルサダがゲンゾウに話す。

「しかしそんな動機で、ここまでするだろうか」

「儂もそう思う、何か別の力が働いているように思うが・・・いずれにしてもここまで大きな話になっては我々の手には負えん」

 リベルは話をしている二人の様子を見て思う。

(ハルサダ様は、子供、孫を含め一族全員を亡くしているというのにどうしてああも冷静何だろう。あれがサムライというものだろうか)

「まずは生存者の方が先だ、戻ろう」

 ハルサダがそう言うと、リベルが答える。

「食料が足りないと思いますので調達してきます」

「どうするつもりだ」

「町に行って買ってきます。明日の朝には戻ってきます」

 そう言ってリベルは瞬間移動でその場から消えた。


 リベルはサレトの町へ向かう途中の山の上から、眼下に広がる草原を眺めている。草原には鹿が群れを成して草を食べているのが見えた。

 リベルは、瞬間移動で群れの中に移動して一頭の鹿の首をはねる。他の鹿は驚いて一斉に逃げ出す。

 場所を移動しながら獲物を探すが、人のほとんど訪れることのないような場所でも容易に獲物は見つからず、日が傾き始めるまで頑張ってやっと三頭の鹿を仕留めることができた。急いで、サレトの町へ向かう。

 三年ぶりのサレトの町だが感傷に浸る余裕はない。直ぐに狩猟組合に駆け込んでカウンターに向かう。駆け込むリベルは他者の注目を浴びるがその視線は目に入らない。

 カウンターの向こうに、アダンの姿が見えたので声をかけると、こちらを振り向いて目を開く。

「リベルか久しぶりだな。なんだその恰好は、少し背が伸びたか?」

 リベルは、ラットキンの装束である着物を着ている。

「アダンさん時間が無いんです。すぐに換金してください」

「何があった」

「詳しい事は後程説明しますが、ラットキンの町で大災害が起きました、死者多数でかなりの人が家を失いました。すぐに食料を手に入れて現地に向かいたいのです」

「分かった、裏に回れ」

 裏に回って、取ってきた鹿三頭を袋から取り出してみせる。事情を考慮し少し多めに査定してもらい、10万rを手に入れた。

 リベルは直ぐに狩猟組合から出ると、パンや干し肉、果物などすぐに食べられる食料を片っ端から購入し、併せて、古着なども購入したころには夜になっていた。全ての金を使いきってしまい宿に泊まることさえできなくなったリベルは、城壁の傍に寄りかかって眠った。


 翌朝直ぐにトウチへ向かった。

 トウチの町の傍では、兵士たちが中心となって食事の準備などで忙しく働いている。その中で見慣れぬ黒装束の者たちが目に入った。着物とは違ってズボンをはいており、頭には頭巾をかぶり全身黒づくめで顔だけが出ている。

 その中の一人が近づいてきてリベルに声をかける。

「お前がリベルか、随分と助けられたと聞いた礼を言う」

 そう言って男は、目じりにしわを寄せてニコニコしながら頭を下げる。年齢は40才ぐらいで身長は140㎝ほどか、丸顔で顎あたりに古傷が見える。

「あなたは?」

「儂は、アカテという」

 その時後ろから声がかかる。

「リベル戻ったか」

 リベルが振り向くと、ゲンゾウが近づいてきていた。リベルは直ぐに、袋から食料を取り出していく。

 それを見てアカテが驚く。

「ほう、どこでこれを」

「サレトの町で買ってきました」

「本当に高速で移動できるようだな」

「そういうあなたたちも一日でここに集まりましたよね」

「それが儂らの仕事だからな」

 袋から次々出てくる食料などを不思議そうに見ている。

「それは魔法道具か、いくらでも出てくるな」

「容量が増やせる特殊な魔法が使えるんです」

 やがてすべて出し終わると、アカテが指笛を吹く。あっという間に黒装束が集まってきて食料を配るため持って行った。

「ゲンゾウさん、あの黒装束の方々は?」

 リベルが機敏に動き回る姿を見ながら聞く。

「シノビの者たちだ」

「シノビですか?」

「彼らは影のように表には出てこない。特殊な能力を持っておって、情報収集、暗殺などを行う」

「こんなに早く集まってきたのもその能力の一つですか」

 ゲンゾウは一つ頷いてから、

「リベル助かった、礼を言う」

 ゲンゾウがそう言って頭を下げる。

「いえ、私はこの三年間皆さんに与えられてばかりでしたから、少しでもお役に立てれば」

 リベルは、食料を配っていく様子を眺める。無意識のうちにフミや、タケチ家の人たちがいないか目で追ってしまう。

「タケチ家の人はいませんか」

「まだ見つかっておらんがおそらく厳しいだろう。どうも大きな家を標的にしたようだ。タケチ家や名主の家などは直撃を受けている。お前は運が良かったな」

 ゲンゾウがそう言ってリベルの方を見る。

(フミの家も商家で大きかったからな)

 リベルはそう思いながら人々を目で追う。

 リベルは一つため息をついた後、食料調達のため再びサレトへ戻っていった。


 そして三日目、ナカチからラットキンの王が救援部隊を率いてやってきた。救援部隊は大きなテントをたくさん張って人々を収容していく。とりあえず、最低限生きていける環境が整ったように見える。

 リベルは王のテントに呼ばれた。

「攻撃者への対応、被災者の救助、救援物資の提供など本当に助かった。礼を言う」

 王はそう言ってリベルに感謝を伝える。

「いえ、礼には及びません。それよりも大恩を与えてくださった方々に報いることが出来なくなったことが残念です」

 王は無言で頷く。

「これはせめてもの感謝の印じゃ」

 王が側近を通じてリベルへ手のひらに収まる大きさの革袋を渡す。

 リベルが受け取るとずっしりとした重みが伝わる。

(この重さは。中身は金だろうか?、復興には大金が必要だ。受け取ってよいのだろうか)

 リベルは戸惑ってゲンゾウの方を見ると、ゲンゾウは小さく頷く。

(黙って受け取れということか)

 リベルは断れない雰囲気を感じて答える。

「ありがとうございます」

 リベルがそう言うと、王は満足そうに頷いてから、

「これからは我々の問題だ。お前はお前の道を進め」

 リベルは一礼をして王の前から下がる。


 リベルは王のテントから出て歩きながら考える。

(よそ者はここから出て行けということか・・・ここの復旧には時間がかかる。少しでも手伝いたいがどうしようか)

 そして、袋の中を確認してみると大粒の砂金が詰まっていた。

 ゲンゾウが声をかける。

「王の言われたことは理解したな」

「ここを出て行くのは残念ですがそうするしかないでしょうね」

 リベルは少し考えてから顔を上げてゲンゾウに金の入った袋を差し出す。

「せめてこれだけは使っていただけませんか」

「王の気持ちを無駄にするな」

 ゲンゾウは受け取らない。


 リベルは一人河原の石の上に座っている。

(ああ、夢のような気がする。タケチ家の人たちも、フミもいなくなったなんて信じられない)

 あの後考える間もなく忙しくしていたためようやく落ち着いてみると、あまりの変化にいろんな思いが巡ってきて混乱してくる。

「ちょっといいか」

 リベルが声の方を振り向いてみるとアカテが立っていた。

「アカテさんでしたよね」

 アカテは頷くとリベルの隣の石に腰を下ろすと、襲撃の様子や狐人との戦いなどについて細かく聞き取る。

「あのバルログと言ってましたがあれは何でしょう」

「儂にも分らん。どこからか召喚したのであろうが、狐人があんな化け物を召喚できるとは思えん。これから調べんとな」

「アカテさんはそういう調査を」

「ああ、王から情報収集の任を承った。それで、お主に頼みがあるんだが」

「なんでしょう」

「お主にもできる範囲で手伝ってもらいたい」

 リベルはアカテの言葉に食いつく。

「是非させてください、何か手助けできないかと思っていたんです。何をすればいいんですか」

 アカテは少し苦笑いしながら

「とりあえずは、攻撃してきた白ローブの連中と、召喚されたバルログの情報だな。あくまでも危険のない範囲でな」

 アカテはリベルに腕輪を渡す。

「これを付けておいてくれ、お前の位置がわかるので儂の方から時々会いに行く」

 アカテはそう言うと自分の小さなカバンと袋を取り出して、

「それと、これにお前の魔法をかけて欲しいんだが」

「構いませんが、一ヶ月しか持ちませんよ」

「今度会った時にまたかけてもらうよ」

 アカテは目じりにしわを寄せて笑うと立ち上がる。

 立ち去ろうとするアカテにリベルが話しかける。

「私からも一つお願いがあるんですが」

「なんだ?」

 リベルは王からもらった金の入った袋をアカテに差し出す。

「私がこの地で頂いた三年間の恩はとても返せません。せめて、これをこの町の復旧に役立ててください」

「王から頂戴したものだな」

「ゲンゾウさんに渡そうとしましたが断られましたので」

「儂に渡したら、儂が勝手に使うかもしれんぞ」

 アカテはにこにこしながら少しからかうように答える。

「どうぞ、私が使うよりはましなので」

 リベルはそう言って笑った。

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