第7話一年後
そして、リベルがやってきて1年がたちリベルは十七才となった、そしてようやく刀スキルを会得することができた。
師範代のヨリサダがリベルに声をかける。
「よく頑張ったな、普通は刀スキルのないものはこの道を目指さない。スキルを得たことは、懸命な努力の証だ。祝いにこれをやろう」
そういうと、少し小ぶりな刀を差し出す。
「抜いてみろ」
リベルが刀を抜くと刃渡り40㎝程の短い刀であった。差し込む日の光を反射して白く光っている。
「最初の刀はその長さだ、扱いやすいからな」
朝から、ヤスケとカエモンがそわそわしている。今日は星流祭の日だ。このあたりでは、夏の初めに長雨が続き、その後雨のほとんど降らない暑い季節になる。星流祭はちょうど長雨が終わるころに行われる。星流祭は、先祖の慰霊のため竹で作った灯篭を夜の川に流す静かな祭りだが、子供たちにとっては川岸に並ぶ露店が目当てだ。銅貨を握りしめて普段目にしないようなお菓子や、おもちゃなどに心躍らせる。
リベルは毎夕食後、刀術の鍛錬に集中しているため、祭りのことなど去年は気にも留めていなかったが、一年たって刀スキルを身に着け心に余裕もできてきたので、今年はヤスケとカエモンの誘いに乗ることにした。
日が沈んだ後、ヤスケとカエモンが灯篭をもって川へ向かっている。その後をリベルが続く。
ヤスケが振り返って、リベルに話しかける。
「どうだ見事だろう」
ヤスケは、自慢そうに自分の作った灯篭を見せる。灯篭の側面は透かし彫りで装飾が施してある。隣を歩くカエモンも自作の灯篭を持っているが、装飾と呼べるほどの加工はなく四角い窓がいくつか空いているだけのシンプルなものだ。
「どうせすぐに流すのにあほらしい」
カエモンが負け惜しみのように答える。
川に近づいていくと多くの人の話し声や、子供の歓声などが聞こえてくる。橋の上では欄干の傍に多くの人が集まっで水辺を眺めていた。まだ、灯篭は少ししか流れていない。
三人は橋を渡って土手を少し進み、リベルは土手に腰を下ろして、河原へ下りて行くヤスケとカエモンを見下ろしている。河原は灯篭を持った人たちでごった返していた。
ヤスケとカエモンの二人はようやく灯篭を川に流すと、土手を上がってきてリベルの傍に腰を下ろして川を眺める。後ろでは並んだ露店の前を子供たちが走り回っている。
暗い川は、いつの間にかたくさんの灯篭で埋め尽くされており、ゆらゆらと揺れながら光を水面に反射させている。
「あ、カノだ」
橋の上から川を覗いているカノをカエモンが見つけた。カノはタケチ家の下女でリベルと同い年の十七才だ。
カノの方もこっちに気付いて手を振っている。呼んでいるようなので、三人は立ち上がって橋の方に向かう。
普段は地味な着物で髪を無造作に括っているだけだが、今日は赤い花柄の浴衣に髪を上げて櫛や髪飾りで着飾っており。薄く化粧もしているようだ。
「や、見違えたぞ、色気づいたな」
「子供のくせに」
ヤスケがそう言うと、カノが馬鹿にしたように答える。
「何だと、二才違いじゃないか」
ヤスケとは二才違いだが、こうしてみると随分大人びて見える。
カノはリベルの方を見て、
「リベルさんちょっとついて来てもらえますか」
リベルは意外な言葉に戸惑う。同じタケチ家にお世話になっているが今までろくに話をしたこともない。
「あ、ああ、分かった」
カノの後ろを三人がついていこうとすると、カノが振り返って、
「子供は早く帰って寝なさい」
「・・・・・」
ヤスケとカエモンがむっとして立ち止まったのを見てカノは歩き始める。
カノの後ろをリベルは無言でついていく。川から離れると途端に暗くなって祭りの喧騒も小さくなってきた。前を歩くカノの浴衣の襟足が目に入る。顔や手は日に焼けているが、普段隠されている部分の白さを目の当たりにしてドキッとした。
リベルの気配を察知したのか、急にカノが振り返って笑いながらリベルに言う。
「あ、勘違いしないで、用があるのは私じゃないから」
しばらく進んで、大きな木をぐるりと回ると石段に腰かけている女がいた。すぐにこちらに気が付いて立ち上がる。
カノがリベルの方を向いて女を紹介する。
「フミさんです。リベルさんのお話を聞きたいそうです」
「は、初めまして、フミと言います」
「リベルです。初めまして」
フミは、ラットキンの女性としては大柄で150㎝ほどあり、黒髪をかんざしでまとめている。かんざしには花の飾りが垂れ下がって揺れている。白い肌と白く細い指はカノと違って、肉体労働を感じさせない。
挨拶をかわすと三人は石段に腰を下ろす。
「私、外の世界のことが知りたいんです」
フミはそういって黒い瞳をキラキラさせながらリベルに聞いてくる。フミはカノの幼馴染だが、カノと違って裕福な商家の三女で一日の大半を家の中で過ごしているらしいが、家を訪れる客は人間との交流もあり外の世界の興味深い話を何度か耳にしたことがあるらしい。
「私は狭い世界しか知りません。孤児院で十五才まで過ごしてやっと外に出たばかりですから、これから世界を見て回りたいと思っています」
リベルは、厳しい世界であること、ハンターとして一人で人生を切り開いていかなければならないことなどを話しした。
「私の住んでいるところは争いが絶えず、裕福な人がいる反面、今日の食事にも事欠くほどの貧乏人がいるところです。しかし、この町の人たちは一つの家族のように助け合い、争いがありません。ここは素晴らしいところだと思います」
フミは遠くに見える川の方を眺めながら、
「でも、退屈ですよね」
フミはそういって笑った。
更に一年が過ぎてリベルは一八才となって刀レベルは2となり、マイルズは刀レベルが5になっていた。
マイルズがリベルに話しかける。
「白岩の行というのを今度やってみようと思う」
「どんなことをするんですか」
「岩の上に三日間座っているだけだそうだが、サムライと呼ばれるものはみな経験しているらしい」
タケチ家の裏山に入って、山をいくつか超え丸一日ほど歩いた山の中腹に岩棚があり、そこに三日間ただ座って過ごす。食料は無く、水だけで過ごす修行であるということだけを聞いて、マイルズはやってきた。
岩棚は百㎡ほどの広さがあり、森から突き出す形となっていて見晴らしがよく、遠くの山まで見渡せるが山ばかりで他には何も見えない。
朝から歩いて、着いたときはすでに日は暮れかかっていた。座っていると暗くなってきたが、三日月の光にわずかに照らされて真っ暗闇にはなっていない。
しばらく座っていると、眠気が襲ってきて知らず知らずのうちにウトウトとしていたが、「ガサッ」という物音にハッと目を開ける。
黒い影がマイルズに飛びかかってきたのを、とっさに鞘に入ったままの刀で防ぐが、それはのしかかってきてマイルズは倒される。
眼前に迫ってくるむき出しになった牙で狼であることがすぐにわかった。マイルズは片手で首を掴むと思いきり捻じって息の根を止めると、すぐに立ち上がって刀を抜く。
数匹の狼の姿が見えたためすぐに一頭に切りつけて殺すが、他の狼たちは森の中に逃げて行った。
気配がなくなったので再び座り込むが警戒のため眠ることなく朝を迎えた。
明るくなったので、警戒を緩めると眠気が襲って来る。
突然、背中に鋭い痛みが走ったので目を覚ます。急いで立ち上がりあたりを見ると長さ10㎝はありそうな大きな虻が数匹飛び回っている。腹立ちまぎれに刀を振るうが当たらないので、心を落ち着けて刀を構え、虻の動きを追いながら冷静に刀を振って退治する。
改めて座りなおすが、まだ背中にはじんじんとする痛みが残る。
その時、突然陰に入る。
とっさに見上げると、ワイバーンが音もなく迫ってきていた。マイルズは転げるように距離を取って刀を抜き放つ。
マイルズが座っていた場所をワイバーンの爪がかすめて岩の表面を砕く。ワイバーンは羽を使って器用に反転しそのまま直ぐにマイルズの方に向かってくる。
マイルズは、迫ってくるワイバーンの足に向けて刀を振るうが、十分に勢いをつけられなかった刀は、爪の一部を欠けさせることしかできなかった。
しかし、その抵抗で諦めたのかワイバーンは飛び去って行った。
「まだ丸一日も経っていないが、これは、予想以上に大変な修行かもしれんな」
マイルズは座りなおして、水を飲むとそう独り言をつぶやいた。
その後は、いつ何が起こっても対応できるよう意識を集中させることに注力していた。
それでも、眠気、空腹などで集中が途切れた時に限って魔物が襲って来る。それを何とかかわしながら二日目の夜となった。
夜は冷えてくるが、闇夜に潜む魔物の姿が見えにくくなるため焚火は起こさない。
その時、バサバサと小さな羽音が聞こえた。直ぐにあたりを見回すが姿は見えない。
音のする場所を特定するため集中していると右上方から迫ってくることが分かったので、見上げると小さな二つの目が一瞬目に入った。とっさに刀を居あい抜きのようにして切り上げると手ごたえがありそれは地面に落ちる。
よく見ると切られながらも羽をばたつかせている大きな蝙蝠であった。まだ近くに羽音が聞こえるが姿が見えない。マイルズは集中して音のする方を斬りつけて次々と蝙蝠を切り裂いていった。
夜が明けてくると少しホッとするが、昼間はまた別の魔物が襲って来るので警戒を続ける。
マイルズは、警戒をしたまま少しずつ浅い睡眠がとれるようになってきた。野生動物のように寝ていてもすぐに対処できるようになりつつあるようだ。
三日目の夜には大分慣れて警戒しつつ寝ることが出来るようになったので、魔物への対応は問題なくなったが空腹は限界に近づいていた。
そして、三日目の夜が明けて日が高くなり始めた頃、タケチ道場の若い弟子二人が迎えにやってきた。
「マイルズさんお疲れさまでした」
にこやかに話しかける二人を見て、マイルズはほっとして答える。
「ああ、なんとかな」
弟子の一人が握り飯を取り出すと、目の色を変えてそれにかぶりつく。
「ワイバーン出ましたか?」
弟子の一人が聞くが、頬張っているマイルズは頷くだけだ。
「あれが一番厄介ですからね、音もなく急降下してくるので命を落としたものもいるようです」
「俺のときは、出なかったからラッキーだったな」
もう一人の弟子が答えるが、マイルズはひたすら食べることに集中していた。
マイルズは、この修行を区切りとしてトウチを去っていった。
また、内弟子のヤスケは、刀レベル6となってそれを期に内弟子を辞めることになった。
ヤスケがリベルに話しかける。
「お前は、いつまでここにいるつもりだ」
「そうだな、あと一年か二年ぐらいかな、できればレベル5ぐらいにはなりたいな」
「ハハハ、二年じゃ無理だな」
二人は笑いあう。
ヤスケがまじめな顔になって話す。
「お前に頼みがあるんだが、ここを出るとき俺も連れて行ってほしい」
「それは、家族も賛成なのか」
「それは関係ない」
ヤスケがすぐに言い返してきたので、リベルは諭すように話す。
「まあ、時間があるからしっかり説得するんだな、俺にそそのかされて出ていくと思われるのは、ちょっとなあ・・・」
そんなやり取りをして別れる。
リベルは北の山を越えたなだらかな丘の上の岩に腰かけており、隣にはフミが座っている。二人は時々会っていた。
二人の周りには短い草が生い茂り小さな花の群生が所々にある。丘はなだらかに下ってその先の森につながっている。
「そうかあ、ヤスケがこの町を出たいと言ってたの」
リベルがヤスケとした話をすると、フミは遠くを見ながらつぶやくように言う。
「私も外の世界が見てみたいな」
そういうが、フミもリベルもフミがこの村から出るのは難しいと思っている。
フミがリベルの方を向いて、
「リベルはいつまでここにいるの」
「まだはっきりと決めてないが、一年か二年か・・・」
フミは、隣に座るリベルの左手の上に右手を乗せて強く握る。
「じゃあまだ時間があるから、リベルについてこいと言われるように頑張る」
フミはそう言って笑った。
更に一年が過ぎてここにきて三年、リベルは一九才となり、刀レベル3となっている。そして、時空魔法のレベルが5に上がった。マジックバッグの容量が六倍、重さが六分の一となり、瞬間移動できる範囲がさらに広がり見える範囲まで移動できるようになった。
また、待望の新魔法、次元切断を覚えた。これは、武器にかけると、武器の周りに厚さ五㎝ほどの別次元へ繋がる空間が形成される。つまりこれをかけた武器を振ると厚さ5㎝の空間が別次元へ転送される。
リベルは、次元切断を試してみるため一人で街はずれまでやってきた。長さ1mほどの木刀に次元切断の魔法をかけると刃先から50㎝ほどが黒く覆われる。その黒くなった部分で太さ30㎝ほどの立ち木に対して横なぎに払うと、手ごたえもなく刃が通るとともに、5㎝の空間が一瞬できて、『ドン』と大きな音がして木の上部が重なり傾斜している方へ倒れた。
岩に対しても何の抵抗なく切れる。なんでも切れるようだ。但し黒く覆われた50㎝程の長さに限られているが。
(これは、とんでもないな。なんでも切れるぞ)
かなり強力な魔法なので、とりあえずこのことは秘密にしておくことにした。
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