第三章 憧憬の果てに⑥


 ――“怪物帰化”(モンスターバック)。


 それはすべての怪人が宿す能力。

 人の知能と怪物の力を併せ持つ存在である怪人は、人の形に整えられている。それヒルダトのように人の技術を効率よく利用するためであり、高い知能を実現するために必要なことでもあった。しかし、そのために怪物としての力をある程度犠牲にしている。

“怪物帰化”は怪物だった頃の体に戻り、当時の力をすべて引き出す奥義だ。それでいて知能を落とさないという無茶を実現しているため、魔力消費量が尋常ではない。また、長く使いすぎると怪人に戻れなくなる可能性があるので、積極的に使う怪人はいない。

 そういった理屈を除いても、ヴァルトはこの奥義を嫌っていた。

 なぜならこの奥義は、自分が怪物であることを再確認してしまうから。

 ヴァルトの体がめきめきと音を立てて、異形の姿に変わっていく。

 やがて銀色の毛並みを逆立たせる巨大な四足歩行の怪物がそこに顕現した。


「何だよ、それ……? 僕も、見たことないぞ」


 ブラムは愕然と目を見開いている。


「当たり前だろうが。見せたのは、お前が初めてだと言ったはず」


おかしなことを言うブラムに、ヴァルトは牙を閃かせつつ答える。


「見るからに莫大な魔力消費の大技……そうか、あの時はもう使えなかったのか」

「訳の分からねえことばかり言いやがって。恐怖で頭がおかしくなったか?」

「随分な自信だな。押されてるのはお前だってことを、まさか自覚できてないのか?」

「テメェほどの実力があって、今の俺との差が分からねえわけじゃねえだろ」

「……」


 ブラムは僅かに眉根を寄せた。

この状態になった以上、ブラムの勝ち目はない。

長くは持たないが、今のヴァルトの力は今までとは比較にならないからだ。


「――悪いが、すぐに終わらせるぜ」


 戦いが再開した。

 否。それは戦いと呼べるのか定かではなかった。

 きっと誰が見てもこう答えるだろう。

 こんなものは戦いではない。

 これは虐殺、あるいは蹂躙と呼ばれる類のものだ――と。




 ◇




「ブラム……!」


 ルナ=ベイリーは、血が滲むほど拳を握りしめる。

 今すぐ駆け出して、ブラムと共に戦いたい。

 窮地から彼を救い出して、傷だらけになった体を癒してあげたい。

 そうして自分だって頼りになると証明したい。それができたらどんなに嬉しいだろうか。

 だけど分かっている。

 想いだけでは何もできない。

 あの二人の戦いを前に、ルナはあまりにも無力だ。

 先祖のような英雄になりたかったはずなのに。

 ブラムの横に並び立つ騎士になるために努力をしてきたはずなのに。

 まるで物語に登場する囚われの姫君のように、ルナは戦いを眺めているだけだ。


『自覚はねえだろうが、テメェは人類最高峰の魔力的素養の持ち主だ。だからこの俺が直々に憑依した。他の学生どもは捕獲できずとも、テメェだけは逃さねえように』


 ヴァルトはルナのことをそう評した。

 どうやらルナには途轍もない才能が眠っているらしい。

 嘘を言っているようには見えない。とはいえそれを認めるのは難しかった。

 どれだけ努力しても剣も魔法も平凡な成績のままで、幼い頃の感覚は幻想だと思い始めていたから。


 ――人類最高峰の魔力的素養。


 もし本当にそんなものがあるのだとしたら、今この時、力を与えてほしい。


「……守られるだけなんて、助けられるだけなんて、わたしは嫌だ」


 呟いた言葉に熱が宿る。


『今度こそ、助けてみせる』


 欲しかったのはあんな言葉じゃない。

 欲しかったのは信頼だ。安心して背中を預けてもらえるほどの力だ。

 直感がある。今、ただ助けられるだけで終わってしまえば、この先ずっと扱いが変わることはないだろう。一生ルナはお姫様のままで、丁寧に、壊れ物のように扱われるのだろう。


 それでいいのか? 

 英雄になりたいんだろう?

 魔法騎士になりたいんだろう?

 幼馴染の少年の隣で戦えるようになりたいんだろう?


 ――こんなところで諦めるような女が、あの男に並び立てると思っているのか?


 心を、奮い立たせる。

 一度は折れてしまった心を、また繋ぎ直していく。


 考えろ。

 力がなくても頭は使える。


 そもそも違和感があった。

 ヴァルトが憑依状態の時、ルナにも薄っすらと意識があった。

 つまり、ブラムと戦っている時の自分の体の動きを認識している。

 明らかに人の領域を超えた動き。

 ルナはそれを、憑依したヴァルトの能力や技術によるものだと考えていた。

 だけど、いくら何でもおかしくないか?

 いくらヴァルトが魔力で強化し技術で補っていたとしても、元々が人間の貧弱な体であることに変わりはない。そんな体で、《肉体活性》を使っていたブラムを上回る動きをして、たかが体が痛い程度で済んでいるなんて、そんなことがありえるのか?


「――そうだ」


 ヴァルトが憑依していた時の感覚を少しだけ覚えている。

 まるで普段は抑え込んでいる蓋が外れたかのような感覚。

 溢れ出す魔力は、漲る力は、自分の体ではないように思えて――実際に体の制御を奪われていたのだから、そういうものなのだろうと納得していた。

 でも違う。

 自分の体だからこそ、分かる。

 あの時、ヴァルトが引き出していた圧倒的な力は――本来ならルナのものだ。


「ブラム……っ!?」


 思わず悲鳴を上げる。

 ブラムは今まさに追い込まれていた。

 怪物の姿に帰ったヴァルトは圧倒的で、ブラムは満身創痍だった。

 このままだと死んでしまう。

 小さい頃から一緒にいた大切な幼馴染が。

 大好きな……初恋の、男の子が。

 それだけは許せない。

 認められない。

 まだ何も伝えられてないし、これからも傍にいると決めているから。


 ――だから、わたしが何とかするしかない。


 置いていかれないように。

 彼が、遠くに行ってしまわないように。

 ルナ自身が、彼に追い付くしかないのだ。


「わたしは……ずっと、これから先も、あなたの隣にいたいんだ……っ!!」


 強い意志と共に言葉を叫んで。


 ――思い出せ。


 あの時の動きを。

 あの時の魔力の使い方を。

 あの時、どんな風に力を引き出していたのかを。


 すべてを思い出して、完璧に再現しろ。


 ヴァルトを模倣するんだ。

 そうすれば無意識にしていた「蓋」に辿り着く。


 ――かつてブラムを傷つけてしまった魔法。

 もう大切な人を傷つけたくなくて、その力を怖れていた。

 抑え込んでいた。

 だからずっと、思うように使えなかった。

 その蓋を、ルナは強引にこじ開けていく。

 それがかさぶたを剥いで傷を露出するような行いだと分かっていながら。


「できるはずだ! わたしは英雄の娘だ! わたしは、魔法騎士になる女だ……!!」


 自らを鼓舞し、心を奮い立たせる。


「――わたしは、あなたの隣に立つ女だ!!」


 ブラムと共に戦いたいんだ。

 こんなトラウマごときに、その意志を邪魔されてたまるか。

 ルナは咆哮する。


「あ――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」


 ルナ=ベイリーは、ブラム=ルークウッドのような愚か者とは違う。

 彼女は大切な人の窮地を前に、これまでの自分を乗り越えられる強い人間だ。

 ――それは紛れもなく英雄の器だった。





 ◇





 まず左腕が千切れてどこかに飛んでいった。

 体のバランスが取れなくなる。

 平衡感覚を失って、がくりと膝をついた瞬間に怪物と化したヴァルトの体当たりで吹き飛ばされた。いくつもの木々をへし折ってようやく停止する。

ごぱ、と大量の血を口から零した時にはすでにヴァルトが肉薄していた。


「ぐうぅ……っ!?」


 振るわれるのは鋭い爪――だということを理解した時にはすでに右の視界がなかった。


「え……?」


 視界が、ない。

 その意味を頭が理解したと同時にヴァルトの三撃目が腹部をめがけて放たれていた。ここでようやく僕の反応が間に合う。それぐらいの速度差があった。

 回避したつもりでもヴァルトの爪が脇腹をかすめた。それだけで血が噴き出す。地面に突き刺さり亀裂が走り、石や瓦礫の余波を受けた僕は地面を転がった。

 何とか体勢を立て直して、迫りくるヴァルトの爪に剣を合わせて対応した。全身全霊を込めた受け流しは、圧倒的な力を前に弾き飛ばされる。

 これまでとは次元が違った。


 ――剣が、僕の手から離れていった。


 一瞬、思考に空白が生じる。

 その隙をヴァルトが見逃すはずもなかった。

 体をひねるような体当たりが僕の体を吹き飛ばした。撃ち出された砲弾のように放たれたそれは真っ直ぐ僕に叩きつけられ、べきべき、と体が不穏な音を鳴らした。

 気づいたら地面にうつぶせの状態で倒れていた。目の前は鮮血で溢れていた。

 何本もの骨を折られ、左腕を失い、右目を奪われ、脇腹は爪で切り裂かれている。

 激痛すらなかった。感覚なんてものはとうに失っていた。

 明確な死の予感だけがあった。

 どれだけ立ち上がろうとしても、物理的に体が動かなかった。


「ちく、しょう……」


 ――また負けるのか、僕は。


 ここで死んだら、ルナを助けられないのに。

 ここで死んだら、過去に戻ってきた意味がないのに。


「終わりだ」


 鋭い爪が再び構えられる。

 僕の首を刈り取るためにゆっくりと、その腕に力が込められていく。

 その瞬間の出来事だった。




「――そこまでだよ」




 声が、聞こえた。

 倒れ伏す僕とヴァルトの間に、何者かが君臨する。

 甲高い音を鳴らして、ヴァルトの爪を『魔力障壁』で食い止めた。


「なっ……!?」

「あなたのおかげで、わたしは自分の力の使い方が分かった」


 その声はよく知っている。

 だって、ずっと一緒にいた少女のものだから。

 だけど、おかしい。

 この少女はヴァルトの爪を止められるほど強い人間じゃなかったはずだ。


「ルナ……?」

「ごめんね、ブラム。わたしのせいで……」


 彼女は僕を振り向くと、くしゃりと表情を歪める。


「でも、もう大丈夫」

「テ、メェ……まさか、俺の憑依状態から逆算して……っ!?」


 動揺しているヴァルトを突き飛ばして、ルナは魔弾を叩き込んだ。

 魔女との契約で力を増幅している僕でも、見たことのないような威力が炸裂する。

 絶句している間に、ルナは僕のもとへ駆け寄ってきた。


「今、治してあげるから……! それまで死なないで、ブラム!」


 ルナの治癒魔法が起動し、みるみるうちに僕を癒していく。

 左腕や右目こそ失ったままだけど、傷は塞がった。血が止まれば死にはしない。

 ……それにしても、異常なまでの回復速度だ。

 あの状態から僕が一命を取り留めるなんて、どんな治癒魔法でも不可能なはずなのに。


「大丈夫、だよね? 生きてるよね?」


 不安そうに僕を見るルナ。その表情は確かにルナ本人のものだ。


「ル、ナ……その、力は……?」

「良かった。えっと、なんて説明すればいいのかな……」


 困ったように眉根を寄せて考え込むルナは、しかし直後に表情を変える。

 荒れ果てた地形の向こうで、ヴァルトが雄叫びを上げていた。


「やっぱり、あの程度じゃ駄目だよね。――今度は、わたしがあなたを守るから」


 覚悟を決めたルナの瞳は、見惚れてしまうほど美しかった。

 ルナは僕に背中を見せて、ヴァルトに立ち向かう。


「は、は……格好悪すぎるだろ、僕」


 助けたい女の子を助けられないばかりか、その子に助けられてしまうなんて。

 だけど気持ちは沈まなかった。

 自分がどれだけ格好悪いかなんて、自分が一番よく分かっている。

 そんなことより、ルナのおかげでもう一度チャンスができた。

 どうしてルナが急に強くなったのかは分からないけど、今はどうでもいい。

 ルナはヴァルトと戦っていた。

 覚醒したルナは強いが、“怪物帰化”を使ったヴァルトは格が違う。

 ルナは僕の致命傷すらも癒したあの強力な治癒魔法で、与えられた傷をすべて回復させながら戦っている。それだけでも凄まじいが、時間を稼ぐだけで精一杯ではある。

 ルナが強大な力を得たのは確かだ。

 しかし魔法の性能は一気に向上したものの、剣術や体さばきは今まで通り甘い。ヴァルトの剣を真似ているようだが、その付け焼き刃はヴァルトには通じない。

 ルナじゃヴァルトには勝てない。


 ――だから、僕がそんなルナを支えればいい。


 一人では届かなかった。でもルナが一緒なら活路も見えてくる。


 そうだ。

 僕は囚われの姫君を華麗に助けられる英雄のような人間じゃない。

 愚か者にできるのは、何度敗北したって何度絶望したって、また立ち上がることだけだ。


「――お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 立ち上がる。

 致命傷を塞いだだけの体でも、まだ動ける。

 ふらふらと揺れそうになる足を叱咤して、崩れ落ちそうになる膝を無理やり支えて、朦朧とする視界の中で、ぼろきれのように感じる体を持ち上げていく。


「ブラム……!?」

「あの傷で、動けるのか……!?」


 二人が驚愕する中で、僕は弾き飛ばされた剣を拾い上げた。

 左腕がない。だから右腕だけで振るうしかない。

 これまでのような剣術は使えない。

 それでも構わない。

 生きて立ち上がれるなら、まだ戦えるんだから。


「ルナ……一緒にあいつを倒そう」


 不安そうに僕を見ていたルナが、その言葉を聞いて目を見開いた。


「あいつを倒して、みんなのもとに帰るんだ」

「――うん」


 これ以上はないルナの笑顔を見て、僕は自分の愚かさに気づいた。


 ああ、きっとルナはずっとこうしたかったんだろう。

 幼い頃と、同じように。


 僕はルナの隣に並ぶ。

 片腕で剣を構えて、ヴァルトを睨みつける。


「ブラム……わたしを信じてくれる?」


 隣のルナが剣を構え直したことは見なくても分かった。もう意識は向けなかった。


「――ああ」


「クソッタレが……何回倒せば気が済むんだ、テメェはよぉ!」


 ヴァルトが襲い掛かってくる。


「ルナ、好きなようにやれ。僕が合わせる」


 こくりと頷くと共に、ルナは《魔力障壁》でヴァルトを受け止めた。

 ヴァルトは鋭い爪を振るい、それを叩き壊す。

 その時、僕はヴァルトの斜め後ろに回り込んで剣を振るっていた。

 僕を足蹴にすることで対応したヴァルトは、しかし正面のルナへの反応が遅れる。

 ルナの一撃が浅く入った。

 同時にルナは魔弾を展開する。足蹴にされた僕はヴァルトの傍から離れていた。

 僕はルナの体を囲うように《魔力障壁》を展開する。


「なっ……!?」


 ヴァルトに魔弾の零距離射撃が炸裂した。これまでの遠距離射撃だと着弾までの間に上手く威力を押し殺していたのだろうが、これならそんな真似は許さない。

 まともに食らったヴァルトはいったん距離を取った。簡単にそれを許したのは、奴の規格外の速度ゆえだが、攻撃はきっちりと入っている。銀の毛並みを血が濡らしていた。


「馬鹿が……っ! 一歩間違えりゃ自殺行為だぞ……!」


 ヴァルトが驚くのも無理はない。だってルナがやったのは自爆技に等しく、僕が《魔力障壁》をとっさに合わせなかったら、倒れているのはルナだったはずだ。

 だけど、僕は特に驚いていない。

 昔からルナは無茶をする。

 僕や周りの人に比べて地力が足りていなかった彼女は、勝算を得るためにリスクを負わざるを得なかったから。


 僕はそれを知っている。

 そしてルナは僕を信じている。


 だから。


「自殺行為じゃないよ。――だって、ブラムは合わせるって言った」


 ルナは真っ直ぐ踏み込んでいく。

 スペックで劣っている相手に、正面からの特攻。

 僕はいくつか《魔力障壁》を展開してヴァルトの攻撃を防ぐが、それでも至近距離の攻防にすべて絡めるわけじゃない。ルナの肩口をヴァルトの爪が切り裂く。

 だが、この程度なら今のルナは規格外の治癒魔法で即座に回復していく。

 その間は僕とルナが入れ替わる。

 さっきはまともに戦うことすらできなかったけど、ルナの剣や《魔力障壁》が僕とヴァルトの速度差を補ってくれる。だから僕は自分の剣に集中する。

 首を刈り取るような軌道で迫ったヴァルトの爪を、僕は無視して踏み込んだ。

 自殺行為にでも見えたのか、ヴァルトは目を見開く。

 しかしルナの剣がそこに割り込み、上に弾き飛ばした。

 爪を弾かれた直後のヴァルトは何とか体をひねったが、僕の剣が胴体に深く入った。


 堅い感触。

 しかし、そのまま叩き斬っていく。


「ぐ、お、あああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 ヴァルトは跳躍で後退し、しかし体をふらつかせた。


「なんなんだ、テメェら……即席の連携で、なぜそこまで信じ合える……!?」


 息が合うのは当然だろう。


 僕らが何年一緒にいたと思っている。

 僕らが何年並んで剣を振っていたと思っている。


「ここで終わらせるよ……!」


 これ以上の持久戦は不利になる。ルナの魔力だって無限じゃない。おそらくヴァルトの“怪物帰化”が解けるよりも先に、僕の体とルナの魔力が限界に達する。


「ああ――さよならだ、ヴァルト!」


 だから僕は裂帛の気合と共に大地を蹴り、まったく同じタイミングでルナも走り出した。

螺旋を描くようにルナと交差しながら、身構えるヴァルトへと肉薄していく。


 ここで勝負が決まると察したヴァルトも、咆哮を上げる。


「お――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 びりびりと響くその魔力波を受け、しかし怯まずに踏み込んでいく。


 ただ純粋に、今の僕にできる最高の剣を振るう。


 そのすべてをルナが補い、助けてくれた。

 だから僕もルナの剣を補い、助けていく。



 ――二対の銀閃が、夜闇の中で交差した。



「そうか……」


体を切り裂かれたヴァルトは倒れこむ。


「……きっと、俺はお前らみたいに、なりたかったんだ」


 それが最期の言葉だった。

 ヴァルトの死を見届けた僕は緊張の糸が途切れたのか、意識が闇に沈んでいった。


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