02
「……これはどういうことかしら、主催者さん」
「そ、そんなこと言われても、チルリルにも何が何やら……」
憮然とした様子のメリナと、ただただ困惑しているチルリル。
その二人の前で、アルドが腕を組んで仁王立ちしていた。
「二人とも、どういうことか説明してもらうぞ」
「うう……」
アルドに厳しい表情で問い詰められ、アザミとシュゼットはしょんぼりと頭を垂れる。
楽しい懇親の場であったはずのパーティ会場に戻ったら乱闘騒ぎが起きかけていたという理解不能な状況。アルドが意図せず盾代わりとなったことでなんとか収まったものの、あのまま続いていたらどうなっていたかわからない。
「どうして喧嘩してたんだ? さっきまであんなに楽しくやっていたじゃないか」
「そ、それが拙者にもよくわからないのでござる。あのばばろあという甘味をどうしてももう一度食べたくなり、気付けばあのようなことに……」
「わたくしも同じですわ。よく覚えてないんだけど、まるで自分が自分じゃなくなったような感じで……」
「自分が自分じゃない……?」
アルドは首をひねる。どちらの証言も曖昧としていて要領を得ない。
だが、どんな理由であれ二人がパーティを台無しにしたことは事実だ。
「よくわからないけど、お菓子を取り合って喧嘩するなんてダメじゃないか。せっかくのパーティなのに……」
「待ってアルド」と、レンリが割って入る。
「あの時、様子がおかしかったのは二人だけじゃないの」
レンリが他の二人に視線を送ると、アナベルが「ごめんなさい」と沈痛な面持ちで頭を下げる。
「私もどうかしていたわ。二人を止めるどころか、アルドたちの分を皆で分けようだなんて提案をして……騎士としてあるまじき恥ずべき行為だわ」
「えっ、アナベルもか!?」
これにはアルドも驚きの声を上げる。アザミとシュゼットならまだしも、アナベルがお菓子のために自制心を失うなど信じがたいことだった。
「私もだよ」とロディア。
「なんだか頭がぼうっとしてきてさ、どうしてもあのババロアが食べたくなっちゃったんだよね」
「ロディアまで? ……どういうことだ?」
「でも、レンリちゃんだけはまともだったよね?」
ロディアに振られ、レンリが頷きを返す。
「え、ええ。いきなり皆しておかしなことを言い始めるから、本当に驚いたわ」
「レンリだけが平気で、他の全員が同時におかしくなったってことか? ううん……ますますわけがわからなくなってきたな」
「――ちょっといいかしら?」
と、黙って話を聞いていたメリナが口を開いた。
「ん? どうしたメリナ」
「今の皆の話……ひとつだけ共通点があるわ」
「共通点?」
「ええ。我を失った全員が〝同じもの〟を食べたがっていたように聞こえたのだけど」
「同じものって……チルリルが持ってきた例のババロアか?」
全員がチルリルに視線を向ける。突然矛先を向けられたチルリルが驚いて飛び上がった。
「へっ!? あ、あのババロアがどうかしたのだわ?」
「確かに……そういえばチルリルさん、『クセがあるけど病みつきになる』って言ってたわよね」
レンリが捜査官らしい鋭い視線をチルリルに向ける。
「そ、そんなの知らないのだわ! チルリルはレシピ通りに作っただけで……」
「それにあのババロア、私だけ食べてなかったのよね。皆がおかしくなったのがあのお菓子のせいだとしたら辻褄が合うわ」
「なな、ななななのだわ……?」
探偵から名指しされた犯人のようにしどろもどろになるチルリル。
「チルリル、何か心当たりはないのか?」
「あるわけないのだわ! だって、そんなことマスターはひと言も……あっ!」
「何か思い出したのか?」
「う……その……」
言い淀むが、明らかに何か心当たりのある人間の反応だった。
しばらく逡巡していたチルリルだったが、やがて諦めたように口を開いた。
「実は、あのお菓子は――」
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