04

「ふんふふーん♪ 今日はとってもステキな一日になったのだわ!」


 モケを連れ、スキップでもするように軽やかな足取りで宮殿内を歩くチルリル。アルドがいないことに気付き、パーティを中座して探しに来たのであった。


「それにしても、アルドはどこに行ったのだわ? おトイレにしては遅いし、もしかして迷子になったとか……あっ!?」


 その笑顔が凍り付く。

 チルリルの目が捉えたのは、シーラスの大群、それを相手に戦っているアルド、そしてもう一人。


「アルド! それに……メリナ!?」


 魔力で顕現させた腕を操り、小さな体躯に合わぬ巨大な槌を振るう少女。

 パーティへの不参加を表明したはずのメリナだった。


「これは一体何の騒ぎなのだわ!?」

「チルリルか!?」

 シーラスの一体を斬り伏せたアルドが、駆け付けたチルリルに気付く。

「こいつらが急に宮殿内に雪崩れ込んできたんだ! 手を貸してくれ!」

「も、もちろんなのだわ!」


 二人の横に並んだチルリルが、メリナと同じく――正確にはメリナに対抗しての模倣であるが――魔力で武器を浮遊させる独特の戦闘態勢に入る。


「はっ!」

「たあーっ!」


 メリナの槌とチルリルの剣が同時に弧を描き、目の前のシーラスに強烈な一撃を叩き込む。メリナ同様、チルリルの戦闘力は教会でも折り紙付きであり、シーラス程度の相手ならば苦もなく倒してしまう。

 先頭の数匹を片付けたところで、チルリルがメリナに向き直った。

「でも、どうしてメリナまで戦ってるのだわ!?」

「どうして? わかりきったことを訊くのね。魔物から人々を守るのはの使命だからよ」

「うっ!?」

 痛いところを突かれ、チルリルが言葉に詰まる。

 いつもなら言い返す場面だったが、今回ばかりは反論できない。部屋のすぐ外で魔物が暴れていたというのに、自分はパーティに浮かれて騒ぎに気付きもしなかったのだ。

「二人とも、話はこいつらを片付けてからだ! 来るぞ!」

 アルドの声にチルリルが視線を戻すと、シーラスの群れの残りの数体が一斉に飛び掛かってこようとしていた。

「モケ、下がってるのだわ!」

 チルリルが地面を蹴り、メリナとアルドも合わせる。


「とりゃあーーっ!」「食らえ!」「眠りなさい!」


 同時に渾身の一撃を叩き込む。

 最後の一体が断末魔の悲鳴を上げ、地面に倒れ伏した。


「ふう。これでなんとか全部倒せたな」

 アルドが剣を鞘に戻して安堵の息をつくと、メリナも魔力を解いて槌を仕舞う。

「ええ。大事に至らなくてよかったわ」

「…………」

 しばしメリナの様子をじっと見ていたチルリルだったが、やがて焦れたように叫んだ。

「……メリナ! どうして何も言わないのだわ!?」

「ち、チルリル? いきなりどうした?」

「だって、いつものメリナなら絶対にお説教をしてくるところなのだわ!」

 しかしメリナは無表情のまま、やはり何も答えようとしない。

「メリナは見回りをしていたからすぐに異変に気付いて駆けつけたのだわ? なのにチルリルは、皆と楽しくお喋りするのに夢中で、こんなことになってるなんて全然気づかなくて……」

「それは違うぞ、チルリル」

「――え?」

 アルドに遮られ、俯かせていた顔を上げる。

「オレ、チルリルに言われた通り、メリナにもパーティに来るよう誘ったんだ。確かに一度は断られたんだけど……」

「やめてアルド。いちいち言わなくていいわ」

 メリナが止めようとするが、アルドは首を振る。

「いや、言わせてくれ。あの時メリナは――」

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