02
「次は拙者でござるな!」
アザミが意気揚々と前に出る。
「皆々様方、お初にお目にかかる。拙者はアザミ、東国より剣の修行に参ったサムライでござる。甘味を嗜む同志として、今後ともよろしくお願い仕るでござるよ」
かしこまった挨拶をして頭を下げるアザミに、他の参加者たちも会釈を返す。
「して、拙者が持参した甘味でござるが……もちろんみたらし団子にござる!」
「おっ、ちゃんと買えたんだな」
「うむ! ちょうど最後の十本だったでござる!」
満足げに胸を張るアザミだったが、テーブルの皿に並べられた団子の本数を数えたレンリが首を傾げる。
「十本? 七本しかないみたいだけど」
「あっ! いやこれは……ど、どこかでうっかり落としてしまったようでござるな!?」
(アザミ……我慢できなかったんだな)
アルドは察した。
「これが東国のデザートなのね。王国のものとは趣が違って興味深いわ」
「なんだか面白い形をしているのだわ!」
「蠱惑の甘露に串刺しの贄……魔界にいた頃を思い出しますわね!」
メンバーたちが盛り上がりを見せる中、ただ一人、背中を見せてぶつぶつと独り言を呟くレンリの姿があった。
「生クリーム……ブラウニーにプリン……蜜のかかったお団子……総カロリーは……」
「ん? レンリ、どうかしたのか?」
不審に思ったアルドが声をかけると、レンリは「な、なんでもないわ!」と慌てて携帯端末をポケットに仕舞いこむ。
「じゃ、じゃあ次は私の番ね」
ちなみにレンリだけは普段の仕事着と違い、いつぞやの露出度の高いカジュアルな服装である。
「私はレンリ。エルジオンを中心に治安維持にかかわる仕事をしているわ」
「よろしくなのだわ! それで、レンリは何を持ってきてくれたのだわ?」
チルリルに促され、レンリが持参した袋から取り出しテーブルに広げる。
「ニルヴァという町の名物、シュプリーム・タルトよ。上に乗ってるミストメロンが本当に絶品なの。きっと皆の口にも合うと思うわ」
「あっ、これずっと食べたいと思ってたやつだ! やったあ!」
「……じゅるり」
ふわりと漂うメロンの豊潤で官能的な香りに、シュゼットは素に戻り、アザミはよだれを垂らす。
「ふふ、盛り上がってきましたわね。次はわたくしの番ですわ!」
シュゼットが前に出る。
「わたくしは魔界の深淵より来たりし闇のプリンセス、シュゼット! 今宵このような罪深き魔宴にわたくしを召還したこと、とくと後悔させてあげますわ!」
「…………」
アルドとレンリが静かに目を閉じる。
「ぷりんせす? シュゼットはどこかの国のお姫様なのだわ?」
「あんまり真面目に聞かなくていいぞ、チルリル」
首を傾げるチルリルにアルドがすかさずフォローを入れる。
自称『救世主の生まれ変わり』と自称『魔界の王族』が同じ空間にいるというカオスな状況である。これ以上ややこしくしない方がいいだろう。
「さあ、刮目して御覧じなさい! エルジオン屈指の名店ラヴィアンローズのアマンディーヌですわ!」
シュゼットが持参した一品をテーブルに並べると、また参加者たちから嘆声が上がった。
「わあ! とっても美味しそうなのだわ!」
「ええ。見た目が鮮やかで素晴らしいわね」
「ラヴィアンローズは私もたまに行くわ。どのケーキも美味しいけど、このアマンディーヌは人気でなかなか手に入らないのよね」
「そうなの!」
レンリの言葉にシュゼットが興奮気味に反応する。
「この合成フルーツのコンポートがすっごく美味しくて、上品な酸味と繊細な甘さのバランスも絶妙なの! それにこのタルト生地もさっくさくで口の中いっぱいに芳ばしい香りが広がって幸せで、あとあと――」
「そんじゃ次はわたしだね~」
キャラクターが崩壊しだしたシュゼットを遮り、ロディアが一歩前に出る。
「虹の舞踏団所属、ロディアだよ。みんなよろしく~」
軽い口調で自己紹介をし、金属製の箱をテーブルに乗せる。
中から取り出したのは、大きめのシチュー皿に入ったスープのような一品だった。
「これは……スープにしか見えないけど、お菓子なのだわ?」
チルリルが不思議そうな顔でその品を見つめながら言う。他の皆も同様の反応をしていた。
「もちもち~。これはね、ケーキのスープだよん」
「ケーキのスープ!? どうやって作るんだそんなの?」
パンの刺身、と同じくらい違和感のある言葉にアルドが突っ込みを入れるが、ロディアは平然として続ける。
「簡単だよ。ケーキを瞬間凍結させて遠心分離機にかけるだけだから」
「しゅんかん……えんしん……?」
「自家製だけど、私はこれが一番好きなんだよね~。あと、こっちは紅茶のピクルス。意外と甘いものと合うんだ~」
「……チンプンカンプンだけど、なんだかすごそうなのだわ?」
「あ、ああ。よくわからないけど、この時代のお菓子作りの技術もすごいんだな」
チルリルとアルドが曖昧に反応する。
彼女たちだけでなく、その場にいる全員が異世界の食べ物を見るような目つきでテーブルを眺めていた。
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