第4話 超時空おやつパーティ開幕
01
「みんな、よく集まってくれたのだわ!」
主催者であるチルリルがメンバーを見渡して嬉しそうな声を上げる。
会場であるパルシファル宮殿の酒場には、チルリルとアルドの他、声をかけた仲間たち、そしてもう一名を加えた七名が集まっていた。
だが――
「アルドもよくこんなに集めてくれたのだわ! あとでなでなでしてあげるのだわ!」
「いや、それはいいから! それより……メリナ、来てないな」
その七名の中に、メリナの姿はなかった。
「ふん! 別にいいのだわ!」
チルリルは拗ねたような顔でそっぽを向く。
「せっかくたくさんおやつが食べられるチャンスを逃すなんて、頭カチコチのお馬鹿さんなのだわ!」
「はは……」
それが本心からの言葉ではないことはアルドにもわかっていた。
裏表も屈託もないチルリルだが、ことメリナのことになるとまったく素直ではない。
「でも、逆に声をかけてないのに来てる人がいるみたいだけど……」
アルドが参加者の一人に目を向ける。
その人物――ロディアが、アルドの視線に気付いて「やっほー」と陽気に手を振ってきた。
「ロディアも参加するのか?」
「うん。あたしも甘いものは大好きだからねー」
「へえ、そうだったのか。じゃあ声をかければよかったな」
ロディアは『虹の舞踏団』と呼ばれる七つ子姉妹で構成される八名のグループの一員である。七つ子はいつも一緒に行動していて、一人一人と個別に会話する機会はそうなかったので、アルドもロディアが甘党だとは知らなかったのだ。
「でも、このパーティのことは誰から聞いたんだ?」
「ん? たまたま偶然耳にしちゃっただけだよ。ま、細かいことはどうでもいいじゃない」
「あ、ああ……」
はぐらかされ、それ以上の追及を諦めるアルドだったが、やはりどこか引っかかるものを感じていた。
虹の舞踏団は「七つ子グループなのに八名いる」という時点で矛盾しているのだが、まさしくこのロディアが例外であった。
彼女は七つ子ではないにもかかわらず〝いつの間にか〟舞踏団に加わっていたのだという。詳しい経緯はアルドも知らないが、謎の多いグループにしてもっとも謎めいた人物であった。
「アルド、どうかしたのだわ?」
「ああいや、何でもない。じゃあ後はチルリルに任せるよ」
チルリルはこくりと頷くと、左手を高く掲げ、声高に宣言した。
「これより『超時空おやつパーティ』を開催します、なのだわ! 今日はいっぱい美味しいおやつを食べて、みんなで楽しくお喋りするのだわ!」
「……あれ? 究極のお菓子を決めて世界を救うって趣旨じゃなかったのか?」
アルドの指摘に、チルリルが「あっ!」と声を上げる。
「忘れて……なんかないのだわ! みんなで意見を出し合って究極のおやつを決めるつもりだったのだわ!」
(忘れてたんだな……)
アルドは察した。
「こ、こほん。まずは自己紹介と、持ち寄ったおやつの紹介を順番にお願いするのだわ!」
「ええ。それじゃ私から」と、アナベルが前に歩み出る。
「アルドと同じ時代から来た、ミグランス騎士団所属のアナベルよ。チルリルさん、今日はお招きいただきありがとう」
「へ? あ、えっと……こちらこそ来てくれてありがとう、なのですわ?」
「……ですわ?」
違和感を感じたアルドがそっとチルリルの横に移動し、耳元で囁く。
「どうかしたのかチルリル? なんか口調が変だったけど」
「……アルドの時代の騎士って、みんなあんな感じなのだわ?」
「あんな感じ? うーん……どうだろう。アナベルは聖騎士だから、普通の騎士とはちょっと違うかもしれないけど」
「聖騎士!?」
何故かその言葉に大袈裟に反応したチルリルが、オモチャをプレゼントされた子供のように目を輝かせる。
「なんだかすごそうなのだわ! 『剣持つ救世主の生まれ変わり』にも負けないくらいかっこいい響きなのだわ!」
「……? もしかしてチルリル、アナベルに見惚れてたのか?」
図星を突かれたのか、チルリルは慌てて首を振る。
「み、見惚れてなんていないのだわ! カッコいい剣を持ってるし、いかにも正義の味方って感じだし、チルリルとキャラがかぶってると思っただけなのだわ!」
「いや、キャラはかぶってないと思うけど……」
一応突っ込みを入れつつも、アルドにはチルリルの気持ちが理解できる気がした。
まだ子供でありながら、人々から頼られる立場にあるチルリル。そんな彼女にとってアナベルのようなタイプの大人は新鮮で、「こうなりたい」と思えるような憧れを抱く存在なのかもしれない。
「それじゃあ私が持参したお菓子を紹介するわね」
と、アナベルが手に掲げた籠から丁寧な手つきで中身を取り出し、テーブルの上に並べる。
「まずは王国風四種のクリームのシューサンド。それから初代聖騎士のアンナ様も愛したと言われるロイヤルブラウニー、そして王軍鶏卵のプリンね。どれもユニガンで人気のデザートで、特にこのプリンは絶品なのよ」
見た目にも豪華な品の数々に、他の参加者たちから歓声があがる。
「これは……なんと絢爛な! さすがは西国のすいーつでござるな!」
「きゃー! 美味しそー!」
「ああ、さすがアナベルだな。本当に美味しそうだ」
特に甘党というわけではないアルドも思わず唾を呑む。その横で、チルリルがぶつぶつと小声で呟いていた。
「さすが聖騎士さんなのだわ……。チルリルもいつかあんな風に……」
「ん? 何か言ったかチルリル?」
「な、何でもないのだわ!」
誤魔化すようにそっぽを向くチルリルであった。
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