02
金色のツインテールと丈の長いコートを風にたなびかせ、野次馬をかき分けて二人に近づいてくる人物――それもまた見知った仲間の姿であった。
「あっ、レンリ!」
「アルド? それに……げっ、シュゼット!」
シュゼットに気付いたレンリが露骨に顔をしかめる。
「新型の合成人間が暴れてるって通報を受けて駆けつけてみたら、まさかあなたたちとはね」
「合成人間? いや、オレたちは別に……」
「わかってるわ。どうせまたシュゼットが騒ぎを起こしたんでしょう?」
弁明しようとするアルドを遮るようにレンリが首を振る。
「いや……ごめん。けしかけたのはオレだし、オレにも責任があるよ。こんな騒ぎにするつもりはなかったんだ」
素直に謝罪をし、それから気になっていたことを質問する。
「でも意外だな。レンリとシュゼットって知り合いだったのか?」
「いえ、そういうわけじゃないけど……この仕事をしていて彼女を知らなかったらモグリだわ」
レンリはやや苦々しい表情で答える。
「モグリ……? よくわからないけど、有名人なんだなシュゼットは」
素直に納得するアルドであった。
司政官直属の捜査機関COAに所属する捜査官としてエルジオンの治安維持に務めるレンリと〝エルジオンの有名人〟シュゼットの間にどのような因縁があるのかは、推して知るべしである。
「そんなことより、もう街で目立つことはしないでよね! COAも暇じゃないんだから」
「あ、ああ。悪かったよ……。でも、レンリが来てくれて助かったよ」
肩を怒らせて詰め寄ってくるレンリの圧力にたじろぎつつも、意図せぬ幸運に喜びを隠せないアルド。騒ぎを起こすつもりはなかったが、結果的にレンリが来てくれたのは好都合だった。
「助かった? それはどういう意味?」
「ちょうど二人を探してたんだ。実は――」
本日だけで四度目ということもあり、慣れた口調で説明をするアルド。
話を聞き終えた二人の反応は対照的なものであった。
「お菓子を持ち寄ってパーティ!? 素晴らしいですわ!」
「シュゼットは参加してくれるのか?」
「もちろんですわ! 甘美なスイーツこそ闇の眷属にとって最上の供物! 魔界の住人代表として参加させていただきますわ!」
「よかった。レンリはどうだ?」
「……ううん。パーティは嫌いじゃないけれど……」
前のめり気味に食いついてきたシュゼットとは逆に、レンリは逡巡している様子で眉にしわを寄せている。
「できれば多くの人に来てほしいけど、無理に参加してくれとは言わないよ。レンリはCOAの仕事が忙しそうだしな」
「えっ! いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ参加してくれるのか?」
「う……でもその、摂取カロリーが……」
「かろりぃ? ああ、そういえばレンリは体調管理のために甘いものを控えてるんだっけ。それじゃあ仕方ないな」
「待って!」
引き下がろうとするアルドを引き留め、背中を向けて携帯端末を取り出して何やらいじりだす。
「……今月の消費カロリーは?」
『ピピ――現時点では目標値を下回っています』
「よし、まだ余裕はある……次の日からしばらく間食をセーブすれば……」
「どうしたレンリ? 一人でぶつぶつ呟いて」
訝しむアルドに、レンリは意を決して振り返る。
「私も参加するわ!」
「えっ、いいのか?」
「ええ。アルドには借りもあるし、仕事の方もなんとか都合をつけられそうだから」
「ありがとう! きっとチルリルも喜ぶよ!」
二人と別れた後、アルドは安堵に胸を撫でおろした。
勧誘できたのは四名だが、パーティの参加人数としてはひとまず十分だろう。
「さて、これで参加者は集められたけど……問題はメリナだな」
先ほどの頑なな物言いからして、普通に誘っても他の仲間たちのように承諾してくれるとは思えない。
間違いなく一番難しいミッションだが……同時に、最重要ミッションでもある。
「難しそうだけど、とにかく説得するしかないよな」
『超時空おやつパーティ』の成功を祈りながら、アルドは踵を返した。
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