第3話 参加者集め ②エルジオン
01
未来都市エルジオンへとやって来たアルドは、菓子店『ラヴィアンローズ』の前に立っていた。
「いつもこの辺にいるんだけど……うーん。今はいないみたいだな」
外見も言動も目立つ彼女のこと、意外と簡単に見つかるのではと楽観的に考えていたが、ユニガンに劣らず広大な敷地を持つエルジオンを隈なく探し回るのは現実的ではない。
「……ためしに大声で呼んでみるか」
大きく息を吸い、その人物の名を叫ぶ。
「おーい、シュゼットー!!」
街中に響く声に道行く人々が何事かと足を止めて振り返る。が、しばらく待っても目的の人物が現れる気配はない。
「……ダメか。まあ、さすがにそんな簡単には――」
と、諦めかけたその時だった。
「闇のプリンセス、召喚に応じ、現世にいざ降臨っ! ですわっ!」
謎めいた台詞とともに突然、上空から黒い影が降ってきて、アルドの目の前に着地した。
「うわ、ホントに出た!?」
「な、なんだ!?」「空から人が降ってきたぞ!」
周囲の人々も口々に叫び、中には腰を抜かす者もいた。
黒い影がすっくと立ちあがる。
ゴスロリ風の黒衣に身を包んだ巻き髪の少女――シュゼットが、芝居がかった動作でくるりとアルドに向き直った。
「さあ、我が真名を呼ぶ命知らずは一体どこのどなたかしら?」
「やあシュゼット、久しぶり」
「って、あれ!? なんだ、アルドかぁ」
アルドに気付いた途端、打って変わって砕けた物言いになるシュゼット。
彼女もまた「甘いもの好き」な仲間の一人、つまり『超時空おやつパーティ』に誘うべき候補者であった。
「でも……ふふ。このわたくしを呼んだということは、ついにわたくしの深淵なる闇の力が必要になったということですわね!?」
「いや、全然違うけど」
「よくってよ! 他ならぬアルドのため、この魔眼に封印されし滅びの邪神を解き放って――」
止まらないシュゼット節をいつものように聞き流しながら、アルドは考える。
(なんとなく呼べば現れるような気はしてたけど……どうやったらこんな登場の仕方ができるんだ?)
当たり前だが、シュゼットは魔界の住人でもなければ翼人でもないので空は飛べない。となると店の屋根から飛び降りてきたという可能性しかなさそうだが、しかし普通の人間は屋根に登ったりはしない。
そう……普通の人間ならば。
「なあシュゼット。勝手にお店の屋根に登るのはよくないと思うぞ」
「ふぇっ!?」
シュゼットは普通じゃないから屋根に登っていたんだろう、とアルドは結論づけた。
「屋根って何? どういうこと?」
「だって、呼んでから来るまでが早すぎるし……空から降ってきたってことは、つまりそういうことだろ?」
「ち、違うよ! 子どもじゃないんだから、屋根に登ってはしゃいだりなんてしてないよ!」
「……本当か?」
「本当だってばあ! 誰かに呼ばれたからちょっとカッコよく登場しようと思っただけで……あっ!」
動揺して口がすべったことに気付いたシュゼットは、取り繕うように「こほん」と咳払いをした。
「よくって? 地上の一億倍もの重力を誇る魔界で暮らしていたわたくしの魔脚ならば、この程度の距離は軽くひとっ跳びなのですわ!」
「……本当か?」
「もう、疑り深いですわね!」
腕を組んで疑いの目を向けるアルドに、シュゼットがしびれを切らしたように叫ぶ。
「そこまで言うなら見せてあげますわ! わたくしの華麗なる跳躍、とくとその目に焼きつけなさい――イービルジャンプ!」
シュゼットがかがみ、地面を蹴る。
次の瞬間、アルドの視界からシュゼットが消失した。
「おおっ!?」
「うわあっ!?」「な、なんだ!?」
遥か上空、仮にゲームならば画面外に消えるであろう高度にまで飛翔したシュゼットに、周囲の人々が悲鳴を上げる。
くるくると回転しながら華麗に着地を決めたシュゼットは、勢いのまま再び飛び上がった。
「それっ、イービルフライ!」
「おお!? さっきより高い!」
「ひええっ!?」
「まだまだいきますわ! イービルスカイ!」
「おお!? どこまでいくんだシュゼット!?」
「ひゃあああ!!」
素直に感心しているアルドとは逆に、周囲の人々の恐怖のボルテージは最高潮に達していた。
ゴスロリ風の少女が人間の肉体的限界を遥かに凌駕する跳躍を繰り返している光景を目にして、恐怖を覚えるのは無理もないことである。シュゼットの人並外れた超人的な身体能力あってこそ可能な芸当なのだが、アルド以外にそのことを知る者はいない。
「な、なんじゃあれは! 夢でも見ておるのかわしは!?」
「こわいよママー!」
「お、おい! 誰かEGPDを呼んでこい!」
(うわ!? なんかまずそうな空気に……)
「おいシュゼット、もうわかったからその辺で――」
「ちょっと、これは何の騒ぎ!?」
ようやく周囲の騒めきに気付いたアルドが制止に入ろうとしたその時、人混みの向こうから怒気のこもった声が響いた。
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