02
(あ、アルド殿! 婦人と二人きりで、しかも何やら親しげに……!?)
その人物が矢も楯もたまらずに飛び出し、アルドの背後に立つ。
「こ、こほん」
「――ん? あっ、アザミじゃないか!」
わざとらしい咳払いでその存在に気付いたアルドが彼女の名前を呼ぶ。
東方から中央大陸へ渡ってきた侍、アザミ。彼女もまたアルドの旅の仲間であり、また、アルドに並々ならぬ感情を抱く一人でもあった。
「アザミもユニガンに来てたんだな」
「う、うむ。ちょっとした野暮用がござって……って、そんなことはどうでもいいでござる!」
と、何やら切迫した表情でアルドに詰め寄る。
「アルド殿、そちらのご婦人とずいぶん仲睦まじく話していたでござるが……ご両人はど、どういう関係にござるか!?」
「え? いや、どういう関係って……」
困惑するアルドをねめつけつつ、アナベルをまじまじと観察するアザミ。
(垢抜けた西洋の甲冑……金色に輝く垂髪……凛として余裕すら感じられる佇まい……拙者とまったく違うたいぷではござらんか……!)
固く握りしめたアザミの拳がふるふると震え始める。
「……アザミ? どうした?」
「アルド殿……拙者との婿入り話に決着もついていないというのに、別のご婦人とで、でえとに興じるとは……不義理がすぎるのではござらんか?」
「デート!?」
あまりに突飛な発言に思わずのけぞるアルド。
普通に会話していただけなのに、何故そんな勘違いをしているのか。理解が追い付かないが、とにかくあまり良くない流れであることだけは理解できる。
「ちょっと待ってくれ、オレたちは別に――」
「問答無用! 不埒な浮気心ごと叩っ斬ってやる故、そこになおるでござる!」
「うわ、危な――」
きぃん!――と、甲高い金属音が街中に鳴り響く。
アザミが繰り出した一振りを、アナベルの聖剣が弾いた音だった。
「む……! 拙者の剣を受けるとは、さ、さすがはアルド殿が見初めただけはあるでござるな」
「……? 何を言ってるのかよくわからないけれど、こんな街中でいきなり刀を抜くなんてどういうつもり?」
「ふ、二人とも落ち着けって。アザミも刀を収めてくれ。たぶん何か勘違いしてるから」
アルドが慌てて間に割って入って二人を引き離すと、ようやく一触即発の空気が解かれる。
「アナベルはアザミと同じ、旅の仲間だよ。ちょっと用があって話してただけで……」
(……なんでこんな言い訳みたいなことを言ってるんだろ、オレ)
心の中で深いため息をつく。
どうやらまだアザミは婿入りの件を諦めていないらしい……アルドにしてみれば言いがかりも甚だしいのだが。
「そ、そうでござったか」
自分の早とちりだと知ったアザミがようやく刀を鞘に収めると、アナベルに深々と頭を下げた。
「拙者としたことが我を忘れてしまったでござるよ……まだまだ修行が足りないでござるな」
「ま、まあいいって。誤解は解けたみたいだし、それにアザミが勘違いして突っ走るのはいつものことだろ? ほら、あの時だって――」
アルドの脳裏にとある記憶が蘇る。
以前にアザミと行動を共にした時のこと。アザミは終始〝あるもの〟に非常に強い執着を示していた。
「……なあアザミ。さっき用事って言ってたけど、もしかしてまたリンデにみたらし団子を買いに行こうとしてたんじゃないか?」
「な、何故それを!? 確かにリンデで物産展をやるという噂を耳にして向かう途中でござったが……」
「みたらし団子? それって確か、東方のお菓子の名前だったわよね。私は食べたことがないけれど」
「ああ。つまりアザミもお菓子が好きってことだから……」
アルドがアザミに向き直り、そして言った。
「アザミ、いい話があるんだ」
アルドがパーティの説明をすると、アザミは目をキラキラと輝かせ、ついでに口から流れ出るよだれもキラキラと輝かせた。
「なんと、世界中の甘味を持ち寄る会合でござるか!? それはなんとも魅惑的な……是非とも参加させてもらうでござるよ!」
「よかった。じゃあまた迎えに来るから、それまでに……」
「そうと決まれば急いでリンデへ向かうでござる! みたらし団子が売り切れる前になんとしても手に入れてこなければ!」
「あっ、アザミ!」
言うが早いか、アザミはリンデ方面へと駆け出し、あっという間に姿が見えなくなった。
「……常々思っていたけれど、アルドの仲間って本当に個性的な人が多いのね」
アナベルがしみじみと言い、アルドは「そうだな」と心から頷く。
個性の強さはさておき、話を最後まで聞かずに行ってしまう仲間が多すぎるのは何とかしたいところであった。
仕事に戻るというアナベルと別れ、アルドは次の目的地に向かうことにした。
今のところ参加者は二名。できればもう少し集めてやりたいところである。
「さてと……次は未来に行ってみるか」
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