第2話 参加者集め ①ユニガン
01
「さて、とりあえずユニガンに来てみたけど……」
パーティの参加者を集めるためにアルドがまず訪れたのは、現代の王都ユニガンであった。
理由は、甘いものが好きな〝ある人物〟が拠点としている街だからである。
「どうやって探すかな。闇雲に歩き回っても見つからないだろうし……」
中央大陸髄一の都市であるユニガンは、住人だけでなく商人や傭兵、旅人などが集い、常に大勢の人で賑わっている。先ほどから注意深く目を配っているものの、さすがに人間一人を見つけ出すのは難しそうだった。
「……ん?」
ふと酒場の方に顔を向けると、ちょうど目当ての人物が酒場から出てくるのが目に入った。
「あっ、いた! おーい、ユーイン!」
「ん? ……おおっ、アルドじゃねーか!」
大声で呼びながら駆け寄ると、その青年もアルドに気付き、気持ちのいい笑顔を返してくる。
武器商人、ユーイン――と言っても扱うのは普通の武器ではなく、呪いの武具を専門とするブローカーである。
いわゆる裏社会の人間や悪巧みをしているきな臭い客を相手にすることも多く、なかなかに血生臭い生業で生計を立てているユーインだが、その生き様と強面な風貌からは想像もできないほどに〝大のつく甘党〟であることを、アルドはよく知っていた。
「ユーインなら酒場にいるんじゃないかとは思ってたけど、すぐに見つかってよかったよ」
「俺を探してたのか? ってことは、また呪いの武具の噂でも耳にしたか?」
「いや、今日はそういう話じゃなくてさ。実は――」
アルドが経緯を説明すると、ユーインは「はっはっ!」と豪快に笑った。
「相変わらずよくわかんねえことに巻き込まれてんなあ、このお人好しは」
「そう言うなよ……で、どうかな? ユーインも甘いものが好きだったろ?」
アルドの誘いに、ユーインは首を横に振った。
「いや、せっかくの誘いで悪いが、俺は遠慮しとくぜ」
即答で断られ、アルドは肩を落とす。
「そっか……残念だな。仕事が忙しいのか?」
「そうじゃねえ。その嬢ちゃんは『お菓子で世界を救う』って言ってんだろ? そんな牧歌的な集まりに俺みたいな稼業の人間が混じるわけにはいかねえよ」
「……チルリルはそんなこと全然気にしないと思うけどな」
目を瞑り、ユーインの素性を知ったチルリルの反応を想像してみる――すぐに鮮明なイメージが浮かんできた。
「たぶん、チルリルなら『甘いもの好きな人に悪い人はいないのだわ!』とか言うと思うぞ」
アルドの言葉に、ユーインは「へっ」と愉快そうに鼻を鳴らす。
「なるほどな、さすがアルドの連れだけあって面白そうな嬢ちゃんだ。けどまあ、やっぱり俺は参加しないでおくぜ」
「……どうしてだ?」
「大人数で顔つき合わせて、ってのが性に合わねえのさ。甘ぇもんってのはよ、一人でじっくり味わって食うのが一番うめえんだ」
「へえ……。そういうものなのか?」
「ま、こいつはあくまで俺の流儀だけどよ。いつかわかる日が来ると思うぜ、その嬢ちゃんにもな」
達観したような口ぶりでそう言うと、ユーインは右手を軽く振り、颯爽と王都の喧噪の中へと消えていった。
「……なんか、年季の入った酒呑みみたいな理由だったな。ユーインらしいっちゃらしいけど」
アルドは酒が飲めないが、仲間に誘われて一杯に付き合うことはよくある。酒場でデザートを食べる時のユーインの表情や仕草は、思い起こすと、愛飲家の仲間たちのそれとどこか近いものがあった。
「でも、いきなり断られちゃったな。仕方ない、他を当たるか……」
消沈するチルリルの表情を想像し、次こそはと気合を入れる。
と、そんなアルドの姿を見つけて声をかけてくる人物がいた。
「あら? アルドじゃない」
「ん?」
アルドが振り向くと、そこに鎧に身を包んだ女性の騎士が立っていた。
「あっ、アナベル!」
ミグランス第一騎士団の団長であり、『聖騎士』の称号を持つアナベル。
平和を愛する心と圧倒的な武力を併せ持つ彼女は、アルドとともに死線をくぐり抜けた戦友であり、アルドが探そうとしていた〝甘いもの好き〟な候補者の一人でもあった。
「会えてよかったよ、ちょうどアナベルを探そうとしてたところでさ」
「私を? もしかしてまた何か事件が起こったの?」
「あ、いや。まあ、事件といえば事件だけど……」
先ほどユーインにしたのと同じ説明をする。最初は何事かと構えた様子で話を聞いていたアナベルだったが、聞き終えると拍子抜けしたような顔をした。
「お菓子を持ち寄って食べる会……その参加者として私を探していたということ?」
「そうなんだ。どうかな? アナベルも甘いものが好きだったと思うし、できたら参加してほしいんだけど」
誘ってはみたものの、恐らくアナベルには断られるだろうと予想していた。
立場上、アナベルは常に多忙な身である。ユニガン周辺の警備などの現場任務だけでなく、騎士団長という隊を率いる立場でもある彼女は日々雑務に追われているらしく、パーティに参加する暇などないのではないかと。
しかしアナベルの返答は意外なものだった。
「ええ。そういうことなら、是非私も参加させてもらうわ」
「えっ!? いいのか!?」
思わず訊き返すアルドに、アナベルはいたって真剣な表情で答える。
「甘いもので世界を平和にする……そんな発想は私にはなかったわ。争いのない理想の世界の実現に向けて何か得るものがあるかもしれないもの。それだけで参加する意義は充分にあると言えるわ」
「アナベル……」
アナベルらしい真摯な考え方に、アルドも自然と口元が緩む。
「け、決して甘いものが食べたいという理由だけではないのよ? これはあくまで私の理想のためで……」
「あ、ああ。わかってるって。でも、騎士団の仕事は大丈夫なのか?」
「ええ、今なら時間を作れると思うわ。最近は魔物たちも大人しくしているし……ふふ。優秀な副官もついてくれているから」
「……そっか。そうだな」
アナベルの負担を減らそうと書類仕事に四苦八苦するディアドラの姿を思い浮かべる。前に会った時は慣れない仕事に苦労しているようだが、どうやら二人三脚でうまくやれているようだ。
「じゃあ、詳しいことが決まったら迎えに来るよ。それまでにお菓子を準備しておいてくれ」
「了解したわ。……それにしてもアルドも大変ね。一人で参加者を探してまわるなんて」
「ははっ、そうだな。でもまあ、好きでやってることだから」
「ふふ。相変わらずね」
朗らかに笑い合う二人。
そんな二人を、少し離れた場所から眺めて――正確には、物陰から覗き見をしている人物がいた。
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