第40話 ドンキダンジョン
獣耳男子中学生。
そんなのオタク属性の女の子が放って置く訳が無く、なんなら「せめて、せめて男のだけでも!」「獣耳には違いあるまい」「あの歩って子なら女装させてイケやろ」「そのサラサラボーイを捕まえろ!」「女子組も手伝え! あのサラサラにメイド服着せるぞ!」「らじゃー!」「お化粧は任せて!」「ふひひ、スレンダーならチャイナドレスもイケるよぉ」と男性も群がる始末だった。
「はっはっは愉快愉快」
「いや、えげつねッスよココロさん。歩のガチ泣き逃走とか初めて見たんスけど」
「正直すまんかったって思ってる」
今も女の子に犬耳と尻尾をもみもみされてるレイジは、ジト目で私を見る。
けど君、女の子にちやほやされて満更でも無さそうだね?
「男にも性的な目で見られて追い回されるって、アユミン貴重な体験をしたなぁ」
「姉ちゃん後で謝れよ。あゆむ兄ちゃん根に持つぞ」
「アユミンも結構ケモナー気質だから、私の場合尻尾爆撃すればだいたい許してくれるんだよね」
「むしろトラウマ量産された所に極上のもふもふで癒されて、もふもふ依存性まであるっスよ」
「そん時は責任持って私の尻尾で狐吸いくらいは許してやるよ」
レイジは白い秋田犬、アユミンはノルウェージャンフォレストキャットそっくりの精霊を獲得している。
もちろんレイジは憑依すると白髪になり、アユミンも複雑な毛の色になる。
「さて、アユミンが帰って来る前に情報集めよっか。女の子いっぱいだし、教えてくれるっしょ」
「みんな! ココロさんが質問に答えてくれたらもふもふ一分だって!」
「あ、レイジてめっ……」
女の子の津波が発生した。
あとなんかアユミンに逃げ切られた男性が尻尾触りたいって土下座してきた。こわっ。
男は女の子達に蹴り転がされて、私は女の子にもみくちゃ祭りが催され、そんな中で情報を集めて行くと、アキバ拠点の事情がわかった。
このアキバを支えているのはやはりボス有りダンジョンの存在で、なんと安さの殿堂を自称するあのお店、ドンキーホーツがまるっとダンジョン化。
アキバはそのダンジョンが完全にダンジョン化するまで、色々と問題が重なってそれどころじゃ無かったらしく、お陰で今でもほぼ全ての物資がそのままって言う奇跡のダンジョンとなっている。
ドンキダンジョンと皆が呼ぶそこは予備電源があって、終焉後も少しの間は冷蔵ボックスなどが生きていて、お陰でチルド系の生鮮食品すらギリギリ生きてダンジョン化し、未だに終焉前の生鮮食品が口に出来る稀有なダンジョンとなっているのだ。
そして気になる出現モンスターはレベル七相当のアナコンダ級大蛇で、ボスを含めてコイツを倒し続ければギリギリレベル三十五まではレベリング出来るそうだ。
ただ、ドンキダンジョンのボスは経験値が配下とそう変わらないのに強さだけはレベル二十越えのふざけた蛇で、配下の三倍は大きくてドンキダンジョンの最上階、アイドルのミニコンサートホールに陣取っているそうだ。
せっかくだから行ってみようと、秋菜を拝み倒しているポン酢に許可をとってダンジョンアタックに向かう。
「あ、ココロさん。俺と春樹は周辺のモンスター探って来るっス。聞いた通りのレベルならココロさん一人でも余裕ッスよね?」
「もうむしろダンジョン行くって感じじゃなくて、全品十割引のドンキに行くつもりなんだけど」
「あきな、おねーちゃんと行くよ。ドンキーって行ったことないの」
「そっかそっか。あ、でも秋菜気を付けろよ? ドンキーは色んな人の為の店だから、エッチな人の為の商品も置いてあるんだ」
「………そうなんだぁ。じゃぁお兄ちゃんは入っちゃダメだね」
「なんでだよっ!? むしろ俺より年下の秋菜はもっとダメだろ!」
「だってお兄ちゃん、そんな所に行ったらおねーちゃんに何か変な事する道具取ってくるでしょ」
「…………否定は出来ない」
「お兄ちゃん気持ち悪い」
そんなこんなでダンジョンへ。
人の居る場所から離れるとかなり荒廃とした街並みに変わるが、その中でも異質な建物がダンジョンとして聳えていた。
流石にもう電源は生きてない様だが、押しの強い店構えが無事なだけでだいぶ異様な雰囲気を醸している。
私と秋菜に続いて女の子が七人ほどついてきてキャピキャピしているが、なんか自分に欠けていた成分が補充されて行く感覚があって悪い気はしない。
「あ、ココロさん。あれがドンキダンジョンの蛇ですよ!」
「おおー、気合い入ってんなアイツ。ダンジョンの入口からメンチ切ってんじゃん」
開きっぱなしの扉、そのダンジョンと外を区切る境界線ギリギリにそのアナコンダが、本当にアナコンダその物の姿をした蛇が居た。
私は実の所、蛇と言う動物が嫌いじゃない。
「が、まぁ塵芥が私にメンチ切るとか不遜よな。死んどけ」
蛇特有のつぶらな瞳でコチラを見ていたアナコンダは、私が尻尾を振ると風の剣閃を浴びて首が飛んだ。
まだ十メートルくらいあっただろうけど、そんな距離は関係ない。私の視界に入っているなら、私の尻尾からは逃げられない。
「わっ、わ、今の何したんですか? ココロさん、何もしてないのに蛇が……」
「何もしてないなんて、私はちゃんと尻尾を振っていたぞ?」
「……え、尻尾を振ると敵が死ぬんですか?」
「ああ。私は文字通り、敵に尻尾を振るんだ。媚びる為じゃなく、殺すためにな」
ちょっとカッコつけてニィッと笑うと、女の子達が華やいでワッと沸く。ちょっと気分が良い。
そのままビタンビタンと暴れるアナコンダに尻尾を振って雷撃をブチかますと、半分消し飛んで動かなくなった。
「うーん、アナコンダの肉って美味いのかな? 蛇は不味くないって聞くけど」
「どうだろー? お姉ちゃん達、知ってる?」
「あー、食べる人は食べてますね。臭みも無くて食べやすいそうです」
「すると、君たちはアレ苦手なのかな?」
「えーと、まぁ、はい。ドンキの中に食べ物いっぱい有るので、わざわざ蛇食べようとは思えなくて……」
「まぁチルドのソーセージとか手に入る様なダンジョンだもんなぁ。私は蛇もちょっと食ってみたいが。蛇の唐揚げとか美味いらしいじゃん?」
そんな雑談をしながら、消し飛びかけてるアナコンダの死骸を蹴飛ばしてダンジョンに入る。
超感覚を深く意識して、軽く隠密スキルを持っているらしいアナコンダの所在を暴いていく。
「……暗っ! そっか電源死んでんのか! あ、茶髪のおねーさん、後ろ危ないよ」
「え? あっ、わぁ!?」
物陰から飛び出たアナコンダを、女の子に噛み付く前に風の剣閃を撃つ。
ビタビタ暴れられるのもウザイので細切れにしてから、びっくりして倒れてくる女の子を尻尾で受け止める。
ついでに尻尾をゆらゆらして周囲に狐火を飛ばす。これは狐火スキルじゃなくて普通に魔法。
「不意を打たれても、確実に後の先で刻んであげるけど、一応周りは気を付けてね?」
「は、はひぃ! あり、ありがとうございますぅ……」
この女の子はレベルが十五くらいなので、不意打ちされたらアナコンダでも怪我をしそうだ。
尻尾で抱き止められたのが感激なのか、ふわふわした面持ちでお礼を言う。
「さーて、確か生鮮って一階のスグそこじゃ無かったっけ。ソーセージとかサラダチキンとか有るのかね」
「あ、そう言うのはだいたい、ボス倒してスグ回収されるので……」
「そっかぁ……。ボス倒すとどのくらい物資回復するの?」
「たしか全回復のはずですよ」
「えっ、マージ? よっしょすぐ行こうボス殺そう!」
「さんせー! はやくいこ!」
「あの、でも、ボス強いですよ?」
「安心しなよ。私はもっと強い」
「あきなもー!」
それから久しぶりに文明の加工食品が食べた過ぎて、私はズンズンとダンジョンを進み、停止したエスカレーターもどんどん登り、最上階に辿り着いた瞬間、威嚇してシャーシャー言ってる巨大アナコンダを文字通り細切れに刻んだ。
一瞬の出来事で女の子達は唖然としている。
索敵スキル持ちも居なくて、私達の強さが具体的に分からなかったのだろう。
そんな中でボスの秒殺というか文字通りの瞬殺。
「ふわぁ、ココロさんってホントに強いんですね!」
「すごい、可愛いのに強いとか素敵、かっこいい……」
「なんか、私なんてエスカレーター登り切ったらボスが死んでたんだけど、何が起きたの? 誰か三行で」
「ココロさん尻尾揺らす。ボス死ぬ」
「二行じゃねーかオィィィィ」
「煩いわよ銀魂女子」
「騒いでないで早く戻ろうぜ。チルド食品が私を待っている」
一階に戻ると、食品コーナーの冷蔵ボックスにお肉たちが復活していた。
他にも缶ビールとか、イカの塩辛とかが入ったカップとか、あと魚系のチルド食品も復活していて、私は即座に尻尾を揺らしてめぼしい食品を冷凍した。
「うっひょー、見ろよ秋菜、鰆の切り身とかあるぜ。缶詰以外の魚とか二年ぶりだよオイ」
「おねーちゃん、ソーセージあるよー? あとこれ、なんだろ?」
「いやマジで色々有るじゃん。これ根こそぎ持って行って良いの?」
「……あ、はい。ボス倒せば戻りますし、フロア一つの商品を一割も持ち出したら、ボスも復活しま--」
「--はぁっ!? ここのボス、リポップが時間制じゃねぇの!? マージ!? よっしゃ秋菜、人海戦術の始まりだー!」
「秋菜上にいく?」
「頼むわ。私はアッシュ達呼んできて一階の食糧良い感じで持ち出すわ。おねーさん達も手伝ってくれ! お礼に夕食ご馳走するから!」
私が一階の食糧を手当たり次第に持ち出し、ワイバーンのバッグに詰めて行く。
女の子達の手伝いもあって、結構な回数周回することが出来た。
その女の子達も大量に持ち出した物資に小躍りして喜び、夕食は何が食べれるのかと楽しそうに話している。
女の子達にとって、自分で倒せないボスを越えないと手に入らないチルド系はもちろん、すぐに運び出されてしまう人気の物資は口にするチャンスが少ないのだそうだ。
だから運び出せたただのソーセージの山を見ただけで小躍りしてる訳だが、そんな事言われたらもっと美味しいもの食べさせたいじゃんね?
私は女の子達をワイバーンの傍に待たせると、帰って来た秋菜と一緒にもう一度ダンジョンへ入り、カセットコンロやカセットガス、持って来てない調理器具、調味料などをかっ攫ってから帰って来た。
「よし、女の子達が寝泊まりしてる拠点ってどこよ? みんなバラバラ?」
「あ、いえ、私達は共同で、あっちのラジオ会館ら辺で生活してます」
「そこって、ウチの男の子達呼んでもへーき?」
「獣耳男子なら大歓迎です!」
「……おねーちゃん、お兄ちゃんはケモミミじゃないから来れないね。亀だもん……」
「あっ、いやいや大丈夫だよ! 秋菜ちゃんのお兄ちゃんも大歓迎だよ!」
そんな訳で、私達は女の子達の拠点にお邪魔することにして、アッシュとモモちゃんも連れてやって来た。
一緒にダンジョンへ行った七人の他にも、忍びスタイルのねねちゃん、そしてシズクもここで生活しているらしい。その他の女性はまた別にグループを作って共同生活をしていたり、あとは特定の男性と二人で暮らしていたりするそうだ。
ここアキバには朝からやって来たので、ダンジョンの周回が終わって今やっと昼過ぎくらいだ。
「夕食ご馳走するって言ったけど、昼も一緒に食べようぜ。ワイバーンが居ればすぐに私達の拠点まで食材取りに帰れるし、遠慮はしなくていいからな」
「えっと、良いんですか?」
「良いから良いから。昼食も夕食も任せなって」
私は自信満々に言うと、アッシュのバッグから次々と食材を降ろしていき、そしてメモを一枚書いてバッグに入れて、アッシュを自宅拠点まで飛ばす。
「アッシュ、雪子の所まで行ってお使いしてくれるか? しばらく滞在する拠点が決まったから、生鮮系もじゃんじゃん送ってくれってメモ入れたから、向こうに行ったら雪子の指示で帰って来てくれな」
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