第33話 追い抜かれた!
「ごべんばばい……」
「あ? 聞こえねぇよ三下ァ。ちゃんと日本語喋れやァ」
私は日の本の言葉喋らないと殺しちゃうマンになりつつ、手加減して殴ってあげたにも関わらず更に絡んで来た馬鹿を有言実行してすり潰した所だ。
「てめぇみてぇな奴がだらしねぇから、子供が腹空かせてんだろぉがよぉ? 威張り散らす暇があんならガキが腹膨れるくらい働けやボケェ!」
ボコボコにされて這い蹲って男の頭をグリグリと踏み付け、ちびっ子から「きつねのおねーちゃん、こわい」と言われながらも馬鹿に制裁を下す。
「次下らねぇ事で絡んで来たら比喩無しで殺すからな」
最後に男を蹴っ飛ばし、竈に戻る。
子供達は私を怖がり、私はとても悲しい気持ちになるが、それは子供達の責任じゃないのだ。あの馬鹿が悪い。
「……ふぅ。ちびっ子たちぃー!」
私がちょいと叫ぶと、子供達はみんなビクッとして、中には「おにく食べてごめんにゃさいっ!」と泣く子も居るが、今は気にしないでおく。
「ああやってちびっ子達を怒鳴り散らす馬鹿は、私が全員ブチのめしてやるから、気にせず肉を食え! お腹いっぱいお肉を食べて笑うのがちびっ子の仕事だぞ! わかったか!」
そして私が笑え笑え食え食え笑えーとお肉を持って子供達の口に肉を放り込み始めると、次第に私に対する畏怖は消え、「きつねのおねーちゃんありがとっ!」と笑ってくれるようになった。
良き良き。
「おねーちゃん、お疲れ様?」
「疲れちゃいねぇよ。一応ここの最大戦力だしな。ビシッと決めねぇと」
「………最大、せんりょく?」
私も自分の食事に戻り、今もちょいちょい肉を切り分けて塩を振ってる雪子から追加の肉を貰う。
食べながら秋菜と言葉を交わすと、何かを思い出したように首を捻る秋菜に、私も首を捻る。
「……どうした?」
「あのね、おねーちゃん今、レベルいくつだっけ?」
「そりゃ、八十三だけど」
一応ステータスも確認して答えると、それを知ってるはずの秋菜は私の答えを聞いて、にぃっと笑った。
「おねーちゃん、今あきな、レベル八十七!」
「……………あああああ、ワイバーンか! アイツ百十五!」
私も思い出した。
四人で唯一格上のワイバーンを単独で殺して見せた秋菜が、初めて腐肉に遭遇した頃の私みたいにレベルが爆上がりするのも当然だった。
それぞれ個別に戦っていたから、秋菜のワイバーンの経験値は秋菜にだけ注がれる。私たちには一切のレベルアップは無い。
「あああああ嘘だろ、追い抜かれたぁっ!?」
「えへへー、うふふー、おねーちゃんに勝ったぁー!」
「うわぁあっ、マジか、予想以上に悔しいんだけどっ!?」
聞いて居た春樹も度肝を抜かれている。
何せ春樹は秋菜に追い付くために必死でレベリングしていたのだ。なのに秋菜が私を抜いた。つまり春樹は私も抜かないと秋菜を追えないのだ。
「嘘だろ秋菜、姉ちゃんを抜いた……? ああああ嘘だろぉっ!」
「ああああああマジかァっ!?」
「えへへー、あきなが最強だもんねー!」
グループ最強の座が秋菜に渡った。
別に執着してた訳じゃ無いけど、グループを守護する立場っていう自負はあった。それが消え去った気がして、全部秋菜に持って行かれた気がして、どちゃくそ切なくて悔しい。
だけど今は、ただ悔しがるのは不正解だ。
「くっそぉぉお、ナイスファイト秋菜ぁ! でもスグ追い抜き返すからなぁ!」
「いひひー、逃げ切っちゃうもんねぇ」
「いやいや、秋菜はワイバーンの倒し方も教えてくれたし、元々私の方がレベル高かったんだし、一体倒すだけでひっくり返るんだぜ?」
「でもおねーちゃんが倒してる間にあきなも倒せば、ずっとそのままだよ?」
「ぐぬぅ、狐たち総動員するか」
「あ、それはズルいよおねーちゃん。数が倍じゃん!」
「ふ、装備も含めて私の力だ。精霊は装備だ。つまり全精霊を使っても何も問題ない。何もズルくない。そもそも秋菜ドラゴン使ってワイバーン倒してたじゃん」
「あ、そうだね。てへっ」
私と秋菜が騒いでると、子供達がどうしたのーと集まる。
私は素直に、さっき強さで追い抜かれちゃったんだぁと言うと、ちびっ子達は「きつねのおねーちゃん、がんばって!」「あたちおーえんちてる!」と励ましてくれた。
秋菜も「つののおねーちゃん、つよいのー?」「ドラゴンかっこいー!」「かわいいでしょ? ドラゴンちゃんおめめくりくりー」と大人気だ。
「なぁ春樹」
「どしたよ姉ちゃん」
「レベル負けるってくっっっっそ悔しいな」
「わかる」
私は逃げたワイバーンを絶対に殺す事を誓った。
と言うかあんのクソワイバーンが逃げ出さなかったらこんな事にならなかったんだ。全部アイツが悪い。
そして食後。
いくらでも食える前提なのは置いといて、良い感じで腹もくちくなった私達は、井戸端会議で話しが纏まったのかを本人達に聞いた。
「とりあえず、約束の一体は仕留められてる。ならばコチラも約束通り鶏と野菜を差し出そう」
「どうもー。それで?」
「……出来れば、逃げたワイバーンも倒して欲しいが、可能だろうか?」
「もちろん、殺すことに関しては次こそ絶対に、完膚無きまでブチ殺すと誓うけど」
「そうか。……それで、コチラは次、何を支払えば良いだろうか?」
要は、最初の話しはワイバーンが一体と言う話しだったので、ここで報酬を貰えば契約は終わりである。なので追加のワイバーン討伐に、なんの報酬が必要かをこちらに問うているのだ。
くれるなら貰うし、鶏ももっと欲しいけど、そんな余裕は無さそうに見える。
「そもそも、報酬分の鶏生きてるの?」
「生きてる。報酬分の鶏しか生きてない、とも言えるが」
「なるほど。追加で差し出す分がワイバーンに台無しにされたんだ」
「ほんとに、忌々しいトカゲだよ全く……」
「それじゃぁ、そうだな。……あ、このホームセンター、ペットフードって残ってる?」
前々から調教アイテムのペットフードは気になっていたのだ。
ここもホームセンターなら置いてあるだろう。
「……あるが、あれが必要なのか? あ、その狐たちにか?」
「それも面白そうだけど、他に利用方法が有るんだよね。まぁ使い方が知りたいなら別途情報料貰うけど」
「ふむ。……気になるが、あれが対価になるなら、差し出そう。どれくらい欲しいんだ?」
「私達が持って帰れるありったけ。あと、先払いで少しだけ貰いたい」
話しがまとまり、昼も過ぎて良い時間なので、流石に今日はワイバーン探しをやめて夜の支度をする。
夜になり、食事は向こうと別々だが、テントを貸し出してもらう代わりに子供達の食事をこちらで食べさせる事になった。
「おいひー!」
「おにく!」
「ゆきこおかーさん、ありがとー!」
「ふふふ、どういたしまして」
「子供達かわええ」
「きつねのおねーちゃんもかわいいよ? かみのけきらきら!」
「ありがとなー。尻尾さわるかい?」
「いいのっ!?」
「あ、ずるいぼくもー!」
夕食は薄くスライスしたワイバーン肉を使ったお好み焼きである。
報酬に貰った野菜の中からキャベツを早速使い、小麦粉やら出汁やら混ぜて、ワイバーン玉を持参したホットプレートで焼き、焼き上がる傍からソースをかけて子供達に食べさせる。流石にマヨネーズは無かったが、鰹節はかけられた。
私はソースで口元がベタベタになった子供達にそのまま尻尾へ突っ込まれ、毛並みがベタベタになるが気にしない。私の中で休んでる精霊達がそれぞれひと鳴きすれば、綺麗になるのだ。
秋菜も群がる子供を尻尾で持ち上げたりしながら遊んでる。
その様子を見ているノット子持ち勢は私たちの豪勢な夕食に苦々しげな顔だが、子持ち勢は子供達が楽しそうに笑う様子を微笑みながら見守っていた。
中には涙を流して、祈る様にこちらへ謝意を伝える人も居た。
「そーれそれ、もふもふだぞー」
「もふもふー」
「おねーたんふあふあ! あたちもちっぽほちい」
「ぼくもー! あ、ぼくあっちのおねーちゃんのしっぽがいいな」
「あたしはこっちがいい! ふわふわだもん!」
秋菜は尻尾一本でてんてこ舞いだが、私は九本もあるから捌ききれるぜ。
さらに、途中で髪色を変えたり、服の色を変えたりすると、子供達は「しゅげぇぇえー!」と楽しんでくれた。
ここまで懐かれると、多分帰る時に号泣されるんだろうな。
「ココロさん。このままで良いんでしょうか?」
「ん、何が?」
子供達を尻尾百裂拳で遊んでいると、眠くてぐずり始めた子供をあやしてた雪子がやってきた。
「だって、この討伐、あまり意味ありませよね?」
「ん? どゆこと?」
「……本気でお忘れですか? リポップが有るじゃないですか」
「……………あっ」
忘れてた。
そっか。私達がワイバーンをいくら殺しても、リポップしたワイバーンがまたここにやって来てホームセンターを襲ったら確かに意味が無い。
「うん。本気で忘れてたわ。どしよっか」
「ココロさん、しっかりしてくださいな」
「うー、ごめんよー。最近気が抜けてるのかなぁ」
とりあえず、依頼通りにワイバーンを殺してから考える事にしよう。
リポップ場所が分からないと対処のしょうもないし、それでいいはず。
私が そう思った翌日、ありがたい事にまたワイバーンの方からやって来てくれたのだった 。
生き残った二匹が、五匹もの仲間を引き連れて。
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