第31話 頭が高いぞトカゲ風情が。



 その場を見て、私が一番最初にしたことは、超感覚を強く意識する事だ。

 ホームセンターを基点に作り上げられた小規模の拠点を襲う三匹のワイバーン。その生命力を超越した感覚で読み取り、レベルと言う数値に落とし込む。


 推定レベル、……百十五。三匹全員が格上だ。


「ココロさん!」


 私はすぐに指示を出そうと口を開く、その前に、雪子が叫ぶ。


「私と春樹なら一体やれます! 左!」

「なら任せたぁ! 秋菜ぁぁあっ!」

「右殺るー!」


 雪子と春樹が左の濃紺、秋菜が右の赤褐色、そして私が中央の灰色。

 一瞬で役割を決め、金狐から飛び降りて白狐の幻想刀を鞘ごと出し、力の限り振り抜いた。


「宿れ暴風、風刃斬衝っ、ココロ・スラッシュ!」


 ここはもう鉄火場だ。

 自分の命を賭け皿に乗せてオールイン出来る奴だけが生き残れる、無法の賭場だ。

 斬撃スキルと進化した打撃スキルである【衝撃】を乗せた風刃に、必殺スキルまで乗っけての抜刀術は、その延長に居た真ん中のワイバーンに向かって空気を斬り裂く。


「頭がたけぇぞ爬虫類。這い蹲って頭を垂れろよ羽トカゲが」


 胴体にクリティカルヒットした私の攻撃は、羽ばたきながら命を弄ぶクソトカゲを地に落とすには充分だった。

 だがレベル差があり過ぎて、その腹にはカッターナイフで斬り付けた程度の傷しかついていない。

 傷を受けたワイバーンは突然の攻撃にブチ切れたのか、口から火を漏らしながら私目掛けて突撃して来た。


「あめぇぞトカゲ、人間舐めんなよ」


 私は銀尾を振って横に飛ぶ。

 目測を狂わされたワイバーンは私の横をヘッドスライディングで通り過ぎ、私はその首に幻想刀を振るって風刃入りの斬撃を浴びせる。


「金狐、全力でブーストしろ! 銀狐は銀幻ブチまけろ!」


 ダメージの通りが悪過ぎて、私はアクティブスキルのココロ・スラッシュと風刃、雷鳴剣を常時発動すると言う暴挙に出て、一度空に逃げようとするワイバーンに天空侵犯を使って迫る。


「逃がさねぇよ!」


 格上だから何だと言うのか。

 こっちには八匹の狐が宿った強力な武装がある。

 小回りの効かないワイバーンの巨体を、空を踏み締め撹乱。白狐の幻想刀で魔力と生命力を奪い取りながら必殺スキルを連打する。

 一太刀ごとに相当量の魔力が奪え、常時展開した必殺スキルの消費を穴埋めして、高威力の魔法も連打する。


「爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ! 灰燼を生み出せ火災旋風!」


 逆巻く爆炎に包まれたワイバーンに黒狐を抜いてココロ・シュートを連射する。

 反撃の隙など与えない。悔いる暇なんてくれてやらない。

 もう散々殺したろ? ならお前も死んどけよ!


「グギャァァアアアッ!」

「るっせぇ!」


 その翼に魔力を纏って火災旋風を吹き散らしたワイバーンは、私に向かってブレスを吐き散らすが、銀幻狐火の効果で全く狙いが付けれてない。

 生意気にも反撃して来た爬虫類にイラついた私は、その隙に黒狐を消して金狐と銀狐を抜き、左手に二本を無理矢理握る。


「宿れよ雷鳴! 轟け迅雷! 斬衝三連、風炎ココロ・スラッシュ!」


 雷エンチャントに雷魔法も発動して、斬撃と衝撃を乗っけて、更に風炎斬までも練り込んだ幻想刀三本からのココロ・スラッシュをそっ首に叩き込む。

 今度こそかなりの手応えがあって、首から吹き出す血を嫌がった霊狐が勝手に散らしてくれた。

 首を四分の一も斬られたワイバーンは流石に私がヤバい存在だと気が付いたのか、慌てて距離を取ろうとするが、高レベルの能力だけ振りかざす様な畜生に戦術的撤退などさせない。


「白面根毛、玉藻きゅ--」


 もう殺せる事を疑わず、イケイケの気分でトドメをブッ刺そうと切り札まで使おうとした瞬間、突然大量の魔力を吹き出したワイバーンは体から閃光を振り振り撒き、私の網膜を焼いた。

 もろに見てしまった私は一時的に視力を完全に失ってしまう。


「くっそ、こんな古典的な手にっ」


 焦るが、問題無い。超感覚が有れば--

 いや待ってワイバーンさんソレは予想外です。


「………はぁっ!? おま、逃げんのかよっ!?」


 超感覚が私に伝えるのは、斬り付けていたワイバーンが一目散に飛び去る情報。

 それはもう、さっきまでブチ切れていた生意気な様子からは想像も出来ない見事な逃げっぷり。

 いくら私でも、レベルが二十以上離れた飛行型モンスターの全力逃走、視力を失ったまま阻止するのは無理である。

 仮に目が見えていても、黒狐で背撃するくらいしか出来ないので、それでも逃走を阻止出来たかは分からないが。


「おまっ、お前ぇぇぇえええ!? さっきの威勢はどうしたクソトカゲぇぇえ! 頭が高いって言ったの私だけど、今度は頭を下げすぎだろぉぉおおおおっ!?」


 まさかレベルが格上の大型モンスターが一目散に逃げるとは少しも考えてなかった。

 良く見ると、私が戦っていたワイバーンの逃走を契機に、他の二匹も逃走を始めた様子で、どちゃくそムカついた私は超感覚の不安定な視界だけで黒狐を両手に乱射した。


「戦えバカヤロオオオオオオオ!」


 結局、私の視界が回復する頃には、ワイバーンの影すら残っていなかった。


 ただ、秋菜だけは逃亡するワイバーンを殺し切って、一人戦果を上げていた。


 ◆


「逃がさないよー?」


 お姉ちゃんが戦っていたワイバーンがピカッて光る。

 そっちを見てなかった秋菜は無事だったけど、お兄ちゃんとお母さんは巻き込まれたみたいだった。

 そうしたら、お姉ちゃんの獲物だったワイバーンが凄く必死に逃げて、お母さん達と戦ってたワイバーンも仕方ないなって感じで逃げ始めて、秋菜が戦ってたワイバーンは、逃げられると思ってない感じで逃げ出した。

 うん。逃がさないよ?


「ドラゴンブレス・ガンズバースト」


 お姉ちゃんみたいな必殺スキルを使ってノロノロ逃げるワイバーンにトドメを指す。

 秋菜の周りを飛んでるマリューちゃんとマリューくんとハクリューちゃん、それと秋菜が握るマリューちゃん達から真っ黒い炎のビームがいっぱい飛び出て、動きが鈍くなってたワイバーンの頭を消し飛ばした。

 うん。索敵で感じた強さは秋菜より凄く上だったけど、戦ってみたら大したこと無かった。


「おねーちゃん、なんで逃げれたんだろ?」


 火を吐くだけのトカゲなんだから、氷で冷やせば動かなくなるし、火属性には水か氷って言ってたのお姉ちゃんだし、簡単に倒せると思うんだけど、なんで風と火と雷しか使わなかったんだろ?


「んー、後でおねーちゃんに聞いてみよ」


 それより、秋菜が倒したワイバーンが、あの人達の子供を食べたワイバーンかな?

 秋菜たちは、お姉ちゃんがお父さんの仇を討ってくれたから、今度は秋菜もあの人達の家族を食べたワイバーンをやっつけるんだ。

 このワイバーンだったら良いけど、違かったら探さないと。


「秋菜、殺ったのか?」

「あ、おねーちゃん。お目々だいじょーぶ?」


 倒したワイバーンを見てると、頭を振ったお姉ちゃんが来てくれた。

 お目々ピカーってすると危ないってお母さん言ってし、お姉ちゃんのお目々大丈夫かな?

 お姉ちゃんはいつも秋菜たちを助けてくれるから、お姉ちゃんのお目々が見えなくなったら、秋菜がいっぱい助けてあげよう。


「やっと見えるようになって来たとこ。それで、秋菜はコイツ削りきったのか。スゲーなおい」

「そうかなー? あんまり強く無かったよ?」

「マジ? え、レベルそんな変わんなかったよな」

「うん。でも、魔法で冷やしたら鈍くなったから、簡単だったよ? おねーちゃんはなんで冷やさなかったの?」


 秋菜が聞くと、お姉ちゃんは「……あー、そうか。やっちまった。そうか爬虫類、変温動物………」って言って頭抱えちゃった。

 落ち込むお姉ちゃんも可愛いけど、秋菜はいつもの自信たっぷりなお姉ちゃんが好きだな。


「思い付かなかったの?」

「……はい。マジさーせんした。めっちゃイケイケの気分で得意属性ブチ込んでた」

「おっちょこちょいのおねーちゃん、かわいっ」

「やめろぉっ……」


 しょんぼりしてるお姉ちゃんをつんつんしてると、お母さん達も来て、いっぱい褒めてくれた。嬉しいな。

 だけどお兄ちゃんは悔しそう。へへーんだ。お姉ちゃんの尻尾とお耳ばっかり見てると、秋菜一人でどんどん強くなっちゃうもんね!


 お姉ちゃん達とワイワイしてると、秋菜達を連れて来た夫婦と、その仲間の人達が集まって来た。

 みんな死んだワイバーンを見てびっくりしてる。

 欲しいのかな? でもコレ秋菜が倒したから、秋菜達で食べるんだよ。あげないよ。

 でもちょっとならあげても良いかな?


「君たち、本当にワイバーンを……」

「あー、あんな大見得切っといて逃げられちゃいましたけどね。金星は秋菜だけです」

「そんなこと言わないでくれ。追い払ってくれただけでも、どれだけありがたいか……」


 お姉ちゃんがしょんぼりのまま喋ってる。

 秋菜頑張ったから、秋菜が怖がらせちゃった女の人も、褒めてくれるかなぁ?


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