第29話 あの日から一年。
本日、四月一日。
このご時世に四月馬鹿だとユーモアをブチかます奴が居たら全力で殴るが、ともあれ、悪夢が始まった日からちょうど一年だ。
ちなみに、今日まで積み上げた私のステータスは、今こうなっている。
【ココロ:Lv.83】
【パッシブスキル:修羅-超級剣術-上級武術-超感覚-羅心眼-不撓不屈-斬撃-射撃-衝撃-投擲】
【アクティブスキル:ココロ・スラッシュ-ココロ・シュート-風炎斬-雷鳴剣-風刃-炎刃-水刃-氷刃】
【マジックスキル:炎魔法-流魔法-嵐魔法-地魔法-雷魔法-凍魔法】
【ウェポンスキル:魔力超強奪-生命強奪-銀幻狐火-金華金炎-共鳴共闘-黒狐魔弾-黒狐狙撃-黒炎魔砲-魔力増幅-魔力回復-色彩変化-美衣変化-天空侵犯-足元素敵-白面金毛玉藻九尾】
レベルは頑張って上げ続けた。
スキルも大分強くなり、装備スキルがいっぱいだ。
狐も増えて、金銀白が一匹ずつ、双子の黒狐と、双子の霊狐と、二尾のちょっと大きい霊狐が一匹。計八匹も狐がもふもふ。
この一回り大きい二尾の霊狐は、修羅の猛プッシュで他にも進化させた洋服も担当していると言うか、管理しているみたいで、和装もロリータ系の私服も普通の洋服も、全部飲み込んで一つの装備にしてしまった。
最初は驚いたが、今ではとても便利なので助かっている。
何よりお気に入りの服が皆色まで変えていつでもその場で着替えられるのだ。嬉しいに決まってる。
しかも丈夫と言うか、本体が霊狐なので傷も汚れも関係無く、霊狐がこーんと鳴くと元通りになる。とても嬉しい。
ジャージで過ごしていた日々が懐かしいくらいだ。
「おねーちゃん、待ってよー」
秋菜も黒の連弾魔竜がしっかり精霊化して、可愛い黒竜が生まれた。
憑依すると秋菜に角と尻尾、更に羽まで生えて空を飛べるようになった。
今も空を走る私の後ろをパタパタ飛んでいる。
「置いてくよー?」
「待ってってばー! あきなも噂の牛肉たべたいもん!」
そう、私は今空を走ってる。
【霊狐のきまぐれ可愛い足元装備】のウェポンスキル、天空侵犯と足元素敵は、天空侵犯が魔力を靴に込めると踏みたい場所を踏めるスキルで、足元素敵は衣服に合わせて変身するスキルだ。
双子の霊狐が包む私の足装備、ちょっと洒落にならないレベルのスキルを持っていた。
秋菜も空を飛んでいるけど、空を飛ぶのと空を走るのでは意味が違う。
飛ぶためにはある程度重量に気を付けないといけないが、天空侵犯は空だろうと“踏める”ので、自分の体が許す限りの荷物を運べるのだ。
おかげで私と秋菜の活動範囲はヤバいくらい広がっている。
そんな私たちが今向かってるのは、肉の村である。
「まさか湖のモンスターが牛肉に類似した食肉だったとは……」
「早く食べたいね! あ、見えて来たよ!」
オークが巣食う食肉ダンジョンからお肉を狩って捌いて売ってくれる肉の村に、新しい肉が加わったと聞いた私たちは、急いでやって来たのだ。
あの湖に居るモンスターを狩れるようになったため、ちょいと倒して食ってみたら何と牛肉そっくりの肉質をしたモンスターだったらしく、しかもリポップも確認されているらしい。
「こんにちわー! 噂のお肉食べに来ましたー!」
「来ましたー」
「あーい、叔父ちゃーん! 狐のおねーちゃんきたよぉぉおー!」
あれから大量の物資が集まり、肉を食って力も付け、魔法によって身の安全を確保出来るようになった肉の村は、今では肉の街と言っていい規模にまで成長していた。
そんな街の中心、今では精肉店兼焼肉屋みたいな扱いをしている幼稚園に直接降りて、庭先に居た幼児に挨拶をすると元気よく中の人を呼んでくれた。
「おお! ココロさんいらっしゃい! 秋菜ちゃんも久しぶりだねぇ」
「どうも。あ、お土産の酒類です。ウィスキーと焼酎大ボトル、瓶ビールに梅酒とか入ってます」
「久しぶりだねー! 最近はお母さんがお肉取りに来てたから、会えなかったね」
お酒を渡すとオジさんは大喜びで、気合いを入れて焼肉のセッティングを始めてくれた。
この街は今、私も知らない生存者グループも定期的に訪れて肉を求める様な場所になっていて、そうなるとお肉の管理が厳しくなる。
ダンジョンの方も太郎さんがレベリングした五十レベル近い純魔法使いと魔法戦士が警備していて、余所者が勝手に入ってオークを狩れないようにしている。
私は今でも例外的に入れて貰えるが、それを事情の知らない奴に見られると私も街も煩くて適わないので、最近は控えている。
「準備出来たよ! ご飯も炊いたからいっぱい食べていってくれ」
「え、マジ? ご飯に牛の焼肉とか、無限に食えちゃう奴だよ?」
「あきな、オジさんすき」
この幼稚園はソーラーパネルと大型充電池によって電気が生きているので、炊飯器でご飯も炊けるし、ホットプレートでローコストに焼肉を楽しめる場所になってる。
今日は天気が良いので庭先にテーブルを出して、青空に肉が焼ける煙を解き放ちながらの贅沢な焼肉の始まりだ。
「んふぅぅー! 一年ぶりの牛肉うめぇぇぇええええっ!」
「あきな、しゃーわせ……。おにくおいしっ」
出されたお肉は確かに牛肉そっくりで、噛み締めると懐かしくも力強い旨味が口の中で弾けて脳みそが吹っ飛びそうになる。
秋菜も幸せそうに笑いながら涙を零し、それでも休まず口と手を動かしている。
「美味しいかい?」
「んまいっ!」
「おいしいー!」
「そうかいそうかい。二人に喜んで貰えたら、皆も喜ぶよ。なにせこの肉だって元はと言えば、二人がここに来て色々してくれたからだ。遠慮なくじゃんじゃん食べてくれ!」
「「はーい!」」
もちろんこの後に、お土産の牛肉も貰える予定なのだ。
家で雪子と春樹にも食べさせないと、この幸せは独り占めするには大き過ぎる。
「はぁ、レベルのせいか、食おうとも思えばいくらでも食えてしまう」
「ほんとに好きなだけ食べたら迷惑だもんね」
「いやいや大丈夫さ! まぁお米は困るかも知れないけど、あの牛肉モンスターはかなり大きいからね、本当にじゃんじゃん食べてくれて良いんだよ! まだ他所に流してないから大量に有るしね!」
「マジ? 本気にしちゃうよ?」
「あきな達、たべるよー?」
肉の聖地とも言える街に漂う焼肉の香りは、街に訪れている人間の鼻腔をくすぐる。
「なんだよあれ、俺たちにもあの肉寄越せよ!」
「そうだよ! 俺たちを誰だと思ってんだゴラァッ!」
焼肉幼稚園で舌鼓を打ってると、不愉快な声が聞こえてそっちを見る。
超感覚で見るとレベル三十八と四十二の二人組。パッと見て生命力は強いけど魔力は大して感じない事から、恐らく純戦士系のスキル持ちだろう。
あの程度なら太郎さんが面倒見てる肉の街の魔法隊が捻り潰せるだろうから、気にせずお肉を楽しもう。
私はそう思ったのだが、秋菜はそう思わなかったらしい。
「ねぇ、うるっさいんだけど。お肉不味くなるでしょー?」
秋菜の尻尾は長さが変えられ、結構筋肉質で力が強い。
何が言いたいかと言えば、街の人に怒鳴り散らして居た奴の側まで一瞬で駆け寄った秋菜は、二人まとめて尻尾で巻きとって圧迫中だった。
たぶん見た目より痛くて苦しいのだろう。めちゃくちゃ喚いてる。
「あなた達なんて知らないよ。そっちこそ、あきな達を誰だと思ってるの? 九尾の剣士とドラゴンガンナーだぞー?」
最近、色々と足を伸ばす距離が増えたため、接触する人間と人里が増えていた。
そしてその近場にダンジョンがあれば取り敢えず攻略して物資を漁り、アウトローが調子に乗って居ればブチのめして物資を奪い、腐肉のダンジョンよりも高難度の恐ろしいダンジョンが見付かったら嬉々として突撃して行く。
そんな事をしていたら、知らない間に噂になっていた。
九尾の獣耳っ娘剣士と、それにくっ付いて行動してるちびっ子ドラゴンガンナーとして。
「あきなとおねーちゃんが仲良くしてるお肉の街で暴れるなら、所属グループごと滅ぶかくごをしてね! 手加減しないから!」
言いたい事を言い終わった秋菜は、尻尾をブンッと振り回して男達をブン投げた。落下地点は街の外だ。
まぁレベルも高いし、死にはしないでしょう。
「追い払ったー!」
「よしよし、良い子な。秋菜はなんだかんだドラゴンガンナーって呼ばれるの気に入ってるよな。積極的に拡げてるし」
「うん! だってあきなとマリューちゃんの事だもん」
帰ってきた秋菜はニコニコわらって焼肉を再開して、呼ばれたと思ったのか憑依中の黒竜が秋菜の頭からひょこっと出て来た。しかも二匹。
揃って「くぅ?」っと首を傾げるコイツら超可愛いんだよな。思わず焼いたお肉をあげちゃう。
それを見ていたのか、羨ましかった狐達が八匹ブワーっと私から溢れた。
キュンキュンこんこんこゃーんと鳴いてうるさい。可愛いけどうるさい。
「騒ぐとお肉やらんぞ。黒竜を見ろ。大人しく良い子にお肉食ってるだろ。お前ら年下がこんなに行儀良いのに、そんなに騒いで恥ずかしくないのか?」
叱るとしょんぼりする狐一同。あんまりしょんぼりするから可哀想になってお肉をあげちゃう。やっぱり可愛いんだよね。
そして、狐と黒竜が出て来た所を見た焼肉幼稚園の子供たちはブワーっと集まる。狐と黒竜は子供に人気だ。
ここは私が勝手に焼肉幼稚園と読んでるだけで、別に焼肉を生業にしてるわけじゃない。
恩のある私達や第三中学校魔法隊の人達が訪れた時に、お肉を振るわまれるのがここってだけで、今でも子供を預かる幼稚園であるし、その傍らで精肉もしているだけだ。
そんな場所でこの街で割と人気者の私と秋菜が来て、お肉を食べて楽しんでるから大人しく我慢してた子供も、黒竜と狐を見たら我慢が吹っ飛んでしまったのだ。
黒竜はどちらもまったりした性格らしく、子供たちにされるがままだ。
狐達は逃げたり揶揄う素振りで子供たちを振り回して、庭に散って走り去って鬼ごっこをしている。
その内一人の女の子がズッコケて泣き始めると、近くに居た銀狐が襟首を咥えて私のところに運んで来た。首が締まらないように気を付けて運んでるのは流石だよね。
「水よ。はーい少し染みるけど傷を洗おうねー。綺麗になったらテキーラスプレー……、はーいはい染みるけど泣かないの。ほらもう痛くない」
魔法で水を出して傷口を洗い、アルコールに対応してるスプレーに入ったテキーラを女の子の擦りむけた膝にプシュッとかける。
これは、太郎さんが普通にお酒を傷口に垂らすより、少量でも効率的に治療する為に提案した方法で、今では知ってる人の大体がお酒入りスプレーを常備してる。
「はい、痛いの我慢して偉かった子は、銀狐ちゃんがなでなでしてくれまーす」
水で洗われて染みる傷口に、テキーラをスプレーされてもっと染みる痛みを我慢して涙を堪える女の子に、私は銀狐へチラッと目配せしてから微笑んだ。
空気を読んだ銀狐は女の子の頭を肉球でポンポンする。精霊なので別に足は汚れないし汚くも無い。
「こら! わざと転んで狐に構ってもらおうとするな! そんな悪い子は狐も遊んでくれないんだぞ!」
銀狐に構ってもらえる女の子が羨ましかったちびっ子達が、急にドテドテ転び始めたので叱っておく。
叱りながら席に戻って焼肉を楽しむ。まだ食い足りないのだ。
「おねーちゃん、なんかお母さんみたいだったよ」
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