第28話 更に進化。



 -武装との絆が上限に達しました。

 -武装が進化します。

 -同系統の絆が規定値以上の武装が存在します。

 -武装の進化に連動します。


 八月十五日。

 滅んだ世界でも元気な蝉畜生がミンミンワンワン鳴きやがる真夏日に、腐肉のダンジョンでレベリングを行っている時にそれは来た。

 そのシステムコールを聞いた瞬間思ったのは、最近怒涛の勢いでやって来やがるなぁって感想だった。

 魔法を全て切って剣術だけで腐肉を削り殺しながらレベリングしていて、遠くに肉の村から来てるレベリング勢がピンチなのが見えてハンドガンを抜いて炎魔法で助けたのだが、その腐肉が燃え尽きた辺りでアナウンスが聞こえて、サブウェポンとして装備しているハンドガン二挺が眩く光って進化した。


 -武装進化完了。【護身の玩具双銃】は【黒狐の幻双銃】に進化しました。


 光が弾けて姿を見てたハンドガンは、玩具の時よりもずっしりとした重みがあり、見た目は殆どそのままに、所々に狐のレリーフやら紋章やらが刻印されていて、なかなかスタイリッシュな拳銃になった。

 ガスブローバックだったこの銃の性能も、幻想刀の事を考えるとたぶんコレも実銃並の威力が出せる巫山戯た装備になったのだろう。

 しかもそこで終われば良いのに、物凄く久々に修羅が気を利かせて、私の服を追加で進化させやがった。


 -【修羅】が発動します。

 -【修羅】が内包するパラメータを一部装備に譲渡します。

 -武装との絆が上限に達しました。

 -武装が進化します。

 -同系統の絆が規定値以上の武装が存在します。

 -武装の進化に連動します。

 -【修羅】は狐を応援します。

 -【修羅】は使用者を応援します。

 -武装進化完了。【改造服】は【霊狐のふわふわ二尾ドレス】に進化しました。

 -武装進化完了。【登山用ブーツ】は【霊狐のきまぐれ可愛い足元装備】に進化しました。

 -【修羅】は他の衣服も進化させる用意があります。

 -【修羅】は使用者が着飾る事を強く推奨します。

 -【修羅】は使用者のお洒落を応援します。


 私はもう、全身が光った。

 着ている服が進化するのだから当たり前だろう。

 しかも、なんだ、修羅が物凄いお洒落をプッシュしてくる。他の服も進化させるからお洒落しよーぜ☆ って事なのだろう。なんなんだコイツまじで。


「……おねーちゃんかわいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃ!」

「おれ、もう死んでもいい……」


 進化が終わると、まず自分で自分の身を確認するより先に、同行していた秋菜と春樹が大興奮だった。

 春樹に至っては興奮し過ぎて死にそうだ。赤い顔が紫になっている。

 今日着ていたのは黒を基調にしてワインレッドを合わせたクラシカルロリータのワンピースで、とことん返り血を気にした配色になっていた。

 それが進化するとフリル増量、スカートのボリューム増量、付着していた汚れも吹っ飛んでめちゃくちゃ可愛いドレスになっている。しかも名前にある通り尻尾が二本オマケについていて、進化した黒狐の幻双銃でもそれぞれ一本、更に登山用ブーツが進化した装備でも尻尾が一本ずつ増えて、今の私は九尾の狐と化している。

 そんな【霊狐のふわふわ二尾ドレス】と【霊狐のきまぐれ可愛い足元装備】だが、特に足元装備がなんかおかしい。ごっついブーツだった筈なのに、いつの間にか私好みのロリータパンプスになってる。何でや工藤。

 ドレスも今は配色そのままだけど、私の中の狐達が色を変えれると確信している様子で、もう何がなんだが……。

 ただ、装備が進化しまくった今、この身に漲る力と魔力が凄いことになってるのは分かる。

 なんなら返り血を弾くように服へ風のエンチャントを常時施しても永遠に維持出来る気がするくらいだ。もしかして魔力の回復速度上昇効果が服か靴についてるのだろうか?


「おねーちゃん、なんかおにーちゃんがきもちわるい事になってるから、いったんかえろ?」

「そうだな。装備の確認もしたいし。……いや、装備の検証ならダンジョンの方が良いのか?」


 どうするか少し考えて、その間に姿を見せた新しい腐肉を秋菜が撃ち殺すと、秋菜が持っている二挺の銃がビカッと光る。

 お前もかっ!?


「あわぁぁぁぁあっ!? え、なにこれおねーちゃんどうしよう!?」


 秋菜の手元から光が弾けると、秋菜の頭からニョキっと黒い角が生え、お尻からもりっと黒い尻尾も生えた。

 角は優雅で力強い硬質な見た目で、尻尾には鱗がびっしり生えている。


「落ち着け秋菜。たぶん秋菜の銃も進化したんだろ。私の耳と尻尾みたいなもんだよ」

「え、あっ、うん。そっか……」

「新しい銃の名前はなんて言うんだ?」

「えっとね、うーんと………、コレなんてよむの?」


 進化が終わった秋菜の銃は、私の幻双銃と違って見た目が大いに変化していた。

 私の貧相な語彙力では伝え切れないのだが、なんというか、垂直二連ショットガンと犯罪係数を読み取ってパラライズしたりデストロイしたりする特殊拳銃のデザインを混ぜて、スタイリッシュな箱型銃器になっている。

 片手でも両手でも扱える、ハンドガードには三角形に穴が空いたフォアグリップがあり、ショットガンに良く使われるタイプの銃把一体型の銃床も付いている。

 ただ、マガジンを挿す場所が無くなってて、ポンプアクションと言う訳でもない。どうやって使うのかちょっと分からない武器になってしまった。

 色は真っ黒で、ボディーの至る所に西洋竜のレリーフが彫られている。

 頑張って名前の漢字を教えてくれる秋菜にかわって解読すると、【黒の連弾魔竜】と言う名前らしい。何それカッコイイ。


「くろの、れんだんまりゅー? じゃぁまりゅーちゃん?」

「そうだな。魔竜ちゃんだな」

「まりゅーちゃん! あきなのまりゅーちゃん!」

「くっそ、俺だって……!」


 ケモミミショックから復帰した春樹は、妹の進化武装をとても羨ましそうに見詰めたあと、ロングナイフで腐肉を襲いはじめた。

 すると春樹の武装も………、なんて事は一切なく、流石に進化は打ち止めだった。


「ちくしょー! 俺も進化武装ほしい!」

「いや、だってなぁ。秋菜は仕方ないぞ。この子だって、武器を抱き締めながら一緒にベッドで寝るくらいだったし、絆カンストはむしろ遅かったくらいだぞ」

「じゃぁおれもコイツと一緒に寝れば良いのかっ!? 風呂も一緒に入るぞ!?」

「錆びるからやめろ馬鹿」


 今日はガチガチにレベリングしようと思っていたけど、新装備が多過ぎるのでこのままダンジョンで装備の検証をする。

 騒ぐ春樹を宥めて腐肉を探す。

 このダンジョンのリポップは最短で十二時間後なので、急げば一応内部の殲滅は可能なのだ。だからレベリングに力が入り過ぎると、獲物を探すのに苦労する。


 そして検証の結果。

 まず私の幻双銃は武器自体に秋菜が持つ【魔弾】スキルが内蔵されているみたいで、マガジンに魔力を込めておくと実弾そっくりのカートリッジがマガジン内部に生成される。

 燃費はかなり良く、マガジンにも相当量の魔力が込められるので、一度限界まで魔力を込めて連射してみたら二百発ほど撃てた。

 しかも今一緒に持っていた予備マガジン四本も一緒に進化してたので、あまり弾切れに困ることは無いだろう。

 当然ながら威力も強化されていて、恐らく本物の拳銃、それもマグナム弾を撃ち出す物よりも強いと思われる。

 次に【霊狐のふわふわ二尾ドレス】は、やはり色が自由に変えられる事が分かり、体感してる魔力についての効果もドレスについてる事は分かった。

 ただ他にも人が居てモンスターが徘徊するダンジョンで服を脱ぐ訳にはいかず、靴を脱いでも魔力の感覚が変わらない事から服の効果だと仮定している。

 私の装備は最後になるが、【霊狐のきまぐれ可愛い足元装備】は、ぶっちゃけ意味不明。

 脱ぐとブーツに戻るのだけど、履くとロリータパンプスになった。なにゆえ。

 一応、変身能力と名前から察するに、この装備が服に合う足元装備を自分できまぐれに選んで変身しているのではないか、という予想を立てるに留まった。それ以外は何も分からない。

 そして秋菜の装備だが、魔力の自然回復量を大幅にブーストして、秋菜の魔弾を大量にストックしつつ、魔弾の威力を増加させる能力があった。

 マガジン交換はやはり無理で、本体にそれぞれ五百発の魔弾をストック出来る。そして魔弾で消費した秋菜の魔力も回復量増加で補ってくれる、秋菜に尽くす銃に進化したみたいだった。

 魔力で作られた魔弾はエンチャントとも相性が良く、その弾丸ごと燃料にして魔法を炸裂させる事も出来る。


「やっぱ、装備が強化されるとレベル以上に強くなった気がするよね」

「ねー! まりゅーちゃん強かった!」

「二挺合わせて千発の魔弾で削り殺されてた腐肉がちょっと可哀想だった。あれも魔竜の魔力回復で消費ほぼゼロなんだよね?」

「うん。あきな、いままりょくぱんぱんだよ」

「……狙撃スキルも持ってるのに制圧掃射も出来るのかよ。銃の申し子か」

「ねぇねぇおねーちゃん、あきなのまりゅーちゃんも、おねーちゃんみたいに出て来てくれるかなぁ?」

「武器から好かれると出て来てくれるみたいだぞ」

「ほんと!? わぁ、はやく会いたいなぁ……」


 どうでもいい事だが、最近秋菜の舌足らず感が少しずつ減って来て、なんだかちょっと寂しい。

 年齢的にはむしろ口調も含めて幼過ぎたのだが、過酷な篭城生活で受けたストレスで幼児後退していた秋菜である。むしろ元に戻って来たのだから、今の生活が秋菜にとって幸せである事の証明なんだろう。

 そう思っても、やっぱりちょっと寂しいのだ。


「ところで春樹、そろそろ怒るぞ?」

「えっ、あ、もう少し! あとちょっと!」


 検証とレベリングが終わって帰宅途中、私の後ろにピッタリついて歩く春樹は、歩行に合わせて揺れている私の尻尾にふわっ、ふわっと触れてはだらしない顔をしている。


「だって、本当は顔を埋めて深呼吸したいんだぞ!? 我慢してるんだからこれくらい許してよ!」

「おまえほんと、その内私の寝込み襲ったりしないだろうな?」

「……………しない、よ?」

「このマセガキがぁ……」

「おにーちゃん、ほんとダメだと思う。きもちわるいよ」


 気まぐれに九尾の尻尾で春樹を包んでモニュモニュしてあげると、「ふわぁぁぁあ………」と気持ち悪い声が聞こえた。

 やめときゃ良かった。


「……もっと、もっと」

「コイツ往来で絶頂するんじゃねーだろな? まぁ往来って言っても世紀末じゃ人も居ないんだけどさ」

「おねーちゃん、おにーちゃんがごめんね?」

「秋菜は良い子だなぁ。ご褒美にほら、尻尾風呂だぞー」

「うわぁふわふわー! おねーちゃんいい匂い!」

「ァァァずるい! 俺だって匂い嗅ぎたかったのに! 俺の尻尾ぉ!」

「お前の尻尾じゃねぇよ」


 秋菜も九尾の尻尾でモニュモニュしてあげるときゃっきゃと喜び、尻尾を三本くらい抱き締めてすぅーっと息を吸った。

 あれか、猫吸いってヤツだろそれ。知ってる知ってる。これはじゃぁ狐吸い? 私も後で金狐達でやってみよう。


「おれの、しっぽ……」

「もうおにーちゃん! ほら、あきなのしっぽも触っていいよ!」

「……ツルツルじゃんか。このツルペタめ」

「なにをー!? このっ、このぉー!」


 尻尾ロスに悲しむ春樹に竜の尻尾を差し出してあげる優しい秋菜だが、鱗はお気に召さなかった春樹の暴言に秋菜は尻尾で春樹をぶっ叩く。

 家に帰ると、秋菜は雪子に「おかーさん! おにーちゃんがツルペタって言ったの!」と泣きついた。角がグリグリと雪子の豊満な胸を変形させている。なかなか見応えがある光景だなって思う。


「あ、秋菜? この角と尻尾はどうしたの?」

「ぶきしんか! おねーちゃんと一緒!」

「ああ、そういう事なのね。じゃぁ秋菜の武器も、その内なにかに変身するのかしら」


 多分ドラゴンですよ、奥さん。

 内心呟いた私は、一人部屋へ戻った。


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