第27話 お狐ちゃん達。



 -武装からの好感度が上限に達しました。

 -【金狐の幻想刀】は精霊化します。

 -武装からの好感度が上限に達しました。

 -【銀狐の幻想刀】が精霊化します。

 -武装からの好感度が上限に達しました。

 -【白狐の幻想刀】が精霊化します。


 本を読んだり、避難所の詳しい人に聞いたり、実は日本刀が好きだった病院の医院長であるモッさんに教わったりして覚えた、日本刀の手入れ。

 それを一本ずつ丁寧に施し、幻想刀のお世話をしていた。

 素人が刃を本気で研ぐと逆効果なので、飾り研ぎと言う見た目を整えるお化粧みたいな物に留めて、バラしていたパーツを全て組み直した時にそれは起きた。


 -こゃーん!

 -きゅんきゅん!

 -くゅーん……!


 幻想刀三本が全て、狐に化けたのだ。


「…………ふぅ。うん、もうこう言うの流石になれた」


 目の前には金狐、銀狐、白狐が居る。みんなふわふわモフモフのプルティあにもーだ。

 もう全てを察した私は、胡座をかいたままの姿勢で両手を広げて、ただ「おいで」と告げた。

 三匹のもふもふは弾丸の如く私に飛びつき、私をもふもふまみれにした。天国かな?

 顔中舐められるし、服の中に潜ってくるし、全身から好き好きオーラを放出する狐達の猛攻を、私はただ黙って受け止めた。

 しばらくすると、好き好きオーラを消費するどころか臨界点突破のオーバードライブしたお狐達は、なんと私の体の中に入って来た。


 流石になにごとだっ!?


 別にエロ同人みたいな意味では無く、どちらかと言えば霊的な意味だ。

 溶けるように私の中に侵入したモフモフあにもー三匹は、その後も出たり入ったりワチャワチャ騒いだ後、三匹とも私の中で落ち着いて大人しくなった。


「……おお、この状態でもケモミミになるのか。春樹が喜ぶな」


 お尻と頭に違和感があり、触れてみるとそこには狐の耳と尻尾があって、やはりモフモフだった。

 そう言えば三色同時はやった事無いんだよなぁと思って部屋の姿見の前に立つと、装いがいつもと異なっていた。

 まずメインが金なのはいつも通りなのだが、銀も居るはずなのに毛先がちょこっと白くなってて、可愛らしいカラーバランスになっている。

 そして消えた銀はどこに行ったかと思えば、髪のインナーカラーと私の瞳が銀色になっていて、あと耳と尻尾も金の毛を掘り進むと内側に銀色があった。

 これは三匹同時の時だけなのか、武器じゃなく狐が憑依してる時限定なのか気になって、狐達にお願いして誰か一匹外に出てもらう。


「……色が、変わらないだと?」


 外に出て来たのは金狐で、なのに髪も耳も尻尾も金色がメインカラーのままだった。

 何故なのか、そう首を傾げると、金狐がこゃーんと鳴けば配色が変わった。

 金色が基色から抜け、白と銀にバトンタッチ。その代わり瞳が金色に変わって、髪も毛先だけ違うとかインナーカラーとかじゃなく、より眩しい一色の白銀に変わっていた。


「おおー、これ気に入った。瞳が金色なのも可愛いねー」


 配色が任意で変えられるなら、もしかしてと思って狐に聞いてみると、こゃーんと答えが帰って来て、結果が私にフィードバックされる。

 私が聞いたのは「尻尾増やせる?」で、返って来た答えは私のお尻にある三本の尻尾だ。モフ度三倍アイスクリームだぜ。


「うわぁコレたのしっ。まってやっぱココまでコテコテの狐娘になるなら和装っぽい方が良いよね。浴衣ドレスとか無かったっけ? 流石に純和服は無いけど……」


 クローゼットやタンスを漁り始めた私に、金狐が構えーとスカートを齧って引っ張った。

 ただ、アナウンスにあった通りこの子達は精霊らしく、噛んだスカートには穴も開かないし、舐められまくった私の顔面も唾液に濡れていたりはしない。

 なんならモフモフ祭りされたのに毛の一本も服に付いてないのだ。


「ふふ、ごめんね。着替えたら構ってあげるから。それとも下に行ってる? たぶん秋菜が絶叫しながら構ってくれるよ? ………あ、これ尻尾穴がなぃ……」


 目当ての服を何着か出して、でも尻尾穴が無いことに気が付き、落ち込みながら更に大事な事を一つ思い出した。


「ねえ金狐、君たち精霊になったみたいだけど、武器には戻れるの?」


 こゃーんと鳴く金狐に聞くと、答えは自分の中から返ってきた。きゅんきゅん鳴く銀狐だ。

 私の中で銀狐がきゅーんと鳴いたかと思えば、右手に銀狐の幻想刀が握られている。

 抜刀すると、空になった鞘がふわっと空気に溶けて、小さな粒子が私の中に戻って来る。

 鞘なしで出せるのか聞くと、左手に抜き身の白狐が出て来た。


「ほう、なかなか素晴らしい新機能じゃないかな?」


 何となく、本当に何となく、薄らと狐達の感情も流れて来て、簡単なやり取りであれば出来そうだ。

 この子達はコレから基本的に私の中を住処とするらしいので、私は今日からケモミミスタイルがデフォルトになる様だ。

 まぁ自在に出せて色まで変えれるなら、消そうと思えば消せるのだろう。けど、普通に可愛いパーツが増設されるのだから私に文句など無い。

 春樹じゃないけど、私だって獣耳美少女は可愛いと思うし、自分に備わる事に否やは無い。


「うりうりー、銀も白もでてこーい」


 結局着替えられなかった私は、目の前の金狐を犬のように構い倒して、中でウズウズしている銀狐と白狐も呼び出す。

 三匹まとめてモフモフしながら、私はもう一つ気が付いた。


「………三匹出ても、ケモミミのままだと?」


 目の前に三匹の狐がしっかり居るのに、私の耳と尻尾は消えなかった。カラーリングもそのまま。


「もしかして、この状態で幻想刀の能力使える?」


 思って、意識して尻尾を振ってみると、鏡に写る私がブレる。

 外から見るとこう見えるのか。なるほど確かに攻撃しづらいなコレ。

 幻想刀の時は意識するとフルスペックが発動する仕様だったが、無意識下でも二割か三割くらいの能力が自動発動していた。

 尻尾は意識しても振れるが、基本的に感情に連動して動くので、銀狐の効果は隠し切れなかったのだ。

 でも今の状態だと完全に発動を意識しないと金も銀も効果を発動しない。しかも銀狐の能力に至っては尻尾三本分のフリフリで幻惑が加速し、気のせいか消費も少ない気がする。


「うわー、コレ、金と白握ったまま、銀の幻惑も使えるの? チートじゃない? 大丈夫これ? 運営にBANされない?」


 刀が消えて狐になり、自分の中に入ってくる。そんな非現実に慣れた私は、そんな些細な事よりも、父の形見が自分の中で一つになった事の方がずっとずっと嬉しかった。


「………えへへ。わーい」


 嬉しくて、父さんと母さんが傍に居た頃を思い出して、凝り固まった心が元に戻って行く気がした。

 そんな油断が行けなかったのだろう。私は扉を少しだけ開けて部屋を覗いている春樹に、たった今気が付いた。


「………………………何か言い残すことは?」

「………………姉ちゃんかわいい」

「シネ」


 超感覚を意識すれば、余裕で気が付けた春樹の接近に気が付かず、思いのままに微笑む姿を目撃されていた。

 春樹はモフ度が高まった私の姿に顔を真っ赤にして、モジモジしながらポーっと見ていた。

 乙女の秘め事を覗き見した大罪に制裁を下すべく、私は素早く風魔法を発動して春樹を吹っ飛ばした。


 その後。


「おねーちゃんかわいいいいいいいいい! しっぽ! しっぽがいっぱい!」

「あらあら、ココロさんとっても可愛いですよ」

「流石に照れるから手加減して」


 いつの間にかお昼になっていて、昼食を知らせに来た春樹を軽くボコった私は、昼食が並んだダイニングで雪子と秋菜に褒め殺しされていた。

 帰って来た黎治くんも含めた中学生も騒ぎ出し、流石の私も赤面を禁じ得ない。


「おねーちゃん、とってもきゅあきゅあ!」

「キュアキュアは勘弁して………」

「うわぁ、ココロさんまじ美少女。現実に獣耳っ娘が居るとか、新世界やべーな」

「もうちょっとしたアイドルだよね」

「マジやめろって」


 完全にハートを射抜かれた春樹はボロ雑巾になりながらも幸せそうで、秋菜のお目々はキラッキラ。

 往生際の悪い私は、狐をダイニングに解き放ち、更にお目々の輝きが加速した秋菜から、狐を生贄に差し出して逃げた。

 銀髪金眼の獣耳美少女になった私は、アニメや漫画なんて言う娯楽が崩壊した世界では、オタクカルチャーが服を着て歩いてるような存在になってしまったと自覚する。


「きつねしゃん、ふわふわー!」

「こゃーん!」

「もっふもふじゃんね」

「くゆくゆ、くゅーん」

「この殺伐とした世界に三匹の癒しが舞い降りた……」

「きゅん!」


 もはや家犬すら貴重な食肉となり得る世界で、思う存分愛でる事が出来る精霊の存在も、磨り減って凝り固まった人間の心を癒して余りある宝だった。


「姉ちゃん、姉ちゃん頼むからしっぽ触らせて……」

「おにーちゃん、きもちわるいよ。しっぽならきつねしゃんにもあるんだよ」

「ばか秋菜おまえ分かってない。全然分かってない」

「……春樹くん。気持ちは分かるけど自重しようね。ココロさん怒らせたら誰が止めるんだよ」


 だいぶ獣耳スキーとして完成してきた春樹に一定の理解を示すアユミン。今後私も彼には気を付けた方が良いだろう。

 彼も獣耳を愛する者の匂いがほんのり香っている。


「いやー、こんな事になるなら、俺らも武器の進化楽しみだな! 俺らの杖は何になるんだろ? 狼とかカッコイイよな」

「魔法使いの使い魔だと、猫とは梟とか、蛇じゃないか?」

「それも良いな!」

「もういいから飯食おうぜ。……精霊達は飯食うの?」


 ハンバーグが冷めてしまうので、騒ぐ皆を置いて私はテーブルに座った。

 物を食べるのか狐に聞くと、ハッキリと全員が頷いた。食えるらしい。ただ感情的に、食う事も出来るが正解っぽく、食わなくても良いらしい。

 良かった、急に肉食の獣三匹分も消費が増えるのかと思った。


「あ、雪子。お願いが有るんだけどさ、手持ちの服をもっとケモミミ用に手直しして貰えない?」

「ふふ。分かりました。後で私にも尻尾触らせてくださいね」

「まぁ雪子ならいいか」

「母さんずるい! 俺も姉ちゃんに触りたい!」

「おにーちゃんほんときもちわるい」

「姉ちゃんにベタベタ触れる秋菜には分かんねぇーんだよ!」

「いや春樹お前、最近割とマジで相当気持ち悪くなってるぞ」


 そんな感じで、我が家には三匹のもふもふが増えました。


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