第24話 マジックエアライダー。
「狡い狡い狡い狡い! 俺も乗りたいコレ乗りたい!」
見付かってはダメと言われていたが、雪子のミスで見つかってしまった。私悪くないよ。
「もう、わがまま言わないの!」
「ずるいじゃんかー! 秋菜は乗っていいのに俺はダメなの!?」
「秋菜はココロさんといる時は絶対にふざけないし、言う事も聞くから」
「俺だって聞くよっ!?」
「良く文句は言うでしょ。空の上なんて、ちょっとふざけるだけで危ないのよ? 落ちたら死んじゃうのよ?」
春樹が久しぶりに年相応の駄々っ子ぶりを見せるのは、拠点の庭に置かれた二台の乗り物が原因だ。
太郎さん印のマジックエアライダー。
見た目は空を滑空する乗り物、パラシュート型のグラインダーその物である。
腰掛けがあり、両手でグラインダーを操作するワイヤーがある。
これは太郎さんの自作なので本物より幾分か簡易であるし、パラシュートと椅子の距離も近い。
まずこれをどうやって使うかと言うと、グラインダーに風魔法でエンチャントして、魔法で垂直離陸したあと、普通にグラインダー飛行を行い、高度を維持したかったら魔法で上昇する。それだけなのだ。
今のレベルなら、私と秋菜の魔力を持ってすれば殆ど消費無く空の旅を楽しめる優れものなのだ。
ならば何故、雪子がこれ程までに春樹を、そして出来れば秋菜にも乗って欲しくないかと言うと、この乗り物、試乗された事が無いのである。
理論では使えるはずと太郎さんがノリで作ったはいいが、本人はこんなの無くても魔法だけで浮けるレベルの純魔法使いである。そしてそもそも、彼には空を飛ぶ用事など無い。
そんな訳で、安全性が一切確認されてないのだ。
「やだやだやだやだやだやだ、俺も行くー!」
だが、コレで空を飛べるんだぜ? って言われた十二歳の男の子が何を思うかなんて、多分誰でも分かると思う。
おもっくそ怖がるか、おもっくそ乗りたがる。どちらかだ。
「悪いな春樹。これ一人用が二台なんだ」
「またなぁはるきー!」
「そのネタやるならせめて猫型ロボットを俺にくれ!」
駄々っ子する春樹に、私と秋菜が安全性を確認してくれば、きっと雪子も乗せてくれるさと言い含めて納得させる。
なお、その間雪子は一度も首を縦に振ってない。
「じゃ、行ってきまー。風よ宿れ」
「いってきまー! かぜよやどれー!」
マジックエアライダーと言う名のグラインダーは強風をその帆で受けて高く舞い上がり、私と秋菜は一瞬で空の住人になった。
「うっはぁ、たけー……」
「おぉー、ちょっとこわい」
「なぁ、この高さは普通に怖いわ。まぁ魔法の制御ミスらなきゃ落ちないし、良いでしょ」
二人してグラインダーのワイヤーをグイグイ引っ張り、進行方向を整えて行く。
目的地は昨日言った通りに隣駅周辺の大型施設で、最悪は一泊する予定だと雪子に言ってある。
さすがに数十キロ超えてトランシーバーは使えないので、持って来ては居るけど、秋菜と私のやり取り用だ。
「おねーちゃん、おそらきもちーね!」
「なかなか得難い体験だよな。寒いけど」
「おねーちゃん、そのおよーふくでおそらとぶと、えほんのおひめさまみたい!」
「可愛いっしょー?」
「うん! おねーちゃん、きれー!」
もうお淑やかさなど捨ててしまったけど、見た目だけでも褒められるのは悪い気がしない。
何より秋菜は心の底からそう思っているので、それが真っ直ぐ伝わるのだ。
「……さすがにバックパック持ったままグラインダーは無理が有るんだな。こまめに上昇気流作らないと落ちそうだ」
「はーい、きをつけるね」
「まぁどっちも五十レベル超えてるし、もしかしたら落ちても死なないかもな」
今回持ってきているのは、いつも通りの装備とバックパックに、緊急用のテキーラポーションがスピリタス一本、クエルボが二本。更にマナポーション一本に粉末を溶いて作った普通のスポドリペットボトルが二本。そしてカロリーメイツが三日分。
それ以外は空にして、お肉を確保するスペースを保っている。
バックパックは胸の前に来るように装着して、更に椅子の下にも収納ボックスが着いているので、積載量は以外と多い。
ただ、その量を積んだ状態で飛べるのかは謎。
「んー。こんな感じならさ、速度は死ぬけど、火魔法で気球飛ばして、風魔法で移動すれば相当安全に空飛べるよな」
「んー? あきな、ちょっとわかんない」
「そっかー。わかんないかー」
空を真っ直ぐ一直線。
それは叩き出している速度以上に距離を置き去りにする移動法である。
山も谷も瓦礫も街も、あっという間に飛び越える。
「……………うわぁ、嫌な光景みちった」
「おねーちゃん、どうしたの?」
「秋菜、あの湖見える?」
「うん」
「あそこな、目的地だった場所」
「……………え?」
「目的地」
「…………おにくぅ」
空から見下ろすその場所は、ビルが建ち並んでいる場所だった筈なのに、今では大きな湖になっていた。
「いやでも、水場は生き物にとって必要不可欠だから、もしかしたら近くにオーク居るかも」
「………おねーちゃん、あきなしってるよ。それ、こころにもないことっていうんでしょ?」
いぐざくとりー。
だって私達は今空の上に居るのだから、上から色々丸見えなのだ。
人間が活動している場所は見えているけど、オークの生息地は見当たらないのだ。
まじかぁ。
「一応、あの人里に降りてみるか? 情報貰えるかも知れないし」
「めんどーごと、ない?」
「あったらブチのめせば良い」
「わかった!」
湖から目測で百メートルほど離れた場所にあるのは、かなりしっかりした幼稚園を中心に広がる“新設の村”である。
幼稚園の屋根にはソーラーパネルが並んでおり、今でも多分電気が生きている。
そしてその周辺の一軒家とアパートが数件あって、使わない家屋は全て解体して土地を確保して、人の領域を簡易な塀で囲んで区切っている手作りの即席集落だ。
私と秋菜はその中に直接降りる事はせず、壁の外にある程度の距離を置いて着陸した。
「なっ、なんだぁっ!?」
「人か!?」
「バケモノじゃないのかっ!?」
当然皆さん、空から降って来た女児二人に浮き足立って、戦闘員らしき人員が十人前後、槍を手に村から出て来た。
全員が一律の装備て武装して、すぐに部隊単位で動くとは、なかなか行き届いた集落じゃないかな。
グラインダーのパラシュートに絡まないように綺麗な着地をした私と秋菜は、椅子の下のボックスから手早く装備を身に付ける。
今のところ戦う気は無いが、かと言って丸腰で接触するのはアホのする事だ。
「お、お前たちは何者だぁ!」
「はーい、どうも皆さん初めまして。私はココロ。この子は秋菜と言います。ちょいと聞きたい事があって立ち寄ったのですが、敵対する気は無いので武器は下ろして貰えます?」
「こんにちはー! あ、ちがう。おはよーございまーす!」
まだ朝も過ぎたばかりで昼も遠い。秋菜はちゃんと朝の挨拶が出来て偉い子さんだなぁ。
「なんだってんだ! なぜ空を飛んでいた!?」
「あー、気持ちは分かりますけど、それに答えたら私達の質問にも答えてくれます?」
「じょうほーは、タダじゃないんだよー?」
「お、お前たちがバケモノの仲間ってンじゃないなら、別に何でも聞けばいい。それよりどうやって空を飛んでいた!? それは滑空するだけの道具だろう!?」
「んーと、皆さんスキルって持ってます?」
「あれか、バケモノを倒すと頭に響く、不思議な力の事だな?」
「そうそう。飛んでたのもソレの一つです。御伽噺に出て来る魔法が使えるんですよ。ほら、灯れ」
説明しながら、指先からリミッター外したライターくらいの炎を吹き出す。
槍待ちの皆さんは魔法スキルを知らないらしく、見えていたらしい塀の向こうの人々もザワザワとどよめいていた。
「………なぁ、なんっ、はぁ!?」
「こんな力を使ってちょっと風を吹かせて、空を飛んで探し物をしていたんです」
「そ、そんな力も手に入るのか! どうやったらそれは使えるようになるんだっ!?」
「ダーメですよ。次はコチラの質問です」
そりゃ魔法なんて絶大な力があるなら、誰だって欲しい。私だって欲しい。
だが質問に答えたらコッチも質問すると言ってたのだ。順番は守って欲しい。
「何が聞きたいんだ?」
「私達、どうしてもお肉食べたくてですね。食肉に適した生き物か、オークって言うモンスター探してるんですよ。どっちか知りません? オークって言うのは猪のバケモノです。猪って豚の仲間のはずなんで、食べれると思うんですよね」
モンスターを食いに来たと言い放つ私に、向こうはもう何がなんだか、いっぱいいっぱいの様子だ。
「い、猪のバケモノについて教えたら、その魔法を教えてくれるのか?」
「いや、それは飛んでいた方法の情報と交換の筈ですよ。魔法については別に対価が欲しいですね。なにせ空も飛べるような力ですから、誰にでも教えて争いなんか起きたら酷い事になります」
「むぅ……。わ、わかった。その猪のバケモノ、オークとやらついては知っている。教えるから、魔法についても考えてくれ。何を払えば良い?」
魔法の情報に匹敵する対価とは何か。
考えて見るとなかなか難しい。
「んーと、そうだなぁ。いや、とりあえずオークの事だけ教えてくれません? 提示した対価は多分高めになるんで、気に入らないって黙られたら情報喋り損ですし」
「喋ったら逃げないか? 空を飛べるんだろう?」
「逃げませんって。対価を貰えるなら損な話じゃ無いんですから、ただ逃げる方が損でしょう」
「わかった。そのオークとやらは、湖の向こうにある小さな工場跡地に巣食っていた。地下に大きな空間が有るみたいで、建物の見た目よりも大量に居る」
「おおおおお、マジか。ホントに居た。やっふぅ、お肉が食える! あ、魔法の対価ですよね。どうしよ?」
向こうはこの情報一つで集落の全員に使いまわせるし、無限に利用する事が出来る。
そう思えば、相当高い対価を要求してもいいはずだが、集落の様子を見るとそう余裕がある様に見えない。
「んー。そうですね。テキーラ級のお酒とか有りません?」
「……その歳でテキーラ飲むのか?」
「いや、このご時世、テキーラくらい度数が高いと色々使えるでしょう? それになかなか手に入らない。対価としては良いと思いますけど」
「……そうか。だが悪いが、焼酎くらいしか無いな。他に無いか? こう、何か働きで対価に当てる事とかは可能か?」
槍待ちのリーダーさんが必死に食い下がるが、その発想のお陰で一つ思い付いた。
「あ、じゃぁ皆さん、ちょっと食肉生産工場になってくれません?」
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