第25話 念願の肉!
私の提案を聞いて、みんなポカーンとする。
まぁ詳細を聞かないと、そして魔法の価値を理解しないと意味が分からないだろう。
なのでまずは、デモンストレーションから入る。
「まず皆さん、魔法スキルがどれだけの価値を持つかを理解してもらう為に、ちょっと武器を振るいますが、皆さんには危害を加えないので、安心してください」
「みててねー?」
一番良く使う白狐を抜くと、いつも通りにケモミミスタイルに変身する。
その姿にまた人々が驚愕するが、今は無視する。
「風炎斬」
明後日の方向に、建物に当てないよう空に向かって風を孕んた炎の刃を打ち出す。
この風炎斬、かなり使用率が高かったからか、レベル五十を過ぎた辺りでアクティブスキル化したのだ。
「雷鳴斬」
そして風炎斬と同様に単一属性でアクティブスキル化した雷鳴斬。他にも風刃がアクティブスキル化しているが、風単一はコストも安くて切れ味も良く、使い勝手がヤバいのだけど、デモンストレーションに使う魔法としては地味である。
空に打ち上がった紫電の刃が弾け、けたたましい音が朝の空に響く。
「白狐に宿れ爆炎よ」
さらにちゃんと上級エンチャントで演舞。やはり炎は派手で良い。説得力がある。
刀を振る度に洒落にならないレベルの炎が吹き上がって、焼けないハズの空も焼けそうな程だ。
「とまぁ、こんな力なので、ちょっとやそっとの対価で渡したくないのは、理解して貰えるかと思います。正直テキーラを対価に教えるのもかなり安いなって思ってました」
エンチャントを消して白狐を納刀する。
見ていた皆さんは口をあんぐり開けて、秋菜はすごいでしょーと胸を張って誇らしそうだ。
「このスキルを教えた場合、皆さんはもっと安全に暮らせて、この先もその安全を守るだけの力を得られるでしょう。その対価に、恒久的なお仕事をして貰えたらなって思います」
だがまずは、オークが実際に食えるのかどうかを確認して、なおかつオークがリポップするのかも確認しないといけない。
もしオークのリポップがダメなら、湖で適当に漁でもやってもらおう。
むしろ湖に水棲モンスターが居たら、その肉も手に入るだろうし、さすがに湖ならリポップが無くても狩り尽くしはしないだろう。
そんな訳で、今の世界にはモンスターのリポップ現象なるふざけた物が当たり前に起こり、それを逆手にとって食肉を延々と手に入れたい。そう皆さんに伝えると、むしろ魔法が手に入る上に食肉までも食べれるならと、かなり乗り気になっている。
「そう言う訳なので、ちょっとそのオークの巣を軽く見てきますから、待ってて貰えます?」
「ああ。……逃げないよな?」
「心配なら秋菜を置いていきますから。私はこの子を置いて逃げたりは絶対にしないので」
「えー……、あきな、たたかいたかったなぁ」
ぶぅ垂れる秋菜の頭を撫でてから、マジックエアライダーを準備して発進、湖を超えて噂のオーク牧場へ。
超感覚で探すと、確かに工場的な場所からうようよとモンスターの反応がある。
丈夫そうな工場倉庫の屋根に着地して、中に飛び込む。
中には文字通り山のようにオークが居た。だが今更オークなど私の敵じゃない。三匹程首を刎ね無いように気を付けて斬り、血抜きしながら工場の天井に足から吊るした。
その後はもうリポップの確認がしたいので、申し訳ないし勿体ないが、全滅させる。
超感覚を信じるなら、ここらは工場地帯っぽくて、他にもオークが住み着いてる工場は結構あったので、ここだけ滅ぼすくらいなら問題無いはずだ。
「消し飛べ、雷鳴斬」
雷エンチャント中の雷鳴斬は威力増し増し。そしてアクティブスキルになっても魔法の特性は持っているので、強めの語気をくっつけると威力が上がる。もちろん消費も上がる。
今更レベル五相当のモンスターなんて、レベル六十目前の私が増し増しで放った雷撃に耐えれる訳なく、血抜き中の三匹を除いて文字通り蒸発した。
「さてさて、地下にも居るんだっけ?」
チラッと覗いて、上に出て来てリポップの確認の邪魔をされない様にほぼ全滅させる。
中は入り組んだ様子は無く、巨大な地下倉庫的な場所なのだろう。そこそこ深く、壁も分厚いので焼き殺そう。
「灼熱の劫火で燃え尽きろ!」
超感覚で地下のオークが死に絶えていく様子を確認しながら、地上に出て三匹の食肉を確認。
血抜きは充分済んだようなので首を刎ねてトドメを刺して、凍魔法で肉を冷やす。
今更だが、魔法を使い込んだおかげでスキルが単一で進化して、火魔法が炎魔法。水魔法が流魔法。風魔法が嵐魔法。土魔法が地魔法。氷魔法が凍魔法に変わっている。
雷だけは進化しなかったのだが、進化先が無いのか、あっても条件が揃ってないのか分からない。
雷魔法は良く使う部類だと思うのだが、考えてみるとそこまでじゃなかったのだ。
まず腐肉のダンジョンで一番良く使うのが言うまでもなく火魔法だった。そしてそこで火を使いまくって温度が上がるので、氷魔法も良く使った。風魔法はお気に入りな上に炎と混ぜて強化も出来るし、土魔法は自宅の強化でアホほど使う。水魔法なんかは家に出入りする度に使うのだから頻度が高いに決まってる。
そうすると、雷って攻撃にしか使わないし、攻撃は炎と風の方が使用率が高かったので、もしかしたらまだ条件を満たしてない可能性がある。
「さーてさて、どうやって持って帰ろうかな。解体して行く? でも人型の解体なんて分からないしなぁ。だけど向こうに持ってて解体すると、見た目でカニバル感強くなって嫌がられるかも?」
とりあえずオークを一匹、腹を裂いて腸を取り出し、皮を剥いで見る。多分これは解体の手順として間違ってないはず。
内臓は魔法で消し飛ばして、肉は下ろして剥いだ皮の上に乗せる。
ちなみに天井との行き来はジャンプで行って天井の骨組みに捕まったりしてる。
「うーん。どうしよ。縦真っ二つに切って枝肉って言うのにする?」
思い付いてやって見た。
見た目はコレで相当良くなったと思う。だった首を落として腸も出して、縦に切ったらもう人型とか関係無いよコレ。テレビで見た事ある枝肉だよコレ。
「良く考えたら熊だって人型と言えば人型だよね。あれだって食べるならオークもセーフだよ。足と手が人っぽく無ければ行ける行ける」
ひとまず、良さそうな感じなので残り二匹も同じ様に枝肉まで解体して、剥いだ毛皮で良い感じで包んで屋根の上まで持って来る。
「他の工場から移住されたらリポップの確認が出来ないから、地魔法で出入口と窓を全部塞ごう」
全ての作業が終わると、エアライダーの椅子から吊るすようにオークを固定して、魔力練り込んだゴリ押し風エンチャントでフライハイ。
やっぱりエアライダーで空輸はダメだ。今はゴリ押しするけど魔力が凄い勢いで減って行く。
今では相当な魔力量を誇ってる私が一分で一割持って行かれそうってヤバすぎる。
まぁ内臓を捨てたとは言え、二メートルを超える人型のバケモノ三匹分の肉を吊るしているのだからしょうがない。ポーションをちびちび飲みながら何とかやっと、集落に帰って来れました。
「ああああしんどい! オーク弱いけど運搬が辛い!」
「おねーちゃんおかえりー! ねぇねぇ、ぶたにくさんは? これ?」
そして、今日はもうここに泊まる事にして、三匹分のオーク肉をみんなで分ける。
食えるかどうか分からないけど、まぁ目の前に新鮮な食えるかも知れない生肉があったら、相当数はチャレンジするよね。
集落は百人規模らしいが、その中から勇敢なチャレンジャーが二十人。
それ以外はどんなに味が良くても手を付けない事が決まった。
と言うのも、美味しくても食用に適さない食べ物なんてこの世にいくらでもあるのだ。死ぬけど最強の旨味を誇る毒キノコとか、脂が絶対に消化出来なくて確実に腹を降す深海魚とか。
だから、これはそんな危険にチャレンジする勇者に与えれた特権。そうつまり。
「焼き肉じゃぁぁぁあああ!」
「「「うぉぉぉおおおおおおおおお!」」」
地魔法で竈を作り、金網は集落からお借りして、周囲の木造建築の梁でも引き剥がして薪にしたら、炎魔法で火を灯す。
焼き肉である。炭火じゃないけど薪火焼き肉である。
「うめぇぇええええええええええ!」
「ニクダァァァァァァア!」
「肉肉肉肉ぅ! 俺の肉ぅ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛、涙゛で゛肉゛が゛見゛え゛ね゛ぇ゛」
阿鼻叫喚なのに、みんな幸せそうだった。
私と秋菜も幸せだ。なにせお肉が食えるのだから。
ただ見てるだけで肉を食えない人々は、血涙を流しそうな程に苦々しい顔である。
でも、もしオーク肉が人に合わなかった場合、全員で食べて全員がダウンすると文字通り集落が死ぬのでしょうがない。
だから次の日、お肉を食べた者がピンピンしていた場合、集落の全員が凄まじい熱気に包まれたのは当たり前の事だった。
彼らは実の所、戦えるものでもレベルが五を超えない程度で、集落にちょっかいをかけてくるゴブリンを追い払う程度の戦闘だけで生活して来たらしい。
そうなると、オークなんて巨大で強くて、危険極まりないモンスターでしか無かった。
そんな相手が縄張りから出て来ないのだから、自分たちから手を出す馬鹿は居ない。
だけどもそんなモンスターの肉が食えたらどうか?
ちょっと頑張れば倒せるかも知れないモンスターが、加食可能な肉なのだ。そんなのもう殺るしか無い。
日が明けて早朝、魔力が回復した私はリポップを確認するためなもう一度単身オークの巣へ行く。
前回と同じ工場の屋根に着地して中を除くと、十数体と少数ながらも、ちゃんとオークが居た。
「リポップはしてる? 数が少ないのは、元々リポップ率が高くないのかな?」
今まで狩る者が居なくて溜まっていただけで、元々こんなペースのリポップなのかも知れない。
それに一日で十体とリポップすると考えると、食肉的には破格なのでは?
「他の住処も似たような感じなら、食肉生産工場としては花丸あげちゃうね」
集落の人々を楽々オークが倒せるレベルにまで育てて狩ってもらう。そしてその肉の一部を永続的に分けてもらう。そう言う契約で落ち着きそうなのだ。
湖を迂回するか船で湖を直進するか、オーク肉の運搬ルートは集落の人々に任せるが、せめてオーク相手に死者が出ないレベルに仕立て上げなくてはならない。
もし死者が出ると、オーク肉の価値が下がるのだ。
普通なら希少価値的に逆のはずだが、この世界だと死者を出してまで欲する食肉か否かを考えて、集落の人がオーク肉を諦めてしまう可能性がある。
すると私は毎回オークを倒して解体して、魔力をバカ消費して持って帰らないと行けない。それは辛い。
だからここの人々にオークを狩ってもらい、解体も済んでいる必要分の肉を貰って帰る。それが理想なのだ。
だから、永続的なタダ肉の権利を当たり前に主張出来るほど、集落の戦士を強化して上げようじゃないか。
「そんな訳で、魔法の習得方法を教えます。と言うか実践させます。簡単なので一度受け取った後に約束を反故にすると、ブチ切れた私が敵対すると思って下さい」
リポップを確認した私はすぐに集落の戦士から希望者を募って、と言っても全員だったけど、その人たちに魔法の習得をさせる。
魔法を獲得しても、許可するまでは使用しない様に言い含めて、近くで捕まえたゴブリンを二匹生き埋めにして、いつも通りのココロ流魔法習得術の始まりだ。
集落からライターを二つ融通して貰って、まず全員でゴブリンの後頭部を三十回炙る。
こんな方法聞かなきゃ分かるわけないと笑ったり怒ったりする人達に、次はライターを壊して中のイグナイターを取り出し、静電気をカチカチ三十回当てさせて雷魔法を獲得。
そうやって今のところ判明してる全属性を戦士のみんなに習得してもらって、魔法の発動方法と注意点を説明する。
みんなは今レベルも低くて魔力が少ないから、無茶な使い方をすると一瞬で気を失う事と、やり過ぎた場合は何日も寝続けるような事さえ起きると私の実体験混じりで釘を刺す。
私が持ち込んだスキルで何日も昏倒されて、文句を言われたらかなわない。
「それで、私達も拠点に一回帰りますけど、その間に周辺のゴブリンを徹底的に魔法で狩り殺して、レベル上げをしといて貰えますか? 特に今レベルが低い人は、魔法で戦ってレベルを上げると魔法に適した成長をしていくので、狙い目ですよ」
そうして、ひとまずやる事をやった私と秋菜は、またスグに来る事を約束してから、雪子達に食べさせる分のオークを狩って解体して自宅に帰ったのだった。
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