第22話 闇討ち。



 交流会は現在大盛況でございます。

 私もちゃんぽんを貰い、腹がくちくなると秋菜がやって来て、交流会に集まった子供たちに魔法をせがまれたと言う。

 ただ秋菜は賢いのだ。魔法がただワクワクきらきらの素敵ミラクルだとは思ってない。子供たちの前で危ない事をしていいのか分からなくて、戻って来た私に聞いたのだ。

 それを聞くだけなら雪子でも良かった筈だが、秋菜はやはり賢く、グループの戦力を大勢の前で晒すのか、その許可も含めて聞いてきたのだ。

 ちょっと末恐ろしい十歳じゃ無いだろうか?

 そんな訳で、せっかくの交流会だし、魔法の取得条件は未だごく一部が握っているだけなのだ。少し晒すくらいは問題無いと、私と秋菜が協力してパフォーマンスを披露する。

 春樹が自分もと騒ぐが、パフォーマンスを見た後に自分も出来ると思ったらやらせてあげると言ってパフォーマンスをすると、春樹は黙ってしまった。


「しゅんげぇぇぇえー!」

「かっけぇー!」

「まほーしゅごーい!」


 まず私が金と白の幻想刀を抜刀。力の限りジャンプする。

 そのあと秋菜が私の真下からいい感じに風のエンチャントが入った弾を狙撃スキルで撃って、私の足の裏で爆風を起こす。

 それを受けて更に飛び上がり、落ちて来てもまた浮き上がる私は金狐に炎を、白狐に紫電を纏わせて上級剣術による空中演武を披露した。

 大盛況である。


「ふっふっふ、そんな物を見せられたら、純魔法使いとしては黙ってられないだろう? 炎よ、水よ、雷よ、風を受けて舞踊りたまえ!」


 そこに純魔法使い太郎さんも乱入して、私の周りに炎と水と雷の、鳥やら流やら魚やら、色々飛んで舞って踊ってる。

 ぶっちゃけこのレベルになるなら、私は演者じゃなくて観客側で見たかった。絶対今私凄いことになってるでしょ。


「くそ、ここで銀狐まで使ったら絶対幻想的なのに……」


 白狐が普段使いで金狐は決戦用の武器だが、銀狐は使い勝手の良い切り札なのだ。

 相手を幻惑する。この世界で私が唯一知っているデバフの魔法効果なのだ。コレは無闇に晒せない。

 だけど今銀狐を使って尻尾ブンブンしたら凄いことになるんだろうなって思うのだ。ちくしょう。


「……いや、そんな事したら秋菜が足裏狙えなくなるか?」


 とにかく、交流会は大盛況で大成功だった。

 盛況すぎて、夕方には終わる予定だったのに日が暮れても続き、太郎さんが火魔法を工夫した花火もどきを打ち上げてフィナーレだ。

 ほんの少しだけ、終焉を迎える前の日常を感じる事が出来たのだ。


「だって言うのにさぁ……」

「おねーちゃん、ころす?」

「前に来た奴の仲間だろ? 今度こそやっつけてやる!」


 交流会からいつの間にか居なくなっていたアウトロー組は、病院から私達の自宅拠点を結ぶ進路で待ち伏せしていた様だ。

 私は何も言わない雪子から特製濃縮スポドリ、区別のため便宜上マナポーションと呼んでる液体が入った水筒を受けって中身を煽る。

 三百ミリほど入る小さな水筒だけで、アレからもレベルを上げた私の魔力が四割回復した。

 レベル二十から三十くらいの人ならば純魔法使いでも一本で全快する性能だ。

 秋菜も同じ物を飲んで、春樹は前に手に入れたナイフを抜いて風のエンチャントを施す。


「鏖だ」


 今では春樹でさえ索敵スキルを持っていて、ウチのメンツは全員がもう腐肉のダンジョンをソロで探索しておやつタイムのお菓子探せるレベルなのだ。

 今更レベルが二十を超えないスキル持ちがいくら集まって闇討ちしようと、なんの痛痒も覚えない。

 私の宣言を合図に、もはや弱者など一人も居ないココログループのメンバーが散開。二秒後には阿鼻叫喚の悲鳴が辺りに木霊する。


「全部で十八人かな? 随分集めたけど、交流会のパフォーマンス見てなかったのかよ。むしろ見てたから消耗してるとでも思ったのかな? ねぇ、どうなのジュンヤくーん?」

「ひぃぃぃいいいっ……!? な、なんでっ!? どうしてっ!?」


 私も隠れた襲撃者を三匹ほど風の刃で殺したあと、ちょいと奥に隠れていた首謀者の元へ来た。


「なんで隠れてる場所が分かったのかって? それともなんでこんな簡単に自分のグループが壊滅したのか? 自分の隠密系スキルがなんで効かなかったのか? ねぇ、何に対しての疑問なの?」


 あの後、ちゃんと謝罪して誠意の百個くらい見せたら許してあげたかも知れないのに、まさかその日のウチに襲撃して来るなんて。

 進化武器が魅力的過ぎたのだろうか? 囲ってる女の子にケモミミ生やしたかったのだろうか?

 だが残念。君はここで死ぬのだよ。

 白狐を振るって一回、二回、三回。

 膝から下を斬り飛ばし、右から先を斬り捨てて、左腕も肘から先を斬り裂いた。


「いぎゅぁぁぁぁあぃぃぃぃいいあああああああっ……!?」

「醜い悲鳴だなオイ。質問に答えろよてめぇ。何が“なんで”だってんだ? あん?」

「だじゅげでぇぇぇぇぇぇええええっ……!」


 四肢が無くなって達磨になったジュンヤくんは、悲鳴を上げながら腹の屈伸運動だけで逃げようとして、まるで尺取虫である。


「まぁいいや。冥土の土産として勝手に答えてやるよ。お前の隠密系スキルは間違いなく作動している。しかもお前如きには勿体ない程の高性能スキルだよな。今でもお前の反応が若干霞んでやがる」


 白狐の幻想刀を背中から突き刺して地面に縫い止める。

 刺してる間はずっとドレイン状態なので、もうコレでコイツは詰みである。


「ただ、お前と私にレベル差があり過ぎるんだよ。スキルの能力はレベルに依存する。お前の低いレベルでも高性能な隠密系スキルを、私のレベルが超えただけだよ」


 今も生命と魔力を白狐の幻想刀に吸われている哀れな男は、隠密系スキルで邪魔されつつも超感覚で探ったところ、レベルは十九だった。

 そして現在の私のステータス。


 【ココロ:Lv.58】

 【パッシブスキル:修羅-上級剣術-武術-超感覚-心眼-不屈-斬撃-射撃-打撃-投擲】

 【アクティブスキル:ココロ・スラッシュ-ココロ・シュート-風炎斬-雷鳴斬-風刃】

 【マジックスキル:炎魔法-流魔法-嵐魔法-地魔法-雷魔法-凍魔法】

 【ウェポンスキル:魔力強奪-生命強奪】


 ほとんど四十近いレベルの差があるのだ。

 いくらスキルが高性能だったとしても、この差を覆すのは不可能だろう。

 なにせ、レベルゼロで腐肉へ挑むよりもレベル差があるのだ。無理に決まってる。


「あと、更にもう一つ、単純に私の身体能力がレベルで上がりすぎて、会議室で覚えたお前の匂いも辿れんだよね」


 レベルアップはレベルアップする時の行動によって上昇する能力が変わるが、その中に上がりやすい能力が有るだけで、一切上がらない能力は存在しない。

 膂力も魔力も思考速度も反射神経も嗅覚も、何もかもが少しずつ上がるのだ。

 そんな力を持った存在の、レベル五十八。もはや嗅覚は意識さえすれば犬並だろう。


「分かったか? お前らは、決定的に喧嘩売る相手間違えてんだよ。バンディットプレイがしたけりゃ、まず鍛えるべきだったな」


 言いたい事は言ったと、白狐の幻想刀を獲物から抜いた私は、そのまま血振るいしてから納刀した。


「………あ、……ぁ?」

「もし死なずに生き残ったら、チャラにしてやるよ。まぁ無理だと思うけど」

「………………ぃ、ぁ」


 長々と話しをして、白狐の幻想刀で魔力も生命も奪い尽くした。

 もはやマトモに喋る事も出来ない有り様で、仲間すら一人も残って居ないこの状況。放置するだけでゴブリンの餌になるのは目に見えている。

 生き残ったらチャラにすると言ったが、本当にそんな奇跡が起こったらその通りにしてやっても良い。だけどそもそも奇跡など起こすつもりもない。

 私はポケットから、ダンジョンのサバイバルグッズの店で手に入れたトランシーバーを出して、死にかけた男の仲間の遺体を集めてもらう。

 わざわざ刻んだ死骸の山をそこに起き、血肉の匂いはゴブリンを誘うだろう。


「おねーちゃん、なんでこれ生きてるの?」

「んーとな、どうせだから飛びっきり酷い目に合わせてやろうと思ってな。白狐の幻想刀で体力と魔力は吸い尽くしたから動けないし、このままゴブリンに生きたまま食われたら、少しは反省するだろ?」

「おねーちゃんすごい! きっとはんせーしてくれるよね!」

「……妹が姉ちゃんに毒されてくよ、お母さん」

「良いのよ。もう優しいだけの良い子は生きていける世界じゃ無いもの。春樹もココロさんに学ぶのよ? ココロさんのふわふわモード、好きなんでしょ?」

「くそぉっ、ケモミミが好きなのそんなにダメかよっ!?」


 ココログループの最大戦力兼総帥が私だとして、隊長職が秋菜である。現在五十レベル。

 春樹は秋菜を追い掛けて現在四十四レベルだが、ここらのレベル帯だとレベル差六は果てしなく遠いのだ。

 雪子はある程度の戦闘力が保てたら私達のサポートに回るつもりみたいで、レベルは四十まで上げてあるが、最近は専ら裁縫や物資の管理、さらに今のままでも美味しく出来る料理の研究などをしている。

 直近で聞いた雪子の報告では、「ココロさん。小麦粉ってこんなに便利な食材だったんですね」と言われた。そりゃ太古の時代から戦略物資扱いされてたマジモンの食糧だからね。保存方法と湿気に気を付けてれば長期保存も可能で、様々な料理に化けるし、最悪塩と水が有れば練って茹でて食える。凄まじいポテンシャルを持っている。

 そんな訳で、最低でもレベル四十。最大でレベル五十八の戦力を持っているココログループを、レベル二十未満の徒党で襲うなんて、狂気の沙汰としか言えない。

 彼らはとても残念で無駄な死に方をした。


「……さて、戦闘の予定が無かったから白いワンピース着てきたのに、どうしてくれんのこれ?」

「……一応洗ってみますか?」

「これめっちゃお気に入りだったんだけど? 何とかならない?」

「むしろ秋元さんにお願いして、魔法で何とかする方が現実的な気がします。白地に血の跡はちょっと………」

「どちくしょぉぉおっ!」


 基本的に遠間から魔法で斬っているので返り血はほぼ浴びないのだが、ジュンヤのクソ野郎は正面から手足をぶった斬ったので、スカートや胸元の目立つ所に返り血が着いてしまった。

 ベットリと言う程じゃないが、絶対に気になる場所にペチャッとついてるのだ。ほんとムカつく。


「もしくは、血の汚れを含めてリメイクしてみるとか?」

「雪子そんなん出来んの?」

「あ、はは、私はちょっと無理ですね」

「………避難所で服飾に自信のある人探してみる? いや太郎さんに聞けばいいか」


 帰り道。

 超感覚にジュンヤのクソ野郎がゴブリンに集られている事を感じた私は、ワンピースの仇めと笑った。


 ちなみに後日。


「まず血を一旦乾かして、スクラブ系洗顔料で揉み洗したあと、洗剤と漂白剤を混ぜた水をそれぞれ水魔法で汚れにピンポイント爆撃ループをすると、この通りだよ。まだ気になるなら白い染料を薄めて使えば完璧だろう。白い服で良かったね」

「太郎さんあざまぁぁぁぁぁっす!」


 太郎さんに一応相談したところ、一瞬で解決して貰った。

 似たような事を避難所の主婦に相談されて編み出した技だそうだ。ありがてぇ!


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