第21話 交流会。
「これより、第一回生存者交流会を始めます」
今日は、春樹とダンジョン探索を行ったあの七夕の日から一週間。つまり七月十四日。
アレからケモミミ生やせる様になった私は、当然秋菜に喜ばれ、雪子に驚かれ、春樹に惚れられ、春樹の性癖が雪子にバレたり、秋菜が初めて春樹に対して嫌悪感を出したりと色々あったが、本日は仲良く全員がここ、メルセデスが守護するめぶき総合病院に来ていた。
ここの医院長とはメンチを切り合う間柄だったが、太郎さんと研究したポーションの成果と共にスピリタスやクエルボなんかのテキーラをプレゼントしたら、凄まじい手のひら返しで手首がドリルになった医院長だった。
そして医院長は、前に私が言ったことを本気で理解して、外部との環境の乖離や情報の欠落が、世界そのものに置いてかれてしまう様な取り返しのつかない事なのだと、今日ここにこう言った催しを開催したのである。
開催場所はめぶき総合病院の駐車場、会場が見える一階会議室。
駐車場では干し野菜と乾麺を使ったちゃんぽん的な炊き出しが行われ、集まった参加者に振る舞われている。
外では様々な人々が文字通り交流し、少しでも生きる活力にしようと動いてる。
そんな中で飛びっきりの生命力を感じるのは秋菜で、「ケモミミおにーちゃん、ちゃんぽんおいしーね!」「……もう許してくれよぉ」と涙目の兄と一緒に、炊き出しを啜っては笑顔を振り撒いていた。
この先には絶望なんて無い、楽しくて輝かしい未来しか無いと示す秋菜の笑顔は、確実に会場の雰囲気を良くしていた。
そんな人々を見ながら、私は会議室に居た。
「はい。では手筈通りに、私が進行を務めさせて頂きますが、本当によろしいんですね?」
会議室で私が席を立ち、隣の医院長に確認を取る。
こういう場合は会場の主である医院長が指揮を取るべきだと思うのだけど、いま地域で一番力があり、一番世界の有様を理解している人物として、私が進行役に選ばれた。
頷く医院長に釈然としない思いを抱いたまま、それでも仕事はこなそうと司会を始める。
「では、第一回交流会の始まりとしまして、会議に参加している代表者の皆様に、自己紹介と所属しているグループの簡単な説明をお願い致します。……ではまず私ですが、白雪ココロと言います。ココロとお呼び下さい。私が率いているのは、現在ダンジョン化しているショッピングモールにて保護した親子三名で、生存とモンスターの討伐を目的に活動をしている少数のグループになります」
発言が終わり、次の人へ視線で促す。
立ち上がった太郎さんは、ほんの少し挙動不審であったが、紹介を始めた。
「ん、んん。本当にココロ君だったのだね。誰かと思ったよ。……さて、私は秋元太郎。第三中学校の避難所に身を寄せる避難民であり、同避難所の最高戦力兼幹部としてここに居る。所属は先に言った通り第三中学校避難所。今も人は増えてるが人員は大体百五十程になる。一応今回の交流会で最大規模の集団とされている。今日は避難所の為にも、有意義な交流に出来たらと願っている」
元々サラリーマンなのか、ビジッと決めた太郎さん。
ただ私が誰だか分からないなんて、失礼だなもう。ぷんぷんだぞ。
初めてふりふりのクラシカルロリータファッションを見せたとは言え、いつもイモいジャージを着てたとはいえ、大変に失礼だ。
私は太郎さんに遺憾の意を視線で示すと共に、次のグループを促す。
「……お、俺は貞口明夫。十人と少しがホームセンターに籠城しているグループに所属して居て、一応最大戦力兼リーダーをやってる。こ、こんなに生き残りが居たなんて、とても驚いている。俺も有意義な交流会になることを、願っている」
浅葱色の作業服を着て、キョドキョドしている四十代くらいの男性、貞口明夫は、言われた通り例のホームセンターを率いてる人間である。
超感覚で読み取る生命力では、レベルが十八前後で、まぁまぁ強いだろう。ゴブリンだけ倒してそのレベルなら相当だ。
こうやって彼らと交流が出来たのだから、是非格安でセメントなんかを交換して欲しい。アップグレードした塀とか壁とかを補強したい。
「それじゃ、次の方どうぞ?」
観察もそこそこに、次を促す。締めを医院長にお願いするので、これで最後のグループである。
そんなグループに私は全力でニッコリ笑って愛想を振り撒く。多めの殺意を込めて。
「お、おお、俺たちは、その、生き残りのグループが、集まって、もっと大きなグループになった、えっと、そんな感じです」
「名前」
「あっ、えっと、河野淳也、です」
大変キョドキョドしてらっしゃる彼は、偶然判明した所によると、私の家を襲撃したグループが所属していた大元になる。
当然施設の外で会ったならブチ殺していた。
何故そんな事を知ったかと言うと、探索中にそんな事をベラベラ喋ってる彼本人に遭遇。殺害を決意して攻撃をしたら、仲間を盾にして河野は逃走。
しかも気配を遮断するタイプのスキルでも持っているのか、超感覚で追えなくなってしまったのだ。
「で? 活動内容は? ほら色々あるでしょう? 殺人とか強奪とか、お得意でしょ?」
「や、やめてくれよっ」
とりあえずこの交流会が終わったら確実に対価を払わせる。
物資か命かくらいは選ばせてやってもいい。
「では最後に、医院長」
「ふむ。私はこの、めぶき総合病院の医院長、坂本だ。活動は見ての通り、この世界でもなるべく満足な治療を施すため病院を運営している。この時世だ、金銭の要求などしないが、寄付という形で良いから物資の融通を願いたい」
自己紹介は終わったが、実は私、進行のあれこれとか何も聞いてないのである。
私が必要と思った事をアドリブで頼むとか医院長、坂本のモっさんに言われたのだ。
「では、グループごとに、共有したい情報の発信や報告を行いたいと思います。誰か、何か有りますか?」
「あ、じゃぁ私が良いかね? ココロ君と医院長は知ってると思うが、アルコール飲料がHPポーション、スポーツドリンクや栄養剤全般がMPポーションになることがわかった。研究の結果、アルコール飲料は度数が高い程回復効果も高く、だが工業用アルコールではポーションにならない事が分かっている。あくまで飲料である事が条件であるらしい。内臓破裂や病気に対しては服用して、外傷には振りかけて使う。MPポーションは未だ研究中だが、効果の上下は可能だと判明している」
太郎さんが改めて発表すると、ホームセンターとアウトローは知らなかった様で、かなり驚いている。
そのあと、ホームセンターの貞口は何か口元をモニョモニョさせた後、手を上げた。
「あの、俺もいいかな?」
「もちろん。何かありましたか?」
「俺、普通の飲み物とかがそんな事になってると思わなくて、でも他にも変な事になってる物があるなら、心当たりが一つあるんだ」
「……と、言いますと?」
「ホームセンターに閉じこもって、たまにモンスター倒して暮らしていたけども、ある日仲間が戸締りミスってモンスターが入ったきたんだ。よく見かける人型の奴、ウチの若いやつはゴブリンって呼んでる奴が入って来て、拠点に置いてあったドッグフードに飛び付いて貪り始めたんだ。そしたら、そのゴブリン俺たちの言う事聞くようになって、ゴブリンと戦うように言ったら戦い始めたんだ」
話しを聞いて一番に思ったのが、モンスターにお肉を上げて仲間にして行くドラゴンなクエストと、紅白のボールをぶつけてモンスターを捕縛するアレ。
「……調教用アイテムか!」
「そう言えば、私コンビニ漁った時、ペットフードを見た記憶が一回も無いんですけど……、もしかしてモンスターが優先して持っていってた?」
「だとしたら激レアアイテムじゃないかね!? 上手く行けばモンスターに労働させて、農耕や畜産で食糧生産も夢じゃないぞ!」
興奮した私達を見て、有用な報告が出来たと思った貞口、いや貞口さんは、ほっとしたように席に座った。
「貞口さん、ホームセンターにペットフードは残ってますか?」
「あ、ああ。腹減って我慢出来ない奴が食ったのも有るけど、基本的に手付かずさ」
「効果時間とかって検証しましたか? そのゴブリンって今どうしてます?」
「え、いや、えっと。そのゴブリンは他のゴブリンと戦って死んじまったよ。検証とかはして無い。だってあれは、あのゴブリンの頭がおかしいんだと思ってたから……」
「なるほど。いやでも、有用な情報ありがとうございます。テイム以外にも、ホームセンターの中の人より優先して飛び付くなら、ペットフードを使って罠を作っても面白そうですよね」
「問題はどの程度のモンスターにまで効くのかだね」
「フードの値段とか格でも変わりそうですよね。猫型モンスターとか居たらチールの一撃で堕ちるでしょ」
会議は盛り上がり、アウトローのリーダーを除いて大いに盛り上がり、ホームセンターが持ってる大量のペットフードは戦略物資扱いでなかなか高値が着くことになった。
高値と言っても金銭じゃない。物資を交換する際にレートが高いと言う意味である。それを聞いた貞口さんはニコニコしていた。
そりゃ、ね。ホームセンターってペットフードが馬鹿みたいに山積みだもんね。あれ全部戦略物資扱いならホックホクだよ。
「あ、じゃぁ私も報告しましょっか。ぶっちゃけコレは伏せとこうと思ったんですけど」
「……ココロ君の報告か。心せねばな」
「……ココロせねば、……ココロ君だけに?」
「ブチ殺すぞ中年二人」
モっさんが変な拾い方したせいでとばっちりを受けた太郎さんごと怒りながら、私は持ってきた幻想刀を前にだす。
それを見た太郎さんとモっさんは「え、そこまでブチ切れ!?」と慌てるが、怒ってはいるけど刀を振り回すつもりでは無いのだよ。
「モっさんと太郎さんは私が使ってた模造刀を知ってると思いますけど、とりあえずコレを見て下さい」
「見事な拵えの刀だとは思うが、モっさんって私の事かね?」
「もしかしてドロップ品でも出たのかね?」
喋り方が似てる二人の前で、白狐の幻想刀をチキッと抜く。
完全には抜かず、刀身が鞘から少し見える程度であっても、その変化は起きる。
「………ッ!? こ、ココロ君? それは何だね?」
「これは、タツヤが見たらまた騒ぎそうだね」
「ケモミミ、だとっ!?」
「これはこれは、可愛らしいですね……。え、何が起こったので?」
何気に一番反応したのは淳也である。こいつ春樹と同じ匂いがする。
「この刀、実はずっと使っていた模造刀と同じ物なんです。この間、武器が進化しまして。模造刀から本物の刀になった上に、色々な能力が増えました」
「……ドロップ品じゃなく進化システムだったのだね。なるほど」
「三本ある内のコレ、白狐の幻想刀って言うんですけど、斬り付けると多分ダメージの一パーセントくらいのMPとHPを回復出来ます。あと鞘から抜くとこんな見た目になります」
さすがに効果の全部は教えられない。特に敵対的なアウトロー組のリーダーがこの場に居るのだから。
銀狐の能力なんて今見せたら皆喜ぶだろけど、バレたら対策を立てられる可能性が一番高いのも銀狐なのだ。
「つまり、俺達も武器を進化させればケモミミ美少女になれる?」
「……この若者は何を言ってるのだね?」
「まぁ馬鹿は置いといて、ホームセンターに対してお礼って訳じゃ無いんですけど、ホームセンターって武器になる物沢山置いてあるじゃないですか。だから少しでも進化させられたら大きな力になるし、取引に出せば凄まじい価値が付くと思うんですよ」
「な、なるほど……」
「コレが進化する時に聞こえたアナウンスが、武器との絆が上限に達したって出たので、一つの武器を長く使って大事にしている人は、進化させられると思います」
「……ん、確かウチの若いの、どれだけ言っても鉈はロマンだって言って長物持たなかったけど、もしかして?」
「大事にしてたら可能性は有るんじゃないですかね。私のコレは父の形見だったので、父の形見で父と母を殺したモンスター共を根絶やしにしてやろうって持ち出したんですよ」
「ふむ。そのレベルの執着があって、終焉の初期から今まで使ってやっと最近進化したのだね? ならやはり簡単な事では無いのだろう」
話しながらチキッと納刀すると、消えたケモミミを見たアウトローの淳也が「そんなっ」って泣きそうになるが無視する。
ちなみに着ている服のお尻辺りに尻尾穴とそれを隠すリボンが付いた可愛いクラシカルワンピースだ。色は白を基本にしてるが、今日は戦闘の予定が無いので返り血の心配はしてない。
雪子が裁縫得意で良かった。
「いえいえ。大事にしたら進化するって分かったからこそ、もっと大事に出来る事も有るんじゃ無いですかね。もしかしたら速度も加速するかも知れませんよ。私の場合模造刀だったので、斬るにもスキル頼りだったから研ぎとかも要らないし、ただ長く持ち歩いて長く使ってただけですから」
「……なるほど。なら私も今日から自分の杖をもっと大事にするとしようかね。最近結構愛着が湧いているのだよ」
「木工の道具とかニスとか、ホームセンターと交渉したらどうでしょう」
「ふむ。アリだね。どうでしょうか貞口さん。取引はして頂けるので?」
「も、もももも勿論です! うちなんて、食べ物以外ばっかり豊富なんで、食べ物を頂けると助かります!」
「……あ、そう言うやり取りならココロちゃん、ウチの病院に鉄砲系の武器が欲しいんだが、交換出来ないかね?」
「エアソフトガンはお高いですよ? バッテリーとか予備弾倉とか充電器とか一式になりますから尚更に」
「んー、電気とか使わない物は無いのかね?」
「あー、エアコッキングで良いんですか? あ、そっか拠点防衛用なら即応性はそこまで要らないのか。ならポンプアクションライフルを今度持ってきますよ」
「ふむ。何が何だか分からないけど、任せるよ」
なかなか有意義な会議と交流会になったが、アウトローはやはり一人ポツンと取り残されていた。
そもそもなんでコイツこの場に居るの?って疑問も当然だが、単純に交流会の炊き出し目当てに集まって、集団のリーダーは会議室にって事でやって来て、そしたら私がここに居た。それだけである。
「では、お話しも良い感じに詰まった様なので、会議はここまでにして交流会に行きましょうか。……私もちゃんぽん食べたい」
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