第16話 生存者。
「秋菜ちゃんつよっ」
「マジかよチート幼女とか実在したのかよ」
「十歳って幼女か?」
「気にするのそこか?」
「うるせーなポリシーだろ」
さすがにスキルの内容全てはバラせないが、よく分かんない変なスキルと変なスキルに作られた変な必殺スキルが無い分、下手したら秋菜の方が純粋に強いかも知れないことを伝え、間違いなくスキル十四個だと発表すると、男子中学生が沸いた。
「ぶぅ、俺だって……」
「こらこら、不貞腐れないの。秋菜はココロさんの傍で頑張ってたんだから」
「俺も自分だけのスキル欲しい……」
「あ、いや多分秋菜の持ってるスキルは頑張れば取得出来そうな感じだったけど。私の修羅とかココロシリーズとか、意味不明な感じじゃ無かったぞ」
「むぅぅー! 俺だってぇー……!」
秋菜がチヤホヤされて羨ましい春樹は、ぶぅぶぅ不満を漏らしながら最後は泣き始めてしまった。
十二歳だとこんなもんだっただろうか? ちょっと秋菜が優秀過ぎて、年相応っぽい春樹が余計に幼く見えてしまう。
頑張れよお兄ちゃん。
「ほら春樹、後ででっかいナイフが置いてあるお店行くから、ナイフとパイン飴あげるから元気出せほら」
「姉ちゃんは俺にパイン飴あげたすぎだろぉぉぉもぉぉぉお!」
春樹が怒った。
一応まだ腐肉が居るかも知れないので、警戒しながら移動を始める。
とりあえずウチの子が泣き始めちゃったので先日のサバイバル店を目指さしてもらう。
男子中学生もサバイバルグッズとか大好きなので異論は無く、お店に辿り着くとブワーッと店内に散っていった。
私も前回来た時に叩き割ったショーウィンドウに残った手頃なロングナイフを春樹に渡してあげて、ついでに宣言通りパイン飴を口の中に押し込んでやった。
「ほら、元気出たか?」
「……うん。ごめんな。秋菜も母さんの為に頑張って、怖い思いも我慢して色々やってたのに、俺が泣いてちゃダメだよな」
「分かってるならお前も気合い入れろよな。言っとくけど秋菜マジで強いからな」
「おう! おれ、姉ちゃんみたいに剣で戦えるようになる! そんで俺が秋菜の前で戦って、秋菜が後ろで魔法と銃で戦うんだ!」
元気になったちびっ子の背中を押して、さらに元気過ぎる様子の中学生男子達の方に送り出す。
あとはもう、男子特有のバカなテンションでちびっ子の涙を上書きしてくれ。頼んだぞ男の子!
「……うわ、えー? ちょっとこれ、ココロさーん!」
「あん?」
一人で店の隅っこら辺で物色していたシッキーが私を呼ぶので行ってみると、そこにはいつか見た光景があった。
「……うわぁ、前回は気が付かなかったなぁ」
今回は外側にバリケードと張り紙が無かったが、山ほどのバリケードが磨りガラスの向こうに見えているスタッフオンリー的な部屋があった。
「これ、生存者ですよね?」
「多分ね。でもコレだけ外で人間が騒いでるのに出て来ないなら、死んでるんじゃない?」
「うわっ、こわっ、中に死体があるんですかっ!? 生存者じゃないじゃん」
騒ぎに気が付いた太郎さんと雪子もやって来て、特に雪子は自分達の過去と重ねたのだろう。めちゃくちゃ辛そうな顔で俯いた。
「太郎さんどうしましょ? 多分生きては無いと思うんですど」
「……確かめない訳にはいかんだろう」
「ですよねー。どうしよっかな、内側のバリケードを向こうが退かしてくれないと普通に面倒なんだけど」
「ココロ君、斬れないかね?」
「行けますけど、出来れば模造刀じゃなくて刃物が良いです。あ、シッキーそれ貸して」
隣のシッキーが持っていためちゃデカサバイバルナイフを持って斬撃スキルで扉の蝶番をぶった斬る。
やはり刃物で使うとスキルのノリが全然違う。
蝶番が仕事をしなくなった扉のドアノブを掴んで、膂力に任せて内側に引っ張る。
バキョッと音がして扉がぶっ壊れると、内側から唯ならぬ匂いが漂って来た。
「くっさっ!」
「馬鹿者! 口を慎め!」
「シッキー、中に人が生きてたらどう思うか考えな?」
「あ……、ごめんなさい」
バリケードを向こう側に吹き飛ばすと、生存者が居た場合事故が起きるので、積まれたバリケードを丁寧に手前へ退かしていく。
そうして頑張って歩を進める内に、他の男子もやって来て、人数さえ揃えば物の数分でバリケードが撤去出来た。
「………生きてる?」
「だな。衰弱が激しいが、まだ息がある」
中に居たのは恐らく両親と思われる男女の大人と子供一人。
奇跡的に全員が息をしていて、本当に辛うじて生きている様子だった。
ただこの部屋にはトイレが無いらしく、排泄は部屋の隅にまとめてして、汚物はそのまま処理出来ない環境で生きていたらしい。
これは助かるのだろうか?
「……病院なんて動いてないだろうし、点滴すら打てないと思うんですけど」
「いや、学校には看護士や医者も居た。道具と点滴薬さえ取ってくれば何とかなるかも知れん」
「なるほど。さてそうなると、……秋菜!」
ここまで衰弱した人間を運び出して良いのか私には分からないし、多分太郎さんにも分からない。
ならば分かる人を呼んでくるしかなく、他にも医療系物資も必要だ。
消毒液や包帯なんかの普通に使う医療系物資はかなり確保してあるが、さすがに点滴薬なんかは分からない。
「秋菜、あんたは強い。超強い。そんで機転が利く。私が居ない間を任せるとしたら、悪いけど雪子でも春樹でも無く、私は秋菜を選ぶ」
「………うん」
「この人たちはもう少しマシな場所に移すとしても、トラックに乗せて学校まで移動するのに体力が持つか分からない。だからここに残して、私と太郎さん達は一度学校に行く。だから秋菜はここで雪子と春樹、そしてこの人たちを守ってくれる?」
「……あきな、がんばるよ。だから、おねーちゃん、あとでうんとほめてね?」
「ばっかお前、今山ほど褒めてやるって」
秋菜は私に懐いてる。ちょっと何でか分からないくらい懐いてる。
私に次ぐ実力を身に付けたし、鉄火場で動じないクソ度胸もある。
でも、秋菜のそれは、その場に私が居てこそなのだ。
それでも不安を飲み込んで頑張ると言った秋菜の頭をこれでもかとクシャクシャに撫でて、ぎゅっと抱き締める。
「なるべく早く帰って来るから、待ってろ」
「……うん。あきな、いいこにまってるね」
雪子の目を見ると何も言わずに頷き、春樹は選ばれたのが自分じゃない事に歯を食いしばるも、それでも気合いを入れ直して胸を張っていた。
「太郎さん、男子も連れて全力ダッシュで学校に帰りましょう。それから太郎さん達は医療関係をこの場所に。私はその人達に必要な道具を聞いてから病院に行って、漁って来ます」
「……なるほど。それが良いだろうな。もう夜になる。急ごうか」
全員で協力して衰弱した生存者を運び出し、隣のテナントが比較的環境が良かったのでそこに寝かし、後は秋菜に任せて私達は走り出した。
「おっせぇぞ男子ぃぃいっ!」
「ひぃっ、ココロさんが鬼教官にっ!?」
「秋菜ちゃんが言ってたけど、ココロさん気合いが入ると人が変わるんだってさ。さっきのボス戦見ただろ?」
「喋ってる暇あるなら足動かせオラァッ!」
日が暮れた暗闇の中を走り抜ける。
もはや全員が三十レベル近い化け物になっているのだから、全力で走れば車並みに早い。
特に物理も上げて居る四十レベルの私など、今では高速道路の追い越し車線を生身で走れるだろう。
車と違って瓦礫がある道も関係無く走り抜け、必要とあらば建物も乗り越えて最短距離で走る事数分。
あっと言う間に避難所の学校に辿り着く。
男子は一分ほど遅れているが、純魔法使いかつ私よりレベルの低いはずの太郎さんは着いてきていた。流石である。
「風魔法で後押しすればこんなものだよ」
なるほど。それは参考にしよう。
学校に着いた私達はすぐに避難民の中の医療関係者を探し、寝ているなら叩き起した。
もちろん最初はキレ気味だったその人達も、事情を説明すると殆どが理解してくれた。中にはキレっぱなしの人も居たが。
そこで私は病院に向かうべく、衰弱してる人間に必要な医療器具や医療品をメモしてもらって、分かりやすい様にシリアルナンバーめいた品番やその形状まで書き出してもらう。
分からなかったら類似品全部持ってきて良いと注意を受けた私は、今度こそ全力の全力で爆走を始めた。
もはや人間に許される身体能力など超越しちゃった私は、校舎の二階から飛び降りて、校門を私一人分の余裕を持って飛び越えた。
向かう先は当然最寄りの病院。
終焉の日に地形がめちゃめちゃになったとは言っても、どこに何があったか、その大まかな位置は変わっていない。
その土地に住む者ならば周辺にある大型の病院なんて誰でも知っている。
道を遮るゴブリンあらば、ラリアットでブチ殺し、曲がり角でぶつかるゴブリンあらば、ショルダータックルで轢き殺し、ゴブリンの集団が前方ではしゃいで居るならライダー的なキックを用いてノンストップで蹴り殺した。
-スキル獲得。【武術】
道すがら、魔法以外は久しぶりな気がするスキルの獲得。
そして同時に剣術スキルのちゃんとした習得方法も理解した。
「ああ、剣術も基本スキルと変わらないのか……。獲得出来なかったのはちゃんと剣術で殺さなかったからかな?」
今しがたラリアットで殺し、ショルダータックルで殺し、飛び蹴りで殺した訳だけど、それぞれ格闘技の種類が違っても立派な武術であり、私が剣術をなかなか習得出来なかったのは、技も何も無く剣を振り回していたからで、ショッピングモールの最初の乱戦の時、たぶん偶然三回、剣の技でモンスターを殺せていたのだろう。
「よし、帰ったら春樹に獲得させてみよう」
武術スキルの恩恵か、体の動かし方が滑らかになった気がして、事実動きの精彩が上がり、それに伴って走る速度も上がっていく。
今時速どれくらいだろうか。九十キロくらい出てる気がする。
「見えた」
もう動いてないと思っていた病院。廃病院だと思っていた医療施設。その建物は煌々と明かりが灯っていた。
火ではなく、電気的な光である。
もしかしたら医療関係者が立て籠っているのか?
そう考えたのは一瞬。
病院の正門前にたむろしている二十人近くの不良達が、色々と物語り過ぎていた。
「退けよクソボケ共がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
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