第11話 合同探索。



「やぁ、ココロ君じゃないか」


 終焉を迎えてから今日で一ヶ月半。

 結局、近場のホームセンターとは不干渉を貫き、未使用のホームセンターを探しつつ、レベリングに勤しむ方針で固まった私達は、今日も留守番のローテーションを組んでレベリング中だった。

 そして私のレベルは相変わらず二十四で止まっているが、夏無し親子は全員がレベル十一を達成していた。

 スキルも私が初期に持っていた斬撃や打撃も手に入れ、秋菜と雪子は索敵も手に入れていた。

 更に気が付いた事だが、レベルが上がる時の能力値上昇率は固定じゃなく、レベルアップまでに行った行動や戦闘の内容で変化する事が分かった。

 なにせ、レベルが全然上がらないとは言え現在二十四の私に、三人の魔力量が追い付いたのだ。

 つまり普段から魔法を使う様になった三人はレベルアップで著しく魔力が上がり、私は腐肉を一体倒した最後のレベルアップにしか魔力を使わなかったから全然育ってない状態なのだろう。

 まさかこのレベルになってからそんな事を知るなんて、流石に理不尽がすぎるだろう。釈然としない。


「……あー、太郎さんですか? 顔色が良すぎて、一瞬誰だか分かりませんでしたよ」

「ははっ、おかげさまで健康的に過ごせているからな」

「それは何よりです。今日は物資集めですか?」


 今日も今日とてレベリング兼物資探索を秋菜と一緒に行っていると、自宅拠点から三キロ程離れた場所で魔法使いの太郎さんに遭遇した。

 彼の後ろには新参のスキル持ちだろう人材が三人ほど居て、もう彼が一人じゃない事が分かる。

 彼は魔法使いなので武器らしい武器は持っておらず、代わりに彼の背後に居る新人はみな金属バットを改造した棍棒を手に持って居る。


「ココロ君の情報のおかげで、こうやって探索に出られる戦力が確保出来たからね。目減りする物資に怯える生活が終わってホッとしているのだよ」

「太郎さんなら、息子さんと逃げてどっかの家に立てこもる方が生き延びれたと思いますけどね。なんなら息子さんのご友人も一緒に連れ出してみても良いですし」

「いやいや、そうすると息子の友人の親が付いてきて、その親の友人が付いてきて、そうやって結局また大所帯なのだよ。なら今のままでいい。それに……」


 太郎さんはチラッと後ろを、同行者達を見た後、私の耳元に口を寄せて小声で教えてくれた。


「君に教えてもらった情報、三十回の攻撃については口を噤ませてもらったのだよ。おかげでモンスターとは言え生き物を殺められる覚悟のある者しか習得出来ないし、物資に乏しい今はモンスターを三匹も焼き殺す余裕なんて無い。魔法は独占出来ているのだよ」

「ふふ、それは上々ですね。こちらも、思い付く限りの魔法を取得しました。捕まえたゴブリンを首だけ出して生き埋めにして、ライターで三十回炙り火魔法、ライター内部のイグナイターを使って静電気をチクチク浴びせて雷魔法、氷を投げ付けて氷魔法、土塊を投げて土魔法、水を叩き付けて水魔法、眼球に息を吹きかけて風魔法を取得しました」


 情報交換が終わると、太郎さんはそんな馬鹿なと呆然の面持ち。

 後ろに新人が居るので言えないのだろう。「そんな簡単に!?」と。簡単な方法を隠して居るのだから言えない。でも言いたい。そんな所だろう。


「ん、ん゛ん゛。さて、その情報の対価は? 流石に重すぎると感じるが」

「いえ、太郎さんからもらった情報が予想以上に有用だったので、アフターサービスだとでも思ってください。あ、なんなら追加でもう一つ喋りましょうか」


 小声のやり取りを終えて態とらしくそれっぽい会話をしてみせる。

 後ろの彼らは訝しげにコチラを見ているが、脅威にならないだろうから放っておく。


「レベルアップの能力値上昇って固定値じゃなくて行動に由来するみたいです。魔力を上げるか膂力を上げるか、考えて育てないと失敗するかも知れません」

「……なんだって? ……つまり、魔法で育った十レベルと、武器で育った十レベルでは、魔力や体力に差があると?」

「ええ。例えば私はご存知の通り二十四レベルですけど、魔法を取得して使っても、あの時ゴブリンを焼き払っていた太郎さん程の火力を維持出来ませんでした。多分今の太郎さん、かなり純粋な魔法使いキャラになってますよ」

「………私も武器を使うべきだろうか?」

「魔法特化は普通に強いと思いますから、太郎さんの好みじゃ無いですかね。ただ武器持ちはオススメします。更に追加情報ですけど、こんな魔法の使い方……」


 と言いかけた私は、振り返って秋菜に聞く。


「これ秋菜の魔法だったね。勝手に教えちゃダメだった」

「んーん。いいよー。おじちゃん、まほーおしえてくれたから」


 許可を得た私は改めて、エンチャントと名付けた秋菜流の魔法を披露した。


「風よ、宿れ」

「………ッ!? これはっ!」


 最近お気に入りの風魔法のエンチャントである。消費が軽いのに模造刀と相性が良いのか威力も抜群で、魔力を育て損なった私にも充分扱える魔法である。


「そんな使い方が!?」

「というより、多分魔法はこの使い方を前提にしてるかも知れません。物を通して使うと消費が軽いんですよ」


 そう聞いた太郎さんは、突然ババッ! と周囲を探し、瓦礫の中に手頃な木の棒を見付けて拾うと、「宿れ!」と口にした。

 本当は属性まで口にしないと発動しないのだが、火魔法しか持っていない太郎さんはそれでも発動したようだ。

 木の棒の先端が燃え盛って松明のようになり、太郎さんが適当な方向へ棒を振ると豪炎が扇状に拡散し、その状態で太郎さんが「燃えろ!」と叫べば、目の前の一軒家を飲み込むような火炎が放射された。


「おおおおおおおおっ! なんと、こんなに軽く魔法が使えるのかね! これは、これは値千金過ぎる情報だろう!? 本当にタダで良いのかね!?」


 文字通りの大興奮ではしゃぐ太郎さんは、ツレの新人君達がめちゃくちゃビビってる事に気が付いてない。


「まぁ、払いたいと言うなら受け取りますけど、この魔法を開発したと言うか、見付けたのはこの子なんです。お礼はこの子にどうぞ」


 私の後ろで照れ照れしてる秋菜を前に出すと、さらに恥ずかしがっていやんいやんとくねくねする。

 男がやると殺したくなる仕草だけど、幼い女の子がやるとどうしてここまで可愛いのか。


「とても素晴らしい情報をありがとうお嬢さん。お礼をしたいのだが、何か欲しいものは無いかね?」

「えーっとぉ、んーとぉ……」


 殺伐とした世界に一輪咲き誇る秋菜の笑顔が眩しい。

 照れ照れしてモジモジして、荒廃した世界でも変わらず子供らしい子供で居られる事がどれだけ尊いのか。


「あのね、おのねおじちゃん、あきなのかわりにね、おねーちゃんとね、しょっぴんぐもーるにいってほしいの」


 そんな尊い秋菜の尊い発言により、合同探索の話しが持ち上がった。


 二日後。

 

 集合場所は学校になり、学校側は太郎さんを含めて五人。私は引き続き秋菜とコンビで参加している。

 本当は雪子と春樹も連れて来たいのだが、最近家の周囲に生存者が集まったりウロウロしたり、不審な気配があるのだ。

 フル装備で家の周辺を見回るように言ってあるし、雪子は索敵スキルを持っているのでそう心配はしなくて良いはずだ。

 そんな事情で、計七人の参加である。

 私と太郎さんは合流すると簡単な挨拶をして、すぐに移動を始める。

 道中に見た太郎さんは、アレから自分専用の杖を誂えたのだろう。おそらく木製のデッキブラシからブラシを切り落として、それっぽく彫りを入れたり加工した品だ。

 杖術まで使うタイプの魔法使いが持ってそうな杖だった。

 太郎さん以外の残りは全員が改造式金属バットを持って、プロテクターとか申し訳程度の防具を身に付けている。そんな装備で大丈夫か?


「……太郎さん、その、大丈夫なんですか?」


 学校側の参加者が一人、私と秋菜を見ながら言った。


「ふむ。その質問の意図によって答えは変わるが、少なくとも私は新人の君たちと行くより、この子達と行く方が安心出来ると言っておこう」


 それっきり声は上がらなかった。

 まぁそれ以上無いくらい、「お前らより向こうの方が頼りになる」と明言したわけで、空気が些か悪くなっている。


「おねーちゃん、これでふにくたおせるね!」

「多分ね。この前見た太郎さんの火魔法が直撃したらアイツも無事じゃ済まないでしょ。そしたらこっちもエンチャントした弾と刀をぶち込んでやる」

「あきなも、おてつだいするー!」

「秋菜にはマジで期待してるから、いつも通りのウルトラCをよろしく」


 わざわざ太郎さんに秋菜がお願いした理由。それは腐肉がムカつくからだそうだ。

 私は秋菜にかなり気に入られてる。相当に懐かれている。そんな私を寄って集ってイジメようとした腐肉が大嫌いで、いつか絶対ブチのめしたかった。舌足らずに語る秋菜の弁を翻訳するとそんな感じだった。


「あ、太郎さん。そちらはゴブリン以外のモンスターって経験あります?」

「いや、恥ずかしながら全く無いよ。私がまずゴブリンしか戦った事が無いからね」

「なるほど。いま向かってるショッピングモールに巣食う新型モンスターって、見た目がめちゃヤバスプラッターなんですけど、耐性無い人とか居ませんかね?」


 純粋に心配で聞いたのだが、太郎さんが答える前に鼻を鳴らしていきがる男が居た。


「はンッ、こっちはそのゴブリンとか言う奴をぐちゃぐちゃに潰して殺してんだぞ。今更見た目がどうとかか弱い事言ってっかよ。これだからメスのガキはよー……」


 その男は多分五十代くらいで、黄色い十字マークが付いた安全第一のプラスチックヘルメットを被り、金属バットに有刺鉄線をぐるぐる巻きにして溶接した棍棒を手に、辺りの警戒もろくにしないままカバンの中から乾パンを取り出して齧っていた。


「なるほど。じゃぁ私はそちらの補助はしなくて良さそうですね、太郎さん」

「……ああ、まぁ、死なれたら困るが、全員自分で付いてくると言った者たちなので、自己責任だろう」

「それは良かったです」


 私の体感で腐肉の強さは通常でもレベル三十。身の肉を削ると最大でレベル五十付近まで上がると予想しているので、足でまといなんか気にしている余裕は無かった。

 そもそも今回は私と秋菜が前衛で削り、太郎さんが超火力で仕留める構想なので、他四人は完全に蛇足だったりする。むしろ邪魔。

 ちなみに、前回の事があって正確な数字は聞けてないが、超感覚で判断した学校側の戦力は、太郎さんがレベル十四。後が全員レベル六。

 魔法単一で育てた場合、レベル十四であの火力なのかと少し羨ましくも思う。

 私も必殺スキルであるココロシリーズを使えば火力は出せるが、あれは今のところ継続戦闘を考えなくて良い時に、仲間が居る場所でしか使えない。

 今日はレベルが十一の秋菜が居るので、前回のように台車が無くても身体能力だけで私を担いで運べるだろう。

 十歳の女の子に運ばれる十七歳としては色々思う所はあるが、命には替えられないのだ。


 そんなこんなで、スキル持ちの身体能力で移動すること三十分。私達はショッピングモールの巨大駐車場に辿り着いていた。


「……よし、ヤツら駐車場には出て来てないな」

「分かるのかね?」

「まぁ、なにせアイツら腐肉の集まりなんで、アスファルトの上歩いたら痕跡残りますよ。臭いし」


 軽く周囲を調べて、腐肉がショッピングモールから脱走してない事を確認した。

 アイツら目視するまで索敵に引っ掛からないので、超感覚でも結構危ないのだ。


「太郎さんどうします? 今回はレベリングのつもりで来ましたけど、物資も必要ならトラック確保しておきますか?」

「……ふむ。まずその、腐肉だったか? それが倒せるかも分からないのだから、後回しで良いんじゃないのかね?」


 太郎さんと相談しながら、車の影に隠れて様子を伺っていたゴブリンをハンドガンでブラインドノールックショットで殺して、ホルスターに銃を戻す。

 会話は続けたままだ。


「……見事だったね?」

「どうもどうも。でも多分今のは秋菜も出来ますよ」

「末恐ろしいって言うのは、こういう事を言うんだろうね」

「はは、それじゃ行きますか。いつも通りエントランスから入ります」


 合同ショッピングモール攻略探索、状況開始だ。


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