第10話 魔法の使い方。



 あの後、虫眼鏡でゴブリンを三十回焼いてみた結果、なんと!

 光魔法は獲得出来なかった。

 私はとても落ち込んだ。ちくしょう。

 アレだけポンポン取得できて、魔法ちょろいなって笑ってたのに躓くとは。

 問題は虫眼鏡でゴブリンを焼いた方法が、火魔法の判定だったから失敗したのか、そもそも光魔法が存在しないのか、それが分からない事だ。

 もしかしたら重粒子線とかでゴブリンをぶち殺さないと手に入らないか極レア魔法スキルだったりするのだろうか。だとしたら尚更めっちゃ欲しい。

 まぁ獲得出来なかった物は置いといて、火、水、風、土、氷、雷の魔法が手に入り、ぐったり春樹を寝かせた後に再度魔法の検証を行った結果、次の事がわかった。


 まず語気の強さで魔法の威力が決まり、声の大きさで範囲が決まる。

 使う言葉は割と自由で、「灯れ」「火よ」「炎よ」「燃えろ」「燃え盛れ」「燃え尽きろ」「爆ぜろ」くらいの順で威力が強くなって行く。

 灯れと言えば指先からライター程度の火が出て、火よ言えばガスバーナーくらいの炎が出て来る。

 発生する魔法の形は使った言葉にある程度従う様で、爆ぜろと口にした時は本当に爆発が起きたくらいだ。

 起こしたい現象と自分の魔力量、その二つと相談してよく使う呪文を決めておく方が良いかも知れない。

 なにせ爆発を起こす魔法はココロ・スラッシュの十分の一くらい魔力を持って行かれた感覚があったのだ。これ以上に語気の強い言葉を咄嗟に使ったら、また寝込みかねない。

 

 次に、魔法とは“生成”と“操作”の効果があって、生成とは魔力で属性を司る物を生み出す事で、操作はそれを操る事を指す。

 例えば風なんかは空気がそこら中にあるから生成は必要無く、操るだけで魔法が成立する。

 だけど火や雷は基本的にその場に無いだろうから、魔力でソレを生成した上で操る必要がある。

 当然ながら、生成と操作なら操作の方がコストが安く、生成が必要な魔法はコストが重い。なおかつ、相応のエネルギー量ではあるけど質量が無い火と雷のプラズマは、比較的生成コストが安いのだが、水、氷、土の三種類はしっかりと質量があり、コストがその分嵩む。ただその場に物があれば操作だけで済む。

 と言う訳で、全部同じ初期魔法ではあっても運用コストはそれぞれ違うと分かった。

 どのくらい違うかと言うと、風魔法でゴブリンを吹き飛ばすレベルの強風を生み出しても、ココロ・シュートの二十分の一程度の消費で済むのに対して、水魔法はただ水を生み出すだけでも、バスタブ一杯で私は一日昏倒するレベルの消費が発生した。


「もう! おねーちゃんすぐねこむ!」

「いやアレは仕方ないと思うんだ。魔法のコストは調べなきゃいけないし。今回は一日で済んだじゃん。春樹も一日寝込んだし」

「魔法は運用に気を付けないと、全員が行動不能になる危険がありますね」


 今度は目覚めると共に秋菜が号泣する様な事はなかったが、寝てる私の上でぷりぷりに怒っている秋菜に、ポコポコ叩かれはした。

 着替えて顔を洗う頃には静まった秋菜に文句を言われたが、検証はどうしても必要だったし、レベル差のせいで生じる魔力量の差で、検証は私がする必要があった。

 ただその内もっと、全員の本格的にレベリングが必要だと思う。


「まぁ心配かけて悪かった」

「ん! きをつけてね! あと、あきなね、おねーちゃんねてるあいだに、あたらしいまほうみつけたよ」

「………なんですと?」


 朝食の準備は雪子に任せて、その間に秋菜と共に外へ出てゴブリン探し。

 そして見付けた哀れな実験材料に、秋菜は「おねーちゃん、みててね!」と自信満々で前に出て、何かを呟いて電動ガンの引き金を引いた。

 撃たれたゴブリンはそのまま燃え上がり、射撃の時点で絶命していたかも知れないが、今も倒れ伏した死体が燃え続けている。


「秋菜、どうやった?」

「えへへー。すごい? ねぇあきなすごい?」

「うんマジ超すごい。正直うちのメンバーで私が今一番頼りにしてるの秋菜だよね。お世辞とかじゃなく。で、どうやったの?」


 毎日がMVPの秋菜ちゃんはまたやってくれた。

 今の距離を魔法で倒そうとすれば、秋菜では魔力が足りなかった筈だが、実際にはきっちり届いて燃えた上に、秋菜はケロッとしている。相当に燃費が良いのだろう。


「えーとね、ひに、はいってっておねがいするんだよ」

「………なるほど。火よ、宿れ」


 私は超感覚で背後の物陰に隠れているゴブリンを見付けると、早速教えられた秋菜流の魔法を銃に使ってみせる。

 結果、ゴブリンは燃えて、周囲に延焼するほどの事態になった。


「つよっ。燃費やばっ。チート魔法じゃん。……水よ、宿れ」


 延焼した地点に向かって今度は水魔法を撃って見る。

 やはりコストは他と比べると重いのだが、普通に使う時の一割程で使用出来た。

 私はドヤ顔をする秋菜を撫で回したあと、模造刀を抜いて魔法を使う。


「風よ、宿れ」


 偽物の刀が風に包まれ、なんだが伝説の武器みたいな雰囲気になった。やだ何コレかっこいい。

 周囲に気を使って模造刀を振り抜いてみると、風の斬撃が飛ぶなんて漫画みたいな現象が起きて、私のテンションは朝から最高潮に達した。


「何コレたのしぃぃぃいいいいいいいっ!?」


 ブンブンと刀を振ると、遠くの物がザシュザシュ斬れる。

 風魔法に斬撃スキルが乗っているのかも知れない。そう考えると、先の射撃に乗せた魔法も、射撃スキル込みの威力だったのかも。

 意識して魔力を止めると風も止まり、今度は「刀に宿れ雷よ!」とテンション高めに魔法を発動し、またブンブン振り回して遊ぶ。

 刀を一振する度に雷が放たれ、瓦礫が吹き飛ぶ。めちゃくちゃ爽快で気持ちがいい。


「あははははははははっ! たぁーのすぃー!」

「おねーちゃん、まりょくだいじょーぶ?」

「あははは大丈夫じゃないですあっぶなっ! また昏倒する所だった!」


 どうやら一振で遠距離攻撃が発動する度に魔力が減っていたらしく、それでも燃費が良かったから気にせず遊んでいたらヤバい事になってた。

 今の魔力残量が体感でココロ系の必殺スキル半発分、つまり必殺スキル数発に相当する魔力を使っていたのだ。

 秋菜が止めてくれなかったらヤバかった。


「帰って朝ご飯たべようか」

「うん! ねぇねぇ、あきなえらい?」

「今までもホントにナイスだったけど、マジ今回は最優秀主演女優賞って感じ。ご褒美に、好きな時に春樹の食事をパイン飴に出来る権利をあげよう」

「わーい! ……わーい? おねーちゃん、それどうやってつかうの?」

「なに、春樹に意地悪されたら、お前のご飯をパイン飴にするぞ! って言ってやれ。私が許可したって言ったら音速で謝ってくるから」


 意地悪されたらと言っているのに、家に帰ると秋菜はすぐ春樹を捕まえて「おまえのごはんはパインあめだ!」とニコニコしてた。

 ただ今回はもう雪子が全員分の食事を準備してしまったので、次回からなと秋菜の頭を撫でると、「……あ、母さんの準備がまだだったら、マジで俺の飯パイン飴だったんだ」と春樹が戦慄していた。

 なんだよパイン飴美味しいじゃんか。

 成り行きを不思議そうに見ていた雪子に、事の次第を説明する。

 というか私が寝てる間に聞いていそうな物だが、秋菜は一番に私へ教えて喜ばそうと思ったらしく、皆にはまだ秘密だった様だ。

 そして新魔法発案のご褒美に、春樹の食事を好きなタイミングでパイン飴に変更出来る権利をプレゼントしたと言うと、春樹が「なんでっ!? 俺がパイン飴食べる事がなんのご褒美になるの!?」と楽しそうに騒いでいた。うんうん。仲良き事は美しきかな?


「それに、姉ちゃんいいなぁ。俺も剣欲しい」

「そうだな。何か新しい武器探しに行くか」

「それより、この家に他の剣あるじゃんか。姉ちゃんは包丁もダメって言うし」

「お前、ゴブリン斬った包丁で飯作って食いたいか? そう使った包丁は基本的に台所に戻さないから、その内使える包丁無くなるぞ?」

「うー、じゃぁ姉ちゃんと同じ剣は?」

「あれは父の形見なんだ。必要以上に荒らしたくない」

「………そっか、ごめん」


 ちょっとしゅんとする春樹の頭を、雪子がペシっと叩く。

 ワガママ言った結果私の地雷を踏んだ訳だからしょうがない。まぁ怒ってないけど。


「でも、包丁とか刃物なんかの必要物資もしっかり集めたいですよね」

「まぁね。ショッピングモールが腐肉に占拠される前に包丁とかナイフを集めなかったのが悔やまれる」

「……ホームセンター狙うのか?」

「バンディットプレイは最終手段だけど、まぁ物資の交換とかなら大丈夫か? 取引が拗れて襲われたら返り討ちにすれば良いし」


 ホームセンターは水もお菓子も結構売ってる。お米だって置いてある事もあり、意外と食糧が豊富にあったりする。

 が、十三人の避難民がそろそろ一ヶ月を迎える様な期間を、無補給で避難生活を送るのに充分な量の物資が有るかと言われれば、多分答えはノーだろう。


「……んー、流石に十人を超える様なコミュニティに満足な量の物資なんて差し出せないから、ちょっと遠征して物資集めしようか?」

「うーん、逆にそこまでして包丁とかが必要かと言われると、悩みどころじゃ無いですか? そもそも、その遠征で包丁とか見付ければ良いのですし」

「そりゃちょっとした小物だったらそうなんだけど、ホームセンターにはホームセンターにしか無い物資も有るんだよ」

「えーと? 野菜の種とかでしょうか? いえ、あれも最近ではコンビニで置いてたりしますし」


 コンビニで置いてある野菜の種はサラダリーフとかだと思うけどね。

 流石に根野菜とかは見た事ない。あるのかも知れないけど。


「建材だよ。け、ん、ざ、い。世界が終わって壊れたら壊れっぱなしになった世の中で、家が壊れても補修できる物資は凄まじい価値があると思わない? なんなら庭に小屋を建てても良いし、向かいの家を壊して倉庫を作っても良い」


 雪子は目から鱗を零して、そのあとまた気が付けなかったとちょっと落ち込む。

 その分秋菜がウルトラC発揮しまくっているから大丈夫過ぎるんだけど、娘にいい所持っていかれてる事も気にしてるのかな。


「この家だってソーラーパネルや家庭用電池が壊れたらオール電化が全滅するかも知れない。いつまでも電気に頼れないかも知れない。そうなると、木材は単純に薪にも使えるし、ブロックとかの石材は薪を使うかまどを作るのにも使える。絶対とは言わないけど、獲得しておいた方が良い物資ではあると思う」


 食材って訳じゃないから地下倉庫圧迫しないし、ブロックは庭に積んで置けるし。鉄パイプは建材にも使えるし武器にもなる。

 今の世の中では食糧が優先度高過ぎて目立たないけど、充分に価値のある資源だと思う。


「でもやっぱり、食糧と交換する程ですか? トラックはそのまま倉庫にも使えますし、食糧は大量にあった方が安心だと思いますけど……」

「まだ今の段階だと食糧は結構集められると思う。でもそろそろ私たち、結構派手に動いてるから誰かに目を付けられてると思うんだよね。だから塀とかを強化したいのが本音かな」


 夜は周囲から集めて来た暗幕を使って光を漏れないようにして、子供二人にも夜は明かりを漏らすなと徹底しているけど、それでもトラックで出入りしたり、魔法使ったりしてるのだから、元気過ぎる生存者がここに居ると誰かしらにはバレていると思う。

 そしてこのご時世に元気な生存者なんて、どう考えても大量の物資を持っているグループだとアホでも分かる。

 するとどうなるか、擦り寄るか敵対するかの大体二択になる。

 自分たちも食糧を持っているなら不干渉の方が賢いだろうしその選択もあると思うが、食糧に不自由している生存者は確実にどちらかを選ぶだろう。


「その前に拠点の強化がしたいんだよね。そろそろ家を空けるのも不安になって来たし」

「……なるほど」

「誰かに留守番を頼むにしても、私連れて行くなら秋菜選ぶし、すると雪子と春樹はずっと留守番でレベル上がらないし、レベルが低いまま留守番なんて普通に危ない」

「そう、ですね。周辺のゴブリンを狩って上げられる分のレベルは早急に上げるべきでしょうか」

「まぁ太郎さんがゴブリンだけを相手にして九だったし、たぶんそれくらいがゴブリンの限界かなって思う。周りでオークとかオーガは全然見なくなったし、どこかに巣でも作ったのかな?」


 本当ならレベル五刻みでゴブリン、オーク、オーガと相手を変えたいところなのに、出現当初はバラバラに分布していたモンスターも、今ではきっちり棲み分けが終わってしまったのか、全然見かけなくなった。

 時折空を飛んでいたドラゴンすら見えなくなって、この周辺は本当にゴブリンしか見かけない。

 初心者のレベリングには持ってこいの場所なのだろうけど、レベルが二十を超えた私にはだいぶ辛い。


「そろそろ本格的に動かないとまずいかもしれない」

「……と、言うと?」

「ただでさえ私たちは食糧探しとかで忙しいのに、モンスターの習性とか分布とか全然把握してないし、今の世界で何が危険なのかを理解し切ってないと思うんだよね」


 例えばショッピングモールに出た腐肉。

 あれは多分、大量の死体とかが有ると発生する特殊なモンスターだったのでは無いかと考えている。

 もしそんな発生条件を私が知っていれば、大量の死体を放置する事は無かっただろう。

 だけど私は知らず、死体を放置して腐肉の怪物が生まれ、私は死にかけたのだ。

 もちろん発生条件が違う可能性もあるが、それすらも知らないという事は、まぁそういう事なのだ。


「もちろん、あんなの最初から知ってろなんて無理な話しだけど、ああ言う事も起こり得るって考えれば、モンスターの習性とかこの世界独自のルールとか、調べて記録するべきだと思うんだよね」

「……人がゾンビになるのも、そうですよね」

「あ、そうだね。映画みたいにアレに噛まれたら一発アウトなのか、ゲームみたいにある程度猶予が有るのか、死体にならない限りゾンビにはならないのか、そもそも死体は絶対ゾンビになるのか、条件が揃ってやっとゾンビになるのか、そういうの私達は一つも知らない」


 まぁ、噛まれたらゾンビになるか否か、そんなの誰かを実験台にしないと分からないから困りものだが。


「まぁそんな訳で、これから急いで何もかも調べるって訳じゃないけど、そういう事にも気を配って行こうと思うよ」


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