第9話 ココロ流魔法取得術。



 目が覚めると、目の前に秋菜が居た。


 この甘えん坊め、私が寝てる間に潜り込んで来たのか、そう思った私をよそに、私が起きた事に気が付いた秋菜はその場でわんわん泣きながら、私の上でバタバタ暴れ出した。

 一体何事かと慌てる私に、秋菜は「いきてた、おねーちゃんいきてた!」と縁起でもない事を言う。

 騒ぎを聞いた雪子と春樹も部屋に駆け付け、尋常じゃ無い表情から二人して心底ホッとした様子に変わったのを見て、そろそろただ事じゃ無いなと思っていると、雪子が簡潔に教えてくれた。


「……ココロさん、二日も眠ってたんですよ」

「え、まーじ?」


 号泣する秋菜を見る。

 秋菜は腐肉と私が戦った所を唯一見ていた。そして私が必殺スキル二連発と無茶した所も見ていた。

 そんな私が、眠ったきり二日も起きない。そりゃ泣くわ。


「秋菜ちゃんごめんね。心配かけたね。ほら、おねーちゃんが超強いの知ってるでしょ? 大丈夫だからね」

「……うん、おねーちゃん、つよいもん」

「だからね、ちょっと無茶したくらい、普通よりぐっすり眠れば治っちゃうんだよ。ほら、二日も寝たら元気出そうでしょ?」


 寝起きの私は、些か大人しいと言うか、しおらしいと言うか、ちょっとだけ女の子らしさを取り戻すらしく、口から出る言葉が知らぬ間に柔らかくなっていた。

 これも二日寝た効果だろうか?


「ほら、普通の人よりもたっぷり眠ったから、元気だよ?」

「……ほんと? おねーちゃんしなない?」

「私はね、モンスターを根絶やしにするまで、絶対に死ねないんだよ。殺されたお父さんとお母さんのお墓に、そう約束したの」


 目を擦りながら、無防備に聞かれた事へ素直に答えてしまった。

 雪子の息を飲む声が耳に聞こえたし、春樹が「えっ」と呟く声も聞こえたが、どうにも寝起きの私は色々と鈍い。


「だからね、秋菜ちゃん。おねーちゃんは絶対死なないよ。約束する」


 私はその日、世界が終焉を迎えてから久しぶりに笑えた気がした。


 そして朝食。


 私の前には粉ミルクを溶いてシリアルにかけた朝食が置いてあり、雪子と秋菜の前にもそれは置いてある。

 そして春樹の前にはパイン飴が一個置いてあった。


「なんでだよっ!?」

「どうした春樹、もう少しパイン飴が欲しいのか?」

「違うよ!? なんでパイン飴なんだよ! 美味しくて好きだけどさ!?」

「いやだってお前、寝起きの女の子をジロジロ見て、なんの罰も無いと思ったのか? 女の子の部屋は男が勝手に入っちゃダメな聖域なんだぞ?」

「俺も心配しただけじゃん! なんでだよ! 朝のふわふわして可愛かった姉ちゃんどこ行ったんだよ!」

「馬鹿め奴は死んだ」

「死なないって言ってたじゃん!」


 冗談はさておき、春樹の分もシリアルを用意した私は、とりあえず夏無し親子に謝った。


「とんでもない寝坊をしたみたいでごめん。多分もう大丈夫だから」

「本当に、心配しましたよ。ココロさんに何かあったら、私達も生きていく自信が無いので、ご自愛くださいね」

「うん。ほんとごめん。起きたら秋菜がギャン泣きしてて焦ったわ」


 私としては普通に寝て普通に起きたつもりなのに、起きたら秋菜が私の上にしがみついて泣いているのだ。

 何事かと思った。


「まぁたっぷり寝たおかげで頭を冴えてるし、魔法の取得方法もいくつか閃いたから。今日はそれを実践して試してみよう」

「あきなも、きゅあきゅあになれる?」

「多分なれる。まずは太郎さんと同じ火魔法と、次に雷を覚えて、その後氷を試して、最後に水に挑戦しよう。スキルはいくつあっても困らないから」


 朝食で腹を膨らませた私達は、定番の装備を身に付けて準備を始めた。

 私は模造刀とライフル、そしてハンドガンを装備して、その予備マガジンとバックパック。バックパックには予備バッテリーや予備のBB弾、食糧等が入っている。

 雪子は私と同型のライフルに私のと同じタクティカルベストを装着して、予備マガジンを六本もベストに挿している。後は私が模造刀で叩き切った物干し竿の先端にサバイバルナイフを付けた槍を持って、バックパックに私と同じ様な内容の物資が入っている。

 春樹と秋菜は個人防衛火器の電動ガンとタクティカルベルトに挿した予備マガジン、棍棒替わりにフライパンと鍋をそれぞれ持って、子供用のカバンに予備バッテリーとBB弾、カロリーメイツが入ってる。

 執拗に食糧を持たせているのは不足の事態に備えてだ。

 もしはぐれて合流出来なくても、隠れてカロリーメイツを齧りながら生き残れば、私が時間をかけて超感覚を使えば探し出せるはずだ。


 そんなこんなで出発。


 手頃は場所であっという間にゴブリンを見付けた私たちは、とりあえずBB弾が勿体ないからと雪子が槍でゴブリンの足を刺したり、私が模造刀で斬り飛ばしたりで数匹を捕獲する。

 その哀れなゴブリンを自宅拠点のお向さん宅の庭を借りて、とりあえず首だけ出して埋めて見た。


「じゃじゃじゃーん。火の魔道具ぅー」

「いやライターじゃん」

「煩いぞ春樹。またキュア☆ハルキに変身するか?」

「ごめんなさい」


 素直に謝った春樹は置いといて、取り敢えず今回の趣向を説明する。


「まぁ春樹の言う通り、これは普通のライター。近場のコンビニで今なら無料だよ」

「……この場合、私は母として子供に何を教えるべきか悩みます」

「今は魔法を教えるべきだから気にすんな。それじゃ、簡単に説明するけど、スキルって基本、攻撃を三十回当てるか、三体殺すかで覚えるんだけど、こうやって埋めちゃえば攻撃し放題だろ? なんで今のうちにライターでカチカチすれば、火の攻撃を三十回当てて火魔法を覚えられないかなって思ったんだ。ダメならコイツらを一人三匹ずつ焼き殺します」


 まずは私からーと言って、埋まったままギャウギャウ煩いゴブリンの後頭部にライターを当てて、三十回炙る。


 -スキル獲得。【火魔法】


「来た来た来た来た、火魔法来た!」

「おねーちゃんおねーちゃん、つぎあきなやりたい!」

「火は熱いから気を付けてな。あとゴブリンの後ろからな。前から炙ると噛み付いてくるから」

「はーい!」


 物凄く簡単に火魔法が手に入り、夏無し親子も全員がしっかりと火魔法を獲得出来た様だ。

 実際に使ってみると、発動には口頭で何かを言う必要があるらしく、最初はそれが分からずに首を捻りながら手首を前に突き出す変な四人組になっていたが、春樹が「もう、何でもいいから燃えろよ!」と叫んだ時、春樹の手のひらからお向さんのお宅の壁に向かって豪快な火の玉が飛び出した。

 そして元気だった春樹は一瞬でぐったりして、しばらく立ち上がれなくなってしまった。


「春樹っ!? 大丈夫なのっ!?」


 いきなり息子がぐったりするもんだから雪子が慌ててしまい、私がその後じっくり火魔法を検証してある程度の事が分かるまで、春樹の傍を離れなかった。

 まず魔法スキルの使用は火魔法なら火に関する言葉を口にして、その語気の強さや声の大きさで威力が決定し、威力に応じたリソースを消費する事が分かった。

 あとは感覚さえ掴めば色々と出来そうではあるが、ここに居る四人は全員がズブの素人なので、今後に期待。

 そして魔法で消費するリソースを仮に魔力と呼称するとして、魔力の消費による疲労がずばり私が二日も寝込んだ理由だと推測出来た。

 なにせココロ・スラッシュとココロ・シュートを使った時の脱力感にそっくりなのだ。あれも技名を口にして発動するスキルだったし、もしかしたら攻撃属性としては魔法に分類されるのかも知れない。

 特にココロ・シュートの方は見たまんま極太レーザービームだったし、リリカルな魔法少女達がブッぱなしている攻撃だと思えば、魔力を使うのも納得である。


 そんな訳で、春樹も最悪二日くらい寝るかもしれないけど、命に別状が無いと分かって雪子も一安心。

 春樹は一足先に帰って寝るかと聞くと、置いてかれるの嫌だからと、残りの魔法取得も頑張ってから寝るそうだ。


「んじゃ次は雷魔法にチャレンジしようと思う。それが実在するか分からないけど、あるなら手に入れたい。そこでコチラ、じゃじゃじゃーん、雷の魔道具ぅー」

「いやライターじゃん」

「違いますぅー。ライターの残骸ですぅー」

「いやライターじゃん」

「煩いな春樹は。先に寝かせるぞ?」


 取り出したのはライターをぶっ壊して中身を取り出すと入手可能なアイテム、イグナイターだ。

 スイッチを押し込むと静電気を発して火種にする道具で、ライターはこれでガスに着火して火を起こしている。

 なのでこのイグナイターをゴブリンの後頭部でカチカチしたら雷魔法手に入らないかなって考えたのだ。静電気だし、食らうと普通に痛いから攻撃だと思うし。

 そんな訳で私がライターで炙られてた可哀想なゴブリンの後頭部にカチカチする事三十回。


 -スキル獲得。【雷魔法】


「取得完了! 魔法スキルちょろいな!?」

「ちょろちょろー?」


 その後も、自宅拠点から大量の氷を持って来て各三十回ゴブリンに投げ付け、土を丸めた球をゴブリンに三十回投げ付け、バケツで持って来た水を手で掬ってゴブリンに三十回叩き付けたりしたところ。


 -スキル獲得。【氷魔法】【投擲】【土魔法】【水魔法】


 魔法スキルは本当にちょろかった。

 初期スキルの取得方法をしっかりと理解してればこんなに簡単に手に入る癖に、その性能はリソースと引き換えではあるが破格で、正直ヌルゲーが始まったなって思った。

 ただ……。


「ねぇ雪子。これ風魔法ってどうやって取得すると思う?」

「………団扇で叩きますか?」

「それ多分打撃判定だよね。風で攻撃ってどうやるんだ……?」

「えーと、じゃぁエアコンプレッサーのエアガンで眼球でも狙ってみますか?」

「それだ!」


 自転車や自動車のタイヤに一瞬で空気を入れてくれる、あの活用法がちょっと少ないけど頼りになる道具、エアコンプレッサー。

 あの出力で目玉を狙えば流石に攻撃判定を貰えるだろう。普通なら失明してもおかしくない訳だし。

 その理論でいくと、高出力の照明を使ってゴブリンの目玉を焼けば、いや虫眼鏡で太陽光を集めてゴブリンを三十回焼けば、光魔法も手に入るのでは?

 となると闇魔法はどうやって手に入れるんだろう。闇は流石に無理だろうか?

 そもそも闇って光が照らしてない状態なだけで、質量も熱も何も無いのだ。


「ねぇねぇおねーちゃん。そのえあこんぷ? なんとかってつかわなくても、ゴブリンのお目々につよくふぅーってするだけじゃダメなの?」


 思いつく限りの魔法を取得してやろうと考えに耽っていると、秋菜にそんな事を言われた。

 目から鱗である。


 -スキル獲得。【風魔法】


 試してみると出来てしまった。

 秋菜はこの終わった世界の申し子なのか?

 あと思い付くのは光と闇か。家に虫眼鏡あったかな?


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