第8話 魔法スキル。



 相応の物資とはどれくらいか、どんな物資を求めているのか、そう言った話し合いを行って、ついに太郎さんが門を越えてコチラ側に来た。

 ついでに、学校側が太郎さんの息子を人質にしないよう、この場所に呼んでもらっている。

 向こうはコチラが銃を使っている事を知ってるので、太郎さんの息子さんが私たちの目に見える場所にさえ居たら、後は人質に取られたってどうとでも出来ることも分かっている。

 校長や弁護士に銃口を突き付けるだけで良い。それだけで話しが終わる。


「さて、どうも御足労頂きまして」

「なに、絶対に必要な事だと思ってるから気にしないでくれ。それより、もっと離れるかね?」

「そうですね。あの弁護士ものすっごい聞き耳立ててますから」


 手に入れたばかりのスキル【超感覚】は、周囲で起きている事を文字通りの超感覚で知覚するスキルであり、索敵効果も当然あるけど、もっとより細かく、真後ろから突然襲われても目で見てる様な対応が出来る、第三の目とも言えるスキルだった。

 そのスキルが門の向こうで、どちゃくそ聞き耳立てている弁護士の存在を教えてくれるのだ。

 太郎さんに心配そうな視線を向ける息子さんに会釈した後、乗って来たトラックまで離れる。

 ちなみに今も春樹と秋菜が私を支えてくれている。良い子達である。


「さて、ここまで来れば良いでしょうか」

「ああ、たのむのだよ」

「その前に、先に言っておきますね。この情報は太郎さん、あなたの持っている情報と交換する取り引きです。だから、あなたが無事情報について思い出せたなら、あなたと私の間で取り引きが成立する訳ですね」

「………何が言いたい?」

「要するに、無事に取り引きが成立した場合は、私が教えた情報はあなたの物であって、学校の物じゃありません」

「…………なるほど。礼は必要か?」

「要りません。では始めましょうか」


 取り引きが失敗した場合は、学校側の物資と太郎さんの身柄を交換するので、太郎さんが手に入れた情報は学校に渡す義務がある。

 だけど取り引きが成功した場合は、私と太郎さんの持ち物を個人的に交換しただけであって、情報は太郎さんだけの物だ。

 それを学校に教えるのも教えないのも、どのように扱うかは太郎さん次第だ。


「では、まぁ大した事じゃ無いんですよ。分類出来る攻撃の中で、同じ分類の攻撃だけでモンスターを三体仕留めるか、同じ攻撃を同じモンスターに三十回当てる。これがスキルの取得方法です」

「……そんなに簡単だったのか。もしかして吹っかけられたか?」

「いえいえ。現状唯一魔法が使える人の身柄が安い訳無いでしょう?」

「そうか、そうだな。分類出来る攻撃や、同じ攻撃とは?」

「いわゆる打撃、射撃、斬撃って奴です。斬撃なら斬撃だけで、打撃なら打撃だけでモンスターを三体、もしくは同じ攻撃を三十回一匹の個体に当てるんです」

「……なるほど。君たちの攻撃はつまり、射撃ってことか」

「そうですね。まぁこんな情報、学校が太郎さん一人に戦いを押し付けて無ければ今頃誰でも知っていたでしょうに……。それで、魔法スキルについては思い出せましたか?」


 肝心なのはそれである。

 もし思い出せなかったら、学校側は手痛い物資の損失が発生する。

 ただそれでも、学校に居る人材の一部でもスキルを手に入れれば、周りから物資を集めて回れるのはずなので、決して高い取り引きてば無いのだ。


「……いや。申し訳ないが思い出せ………、いやっ、ああっ……! そうか、そう言うことかっ!」

「……土壇場で思い出しましたか?」

「ああ! 分かったぞ! なぜ何もしていない時にスキルが目覚めたのかも!」


 大はしゃぎする太郎さんを宥める。

 思い出したのは良いが、それを大声で吹聴されるのも困るのだ。まだそれが正解だとコチラが判断出来ないのに、迂闊な事を喋られて情報が学校に漏れたら大損である。


「いや、興奮して悪かった」

「いえいえ、それで?」

「ああ、まず魔法スキルの取得方法から、結論を言わせてもらおうか。と言っても難しい事じゃ無かった。そっちと同じで、モンスターを三体、何でもいいから火で焼き殺せば手に入るんだと思う」

「…………あー、そう言う事ですか。魔法でも基本スキルと同じ扱いなんですね。……って事は溺死させたら水魔法? 感電死させれば雷魔法?」

「おお、試してみる価値はあるだろうな!」


 長年の謎が解けたと言わんばかりにキラキラお目々の四十代。

 だが納得している所悪いが、コチラとしてはまだその情報の信憑性が薄いのだ。

 なにせ彼は学校に避難中、午後一時頃に息子とカロリーメイツを食べてたら火魔法のスキルを手に入れているのだから、何をどうしたらモンスターを焼き殺せると言うのか。


「で、火魔法を獲得した経緯はどうなんですか?」

「ああ、それがね、実は避難する前に自宅へ罠を仕掛けていたんだよ。息子は無事だったけど、妻は殺されてしまったからね、とびっきり悪辣な罠で奴らをぶち殺してやろうと思って………」


 太郎さんは一呼吸置いて、清々しい笑顔で言い放った。


「家の中に一定数のモンスターが入ったらガスに引火して、家ごと大爆発する罠を仕掛けておいたんだ。どうせ帰れないし、罠が動いたら家も無くなってるだろうしで、家の存在をすっかり忘れていたよ」

「………なるほど。つまりスキルを得た日の昼、カロリーメイツを齧ってる時に罠が作動して、ゴブリンが三匹以上吹っ飛んで焼け死んだと」

「多分。けどそれ以外に考えられない」


 一定の信憑性は認められると思う。

 つまりは取り引き成立だ。


「さて、取り引きは無事に成立したので改めて聞きますけど、どうします? コッチに来ません?」

「………いや、とても魅力的な提案だが、止めておこう。息子をこんな世界で、友達から引き離すなんて事はしたくない」

「あらら、それもそうですね。では、カッコイイ魔法使いとして学校に残って、息子さん自慢のお父さんになるんですね」

「ははっ、頭のおかしい奴呼ばわりされているがな。息子だって私が妻を亡くしておかしくなったと思ってるのだよ」

「……ああ、奥さんを亡くした悲しみで狂ったら超能力に目覚めたヤベー奴だと? 学校の皆さん随分と文芸的なんですね。いっそこの世界で映画でも作ったらどうでしょう」

「まぁ私はヤベー奴らしいから、このヤベー情報もヤベー俺が好きにするのだよ。それで良いんだろう?」


 そんなこんなで、校門前へ。

 私が取り引き成立を宣言すると茂さんと一郎さんが全身で喜びを表した後に太郎さんへ駆け寄り、そしてニタァッと笑った太郎さんの素敵な笑顔を見て顔を引き攣らせていた。

 そりゃたった一人命懸けで戦っていたのに、大した恩恵も無く異常者扱いされたなら、多少の意趣返しはあるでしょうよ。

 まぁ焚き付けたの私だけど。

 これから大いに頭おかしい奴呼ばわりされた鬱憤を晴らして欲しい。

 ただこんな世界でやり過ぎると殺り返されるから、その点は気をつけて欲しい。

 まぁその時は情報を抱えたまま死ぬのだろうし、困るのは学校側か。


「ではでは、良い取引をありがとうございました。我々はこれで失礼します」


 もう用事も無いので、太郎さんにゴマを擦りまくって指紋が無くなりそうな茂校長や一郎弁護士にも挨拶をして、さっさと帰り支度だ。

 一応、太郎さんとその息子さんは手を振ってくれたのだけど、いい大人二人はこちらに見向きもせず、太郎さんのご機嫌取りに夢中である。

 まぁこれくらいドライな関係なら、後々何かあった時に相談しに来るくらいはしてもいいかも知れない。

 寄りかかられると殺したくなるが、離れて立つ分には問題無いのだ。


「ねぇねぇおねーちゃん」

「ん?」


 帰り支度と言っても車に乗るだけだから、挨拶をしたならさっさと車に乗るべきで、だけど私は車に乗るのも一苦労だったので秋菜がお尻を押してくれて、やっと車に乗れた私の膝の上に秋菜が乗る。

 運転手には雪子が乗って、その膝の上に春樹が座って、全員が定位置に座った。

 まったく、大変な帰り支度だったぜ。


「あのね、まほーおぼえたら、あきなもぷりきゅ--」

「それ以上はいけない!」


 魔法スキルで一番喜んでいるのは何を隠そう秋菜である。

 秋菜は憧れのプリティーでキュアキュアな女の子になりたいのだろう。その想いは尊重しよう。応援もしよう。だけどその名を口にしてはいけない。おねーちゃんとの約束だ。


「秋菜、どうしても口にしたかったら、せめてキュアキュアくらいにするんだ。もしくはキュア〇〇さん的な」

「……じゃぁおねーちゃんは、きゅあ☆こころ?」

「私の名前使うとめっちゃそれっぽくなるなっ!? びっくりしたわ!」


 なんだキュア☆ココロって。めっちゃそれっぽいの出て来た。

 もしかして私が知らないだけでシリーズのどれかに実在しないだろうな?


「……おねーちゃん、きゅあ☆こころ?」

「やめろ、気に入るな! 背筋がゾワッとするからホントにやめろ!」

「……きゅあ☆こころ」


 その内どこかで勝手に名乗られそうで怖い。

 秋菜が広めて、巡り巡って「もしかして、キュア☆ココロさんですか?」とか誰かが聞いてきたら死ねる気がする。


「……ぶふっ、キュアココロだって」

「煩いぞキュア☆ハルキ。お前の晩飯握ってるのはキュア☆ユキコじゃ無くて私なんだぞ?」

「……あの、私はもう、歳も歳なんですけど」

「煩いぞキュア☆ユキコ。まだ二十代じゃん。キュアキュア出来るって。行けるって」


 荒廃した街を走るトラックの中は、皆がキュアキュアだった。

 ただキュア☆ココロは舐めた口を叩く男の子が大っ嫌いなので、きっとキュア☆ハルキの晩ご飯はパイン飴一個とかになるだろう。


「ごめんって! 飴一個はやめてよ! お腹すいちゃうよ!」

「飽食の国でご飯抜きがマジモンの罰則になるとは思わなかったよね」

「ほんとごめんってば!」

「そうだな、じゃぁ秋菜が喜びそうなキュア☆ハルキの演技を見せてくれたら許そう。判定は秋菜だ。妹と一緒に何回かは見たことあるだろ? キャラクターの名乗りは分かるよな?」


 結果、食欲と恥辱を天秤に乗せた結果、まぁ食欲に傾くわけで、キュア☆ハルキは見事キュア☆アキナを喜ばせる事が出来たのだった。

 本人は半泣きだったけども。


「……な、嫌だろ?」

「ほんとごめん。もう言わない」


 反省した様なので、今日の晩御飯はちょっと豪勢にしてあげようか。パイン飴二個とか。

 飴と鞭は鞭の痛みがある内に飴を与えないといけない。……あれ? そうするとやっぱりパイン飴の方で正解なのでは?


「おねーちゃん、あきな、いっぱいまほーおぼえるね!」

「なぁー? 可能な限り色んな属性覚えようなー?」

「……なぁなぁ姉ちゃん、キュアキュアな魔法があんなら、ライダーみたいな変身があっても良いよな?」

「まぁ、可能性は有るんじゃない? 全身スーツに変身するかモンスターに変身するか分からないけど」


 さて、帰って一日休んで、体が元に戻ればスキル取得を目指そう。

 焼き殺すのは比較的難易度が低いが、世界が崩壊してる今はモンスターを感電死させる方法なんかは難易度が高いだろう。

 生き残っている電源施設がそもそも希少だし、下手な事をするとその希少な施設がショートして使えなくなる。

 電池を使った器具を作ったり、スタンガン等を改造しても良いが、それでゴブリンがどの程度の出力で死ぬのか分からないので、相応の手間がかかるだろう。

 そんな事を考えながら、今日は物資面では惨敗だが、ステータス面では山盛りの戦果を抱えて帰るのだった。


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