第12話 腐肉討伐。



 私は思ったよね。

 即落ち二コマかな?


「ヴぉぇぇぇえええ……………!」

「ぅぇっ、おろろろろ………」

「くそっ、汚ぇなオイ!」


 ショッピングモールにエントランスから侵入し、周辺のテナントを一つずつ確認して腐肉を探しながら進み、しっかり居ないことを確認した上でエスカレーターを登った。

 前回のように挟撃されてはたまらない。だから念入りに調べていたのだ。

 だが手分けしたのが悪かった。使えない四人が調べた場所の一つから山ほど腐肉が出て来て、結局エスカレーターを塞がれてしまったのだ。

 まだ一体すら倒せるか分からないうちから何体も相手にしてられない。そう思って奥へ逃げようとすると、二階のテナントからも次々と腐肉が出て来やがるのだ。

 目の前の、結構な至近距離にも現れた腐肉。

 それを見た先程のイキリ五十代は真っ先に嘔吐して、隣も釣られて吐瀉物のシャワーを吐き出した。


「クソがっ、秋菜は下の腐肉をエンチャントで燃やせるか試せ! 太郎さんは前の腐肉を一体ずつ全力で燃やして下さいっ! 私が壁になる!」

「おねーちゃん、したがはやくなったらどうするの!?」

「その時はあの時の奥の手でエスカレーターごと腐肉をブチ抜く!」


 言うやいなや、私は刀に雷を纏わせて、更に斬撃と打撃をどちらも練り込みながら一番近くに居た腐肉に斬りかかった。


「下がりなさいっ、灼熱の業火よ!」

「灼熱を助く暴風よ!」


 私は太郎さんの合図で下がりながら、魔法を込めた模擬刀を横に一閃。

 風と炎が混ざりあった複合魔法は、一体ずつ倒す筈だったのに一瞬で四匹程の腐肉を消し炭にして見せた。気合い入って叫んでしまったから範囲が増大してしまったのだ。

 結構魔力を持って行かれたけど、なかなかの戦果である。ダメだったら複数の腐肉が加速してヤバい事になっていたけど、結果オーライだ。


「おねーちゃん! ふにく、もえるととまる! したはまかせて!」

「マジかぁ! 背中は任せたぞ秋菜ぁぁあっ!」

「もう一度いくぞっ! 灼熱の業火よ!」

「灼熱を助く暴風よ!」


 腐肉は強化前に燃やせば強化されずに弱点属性を突いて倒せる様だ。

 秋菜が太郎さんを誘ったのはこの上なく正しかったと言える。



 そうして私達は十分後、エントランスから外へ撤退した。



 ショッピングモールの巨大駐車場で、私達は崩れ落ちていた。

 何もしなかったどころか、山ほど腐肉がいた場所を「何だか分からんがヨシ!」とスルーしたせいで挟撃を発生させた戦犯が混じる四人は生還を喜び、私と太郎さん、そして秋菜は魔力を一気に使ったせいで顔色が悪い。

 ただ、その成果は確実にあった。


 【ココロ:Lv.31】


 レベルがまた七つ上がっているのだ。

 あれだけ大量の経験値的な何かを抱えている腐肉を、太郎さんの手を借りたから半分だとしても相当数倒した。なかなかの結果だ。

 そして太郎さんも超感覚で探ると、現在二十三くらいのレベルだろうと思う。もうこの人の魔法を止められる者は居ないだろう。

 居たら空を飛んでたドラゴン系モンスターくらいだろうか。

 私も十七レベルまでは物理特化で、そこから三十一までは、ゴブリン以外は魔法でしか倒していないし、戦闘以外でも魔法の考察に魔力を大量に使っていた。

 とするとかなりバランスのいい魔法剣士スタイルに育っているのでは無いかと思う。

 このまま育てば、ライフルを外していざと言う時のハンドガンだけサブウェポンにして、父の形見の模造刀で戦って行くのも悪くないかもしれない。

 そんな考察をしている私の肩をトントンと、太郎さんが叩いた。

 彼も疲労困憊で、アスファルトの上にぐでっと座っている。だが満面の笑みだ。


「ははっ、ははは、ココロ君、本当にアレは凄まじいモンスターらしいね。レベルが馬鹿みたいに上がったのだよ」

「太郎さんのおかげで簡単に倒せましたけどね。助かりました」

「それはこっちもだよ。魔法ばっかりで戦ってきたから分かるのだけど、アレはココロ君の助力があってギリギリ一撃で倒せたと思う。そんな手応えだった。私一人で魔法使っていたら今頃、魔力切れで袋叩きにされて死んでいただろうね」

「では、お互い様なんですね」

「ああ、アレはおそらく、ゲームで言う所の物理殺しの敵なのだろう? 私にとっては理想的な狩場なのだよここは」

「アレの発生条件は分かりませんけど、大量の死体が必要な筈なので、狩り尽くしたらもう使えないかも知れない狩場ですけどね」

「それなら物資を頂くだけじゃないかね。どっちにしても美味しい狩場なのだよ」

「………本当ならその美味しい狩場の様子を見て、もっと効率的に狩りたかったんですけどね」


 私はアホ四人を見る。太郎さんも気色満面だった笑顔を曇らせてそちらを見やり、ため息をひとつ零す。


「今日は魔力的にもう無理だろう。後日また一緒に挑みたいが、次は彼らを連れて来ないと約束しよう」

「お願いしますね。現場猫を現実でやられると本気で死にます」


 私は秋菜を見る。

 エスカレーターを上がった先に腐肉が二十以上居たが、下にも十を超える腐肉が居たのだ。それを一人で相手して削り切った秋菜も、相当にレベルが上がっている。と言うより今回一番レベルを上げたのが秋菜だろう。

 なにせ超感覚でレベルを感じ取ると太郎さんと同じくらいになっているのだから、誤差がなかった場合十一から二十三と、十二レベルも上昇しているのだ。

 秋菜は私と違ってほとんど純粋なガンナーとしてレベルを上げ、そこからは魔法を複合した銃撃を磨いて来た遠距離戦のエキスパートに育ちつつある。

 ただやはり、私と太郎さんが二人がかりでやった事を、半分の数とは言え一人で捌いたのだ。魔力消費もこの中では一番大きい。

 だが私も秋菜も今回は魔法主体で戦果を上げたのだから、魔力周りの成長も著しいだろう。次はもっと楽に探索が出来るはずだ。


「次回も秋菜を連れて来たいんですけど、雪子と春樹のレベルと離れ過ぎるのも良くないと思うんですよね。どうしたものか……」


 家族間で、とくに最も親しいだろう兄弟の仲で、レベルと言う明確な格差が募るのは問題しか無いだろう。

 私も自分が春樹より秋菜を優遇して贔屓してる自覚があるし、やはり二人のうちどちらに背中を預けるかと問われたら秋菜だと即答する。

 春樹はちょっと年相応にお調子者過ぎるので、自分の命を任せるのが怖い。

 

「うん? みんな連れてくれば良いんじゃないかね?」


 私の呟きを拾った太郎さんは、心底不思議だと首を捻る。たぶん拠点の環境が違い過ぎて想像がつかないのだ。


「それがですね、拠点周りがきな臭いんですよ。索敵系スキルが周辺の不審な動きを捉えてるんで、他の生存者から拠点に対する襲撃を警戒してて、完全な留守にしたくないんです」

「……なるほど。避難所程の人数が居ないと、そう言った問題も起こるのだね。なら、土の魔法とやらで砦の一つでも築いてみたらどうだろうか?」

「……おや? それはなかなか良案かも知れませんね?」

「私の能力が他の属性にも有効なら、土魔法を獲得して手伝おうか? こんな美味しい狩りに誘ってもらったお礼はするべきだろう」


 話しが纏まり、まだまだ元気な四人組に仄かな殺意を抱きながら学校まで撤退した私達は、そのまま太郎さんを借りて自宅拠点に向かう。

 向こうも多少太郎さんを連れ出す事に渋ったが、後々太郎さんが凄まじく強化される為の行動だと言う事で納得してもらった。

 太郎さんが強化された魔法をチラッと見せたら一瞬だった。

 そして自宅拠点に帰る道すがら、ゴブリンを捕まえて生き埋めにしたあと、太郎さんが土塊を三十回投げ付けて魔法を獲得。

 ついでだからそのままイグナイターで雷、噛み付かれない様に頭を抑えて眼球に三十回、強く息を吹き掛けて風魔法も取得した。

 水と氷は拠点じゃないと無理だし、水道も電気も死んでいる時点でこの魔法が取得出来る条件を揃えるのは難しい。


 そして家に帰ると、まさに今、五人の生存者から拠点が襲撃を受けていた。


「死ね」


 物陰から雪子と春樹の銃撃を交わしながら、どこかで拾ったのかクロスボウやスリングショットで応戦している襲撃者達に、私は問答無用でライフルを撃った。

 拠点が、自宅が、両親が残してくれた家が、襲われている。

 窓ガラスが割れて、塀に矢が突き立ち、補強してある門を壊そうとしたのか少しひしゃげている。

 絶対に許さない。確実に殺す。


「ふむ。本当に襲撃されているとは。…………まぁとりあえず、燃え尽きたまえ」


 拠点側を気にし過ぎて、帰って来た私達に無防備な背中を晒しているクソどもを、太郎さんも一緒に燃やしてくれた。


「よくもおかあさんと、おにーちゃんを、おそったなぁっ! ゆるさないんだからぁ!」


 秋菜の年齢で殺人はどうかと一瞬思ったが、このご時世にそんな事を言っていたら生き残れないと考え直す。

 そうして私が三匹、太郎さんと秋菜が一匹ずつ襲撃者という名のモンスターを仕留めた。


「雪子! 春樹!」


 私はせっかく来てくれた太郎さんを放ったらかしにして拠点の門を開ける。

 ひしゃげたせいで開けづらいが、レベルによる腕力で強引に開放する。

 二階のベランダから応戦していた二人に呼びかけ、もう玄関から入るのも煩わしくて、私は全力で庭から二階へ飛び上がった。

 レベル三十越えだから出来る力技で、一瞬でベランダに乗り込んだ私は、とりあえず二人に怪我がないか急いで確認する。


「あ、おぅ、姉ちゃんお帰り……。ごめんな姉ちゃん、ガラス割られちった」

「割ったクソ共はブチ殺したから気にすんな! それより怪我は無いか? 雪子は?」

「私も春樹も無事ですよ。おかえりなさいココロさん」


 二人の無事を確認したあとも、沸騰した頭は冷めない。

 襲撃を警戒とか、拠点の強化とか、私は何を緩い事考えていたのだろか。

 こんな事が起きるなら、最初から周辺の生存者を皆殺しにしておけば良かったのだ。

 今からでも遅くない。まだまだ周囲には生存者が点在している。コイツらを全員殺して、ここら一帯で自分達以外の生存者なんな存在しなければいいのだ。そうすれば敵対なんて最初から出来ないのだから。それが正解だったのだ。


「………ココロさん」


 今にもベランダから飛び出して殺戮を開始しようとする私を、雪子が抱き締めた。

 あまりに殺意の波動が強すぎて、一瞬何が起きてるのか分からなくて脳がフリーズした。


「大丈夫です、大丈夫ですよ」


 二児の母は私を胸に抱いて、優しく頭を撫でていた。


「そんな顔しないでください。戦うココロさんはカッコいいですけど、その顔はダメです」


 まるで子守唄でも歌う様に、ふわふわの胸に包まれた私をあやす様に、雪子は私に心臓の音を聞かせていた。

 そんなに酷い顔していただろうか?


「ココロさんの大事な物を傷付ける敵は、みんなの敵です。ココロさんだけがいっつも一人で背負う必要なんて無いんです。私も凄く悲しくて、凄く怒ってるんです。私達を助けてくれたココロさんが何よりも大事にしている、ご両親との想い出を傷付けた人達に」


 腐肉との戦いで大量の魔力を使って、行きも帰りも歩いて、感情が爆発して、諸々全部が重なったのだと思う。


「……ちくしょう」


 怒りを溶かされた私は、雪子に抱き締められたそのまま、落ちるように眠ってしまった。


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