第36話◆◆⑬ガンゾウとトゥナ釣り◆◆

「ガ!ガンゾウ殿っ!こんなやり方は知りませぬぞ!」


「ああっ?マグロっつったらこれだろ?」


「マ、マグロって何ですかぁぁっ!」


俺は猛スピードで突っ走る船の上にいた。


船尾から釣竿を出し、釣糸をコントロールしながら盛大に葉巻を吹かした。


◇◇◇


黒洋海に出ると、俺は港で一隻の船を買った。


買う必要があったんだな。


改造するためにはな。


結構大きな帆船だったが、マストを全部切り倒し帆を取り外した。


「ガンゾウ殿!帆を取り払っては船が進みません!」


ディートヘルムが慌てて止めに入るがもう遅い。


俺は呪を駆使してテキパキと船を改造していく。


「おっし!こんなもんだろ?」


出来上がった船は、この世界では異質すぎるだろうな。


先ず帆が無い。マストが無い。櫂が無い。


つまり、この世界、この時代の船の推進力を担う設備が全て無いのである。


だが俺は誰にも理解されることは無かろうとも、この『クルーザー』を完成させた。


推進力はおれ自身の呪力、業火を絞って蒸気を作り、タービンを回し、スクリューに伝達すると言う、この世界にとっては未知の技術を駆使したわけだ。


面倒だから説明なんぞしないがな。


「ガンゾウ!スゴイスゴイ!これ楽しいっ!」


クリスタが振り落とされないようにしがみつく。


まあ!振り落とされても空を飛べるからな。

問題は無いだろうがな。


◇◇◇


名前は知らんが、でっかい青虫みたいな魔物を駆除したときに、そのでっかい青虫みたいな魔物の能力を食ったわけだが、まあ、その時の状況は割愛する。


気持ちの良い話でも無いしな。


で、そいつの能力に『糸』が有った訳だが、これまで使い道がなかった。


だが、『釣糸』に最適だったのだな。


半透明で細く丈夫だ。


それに手製の疑似餌(ルアー)をセットして流した。


小一時間ほど走ったが、何の反応もない。


ああ、皆の目が疑心暗鬼の様相だな。


「ご主人様、そりゃ皆さん何をやってるのか知らないわけですからゴベッ!」


ああ、最後のはちょっと頭を凹ましてやった音だな。


「ウラジミール!テメエちゃんと浄化したんだろうなぁ!」


ああ、八つ当たりなのは分かってる。


「もじろんでござびばぶ▪▪▪」


ふん、葉巻を変えるか▪▪▪


と、竿先がガツンと海に引き込まれるほど撓った。


「きたぁっ!」


俺は竿を煽り合わせた。


途端に物凄い衝撃が竿から腕に響いた。


クゥッ!これこれっ!


細い糸の先にいる大物との一対一の力試し。


グッグッグッ!と竿が持っていかれそうになる。


だが、竿も糸も呪力で補強してあるからバレる事はない。


「おおっ!ガンゾウさん!それは楽しそうですね!」


珍しくアンブロシウスが興奮気味に話しかける。


「な、何故餌も付けてないのに魚が掛かるのですか?」


ディートヘルムが驚きの表情を隠せない。


俺は口の端に葉巻をへばり付かせながら教えてやった。


「あれはルアー、疑似餌だな!餌に似せた針を船で引いていかにも泳いでいるように見せたのだな。つまり、魚をバカしてやったわけだね!」


良いながらも、手製のリールを巻き続ける。


にしても大物だ。


クゥッ!たまんねぇな!


糸を巻いては引き出され巻いては引き出されを繰り返す。


「ガンゾウ?そんな面倒なことやめて私が氷付けにしてやろうか?」


ああ、クリスタ▪▪▪こういう無駄な時間が楽しいのだぞ?


そう言えばフロリネの姿が見えねぇな?


「あの淫乱エルフなら船室でゲロまみれになってますよ(笑)」


ウラジミール、そのゲロはお前に掃除させるからな▪▪▪


ウラジミールがドン引きしている。


ああ、口に出ていたらしいな。


とかやってるうちも、リールを巻く手を止めない。


「おうっ!ディートヘルム!もうすぐ姿を見せるぞ!そこの銛を持ってこい!」


ディートヘルムが大きな体をもて余すように銛を持って脇に控える。


「そら、出るぞ!」


次の瞬間、海面が盛り上がったかと思うと、優に5mはある巨大なマグロが海面から飛び跳ねた。


「うおぉぉぉぉっ!」


歓声が上がる。


チョーおもしれぇ!


「よっしゃあ!力勝負だ!ディートヘルム!」


「はい!」


「近くに寄せたら頭のど真ん中に銛を突き立てろ!しくじるなよ!」


『しくじるなよ』が効いたらしい。


銛ではなく、自分の大剣を抜き身構えた。


吃りの国王の元を去ってから丸くなっていた背中がシャンと伸びた。


「ガンゾウ殿!何時なりとも!」


ふん、やっと目が覚めやがったか。


「そら!今だ!」


間髪を置かずディートヘルムは自慢の大剣を逆手に持ち、巨大マグロ目掛けて飛び込んでいった。


派手な水飛沫と共にディートヘルムが海中に没した。


10秒、20秒、30秒▪▪▪


なかなか浮かんでこない。

と、海面に血が浮かび上がった。


「これはマズイのでは無いでしょうか?ご主人様?」


ウラジミールが柄にもなく心配している▪▪▪風を装っているだけだな。


海面に広がった血溜まりの真ん中にぷっかぁとマグロが浮かんできた。


ディートヘルムは?


「ガンゾウ殿!こちらです!」


マグロから離れた所にディートヘルムが浮かんでいた。


「よっしゃ!」


そう言って俺は海に飛び込み、マグロの腹に取り付いた。


頭のほうへ回り込み、呪を掛けて鉄のように固くした糸を頭に刺しこんだ。

そのまま脊椎のなかを刺し貫く。


いわゆる『神経絞め』だな。


魚の鮮度を保つためにはこれに限る。


そして腹に回り込み、ナイフを突き立て腸を引きずり出した。

同時にエラも抜き取る。


「こんなもんだな。」


おれは蝙蝠の羽を展開し、マグロの尾鰭の付け根を持って舞い上がった。


1tは有るかな?


まあ、俺にはその程度の重さは屁でもないがね。


「クリスタ!こいつを氷付けにしてくれ!」


「分かったわ!キャオ!」


と一鳴きして竜姿になると、器用にブリザードブレスでマグロを氷付けにしていった。


さすがに船上には乗らないので、港まで曳航していくことにした。

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